世界樹
「な、何じゃこりゃ・・。」
言葉を失う景色が広がっていた。
言葉を失う景色には様々存在すると思う。美しかったり、理解できなかったり、汚かったり。その後に続くであろう感情に応じてなんでも想像することのできる言葉だ。
そして、ここは山にも届きそうな程巨大な木の根元。超自然的にな大樹の近くにあるであろう物は、想像を絶する原生林。もしくは幻想的な森だろう。しかし、そういった場所にはとあるものが付き物であると雅は思う。
草食動物? 確かにこの木の周辺が原生林であれば地球では見られなかった草食獣がいるのかもしれないだろう。しかし、雅の目の前に広がっているのは巨大な木々が生い茂る原生林などではなく、大樹の根っこにより隆起した大地と、最大でも腰ほどの高さにしかならない生い茂った草原である。
空想上の生物? それは例えば妖精のような可愛い者だろうか。それとも、ドラゴンのような死を連想させる者たちの事だろうか。しかし、先程も言ったが、この辺りは深い森ではないので妖精のようなものはいない。それに、いくら回る恒星が変わったといっても、ベースは地球であるはずである。それに見合った生物がいるはずだ。
では、雅を狩ることのできる肉食動物だろうか? これは、半分正解で半分は不正解といえるだろう。もう答えを言ってしまうのであればそれは、四つの複眼を持ち。大きな腹を抱え、八足の足を持つ肉食の生き物。体全体から毛が生えているのだが、緻密性に欠けているのか、毛の根元もしっかり見えてしまう。恐らく、ほぼすべての人間が遭遇したことのある既知の生命体であるはずだ。田舎だろうと都会だろうとどこでも生活でき、種類も豊富であったと記憶している。
全長はおよそ三メートル。一番長い足を横に目一杯に広げれば10メートルはくだらない可能性だってある。
それは、都会にいる人ほど恩恵を感じずらく、田舎の方ほど殺されにくい生き物。それは動物ではなく、昆虫。
「デカすぎるだろ。この蜘蛛。」
それは、当然の摂理であったのかもしれない。この星は、以前の地球に比べ酸素の濃度が非常に高い。故に、昆虫類はその他の生物に比べ酸素の濃度が体の大きさに大きく関わって来てしまう。体を巨大にしなくては、昆虫たちは高酸素濃度の中では生きていくことが出来ないのだ。実際に、地球の古代の昆虫たちも巨大なものが多かったように。例を挙げるのであれば、アースロプレウラを検索エンジンにかけることをオススメしたい。ただし、節足動物に対し異常な恐怖心を持っているものにはオススメしないが。
大きいなお腹から糸を垂らしてきたことを見るとこの木の上から降りてきたのだろう。カチカチと、口に相当する器官を噛み鳴らしながら前足をあげているので雅に対して威嚇する。
「駆除する?」
「できるのか?」
「もちろん。何個か案はあるけど、できれば素材を回収したいわね。」
「任せるよ。」
そう雅が口にすると、再び視界の中に一つの画像とそのモノを生成するコードが表示される。
それは、野球ボールくらいの大きさの半透明の球体であった。そのコード近くには当然そのものの名称が書かれているのだが、E‐003 Protectと書かれているだけであった。
「電子爆弾よ。爆発後に対象を感電させるわ。生成後は適当に放って。」
言われるままに雅は腕の電子パネルに生成用のコードを入力していく。この間に攻撃されてもおかしくないのだが、その場合もあまり問題はないだろう。雅の来ている皮膚のように薄い白のタイトスーツは、9mmの拳銃ですら貫通することは不可能な構造になっているのだから、ただの生き物である蜘蛛のそこまでの威力を有する攻撃が可能であるとは思えない。
そんな楽観的な考え方をしている雅に不幸なことは訪れず、巨大な蜘蛛は雅が電子爆弾を生成するまで、威嚇状態で待っていてくれた。
電子爆弾を手の中で生成が終了すると、一、二回手の中で弾ませると雅はした投げで蜘蛛に向けて放る。
どんな鈍足な動物でも、投げられてから回避行動に入っても直撃はしないほど緩い速度で迫る透明の玉を蜘蛛の複眼がとらえる。当然、直撃するメリットもないし、攻撃されたと判断した蜘蛛は、木の幹のように太い前足を使って、雅の放った電子爆弾を叩き落とそうとする。しかし、
ズバァーン!!
という、落雷と爆弾の爆発を掛け合わせたような爆音が周囲に轟く。そこまでの音が出るとは夢にも思っていなかった雅も思わず耳を塞ぎ、顔を歪める。
そして、雅以上にそんな現象が起きるなど思っていなかった巨大蜘蛛は、何が起きたか理解する前に一瞬にして感電し、その命を燃やしきった。
辺りには、少々焦げ臭いにおいが立ち込めている。蜘蛛と一緒に大樹の根っこも少々焼けているのだろう。それだけには収まらず、円を沿うように抉れてしまっている。
「・・・いや、やりすぎだろ。」
「そう? 相手の生命力も分からないうちは確実に殺しておかないと。」
だから生物であれば確実に死亡する電圧をかけたのだろう。とわいえ、下手をすれば雅も被害を被っていた。それに、蜘蛛の素材を回収するのであっても一瞬で焼け焦げて、消失していた可能性だってあっただろう。寧ろ、地面が抉れるほどの衝撃があったにもかかわらず、その八本の足全てを失っていないのは、いかがなものだろうか。
恐らく、ナビロイドからしてみても、「その時は、その時。」くらいにしか考えていないのだろう。
実は生きていて、突然動き出さないことを祈りつつ、雅は巨大な蜘蛛の元に歩み寄る。
幸いにもしっかり絶命してくれてたようで、動き出すこともなく、ガントレットをはめた左腕で触れると、カプセルを吸収した時のように回収すするかどうかの判断を雅に仰いでくる。
特に深く考えることもなく、雅は蜘蛛を構成していた原子を取り込んでいく。といっても触れてYESを連想させる言葉を言えば一瞬の出来事なのだが。その後、再び雅の視界の中にどのような元素が手に入ったのか知らせる表示が出現する。
「なにか増えたか?」
「恐らく、蜘蛛の糸が手に入ったわ。基本的にはたんぱく質だし、服の合成が可能よ。」
「でも、蜘蛛の糸だろ。なんかベタベタしそうだな。」
「問題ないように合成するわ。」
といっても、先程のこの地球の人類の服装が分からないうちは下手に合成するのは合理的ではないらしいのでまだ、この真っ白のタイトスーツでいる必要はありそうだ。
「そういえば、半径500メートルに生体反応がないんじゃなかったのか?」
「・・・・・・。」
高性能のナビロイドといっても完ぺきではないようだ。いや、単純に木の上から降りてきたのなら半径2,000メートルは必要だ。そう考えるとナビロイドの機能は正常だが、それ以上にこの蜘蛛の索敵範囲が広かっただけの事だろう。