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「なんだかなぁ」



 「こんなことってあり得るのか?」

 「この木が周囲の栄養分を吸い尽くしたにても周りの草花はキレイだし、やっぱり私の予想は当たってそうね。」


 蜘蛛を倒し、以前真っ白なタイトスーツで歩き回っている雅は、15分以上まっすぐ歩くことで大樹の根っこが隆起する大地から抜け出した。すると、そこには大樹の周りに生えていたような最大でも腰ほどの高さしかない草花が生い茂る草原であった。

 

 確かに大きな木が周囲の栄養分や根っこが強くて周囲に植物が枯れてしまうというのは雅も聞き覚えのある話だ。2000メートル越えの大樹なので根っこも吸収する栄養分も相当な量になるはずなので、もっと荒廃した荒野ができていてもおかしくないだろう。しかし、地面に突き出た根っこがなくなったくらいで、周辺の大地からは青々とした草が生えているので、やはりこの大樹は超自然的なのだろう。


 この辺りまでくれば上空10メートルまでの間に障害物はない。見渡す限り平原であるので大樹以外の障害物も確認できない。そう判断した雅は、左手に握っていた球体のドローンを放す。ナビロイドが操作しているようで、雅が手を放すとフワフワと何の音も前触れもなくドローンが宙に浮いていく。そして、設定通り上空10メートルに到達するとピタリとその動きを止める。


 「それで。どちらに向かわせます?」

 

 当然、後方には大樹があるのでその方向に向かわせるには大きく迂回させる必要が出てくる。第一、その方向に人里を見つけても雅が向かうのに時間がかかりすぎる。なので、希望的には前方方向にドローンを向かわせたいところである。

 しかし、見渡す限り本当に何にもない草原が広がっている。一面緑色なので起伏がどれほどあるのかもわからないし、目印となるものまで存在しない。本来であれば雅と同じ時代を生きた人間が作ったと思われる超自然的な何かを見つけるべきなのだろうが、ここら一帯にはそんな影も形も見れない。


 「一つ疑問に思ったんだけどさ。こういった場合オレの進行方向にドローンを先行させた方がいいのか?」

 「そっちの方が安全ね。ただ、村とかそういったのを見つけるなら別方向に向かわせることをオススメするわ。」

 「んじゃ、あっちかな。」


 と、本当に適当に雅は、大樹を背にして右斜め前方に指をさす。すると、上空に静止していたドローンが音もたてずにその方向に進みだす。あのドローンに前という概念はないので、この方法が一番正しいだろう。


 「では視界の左上にカメラの映像を展開しますね。」


 ナビロイドの声と共に雅の視界の左斜め上側に半透明の映像が出現する。丁度、ニュース中継のワイプ画面を想像してもらえれば相違ないことだろう。ドローンに備え付けられたカメラからのライブ映像だろう。なぜ半透明なのかと言えば、意識を向けなければその映像を気にならないようにするためであり、通常歩行に支障をきたさないための配慮である。

 あのタイプのドローンには全四つのカメラが備え付けられているのだが、展開されている映像は一つだけ。恐らく進行方向のカメラだけを雅に見せ、残りの三つのカメラの情報はナビロイドが管理しているのだろう。


 「んじゃ、こっちも進みますか。」

 「目先の目標は、痕跡ですか?」

 「いや、この地球・・・惑星の文明かな。いずれは共存する必要があるだろ。」


 本来のこの計画であれば、我々コールドスリープから目覚めた人類が最も優れた文明を築く予定だったのだが、雅は、その大多数から既にはぐれてしまっている。この軌道上に入ってどのくらいの期間が過ぎた、もしくは、再び地球にた環境を手に入れてどのくらいの期間が経過したのか分からないが、最低でも地球の軌道からずれて10億年の時間が経過している。

これは、学者先生から言わせれば、「遊走惑星が恒星の衛星軌道上に入るのにこれだけの短い期間なんて奇跡だ。」だったり、「再び生物の進化をやり直した場合、10億年で人間が進化するのは短い。」というかもしれないが、そういった時間間隔で生きていない雅からしてみれば、やはり10億年という年月は想像を絶するものだ。

 人間以上の文明があることも想定して心を決めなければ初遭遇で殺される可能性だってある。


 いや、それ以上に一人は寂しいものである。


 「まずは、人間タイプの生命体がいるのが一番だけど、それにしても情報がない以上は接触は出来ないかな。」

 「了解です。では、ドローンの方もできるだけ接触しないようしますね。」

 「そうだな。だから第一目標はこの惑星の文明を発見。接触可能か判断するところかな。」


 第一現状の雅の格好では少々奇抜すぎるといってもいい。体の線が完全に浮き出す(というより筋肉の隆起も分かるほど)ので、真っ白な肌をしたまっぱの異星人である。出来れば服でも作りたいところだが、素材もないし、どのような服が一般的なのかも分からない。


 そんな疑問と思案を巡らせ、ナビロイドとも相談をしながら何もない平原をただただ歩き続ける。ここまで見晴らしがいいと、500メートルの生体反応感知システム以上に視界の方が広い気がするのだが、存外、人間の感覚器官というものは正確性に欠けるようだ。


