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某国空想昔話「与野党物語」

作者: 泥の中から世を伺う者
掲載日:2018/09/23

 とある国に、与党右衛門という領主が居りました。


 彼には一つの悩みがありました。

 それは、領民が無知蒙昧にも、統治者に不満を持っている事でした。


 彼らは政の《ま》の字も知らず、また、その大変さも知ろうとしないで、

 ただ、汚職だ、賄賂だ、忖度だ、天下りだと執政府への批判を繰り返すばかり。


『私は仕方なくこの国の為に働いてやってるんだ。

 その苦労がお前ら愚民如きに理解出来るものか。

 民草の分際で政府を叱責するなどおこがましいにも程がある。

 地位に見合った美味しい思いをして何が悪い!』


 何度そう叫びたかったか、分かりません。



 しかし、国は税金が献上されなければ運営出来ないモノ。

 法律で強制徴収する仕組みですが、なるべく大人しく差し出して欲しいものです。


 抗議デモなどという無駄なパフォーマンスをされても失笑を禁じ得ないだけですが、

 うるさくされるのはわずらわしいし、あまり調子に乗られても面白くないからです。



 そんな厚顔無恥な民畜生が、愚かにも声高に支配者たる自分を非難する様に頭を悩ませていると、

 そこに事情を聞いた一人の親友がやってきました。野党左衛門です。


 彼は執政府に在籍していながら、領主と対立する立場にありました。表向きは。


 彼は与党右衛門に一つの提案を持ち掛けました。


「身の程知らずな下民に腐心しているようだな。そんなお前に良案を持ってきた。

 それはな、領民に選挙という手段を与えて、自分達で領主を選ばせるんだ。

 俺とお前はそれに立候補して、お前は現状維持を訴える。俺は改革を訴える。

 するとだ、馬鹿な領民はこぞって俺を応援するだろう。

 そうして新たな領主に選ばれた俺が今より酷い治世をすれば、

 犬や猿だってお前のこれまでの行為や存在の有り難味が分かるだろうよ」


 二人とも、自分より知能の劣る者を騙すのは得意中の得意です。

 与党右衛門は画期的な作戦に心を躍らせました。


 早速、領地中に選挙開催のお触れを出しました。


 領民は最初こそ疑って居ましたが、

 これが野党左衛門の発案だと聞くと諸手を挙げて喜び、

 新しい時代の到来に、希望を際限なく膨らませて期待しました。



 選挙当日。

 即日開票された結果は、圧倒的な支持を受けて野党左衛門が勝利。


 領民は、自分達が勝利した者と思い込み、酔い痴れました。

 勘違いしてしまったのです。国政は自分達の手中に在ると……。



 野党左衛門は、最初こそ真面目に政治に取り組んでみましたが、

 裏で見ていたのとは大違い。

 余りにも煩雑な作業量と、ご機嫌伺いや無責任な要望の数々に辟易してしまい、

 早々に投げ出すことにしました。


 そして、当初の目論見を達成させる為、

 国益を害する行為、領民の期待とは真逆の政治を行ないだします。


 これに怒り狂った領民は、

 暗愚、売国奴、ルーピー、奴丞相、

 様々な言葉で、野党左衛門を酷評するようになりました。



 領民の希望が絶望に塗り変えられ、

 期待感がそのまま悲しみに取って代わった頃、誰かが言いました。


「もう一回選挙をするべきだ」と。



 再び選挙の機運が高まった事を確認した野党左衛門は、

 満を持して領主選挙を公示。


 今度は、与党右衛門が大勝。

 野党左衛門は見るも無残な惨敗を喫す事で、領民の敵になる事に成功しました。



 堂々と、晴れて領主に返り咲いた与党右衛門は、この結果に胸が空く思いでした。

 これで、領民の納得の元、私腹を肥やせるのですから。



 私を選んだのは領民だ。そして、領主は誰よりも偉いのだ。

 自分を疎ましく思っていた害虫に一泡吹かせ、領民に自分こそが正しい事を認めさせたのだ。

 ならば、私の行いにケチを付けるのはお門違いである。文句も言わせない。

 言っても良いけど、私の代わりなど居やしないので、それも無駄な徒労でしか無い。

 被支配者である領民は、領民らしく素直に黙って支配者階級を担いでいれば良いのだ。



 見事、野党左衛門の協力で障害を取り除く事に成功した与党右衛門は、

 彼を労いつつ、自分の領土と、自分と仲間の為に全力で働きました。

 自らの政治基盤をより磐石にするべく、部下の増強、

 自分に都合の良い法律の制定、小作人の締め付けと大商人の優遇、

 根回しや困ってる友人の為に税金を湯水の様に活用し、

 支配者と被支配者の関係を確立させることに尽力したのでした。




 おしまい。

お殿様は、神聖不可侵、絶対の存在で無ければいけないのです。天下人なのです。

下々の民畜生が、要望や苦情を言うなんて、言語道断なのです。

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