囚われの魔女
「ここは…」
動こうとすると手に鎖があり、身動きがとれない。
奥深い洞窟に一人。
周りには、魔女の魔力も人の気配もない。
「魔室なのか?」
魔室の最奥の部屋には悪魔をおろす為の魔法陣がある。
しかし、ここにはないし魔法陣の気配もない。
不思議な場所だ。
魔女も魔術の気配もない静かな場所。
その静かさは不気味とも言える。
コツコツと人の歩く音が聞こえる。
「誰だ!」
「我が名はマース。第1の魔室の者だ」
第1の魔室はバアルとアガレスを中心とし、魔室の中でも一二を争う強さを持っている。
マースは魔女宗教の言葉で死を表す。
魔女の母がマースと命じたらしい。
パイモンと言う名は悪魔であるがパイモンと契約を結び、パイモンと名乗れる。
従って、72の悪魔の名を持つ魔女たちはそれぞれの悪魔と契約している。
契約を交わし、悪魔の魔力を使える。
それが魔術だ。
魔術の中にも魔法がある。
それは自分自身の魔力で発動する。
「我はパイモンだ。72の悪魔の名前を持っていない汝が我を傷つけるのか?」
72の悪魔の名を持つ魔女に持っていない魔女が傷つけることは許されない。
その罪は強欲。
72の魔女の名を持つ魔女を殺すと自分がその名を持てる。
マースもその一人であった。
パイモンはあの中でもルシファーに従順で多様な魔術が使える。
それも含め、"パイモン"と名乗る魔女は羨ましがられるし嫌われる。
パイモンはそれに負けじと努力を積み重ね、現在のパイモンとなった。
パイモンはどんな困難にも屈さない。
それがパイモンの強さだ。
「お前が悪魔 パイモンと契約が遅れれば、我が第9の魔女 パイモンになれたと言うのに!」
悪魔 パイモンと契約したい人はたくさんいた。
早く悪魔をおろした者が悪魔の名を語れる。
パイモンはマースより先に悪魔をおろせたのだ。
「それは逆恨みだ。我のせいではない。汝の力不足だろう」
「このガキがぁぁぁ!」
マースは炎魔法をパイモンにめがけて放つ。
「跳ね返せ、我が力よ」
それを跳ね返し、マースは黒焦げになった。
「くっ…。こいつは上物だ」
マースはジェスチャーで誰かに来るように伝えた。
すると、一気に魔女宗教のマントを羽織った人々が現れた。
強力な魔力もすれば、弱い魔力もする。
「アザリア!」
間一髪、ギースは間に合った。
「ギース、帰れ。汝の出番ではないはずだ」
パイモンは焦る。
もう誰も傷つけたくない。
自分のせいで誰が傷つく光景はもう見たくない。
そう、パイモンの父親のように。
あの忌まわしい過去が蘇る。
深呼吸をたくさんする。
真っ直ぐ前を見る。
「第9の悪魔 パイモンよ。我の声を聞け。我が命に従え。汝の力と我の力が合わさりし時大地を穿つ牙となれ。世界を揺るがす大いなる厄災となれ。フルーア・デイズ・パニースト・ニアイスフ・ベータ」
震えた声で詠唱をした。
やっぱり怖かった。
洞窟が崩れ落ちる。
大地震のような揺れと何処からか漂う焦げた匂い。
マースのいる所にマグマが噴射した。
しかし、溶けるのはマースだけ。
洞窟の天井、ギースたちにマグマの影響はない。
「はぁはぁ…ギー…ス…」
パイモンは意識を失った。
「アザリア!」