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クラゲの夏  作者: 暁 海響
13/21

8月9日

海月が住むこの辺りの小・中・高の学校は、一貫して毎年決まった日に登校日が設けられている。

せっかくの長い休みに学校に出てこなきゃいけないことに、喜ぶ者と、憂う者とに分かれるのが通常であるが、高校生にもなると、友達や好きな人と会える、数少ない大事な日とも言える。部活が違えば、こういう日を逃したら、本当に会える日が少ないのだから。


海月も、久しぶりに会う友達と、この夏の過ごし方や宿題の進み具合などで話が弾んだ。

陸も大分焼けた肌色を見せながら、友達とバカ話で盛り上がっていた。


二十日ほど離れていた校舎や教室は、見慣れた景色のはずなのに、どこか懐かしくも感じる。

帰る前には、溜まったホコリを掃除して帰らなければならない。


生徒たちは全校集会を終えて、学級の時間の後、校舎と校庭の清掃を始め出す。

校庭の掃除を担当した陸が、集めた草をまとめてゴミ捨て場へと向かうと、後ろから声を掛けられた。


「橘くん」

「…何?」

陸に声を掛けたのは、唯芽だった。

またか、と思いつつも、陸は人のよい笑顔を貼り付けた。

「あの、明日のお祭り、一緒に行かないかな? って…」


唯芽の言う“お祭り”とは、小学校から、その下にある商店街までを歩行者天国にして行われる祭りだ。最後には漁港へと移動し、海から上がる花火を見て終わるもので、地方の大きな祭りほどの華やかさはないけれど、それでも地元の人が多く集まる、愛された祭りだ。


小学校の校庭を利用して、舞踊やカラオケ、太鼓などを披露する舞台を作り、その周りにはいくつもの屋台が連なる。そこから下って商店街へと行くと、各お店の前では色んな出し物が催されている。

商店街だと言うのに、フリースロー大会なんてものまであるのだ。


今、陸は告白を断った相手から、その祭りに、誘われている。


「祭り…? あのさ、遠藤さん」

「違うの! 二人で、とかじゃなくて、みんなで! サッカー部の皆とか、私の友達とか、みんなで! 行けないかな…って」

陸は眉根を寄せながら、どうしたものかと考える。

告白を断った相手と祭りなんて行けば、()()()()噂が立ってもおかしくはない。

唯芽が陸に告白したことは、ほとんど周知であるし、逆に断ったことは、あまり知られていないようだった。

夏休み中、『友達の付き添いで』という呈で見学にやってくる唯芽の言に、強く出ることもできず、なるべく距離を置くように努めていたのだが、周りがそれを許さないように距離を詰めようとしてくる。


しかも、祭りに『皆で行く』と言われてしまっては、どの男友達と行っても、しれっとその中に混ざってくるに違いない。

(う~ん…どうしたもんかなあ。サッカー部の連中も女子と行けるんならって断らないだろうしなあ…)

祭りに行かない、という方法もあるが、普段から文化祭や体育祭などで、“祭り好き”だと公言している陸にそれは難しい理由だろう。


周囲を注意深く見れば、唯芽の友人たちが二人のやり取りを覗いているのが窺えた。

「はぁ…」

陸がため息を吐くと、唯芽がわざとらしくビクリと肩を揺らす。その動きを陸が目に止めることはなかった。


ちょうどよく、ゴミ捨てに来た人物が目に入ったからだ。

相手も近くまで来て、陸と唯芽を認識した。

「げっ、またかよ」

そんな声を漏らして、後退ろうと足が動いたが、陸の方が早かった。

「ちょ~どいいところに~!」

「はあっ!? バッ…」

逃げること叶わず捕まった海月が、ぎょっとした目を陸へと向ける。

「遠藤さん、俺、海月と行くことになってるんだよ! 二人で! だから悪いけど遠藤さんたちとは一緒に行けないんだ。でも、サッカー部のやつらには伝えとくからさ、そっちは皆で楽しんでよ!」


「バッカじゃない!? そんな約束してないじゃん! 巻き込まないでよ!?」

「いいから! 黙って頷いててくれよ! 助けると思ってさ!」

「自分のことなんだから、自分でどうにかしなよ!?」

「夏休み中ずっと、どうにかしようとしてたさ!」

小声で話す二人の声は、唯芽には届かない。

けれど、その二人の様子に、ギリと歯を食いしばった。

「…そっか、それなら仕方がないね」

そう言って、意外とあっさり引き下がっていった。


「「……………」」

「はぁ~、助かったぜ海月ぃ~」

「巻き込まれただけのような気がするけどね」

「そう言うなって………で、何時に行く?」

「何が?」

「何がって、遠藤さんに海月と一緒に行くって言っちゃったし、一緒にいなかったらおかしいだろ?」

「え? まじで言ってる?」

「もち! 祭りに参加はしとかねえとだろ?」

「………仕方がないから、明日だけ付き合ってあげるよ」

「え!? 明後日は!?」

祭りは二日間に分けて行われる。

「先約があるから、ムリ」

「まじか。…友達?」

「友達(学校の、じゃないけど)」

「そっかー。二日目が本番だってのに…仕方ねー。どうにか出くわさないようにするしかねーか」

「…難しくない?」

「………そう言うなよ」

「ごめん」

海月は笑った。


「じゃあ、18時に、小学校のガジュマルの木のところで待ち合わせな」

「はいはい。分かりましたよー」


キーン コーン カーン コーン


「「やばっ!」」

掃除の時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

二人は慌ててゴミを捨てて教室へと急いだ。


(まさかの棚ぼた。超ラッキー! 祭りデートかぁ…)

海月の背を追うように走る陸は、その姿を見ながら、嬉しさを隠せずにいた。

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