3、師匠のイビリに耐える。
大変不本意だか、家事は異世界で生きるために必要なのだ。そして家出してから何故かキツくなった師匠のイビリに耐えるのもまた異世界では大切なこと・・・
それはとある日の朝・・・
「トイレ掃除終わりました~」
「トシナリ、少し来なさい。」
便器を擦ったたわしを掃除用具入れに放り込むと同時に俺の師匠、アシュレイの声が聞こえた。
「あ~い、」
俺は気のない返事をして呼ばれた方へ向かう、向かった先には能面みたいに表情のない師匠が立っていた。
「何ですか?」
「まだこんなに埃が残っているではありませんか・・・」
師匠は本棚を撫でて指先に付いた埃(?)を見て言った。
「いや、もうそこ同じこと言われて三回も拭いてるじゃないですか・・・もう何も残ってませんよ」
「私が黒と言えば白でも黒、汚れていると言えば汚れているのです、さっさと拭きなさい。」
なんと無茶苦茶なこと
「はいはい、拭けばいいんですね(イラッ)」
「『はい、』は一回、母親に教えて貰いませんでしたか?」
「はい・・・」
それはとある日の昼・・・
「ふぅ~やっと終わった・・・」
俺は大量の洗濯物を畳み終えて一休みしようと茶を入れる為に立ち上がる。
「ダメですねぇ、洗濯物一つマトモに畳めないとは、」
声のした方を見るといつの間にかいた師匠が畳んだ洗濯物をぐちゃぐちゃにして明後日の方向へ投げている。
「ああもう!仕事増やさないでください!」
それはとある日の夜・・・
「何ですか、今日の夕食少し味付け濃すぎるんじゃありません? 昨日より二品少ないのは手抜きですか?」
師匠はズルズルとわざと音をたてながらスープを飲み難癖をつけてくる。
「嫌なら食べなくて結構です。(イラッ)」
「う゛!?私の食べる物に玉ねぎを入れるなと言ったでしょうがっ!!」
師匠はスープの皿をひっくり返して叫ぶ。極度に玉ねぎが嫌いらしい。
「そんなに玉ねぎ嫌いならチャオ○ュールでも舐めてればいいでしょうっ!」
師匠の理不尽なイビリに耐えるのは異世界生活で大切なことだ・・・と信じたい。
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「師匠!いい加減何が魔法の一つでも教えてくださいよ!」
俺は師匠に向かって切実に叫んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・お断りします、正直教えるのとかかったるいですし。」
たっぷりと間を取った後、最高につまらない理由でNOを言った。
「何でですか!?家事すれば盗賊のスキル教えるって言ったじゃないですか、約束破るんですか?」
「そう言えばそんなこと言いましたね・・・・・・面倒ですが約束を破るのは私の美学に反します、教えてあげましょう。」
そう言って師匠は俺を家の地下室に向かわせた。
この人に美学とかあるのか?と思った
壁にある魔力ガス灯に微量の魔力を注ぎ部屋を照らしだす。
地下室は奥行き八メートル、横五メートル、高さ三メートル。
部屋の両脇には収納棚が備え付けられており、大量の木箱が収まっている、中には赤文字で『さわるなキケン!!』と警告が書いてあるものもある。
この地下室はかなり頑丈らしい、
何でもこの家はかなり昔から建ってるらしく、この国が隣国と緊張状態になった際に戦争になることを恐れた前の持ち主がシェルターとしてこの地下室を作ったらしく、師匠曰わく、並大抵の事では壊れないとのこと。
「ここなら近所迷惑にもならないでしょう、では始めます。」
「押忍っ!」
「その暑苦しい返事止めてもらませんか?」
師匠は俺の気合いの入った返事を冷たい言葉で叩き落として続ける。
「魔法は、対象物を強く意識し、創り出したい物をイメージする。それは前に教えましたね?」
「はい、」
「もう少し詳しい話をすると・・・まぁこれは私の師からの受け売りなのですが、『本来、魔法とは一つの事しかできない』のだそうです」
「どういう事です?」
師匠の言っていることが理解できず、オウム返しに聞き返す。
「魔法とは、『魔力によって、自らのイメージを具現化する力』なのだとか。どこぞのアホ弟子にも理解できるように言うと、火の魔法も水の魔法も見える形が違うだけで根本的には同じということです。」
「要するに、火を出すのも水を出すのも材料は同じ、ってことですか?」
