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第四夜話

 男たちは呆れ顔で俺を見つめ、一斉に笑いながらこう教えてくれた。


「何ビビってんだよ、あの公爵様が悪の大王ってワケじゃないんだぜ? あのお方はな、自分の息子のために俺たち村人一人ひとりに頭下げて回ったんだ。貴族をバカにしてた俺たちに、いくらバカにされたって頭下げまくってなぁ」

「そうそう、息子の病気治してやりてぇって。薬草屋の婆さんに辿り着くまで必死でよぉ」

「俺らガキだったけど、そのガキにまでだぜ? 今じゃ伝説だよ。だからあの人だけは別格だ」


 へ? 何だそのハートフルな話しは?

 すごいって聞いたから、どんだけ権力振りかざして傲慢な態度とったんかと思ってたが。違う方のすごい、か。ビビらせんなよ、親父。


 でもさぁ、とその話しを受けた女が、俺の顔を引きつらせるには充分な言葉を言い放った。


「その息子ってのが、最低のクズなんだってさ。女と見れば見境ない、とんでもないヤツらしいよ? あんな立派なお父さん居るのにね」


 あうっ……痛い……やっぱ言われるよなぁ。

 でもこっちだってホントは理解ある一人がいればいいんだって。


「そ、その息子さんにも何か理由ってか、深いワケがあるかも知れないだろ?」


 俺は何故か自分を弁護するように切り返してみた。


「女を侍らす理由が? あはは、アンタ面白い発想するよねぇ。でもクズはクズでしょ? まさにキング・オブ・クズ!」


 女が俺に向かってビシッと人差し指を突き付けて宣言した。目の前に出された人差し指をアゴを引きながら見て、乾いた笑いしかできない。

 脇から男の誰かが言った。


「ルリアにかかっちゃ、色男も形無しだよなぁ。そのキングとルリア、対決させたら面白えよな。案外ウマが合ったりしてよぉ、いいカップルになるんじゃねえの?」


 囃し立てるようにルリアって女に聞きながら、みんなの同意を得ようとしてる。


「いいじゃねえか、ルリア。キングの花嫁だったらお前も男侍らせ放題だろうよ?」

「いいや、ルリアが花嫁だったら、キングの下半身事情をしっかり管理できんじゃね?」


 ギャハハ、と一斉に笑いが起きる。


 すんません、キングって俺です……

 そこまでブイブイ言わせてるつもりもないンですけど……

 とにかく、この女はゴメンだ。俺、絶対抵抗できねぇよ。


「ええ? 無理むり、そこまでのクズ、調教したって治るもんじゃないでしょ? アタシの理想はあの公爵様だよ。結婚してもいいくらい。貴族も平民もなく接する、あの優しさ、素敵だよね」

「ルリアは公爵様に可愛がられてるからなぁ、婆さんとこ顔だす時に必ずルリアにも会ってくんだろ?」


 ルリアが頬を少しだけ赤らめて、コクリと頷く。


「そうね、三ヵ月くらいに一回かな。いっつも頭撫でてくれるんだよ? ホント惚れて一緒になるならああいう男だね! でもクズが息子って耐えられるかなぁ」


 それを聞いた食堂の全員が大笑いしている。俺も一応愛想笑いだけしといたが。

 マジ無理だし、この女が母親って……あり得ねぇ……


 しかし親父、こっちにそんなに頻繁に来てたのか。全然知らんかったぞ? この村にこんだけ長く滞在してたのも初めてだし、親父からそんな話しも聞いたこともなかったからな。


 ルリアって女、親父の愛人か? いやあり得ねぇ、母上ひと筋だからな、あの人。帰ってから聞いてみるか。


 しっかしなぁ、俺と親父の評価ってこんだけ違うのな。俺だって今日みたいにひとりでも平気な時だってあるんだ。女が居なくたって別に……まあ居てくれると楽だから、一緒にいるだけだし……


 んん、いかんな。自分で自分にいい訳してるぞ。こりゃフレッドの言ってる通り、女と距離置いてみるかな。

 もしかして、次に婆さんとこ来るまでに俺の株があがってるかも知れない。


 親父と比較されたからか、何となくこの村人たちからの評価をあげてみたい、という気分になる。


 これ以上、自分の散々な扱きおろされようを耳にしたくなくて、早々に部屋へ戻ることにした。眠りにつくまでそんなに時間が多いわけではなかったので、今晩ならひとり寝も平気そうだ。この食堂の喧騒が子守唄みたく聞こえてくるのも助かる。厨房を借りて、お茶を煎じつつ、ポットごと二階へ移動した。

 ルリアとすれ違う時、彼女が俺の顔をみて目を見開いたように見えたのは気のせいだったか。



 やっぱ婆さんのお茶は最高だな。無茶苦茶いい目覚めじゃん?