 「マスター。生体反応です。左手後方。数は6。速度、時速18キロですので人間の可能性が高いと思われます。」


 周囲の生体反応と聞き雅の心拍数が跳ね上がり、緊張と判断したのかナビロイの口調が丁寧なものに変わる。

 雅も支持された方向に目線を飛ばしてみるとやはり、何人かがこちらに向かって走って来ているのが見て取れる。しかし、明らかに500メートル以上の距離を感じるのは遠近法のせいなのだろうか。


 「なぁ、あれは本当に500メートルか? それともめちゃくちゃ小さいのか?」

 「いえ、覚醒時はカプセルの時と異なり、生体感知の範囲も広いのです。目標までの距離はおよそ2キロくらいはあるかと。」


 なるほど、では豆粒みたいにしか見えないのも、うなずけることだ。寧ろ、2キロ先の人間を音もなく気づく方が難しいだろう。


 「下手に動けば刺激するかもな・・服装をスキャン可能か?」

 「マスターが観測してくれれば可能よ。」

 「んじゃ、視界を拡張してくれ。倍率は・・四倍で十分かな。」


 すると、雅の視界が少々歪み、まるで双眼鏡でも除いているかのように豆粒のような人間の服装がわかるくらいには近くに見えるようになる。

 その服装は、日常の私服とはかけ離れたものであった。まるで中世の騎士。金属製のカチャカチャと音が鳴っている重そうな鎧が一人の少女の手を引いては知っている。手を引かれている少女も雅の国であった日本とは少々異なっているようで、どちらかというと、オランダの山娘のような服装でフードのように頭巾を被っている。


 なんとなく。本当になんとなく超未来人や宇宙人チックな奴らを想像していた雅の緊張は一気に降下する。

 何せ、今観測しているのは、中世ヨーロッパレベルの文明しかない者たちなのである。つまりは、戦うための道具は、鉄器。いやそこまで低レベルじゃないにしても、金属を加工して作った剣や槍しか持っていないのだ。最速の移動手段が馬では、雅が訓練を積んできた小銃で一網打尽レベル


 「なんだかなぁ。」

 「緊張がほぐれたみたいね。まぁ、仕方がないんじゃない? どのくらいに文明ができたのかは分からないけど、地球が出来てから10億年と考えればかなりハイペースで進んでいるわ。」


 確かに、太陽の軌道上にあったころの人間いや生物の進化に比べれば10億年で人間が鉄器を使っているのだから相当ハイスピードで文明を開化させているのだろう。それに過剰に期待を膨らませたのは雅の方である。


 そう思うと微妙な失望感も緊張感も無くなり、なんとなく現状の分析に入れるような気分になってくる。こんなにも早く順応できるのも、頭の中に埋め込んだチップが過剰なストレスホルモンをカットしてくれているからであることを雅は知っている。


 「どうやら厄介ごと、みたいだな。」

 「そのようね。どうするの?」

 「どうもこうもなぁ。」


 と、今度は、後ろから追って来ているであろう人の方へ視線を向ける。生体反応が六人だったので、最低でも四人の人間が追って来ているはずだ。

 その四人組はどうやら全て男性で前を走る少女と騎士を殺したくてたまらないらしい。

 何故そう思ったかって? それは、後続の四人の内一人は、人の腕ほどの長さの曲剣を振り回しながら走っているからである。

 こちらも、身なりは整っているようで騎士というよりかは、兵士に近い革製の胸当てと、腰回り、腕を守っており、槍や剣など多彩な武器を持ちながら走っている。防具の質的に見ても騎士の方が強者であろうことは一目瞭然なのだが、なぜあそこまで明らかに逃げに徹しているのだろうか。


 「とりあえず、服装をトレースしてくれ。」

 「どっちの服を構築する?」


 当然、全身金属鎧の騎士。と、言いたいところなのだが、ストレージ内の金属はそこまでの量はなかった気がするし、そんな事で貴重なカプセルの部品を消費することは出来ない。

 先ほども言ったが、この星で起こっている文明はまだ雅のいた時代のモノには追い付いていない。つまり、コールドスリープ用の部品を生成できる手段は今後ないかもしれない。それらの部品は高度な機器を生成することが出来ることが分かっている以上無駄に鉄防具など作っていられない。なので、


 「あの革の防具の方かな。作れそうか?」

 「動物の皮はないけど代用していいなら格好だけなら可能だと思うわ。」

 

 自身の緊張度具合をナビロイの話方で判断できるのはかなり便利なものだな。と、思いながら了承する。

 さっき倒した蜘蛛の糸でできた服を着るのかぁ。という多少の抵抗感があるものの、全裸で遭遇する羞恥心にはその程度の抵抗感はある程度緩和される。


視界上に先程見た兵士と同じような服が出現する。当然、全く同じ格好では彼らと同じ所属になってしまいそうなので、ある程度細部を変更された服。よく見るとその服の画像の上には数字とアルファベットで書かれた五文字のコードが存在する。そのコードを左手のパネルで入力することで、作成、いや創造することが出来るのである。