「だからそう言っているではありませんか、わざわざバカみたいに聞き返さないでください、・・・おっとこれは失礼、あなたはバカでしたね。」
いちいちムカつく言い方をしてくるが言い返すと話が進まないのでひたすら耐える事にした。
「じゃあ、魔道具とか魔法陣は?」
「所詮、イメージを確立させる為の道具にすぎません、無言で火を出すより、蝋燭やマッチを思い浮かべた方がわかりやすいでしょう?」
俺は「確かに」と心の中で手をついた。
二十一世紀の日本でも言葉には力があり、言霊の概念はあった。それとは別に、科学的にも言葉に出す事の有用性は説かれている。
スポーツ選手が『自分は強い』『勝てる』と、言葉に出す事でモチベーションを上げるメンタルトレーニングがあった。多分それだ。
「まずは、『防御』の魔法から教えましょう。基本中の基本ですからね
イメージするのは自分の周りを覆うシャボン玉のような膜です、それに相手を『近づけたくない』という気持ちを入れてみましょう。」
「ようはA○フィールドですね!」
「○Tフィールドが何か知りませんが、イメージできればそれでいいのです。やってみなさい。」
まず、自らの身体を意識しする。オレンジ色の半透明で薄いガラスのような膜。金魚鉢に入った感じ。それを強くイメージする、
「ATフィールド全開っ!」
そうすると声と同時に想像した通りの金魚鉢のような半透明の膜ができた。
「やった・・・」
「イメージは上手いようですね、ただ・・・」
師匠は俺に一歩近づき、
「『身体強化』」
身体能力を底上げする魔法を自らにかけ、どこからともなく取り出した金鎚を容赦なく俺の作ったATフ○ールドに振り下ろした
『パリンっ』とガラスが割れるような音が地下室に響いて穴が開いた後、無数の光りの粒になって消えた
「せっかく作ったのに・・・」
「何言ってるんですか、これは自らを守る魔法ですよ、分かってますか?
こんなのでは攻撃を受けた時、破片が飛び散って逆に危ないでしょう、ミジンコでもわかりますよ?」
本当にいちいちムカつく言い方をしてくるが、確かにこれは危ない。これでは守るどころか逆に凶器だし転けただけで割れるなんてただの魔力の無駄遣いだ。
「はい・・・」
「ところでアナタ魔力値はどの位ですか?」
「魔力値?」
「体内の魔力の量を示す値です。子供でも知っている知識ですよ?」
そんなの知るわけがない、だいたいそんなもの計る機会すらなかった。
「知りません。」
「やはりミジンコ以下だ。仕方ありません、測定器を持ってくるので待っていてください。」
待つこと数分、師匠は透明の板が付いた時計みたいな機械を持ってきた。
「これが魔力測定器です。上に付いているガラス板に手を当てて魔力を注いでください、そうすれば魔力値が出ますから」
言われた通りにガラス板に手を当てて魔力を流し込むと板が淡く光り、時計部分の針が動く。
「48ですからランクB-・・・平均が70くらいですから中の下くらいですかね。」
いくら強化魔法を使ったとは言え金鎚で壊せるレベルの防御しかできないのに、なんとも中途半端な数字にさらに落胆する。
異世界なら異世界らしくもっとすごい能力とか見つかってもいいはずなのにこの世界ちょっと世知辛い気がする。
「はぁ・・・ちなみに師匠はどのくらいなんですか?あと」
「私ですか?113でしたがなにか?」
「俺・・・この仕事向いてないかも、世の中難しいっすねー」
師匠は俺の倍以上の魔力くを持っており平均を43も上回っており、その事にさらにショックを受けて黄昏る。
「まぁ、魔力値は鍛えれば多少は上がりますし、魔法は自らの想像力次第で作り出すこともできます、そう気を落とさないでください。」
「はい・・・でも、これじゃ何にも・・・。」
「いつまでウジウジしているのですか?ムカつくので止めていただきたい。この流れで言いますが、今のままではアナタは家事しかできないチビ助です、明日から一週間ほど仕事で家を空けます、その間に防御力を上げる方法と何か一つ自分で魔法を考えなさい。でなければ破門です。」
「えっ!ちょ、いきなり!?」
「分かりましたか?では今日の授業は終わりです。」
そう言って師匠は地下室から出ていってしまった。
「どうしよ・・・」
俺は師匠から出た課題を前に追い出されてストリートチルドレンになった自分を想像し、軽く絶望した。
今は主人公と師匠しか出てませんが、次の回であの女神を出す予定です、