5、女神と再開する。弐
「嗚呼・・・・・良かった・・・・・生きてた、正直スラム街まで見つからずに運ぶとか不可能だし」
「長く女神として存在してるけど、今ほど誰かのことを『屑野郎』って思ったのは初めてよ」
ルーナは養豚場のソレを見る目で俺に言った。(ちょっとしたジョークなのに・・・・)
「いや、世の中俺より屑いヤツなんて山ほどいるだろ、てか何で急に冷静になってんだよ!さっきまで『ぶっ殺してやる!』とか言ってたのに」
「少なくとも女神相手に問答無用で顔面パンチ実行したのはアンタが初めてよ・・・・・
あと、冷静になれたのはこれ以上やったらアンタと同じ部類に成り下がっちゃう気がしてダメだなって思ったの。」
「おいコラ、俺が屑だって言いたいのか?」
とんでもなく失礼な事を言ってくるルーナにもう一度アッパーを決めたいが、ここは我慢する、
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俺は壊れた家具を出来るだけ直すため、テーブルに釘で木の板を貼り付けながらルーナに話し掛けた
「ところで、さっきのアレは何だったんだ?手から出てお前をぶっ飛ばしたヤツ」
「魔法よ、訳わからず使ったの?」
「まぁ・・・・・」
「バカねぇー 多分、私が首絞めたとき咄嗟に出たんでしょ?」
ルーナが呆れた様子で言ってくる、さっきの魔法は後で試すとして、何となく気まずいので、話を変える
「ところでお前、俺をこっちの世界に送るとき、剣と魔法の世界って言ったよな?」
「そんな事言ったっけ?」
「ああ言った、でも違うんだよ、俺が想像したのはもっとワクワクの冒険ができてモンスター相手に死闘が繰り広げられる世界なんだけど?」
確かにこの世界には魔法という概念が存在する、だが、剣や弓矢などの武器は使われてはいるものの既にフリントロック式(黒色火薬を使用し、燧石で点火する)のマスケット銃が一般に普及しており、魔物に関しても街の周辺にいたヤツは40年以上前に軒並み駆除されたらしい、
「まぁ・・・・・ちょっと見ない間に凄い技術力が上がったのね~」
「ちょっとってどのくらいだよ!?」
「250年くらい?」
「おい、ババァ!」
コイツがかなりの年増である事が発覚したところでテーブルと椅子の修理が完了したので一休みするために師匠のお茶コレクション棚から茶葉の入った缶を取り出す。
淹れるのは、ストレスや疲労などに効果があると言われる加蜜列のハーブティー。
もちろん自分の分だけだ。
ちなみに加蜜列の英名はchamomile、花言葉は『苦境に耐える』『逆境に立ち向かう』だ、正に今疫病神と対峙している自分にピッタリだと思う。
「ちょっと、お客様にお茶も淹れずに自分のだけって礼儀や作法は知らないの!?」
「出会い頭に顔面パンチする奴は礼儀作法を知ってると言えるのか?ゴリラだってそんなことはしないぞ」
「はぁームカつく・・・・・だから一生童貞なのよ」
「おい、やめろ俺だってなぁ・・・・」
ルーナは俺を無視してポケットから黒い板のようなものを取り出し、指で突っつき始めた、背面の傷といい、剥げ落ちた塗装といい、俺のスマホそっくりだった。
「って、それ俺のスマホじゃないか?」
「そうよ、何か問題ある?」
「返せよ俺の携帯!」
ルーナから無理矢理スマホを奪い返す
「あ、返しなさいよ!それはもう私の物よ、健全な娯楽皆無のこの世界でそれ失ったら人生ずっと灰色じゃない!!」
「元々俺のだ、てかこの世界のことボロクソに言い過ぎだろ・・・・」
そんな彼女を抑えてスマホのスリープモードを解き、四桁の暗証番号を入力する
「お!W○-Fi来てる」
画面の右上を見ると電波の量を表す線が全て立っている、ここは異世界だ、魔力で動く飛行船や車があるとは言え色んな面で現代の日本より圧倒的に劣っている。勿論そんな所で○i-Fiなど飛んでいる筈はないのだが・・・・・・
「何でWi-○i来てるんだ?」
そのままルーナに聞く。
「女神の力で一時的に繋げてるのよ、それがネットに繋がってるのは私のお陰なの・・・・・分かったら私に返しなさいっ!」
ルーナは勢い良く腕を出してスマホを奪おうとしてくるが、俺はそれをヒョイと躱してゲームアプリを開く。
「お前に取られるほど間抜けでないわ」
「チッ!」
取り敢えず黄緑色がイメージカラーの無料通信アプリを開いて家族か友達に電話をしようとするが、
「つながらない・・・・」
Wi-○iも通っていて、タイムLI○Eやニュースも更新されている、まだバッテリー残量が八割も残っていることから何か充電する方法もあるのだろう、
だが、こちらから発信出来ない、『トーク』をタップしても反応ナシ、電話の方も同じだった
「言っとくけど、受信出来てもコッチから発信出来ないわよ、」
「何で?」
「さぁ?理由までは解らない、それにむこうの世界じゃアンタは死んだ事になってんのよ、
もし仮に友達や家族繋がったとしても悪質な嫌がらせとしか受け取らないでしょうね。」
「・・・・そうか、」
残念だ、久しぶりに家族や友人と話せると思ったのだが・・・・
ルーナが一瞬悲しい顔をした様に見えたが多分気のせいだ、 出合い頭に顔面パンチするヤツだぞ?
