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裏切り傭兵の変革記  作者: 綿鳥守
2章 現魔術派の傭兵として
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1話 俺の過去と切り札




『クルート大陸 南東付近』




時は少し戻る。


レードが旧魔術派を離れたと同時に、ある人物はニヤリと笑みを浮かべていた。


「さて・・・『掌握』・・・やっと見つけたよ傭兵くん♪」


無属性上級魔術の『探知』を派生させ、半径百二十メートルまでの状況を自身の視界にレーダーマップのように映し出す・・・


無属性魔術に特化していると自負しているある人物は特段変わらぬ様子で、目標の人物を捕捉していた。


「傭兵くんも後処理には気を付けてはいたようだけど・・・」


保存袋に入れられた『真っ赤な氷の破片』を見ながら、男は独り言ちる。


「こんな稀有な魔術を持ちながらも、魔術を嫌い、派閥を嫌い、気ままに生きる・・・とても良いよ♪君こそワタシの・・・」


男は、興奮を冷ますように咳ばらいをする。


「まぁ・・・いい・・・魔力も回復しなきゃならないし、迅速にやりますか♪」


レードが捕捉された背景には、以前の森で使用したある魔術のせいであるのだが、それを知るのはこの狂った魔術士だけである。




時は元に戻り、レードの視点。


『クルート大陸 現魔術派領土手前』




レードとウルンが鈍行馬車に揺られて、丸2日。


ようやく現魔術派の領土に入る・・・ところで、レードはウルンに馬車を止めるように伝えていた。


「何だ?何かあったのか??」


「いや・・・ウルンは運送が生業だろ?俺にだけくっついてたら」


「なるほどね。了解、またのご利用お待ちしていますっと」


レードの言わんとすることを察し、ウルンはまた元来た道を引き返していった。


「(全く・・・ほんと食えない奴だ)」


レードは旅のお供を見送りながら、単騎で現魔術派の領土へ足を踏み入れた。



『現魔術派 臨時支部』


レードはまず初めに、現魔術派末端である臨時支部に訪れた。


何故かというと、いきなり本部やその周辺支部に行ってしまうと、後々離れる際にマークされてしまうためだ。


とりあえず形だけでも現魔術派の魔術士としてなるために、このような小さな町に来ているのである。


「(さて・・・まずは傭兵登録か)」


いつものようにまずは・・・正規の手段通り、傭兵登録所へ向かう。


傭兵登録所は、俗に言う派遣登録と同義であるとされており、派遣先から申請があると派遣スタッフへ連絡が行く・・・つまり、傭兵に仕事が舞い込んでくるという仕組みである。