 一昨日の夜、飲んだお茶より体調に合っているのか、ずっとリラックスしてる。何でだろ? 葉っぱが新しいせいか? とにかくこのお茶があれば、夜過ごすのに不安にならずに済みそうだ。


 俺は気分よく、多少の微笑みさえ浮かべながら部屋を出た。

 もう村人が活動してる時間のため、階下はざわめいて、その流れの中で朝食をとる。

 あと少しで食べ終わるって時にルリアが俺の前に座った。

 うっへぇ、何言ってくんだろ、先にメシ食わせろや……


「おはよ、昨夜はひとりで(・・・・)眠れたの?」


「んごっ、ぶっ……でっ……」


 むせた。慌てて水を流しこんでノドの詰まりをとり、口元を拭いてからルリアをマジっとみた。

 顔は笑顔なのに目だけ笑ってない……こ、怖え、この女。俺、締められるのかなぁ。調教するとか言ってたし。


「アンタ、名前は?」


 プチパニックになってた俺は固まったまま彼女を見つめてるだけだ。向こうは苦笑いして一度目を瞑り、もう一度俺に向かって話す。


「名乗んなきゃ、『キング』呼びするけど。それで言いわけ?」

「アア、ア、アンドレイだ。さすがにここの連中の前でそれ言われたら晒しものだ」


 クスっと笑って内緒話をするようにテーブルに両手をあげて頬杖をつく。笑顔が可愛いかったのと、多少の前屈みにルリアの胸元が近くなったことにドキッとして、一瞬顔に血が上ったが、すぐに視線を外して普段の顔に戻る。


「何で俺だって分かった?」

「そうねぇ、アタシが魔女だからかな?」


 はい? 魔女さんですか? んー、箒も持ってなさ気だし、鼻もトンがってなさそだし……マジマジっと見てみるが、変わったところは無さそうだ。


「……おいっ、あんま見るなっ。呪うぞ、こらっ……お茶よ、お茶、昨夜あのお茶飲んでたでしょ?」

「あのお茶が何かわかるってことは、婆さんの知り合いか?」


 ニヤッと笑って目を細め、意地悪な声を出した。


「それは秘密。女には秘密がつきものなのよ? あのお茶には、今回特別に魔女の秘伝の粉がひとすくい入ってるから美味しかったでしょ? お婆ちゃんもまだアンタに教えてないと思うわ」


 その得意気な顔と気迫に押されて、コクコクと無言で頷くしかない。そして素直な感想を言った。


「いつもよりリラックスして眠れたんだ。魔女の粉が必要なら作り方を教えてくれ。次に婆さんに会うときまで調合を覚えなきゃいけないんだ。いつまでも婆さんに頼ってられないから」


 真剣にルリアに説明してお願いすると、意外だ、という顔をされた。そして少し考えた彼女はこう言った。


「そうねぇ、アタシと契約するなら教えてあげなくもない」


 魔女との契約か……魂売れとか言うのかなぁ。でも、一昨日のような土砂降りの夜を考えたら、魂売ったっていいかもな。

 フレッドの負担にもなりたくないし。俺はあのお茶がどうしても必要なんだ。


「わかった、契約する。俺は何を差し出せばいいんだ?」

「そうねえ、それじゃ『女断ち』してもらおうか。今回のお茶飲み切るまで女と寝ないで居れば、次の調合で教えてあげる」


 ん? そんなことでいいのか? 魂売る話しは無いのか? 俺的には助かったが。

 ちょっと安心して胸をなで下ろすと、ルリアが「まあキングの下半身がどれだけ我慢できるか、楽しみが増えるわ」と呟いていた。


 だから俺はそこまで節操なしってワケじゃないんだってば。

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