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第八夜話

「なあサボ、ひとり寝もかなり板についてきただろ? 土砂降りだってお前がいてくれたからクリア出来たし。ここいらで彼女作ってもいいんじゃねぇの? とか思うワケよ」


 盛大なため息の後で、聞こえるか聞こえないかの小さな声でブツブツと何か言ってるようだ。キチンと聞きとろうかと聞き耳をたてる。


「ホント、クズだわ……少しは見直そうかと思ってたのに……やっぱただのエロメンじゃないのよ……」

「なんか怒ってるのか? でもさぁ、生活に潤いってのは必要だろ? やっぱ女の子の笑顔は『俺頑張るっ!』って気になるワケよ」


 俺の力説に対して、投げやり感ハンパないサボの声だ。


「はいはい、でも魔女との契約はどうすんのよ、バレたらレシピは絶対もらえないわよ?」

「ん? 夜だけだろ、制約があるのは。日中なら平気平気。一応健全な恋人探しってことで。夜の方は魔女の契約が終わったら解禁にすりゃいいんだろ? 目星はつけてるんだ、彼女にアプローチして反応良ければ恋人にどうかなってね」

「勝手にしたらっ!」


 おや? なんでキレるんだろ?

 俺が恋人作るのにサボが怒るって、意味わっかんねぇし。ひょっとしてヤキモチか? いやいや、ただのサボテンだ、あり得ん。しかし、拗ねられたままだと夜が長すぎるからな、ご機嫌とりで明日の夜は長めの恋物語でも読んでやるとするかな。


 そう考えてサボに話しかけ、半分くらい機嫌が直ったのを見計らってベッドに入った。

 明日の朝が勝負だ。



 ******



「ミリィさん、おはよう。今朝はいい天気だね」


 俺は呼び鈴を鳴らして毎朝紅茶を入れてくれる侍女を呼び出して、爽やかに挨拶をした。


「おはようございます、アンドレイ様。今朝はナーリア産のミルクが手に入りましたので、葉も香りが柔かいものをご用意致しました。ミルクの風味をご堪能ください」

「ありがとう」


 今の俺はミルクよりミリィさんを堪能したいです……

 あまりガッツいてると思われたくないので、とりあえずお茶を一口含んだ。


「ところでミリィさん、もしよかったら、朝のこの時間だけでなく、もう少しいろいろなところでお会いしたんだが。どうかな?」

「ええと……王宮の廊下とか庭先でも、アンドレイ様をお見かけした時にはご挨拶しておりますが?」


 少し戸惑い気味のミリィさん。あまり遠回しの誘いだとわかってくれないのか? 今まで俺からアプローチなんてしたことなかったからなぁ、もう少しアプローチの仕方も教えてもらえばよかったか?

 しかしもう後には引けない。押せ押せで行け、俺。


「ならばとりあえず、今日の昼過ぎに庭のベンチに来てくれないか? 庭師が素晴らしく素敵な花を咲かせたらしいよ?」

「あら、それでは是非案内していただけますか? 楽しみにしていますね」


 彼女がニッコリと可愛いらしい顔で了解してくれた。

 うおっしゃあっ!


 全力でガッツポーズをしたいのを抑え、笑顔でミリィさんに握手を求め、両手でしっかりと握りしめた。

「必ず来てくれないか?」と念押しして、次の仕事に向かう彼女を送り出した。


 パタン、と扉が閉まると同時に、思わず小躍りしてしまいそうなくらい喜んだ。何だよ、これ。すっげえドキドキする。女の子を誘うってこんなに楽しいんだな。


 上機嫌で執務室へ行き、精力的に仕事をした。


「何だ、ヤケに張り切ってるじゃないか?」


 フレッドが俺の仕事ぶりをみて問いかける。


「昼過ぎにデートするんだよ、俺に媚び売らない子なんだ。デートして恋人になってくれるかどうか、聞いてくる」

「ハハハ、お前から声かけるなんてよっぽど魅力的な子なんだな。晴れて恋人になったら紹介してくれ」

「おう、可愛いからって俺から取り上げるなよ?」

「まだ恋人にもなってないうちから何だよ、前に俺が教えた通りにアプローチしてるんだったら成功率高いと思うぞ? 何せ侍女たちから情報搔き集めてきたんだからな」

「今んとこオールクリア。侍女連中っていろんな意味で凄いのな、尊敬するよ」


 午前中に午後の分までの仕事を精力的に片付け、庭のベンチへと急いで向かった。


「アンドレイ様、お待たせしました。早めに来たつもりだったんですけれど、お時間間違えてしまいましたでしょうか?」

「いや、俺が君に逢いたくて約束の時間より早く来てしまったんだよ。待たせるより待ちたいと思ったからね」


 どうだっミリィさん、俺に惚れちゃうだろ?

 ミリィさんは予想通り、頬を赤らめて少し恥ずかしそうに俯いた。

 いい反応だ。さて、ホントはガッツりいきたいとこだが……我慢我慢、申し込むのは別れ際だ。


 しばらくは他愛のない話し、二人で軽く庭先をひと回りして……からのベンチで口説きタイムだ。


「あの……素敵なお花とおっしゃられてましたけど……今私たちが回った限りの場所では見られなかったように思うんですが」

「その花は今、俺の目の前に咲いてるんだが?」


 よしっ、決まったぞ! 俺のドヤ顔も見てくれ!

 ん? ミリィさんの反応が薄い……何で?


「あのぉ、大変申し訳ありません。間違いでなければ、アンドレイ様は私を口説いてらっしゃいます?」

「間違いなく口説いてるけど?」


 俺は自信満々でミリィさんに言ったのだが……伝わってなかったんかいな。


「そうだったんですか。ごめんなさい、私、先月結婚したばかりなんです。素敵なお花の話しを聞いて、別の日に夫と見に行こうかと下見を兼ねてお誘いを受けましたのに」


 ヒュルル〜〜〜〜〜〜……

 冷たい風が心の中を通過して言った。笑顔のままで凍りつく俺。

 呆然としてる横を丁寧なお辞儀をしたミリィさんが通り過ぎていく。


 気がつくと、とっぷりと日も暮れて、心のすき間風も追い払えないまま部屋へと戻った。


「お帰り〜、結果はどうだったの?」

「……お、おう、この俺様にかかれば落ちない女性なんかひとりもいない」


 動揺を悟られないようにサボに答えると「ふ〜ん」と面白がるような声。


「正直に言いなさい、すごく落ち込んだ声してるわよ? 振られたんでしょ?」

「な、何言ってんだっ! 振られたんじゃない。たまたま向こうに俺の想いがうまく伝わらなかっただけだ」


 アハハ、と笑いながら「そうねえ、残念だったね。はい失恋おめでとう。次頑張って」だとさ。何がめでたいんだ、ちくしょう。


 早めにふて寝しようと思ったら、昨日の約束のクソ甘ったるい騎士物語を読めとの指示が飛ぶ。

 不満たらたらだったが、律儀に読み始めてしまうあたり、俺っていいヤツ、と自分で自分を褒めてあげたよ。


 半分くらい読んだあたりで、知らない間に読むことに夢中になって、振られたことすら忘れた感じになっていた。結果的に気晴らしになってたんだな、と後から気づいたが、ここでサボに礼を言うのもシャクなんで、気づかないふりをした。


 さてと、次のターゲットは誰にするかな、と考えながらベッドに潜り込んだ。

 うん、俺って前向き〜。

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