「こんちには。こちらで登録を受け付けて・・・っ!あなたは・・・」


「???」


「あ、いえ・・・すいぶんと有名な方が来たなと思いまして・・・」


レードの対応をしている青年の受付スタッフは何故だか苦笑いをする。


「お・・・僕がですか?そんな実績もありませんし、どなたかと勘違いなさっているのですよ」


「んー・・・確かに、『灰ローブ』を名乗っているだけの人も稀にいますし・・・そうですよね!すみません!」


「(おい誰だそいつ。俺の格好で変なことしてたら・・・)」


レードは穏やかに受付を済ませつつ、内心苛つきながらその場を後にした。




「(とりあえずテンプレ終了。後はお声がかかるまで待機だな)」


レードは依頼が来るまでのこの空白の時間を自身の鍛錬に費やしている。


暗器のメンテナンスや道具の仕入れに加えて、新たなトラップを作成するために他者の道具を観察するなど。


とにかく仕事が無いままでは、そこらの穀潰し(ハッピーな人)と変わらないため、何かしていないと気が済まないというのが本音である。


「(今さら正規の仕事には就けないしな・・・)」


この傭兵稼業を始めるきっかけになった・・・ある過去の出来事。


レードは午後2時の人気が無い公園で過去の自分を思い出していた。




『なんで・・・何でだよ!?俺が何をしたって!』


『レード・・・仕方ないんだ・・・哀れな私を許してくれ・・・!』


その後、俺の意識は途絶えた。




俺はこの日、11歳の誕生日パーティを楽しみにしていた。


貧乏ながらも、かき集めたお金で毎年開催される誕生日パーティ。


魔術の概念が変わってから、俺の父親は旧魔術から現魔術へ転換できずに、鍛冶師へ転職。


母親は手先が器用だったこともあり、独創的なアイデアで手芸店を営んで夫を支えていた。


魔術なんて無くても、十分暮らしていける。


魔術に固執しなくてもやっていける。


父親がよく口にしていた言葉だ。


母親もそうねと微笑みながら同意していて、俺も2人の意見に賛同していた。


だが、矛盾していることもある。


父親にも考えることがあったのだろう。


ここ2年は自分の魔術や知識などを直接教えてくることが多く、足りない部分については書物に残して読み返せるようにしてくれていた。


こんな生活がずっと続けばいい。


そんな甘い考えに浸っているときこそ、運命の歯車はおかしくなるのだろう。


ある日。


うちに1通の手紙が届く。


それは、俺の父親が再び戦場に立たなくてはいけない・・・というものだった。


退役した父親だが、魔術以外に剣術も得意としていたことが災いとなったか。


元々旧魔術派の魔術兵として仕事をしていた父親は、すぐに現場に向かった。


だが。


無事に現魔術派に勝利したという一報とは別に、うちへ帰って来た父親はあまりにも軽い箱に入っていた。


母親はそれを見て3日くらいだろうか?