気分転換にゲームをする事にした
プレイするゲームは『battlefield in tanks』というゲームで、名前の通り戦車を操ってPvP(プレイヤー対プレイヤー)でドンパチするオンラインゲームだ。出てくる戦車の殆どは実在する
何年か前に女の子たちが部活動で戦車を乗り回す某アニメとコラボしてプレイヤーの間でちょっとした騒ぎになった。
オンラインゲームが遊べるのだからと思い、ゲームチャットを試してみたが、案の定反応は無かった
データの発信は出来てもメッセージデータの発信が出来ない、
いや、今はそんなことよりゲームだ
「戦車って全体的に平べったくて斜めよね」
「傾斜装甲つって、飛んでくる弾を弾きやすくしているんだ」
ルーナは画面に映った戦車を見て言ったので説明する
砲弾は当たる角度が直角に近いほど貫通し易くなる。傾斜装甲とは装甲を斜めに配置することで砲弾の入射角を浅くし、なおかつ実質上の厚みを増すことで砲弾が貫通する確率を下げる為のものだ
WW2から冷戦までの戦車が丸っこくて平べったいのはこれが理由だ。
だが、冷戦以後の戦車は全体的にカクカクして装甲が垂直になっているものが多い、傾斜装甲はというとあまり意味をなさなくなった。
理由はAPFSDS(翼安定式装弾筒付き徹甲弾)の登場だ。詳しい説明は省くが、例えば自衛隊の90式戦車が使用するJM33という砲弾は1000メートル先から500ミリの装甲を貫通する力がある。これにより、傾斜装甲はスパスパ抜かれるようになり、新しく登場した複合装甲(複数の素材を重ねて作られた装甲)に取って代わられた。
「どうせウィ○○ディアかミリタリー系ブログの受け売りでしょ?そんなの覚えてる暇あったら三平方の定理でも覚えなさいな」
「う゛、それはそうだけど・・・・・・」
自分の持つ知識を話したが、理解されなかったし正論を言われぐぅの音も出ない
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一休みを終えた俺は地下室へ向かった。さっきルーナをぶっ飛ばしたアレを再現する為だ
「どんな感じだったけかな~・・・・」
取り敢えず首を絞められていた時のことを思い出す。
-首が重くて、息が苦しくて、嫌な感じがして、相手が邪魔で、早く退かしたくて、抜け出したくて・・・・-
腕を前に突き出して掌を広げる、
イメージが固まったところで咄嗟に魔法が出た時のことを思い出し、そこにその時の感情を織り交ぜる、
そして声に出す。
「『インパクト』っ!」
-パァァアアアン!!!!-
硬いコンクリートの地面に大きくて薄い金属の板を勢い良く叩きつけた様な音が地下室に響き、驚きと身体を押し返す反動に後方に倒れ込む、
「で、出たぁ・・・・・」
これは当たりだ
そう感じた。
これまで試した魔法と違いスカでもないし、撃った後の疲労感や倦怠感も無い、人一人を数メートル先までぶっ飛ばす程の威力があり、(ルーナで実証済み)使い方次第では更に威力を増すことが出来るかも知れない。
「やったッ!」
俺は小さくガッツポーズを決めた
これで師匠の出した課題の一つはクリアした
もう一つの課題の『役に立つ防御魔法の完成』に関しても上手く行きそうな案がある、
祝砲代わりにもう一度『インパクト』を放ったのと、何事かとルーナが地下室に飛び込んで来たのは同時だった。