 この操作方法は覚えていた(ちゃんと再確認した)雅は、左腕のパネルにコードを入力し、自らの胸のあたりに左手の手掌面を当てる。そして、


 「クリエイト。」


 眠る前に登録しておいた合言葉を呟くと、左手のガントレットが起動する。フレームに埋め込まれたLEDが青く輝き、雅の体に合うように服が生成されていく。今まで着ていた全身スーツのような服の上から淡い茶色の服、そして、茶系のズボンに革製の胸当て、先程との違いは、金属のような肩当てが左肩に付いていることくらいだろう。

 そして、雅はRPGにあるあるな、主人公の初期装備のような服装に変わる、もしくは、モブのNPCというべきだろうか。


 「この肩当は金属じゃないのか?」

「いえ、強化プラスチックよ。5.7ミリくらいの小銃の玉じゃ貫通も出来ないレベルのね。」


 これは、カプセルの表面部分に使われていたものだった気がする。確かに金属ではないが、それ以上に文明的には生成できないものであったことは雅でも知っている。


 「プラスチックなんて使って大丈夫なのかよ。これこそ貴重だろ。」

 「問題ないわ。人間が初めて作ったのは遅いけどプラスチック自体は原油からできるし、原油も酸素と炭素と水素があれば生成可能よ。強化プラスチックにするのにも技術的には難しくても、素材は簡単だから。」


 なるほど、確かに雅のいた時代は、原油を作れるようになっていたので産油国はなきを見ていた記憶がある。それに、原子構造を変換できるのであれば今まで人間が作るのに苦労してきた加工品は簡単に作れるという事なのだろう。


「次は武器だな、なんかいいのあるか?」

「普通に銃でいいじゃない? 簡単に倒せるし。」

「いやいや、使い切りの素材は勿体ないだろ。それに剣と盾に自動小銃ってのはちょっとな。」


 なんとなく平和に暮らしている原住民を虐殺する映画のタイトルが雅の頭の中にフラッシュバックする。自分の身を守るためとはいえ、そこまで虐殺的な力の差を見せつけるのはどうかと思う雅の方が変なのだろうか。


 「じゃあ、こんなのはどう? 雰囲気もあってると思うけど?」


 と、視界の中に出てきたのは、片刃の直剣であった。日本刀のようなものではなく、マチェットのような形状の剣。普通、中世ヨーロッパでの戦闘と言えば、エクスカリバーの様な両刃の直剣を思い浮かべるような気もするのだが、そういうセオリーはナビロイドにはないのだろうか。それとも、それが常識だと思う雅が毒されてしまっているのだろうか?


 「超音波カッターだし、切れ味は申し分ないわ。」

 「当然これも。」

 「強化プラスチックの刀身よ。」 

 「ですよねー。」


 といってもナビロイの計算に合わせて生成は任せていた方が計算が楽な気がする。さすがに、いきなり「○○がないです。」なんて言われることはないと願いたい。

 そんな事を考えながら、超振動カッターとなったマチェット型の片手直剣の右上にある五文字のコードを左腕のパネルに再び打ち込む。


 「クリエイト。」


 厳密にはこの言葉を言う必要はない。認証コードとしてこの合言葉を設定したのだが、実際は、何重にもロックがかかっているので雅以外、このガントレットで物質を想像することは出来ない使用になっている。もちろん、完全な催眠に雅がかけられたり、完全に同一のクローンがいればその限りではないのだが。


 先程と同じようにガントレットのフレームに搭載されたLEDが光を放ちみるみる内に雅の左手の中にマチェットが生成される。

 普通のマチェットには、鍔の部分はないのだが、今回は雰囲気づくりの一環なのかしっかりとした鍔が付いている。さらに、グリップ部分の人差し指が触る辺りには、つるつるとした部分が存在していた。


 「これは?」

 「振動数を調節する部分よ。そこにかかる圧力に応じて振動数を変えるの。だから、鍔を付けたんだけどね。」

 「作ってから言うのもなんだがなんでマチェットなんだ? 両刃の直剣が普通じゃないか?」

 「両刃だと鍔迫り合いの時に力をかけられないでしょ? 触れたもの全部切っちゃうんだから。」

 「触れたもの全部切れるなら鍔迫り合いなんて起きるのか?」

 「・・・・・。作り直しますか?」


 急に機械的な無機質な声になったので雅はびっくりした声をもらす。


 「いや、大丈夫だよこれで。」


 なんとなく慰めるような口調で視界の端っこで拗ねているナビロイに話しかける。

 しかし、少しこのここまでに時間をかけ過ぎていたようで、もうすでに金属の鎧が動くときに出てしまうカチャカチャという音が聞こえてくる。

 およそ、500メートルくらいだろうか。もう、戦闘に集中しなくては、いくら高性能の防具を着ているといっても殺されかねない。

 ナビロイドに搭載されていた不思議な機能についてもう少し思考を巡らせたいところだが、今は目の前の騎士に意識を集中させる。


 「ここで殺されるのだけは勘弁だな。」


 そう雅がつぶやいたことに呼応するように騎士が抜刀する。




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