まともな精神でいられずに何度も自殺をしようとしていたが、俺はそれを多様な言い回しで止めてきた。


また別の日には、手芸店でのストレスで半狂乱気味に俺に八つ当たりをしてくることも増えた。


擦り傷、打撲、打ち身、捻挫・・・酷い時には骨にひびが入る時もあった。


そんな日々を過ごしていると、防衛本能というのか。


母親の手先を真似て小道具(毒針や煙玉など)を作成し、父親の残した魔術書を読んで無属性魔術を身に着けた。


父親の魔術センス、母親の器用さを受け継いだせいかもしれない・・・が、適性の問題で属性魔術は習得出来なかった。


他にも自衛するために暗器と呼ばれる物にも手を出したし、1日中魔術の特訓をしてある程度知識を蓄えた。


もちろん・・・このようなことは一朝一夕ではできない。


母親が変になってからというものの、食事や睡眠以外の時間を全て費やした・・・10か月ほど。


しかし、それでも。


母親へ何かすることはできなかった。


唯一の肉親であり、自分の拠り所だ。


中途半端に力を手に入れたおかげか、いつでも止められると思ったのか、反抗はしなかった。


1年後。


何とか働ける年齢になった俺は、フードを使用して、偽りの年齢と名前でパン屋で仕込みの手伝いを始めた。


少ない金だが、1回の手伝いで自分の1日分ほどの食費以上にはなっている。


これで少しは母親も楽になるだろう・・・


そう思っていた矢先だった。


『ただいま。かあさん?どこに・・・』


不意に後ろから気配を感じた俺はその場にしゃがみこむ。


次の瞬間、俺の首があった位置にブン!と棍棒のような何かが通り過ぎた。


『っち!勘の良いガキだ!!』


『お前は!?なん・・・』


俺が戸惑うのも関係なしに、その男は再び襲いかかる。


『大人しく・・・!』


男が向かってきたところに、俺はポケットから店でもらった余りのパンを投げつける。


『ぐぇ!くっそ!!なめやがっ・・・』


男が目に当たったパンを振り払う前に、俺は『現魔術』を詠唱する。


『閃光!!』


右手の魔法陣から真っ白な光が生み出され、その場を爛々とさせる。


『ぐわぁ!!何だこれ!!目が・・・くっ!!』


『初めて・・・成功した・・・派生魔術・・・』


父親が残した魔術書にある派生魔術・・・の仕組みを自力で理解し、何とか成功したのはこれが初めてである。


ただ・・・気がかりなのは、今現時点で『左眼が見えない』ことだが、気にしてられない。


『よっし!!お前なんか!!』


俺が再び『閃光』を起動しようと前に進む瞬間、倒れている男の後ろに母親を見つけた。


『あっ!かあさん!今・・・』


俺が続けようとした時、母親の隣に屈強な男がいることに気が付く。


『お前も!』


標的を前方の男に変えた俺は、『左から近寄る何かに気付くのに遅れた』。


『さっきはよくもやってくれたなぁ!小僧!』


『な!離せ!くそ!!』


左眼の視力が0になっていた俺は、周囲の状況を把握するのにラグがあった。


羽交い締めにされたまま、何もできない俺はすがるように母親を見つめる。


『かあさん!こいつらは!?』


『・・・』


『・・・お前の息子だろう。どこかに売られる前に言葉をかけてやらないのか』


母親の隣にいる屈強な男は静かに問う。


『そうだぜ〜・・・もうすぐこいつはどっかに行くわけだしな!』


後ろからは棍棒の男がゲラゲラ笑いながら言っている。


何を言っているんだこいつらは。


俺は訳が分からず、もう一度母親に呼びかける。


『かあさん!そいつら悪い奴らだろう!?何で何も言わないんだよ!』


『・・・レード。もう・・・もう、私はあなたを養っていけない。お店は終わりにしたのよ』


『えっ・・・』


『もう・・・無理・・・私はあの人がいなくては・・・』


母親は目の力が無いようで、話し方もぽつりとぽつりと弱弱しかった。


『君の母親は、ここ1年・・・気が触れた振りをし、君が自分を憐れんでくれることを願っていたらしい。金が無いのは事実だが、精神はいたって健康・・・いや、子供を売っている時点で正気ではないか』


屈強な男は事実を淡々と話している・・・というのも、母親がうつむいてこちらと目を合わせないことから推測できているだけだが。


『君に亭主を重ねていたらしい。何故逝ってしまったのか、何故自分を支えてはくれないのか・・・ストレスや自己嫌悪から来るものに耐えられず・・・暴力などで気持ちを整理しなくてはならなくなっていたと。結果的に君を騙し、裏切っていたということになるがな』


『なんで・・・かあさんは俺を裏切るようなことはしない!お前のでたら』


『レード!もう・・・止めて!これもお金が無いからなの!お金さえあれば・・・』


『かあさん・・・』


『・・・早く連れていって』


『かあさん!』


『・・・了解した。ほら、いくぞ棍棒』


へいへいと返事をした棍棒の男は俺を抱えてかあさんの横を通り過ぎる。


この時に俺は絶望しながら、自分に問いかけていた。


何故裏切られてしまうのか。


俺に金が無いから?


力が無いから?


それとも魔術が上手く使えないから?


