魔女
第2話 魔女
「話しないことはなんだギース」
「近隣の王国で魔女が傭兵となり戦争に加担しているという話がでている」
「なるほど。国が魔女を飼っておるのか。そんな話は信じ難いな」
魔女が人間と共存もしくは手を貸すなんてことは魔女自身も有り得ない話だ。
しかし、その考えを変えたいという魔女も多くなってきた。
パイモンとブエルもその一人であった。
「その名はカーレド」
パイモンはその名を知っている。
カーレドはかつて、パイモンとブエルの部下であった人物。
彼は基本的な魔術を使いこなせるようになると、未熟者や新人をいびるようになった。
その行為が激しかったのでパイモンとブエルは彼を追い出し、二度と来ないように忠告をした。
以後、彼は孤独魔女となったらしい。
「カーレドが魔術を使い、戦争で暴れているということか?」
「そうだ。そう言えば貴女の名前をお聞きしていなかった」
「我が名はアザリア」
"アザリア"
アザリアはケントス王国の国花だ。
その花は紅い花弁と薄紫の雌花と雄花を持つ。
パイモンの髪色と瞳の色と全く同じだ。
だから、パイモンの両親はアザリアと名付けた。
「アザリアは魔女について詳しいか?」
パイモンは黙ってしまった。
魔女について詳しいこと。魔女について知り尽くしてること。自分自身が魔女であること。
「いや、ずっと世間から離れた場所に居てな。しかし魔女は存在だけは知っている」
パイモンは嘘をついてしまった。
それは魔女にとって行ってはいけないことの一つ。
1:己に嘘をつくべからず
2:仲間を見捨てることあるべからず
3:魔女同士殺すことあるべからず
たくさんの戒禁が魔女宗教にはあった。
(いずれ、我は大いなる罰を受けることになるだろう)
二人は主に魔女の話について話した。
パイモンは自分自身が魔女と気づかれないように魔女の意見を言った。
その話の中でギースは魔女のことを酷く憎んでいると言うことが分かった。
彼の母は魔女乱によって殺されたらしい。
彼は自分の母が目の前で殺されるのを見たらしい。
腹は切られ、背中には火傷で見るにも見られなかったらしい。
「だから魔女は全員殺したい」
パイモンはふと疑問に思った。
「もし、汝の友人が魔女であったら殺すか?」
ギースはびっくりした顔でパイモンを見た。
「私の友人は皆人間だ。魔女なんて口も聞きたくもない。それに魔女は人の目は避ける生き物だろう」
パイモンは少し怒ってしまった。
魔女のことを貶されたこと。
自分の質問は愚問だったこと。
魔女は生き物で人間と見ていないこと。
「汝は博愛主義ではないのだな」
(汝なら我を特別扱いしないと思ったのにな)
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パイモンはあの後、用事があることを理由に去ってしまった。
「我は未熟者だな、こんなことで悩み続けるなんてな」
パイモンは困った顔をしながら夕食を作っていた。
「…やはり外は危険だ。ブエルは分かっていたであろうか?」
前方からガサガサと枝や枯れ草を踏む音がした。
「アザリア!探したぞ!」
ギースだった。
「ギース。我に何の用だ?」
「騎士という身分なのに失言をしたなと思い、謝りに来た」
「ふっ、そんなことで謝りに来るようでは騎士とは言えんな」
パイモンは少し大きな声で言った。
「騎士とは常に胸をはる者。一回失言しただけではないか。汝もあの少年も騎士見習いだな!」
パイモンはドヤ顔で言った。
「そうだなありがとう、アザリア」
「うむ。我は…もう…眠…」
パイモンは言い切る前に寝てしまった。
「困ったお嬢さんだ」
ギースはパイモンをおんぶして自宅へ帰った。
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パイモンは小鳥の鳴く声で起きた。
「寝てしまったか」
「おはよう、アザリア」
いつもと変わらない笑顔で挨拶をしてきた。
「その胡散臭い笑顔でなく、普通の笑顔で我と触れ合ってほしい」
パイモンは耳まで赤くさせ、目を背けた。
「ハハッ、そうだな。任務ではないからな」
その笑顔はいつもより自由で可愛らしかった。
「我はその笑顔の方が好きだ」
パイモンは同じ笑顔で返した。
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二人は二日目の王国誕生祭を訪れた。
「また違った雰囲気だな」
一日目は屋台が多かったが、二日目はパレードがメインらしい。
「ケントス王国の誕生祭は一週間で色々な面を楽しめる。それもこの国の素晴らしさだ」
「あと、五日か。楽しみだな!」
パイモンは目をキラキラさせた。
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あの一週間は瞬きのように早かった。
ギースと国の名物を食べたり、お揃いのお守りを買ったりした。
「この一週間は感謝してもしきれぬ」
「こちらもだ。また会おう」
握手をして別れた。
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「帰ったぞ、ブエル」
「パイモン!一週間いないと言え!心配したぞ!」
ブエルは涙目で睨みつけた。
「悪かった、これは土産だ」
ブエルに渡したものは名物とパイモンの色違いのお守りだった。
「うおぉ〜!早く食べるぞ!」
ブエルは名物をあっという間に食べた。
「美味いな」
「我もそれは美味であった」
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パイモンは山頂の洞窟から出た。
そこから、王国を見た。
「運命とは怖いものだな。何故かまた汝と会える気がしてならぬ。何百年も待とうではないか」
言い終わった途端、強い風がふいた。
「我が風であれば汝といつでも会えそうだ」
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ある村が炎と血の海になっていた。
ある村が魔女乱にあった。
孤独魔女達が起こした。
「さてさて、貴方達頑張りましたね。ルシファーもご覧になっていることでしょう」
カーレドは魔術を使い、魔女に関係ない村を襲っていた。
「このカーレド、世界を終わらせよう」
カーレドはニヤリとわらった。
パイモンはカーレドのいる村の方を向いた。
「カーレド…?」