いくら考えても答えが分からない。


そして、まだ母親へ声が届く距離で答えが出ないままの、心の叫びが口から飛び出す。


『なんで・・・何でだよ!?俺が何をしたって!』




「・・・少し寝てたか」


レードは考え事をしている間にうとうとしていたらしい。


「(身売りされた後は大変だったな。とにかく奴隷のように扱われたし。まぁ、精一杯抵抗したおかげですっかり嫌われたもんだが)」


嫌な記憶が蘇るが、こればかりは仕方ない・・・自身の体験はいつまでも自身の中に眠っているのだから。


「(学歴なし。元奴隷。殺傷事件関与・・・とまぁ、こんなクソみたいな経歴で雇ってくれるところは無いわけで。自然と腕っぷしが買われる傭兵に流れ着いたと)」


レードの近くに飛んできた小鳥が不思議そうにこちらを見ているが、一瞬後には飛び立つ。


「(なんだろうね・・・俺の境遇と似てるのか?犠牲とかいう魔術特性。これのおかげでまぁ・・・水の基礎魔術しか使えない俺でも無理矢理・・・改造魔術を創れたんだが)」


レードは自らの魔術で決定打・・・つまり、絶対的な切り札が無いことを危惧していた。


いくら無属性魔術でやりくりしようとも、いつかは対策されてしまう。


そこで思いついたのが、唯一使用できる水矢のみを研究すること。


使用できるまでには、身売りされた時から約6年の時間が必要であったが、初の『まともな』攻撃魔術である。


水・・・この単語だけに支配されがちだが、広く見るとそれは自分にも流れているものだ。


その中でも、人が生きる上で必要な血液。


これは捧げることで魔術的作用があるとされている。


それを知ったレードは試しに、自身の血液を抜き、水矢を起動・・・魔力消費、侵蝕率を上昇させるのと同時に極度の集中をしつつ、自身の流れ出る血液を流動させず固定化。


自身の魔術特性である犠牲をも活用し、やっとのことで改造魔術が完成したのである。


「(名付けることでどや顔決めたいやつが多いそうだが。俺は単に『切り札』ってことにしてるわ・・・あぁ、でも・・・前に聞いた噂では)」




「はい?オーキス様からの依頼・・・何ですか、この真っ赤な氷破片」


「さぁ?下っ端の俺には・・・」


「・・・『調べますか』」


「鑑定の魔術ですね。お早いことで」


「ええ・・・しかし、不可解ですね。これの元は人間ですが・・・まぁ、それはいいでしょう。この氷ですが、元にした魔術はただの水矢のようです。なのに、こうして『氷』になっている・・・どういうことでしょうか。仮にも私はオーキス様直々に認められた『水神』なのですが。興味が湧きますね」


「え・・・あの無関心さで有名な『シャルル』様がご興味を持つとは・・・!」


「・・・少々気にかかりますが、まぁいいや。とにかく、これは水属性魔術というにはあまりにも不純すぎます。何かしらの魔術特性を用いない限り、このような属性変更はできないはずです」


「(よく分からない)」


「巷では、この氷破片がある前には氷像?が存在しているとかなんとかだそうですが・・・しかも突然どこからか何かが飛んでくるとかいう証言もあるそうで」


「あ、こちらの書類に有力なものが。何やらその魔術の特徴やら名前がありますよ」


「ふむふむ。神速の弾丸のような何か、狙撃、美しいワインレッド、氷・・・特徴に関しては良いですけど。次、何ですかこれ。俗称『血の氷弾ブラド・アイシス』・・・ごく少数の者が呼んでるに過ぎないですが、まぁ・・・覚えておきましょう」


「(覚えておくんだ)」


「はぁ・・・この私をその気にさせるとは良い度胸ですね・・・!必ずこの魔術を使用している者を見つけ出し・・・」


「(ごくり)」


「んー・・・その後はいいや。特に興味ないし」


「あ、やっぱりそうなるんだ」


このような感じに・・・どこかの大陸・・・その南にある魔術管理棟と呼ばれる建物で、1人の女性と名もなき見張り兵はゆるい話をしていた。




「・・・(『血の氷弾ブラド・アイシス』か。いやまぁ、間違ってはいないし・・・うん)」


レードは自分の知らない場所で1人の女性が闘志を燃やしてるとは知らずに、公園でゆったりとした時間を過ごす。


「(でもまぁ・・・切り札はそのー・・・当てれば即死させることはできるが、外したら俺が即死する可能性大という博打魔術なんよな。代償現象は前の時みたいにしばらく動けなくなるし)


以前の森では、相手の詠唱速度・魔法陣展開が遅かったせいか(焦りから?)上手くいったが、本来敵の目の前で使用するのは自殺に等しい。


「(ほんともう・・・俺も剣術やるかぁ・・・?)


過去の記憶を呼び戻したせいか、父親もそういえば剣をやれとか言ってたことを思い出す。


「はぁ・・・俺は器用なのか不器用なのか・・・ん?通信の魔術か」


レードはベンチに座り直し、耳を傾ける。


「仕事の依頼です。旧魔術派の魔術士3人を暗殺してください」


「・・・承知しました」


いつものように通信の魔術を切ると、レードは公園を後にした。


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