人気記者ヘイグの旅コラム~あなたに代わって現地へ行ってきます~
素人が思い付きで書きました。
よかったらどうぞ。
ここ王都に住む人たちの楽しみの一つに、『新聞』がある。20年ほど前に時の勇者は紙の製法と印刷という新たな技術を惜しげもなく伝えた。紙の製法だけでも皆は飛び上がって喜んだが、印刷は国の文官たちが泣いて喜んだ。
そしてこの新しいものの可能性に目を付けた新興貴族が、庶民向けに娯楽記事を出し始める。初めはただの勇者の予定などの報告書のようなものだったが、それは思惑とは異なり庶民よりも貴族のご令嬢などにウケて「早く続きが見たい」との声が上げられるようになった。思わぬ形で他の貴族からの後押しを得ることもでき、記事作りは加速していった。
そんなある時、偶然この記事を目にした勇者が驚きながら「おおっ、これって『新聞』じゃん。」と言ったことから、まだ名前のなかったこの記事に『新聞』という名が付けられた。
貴族で人気のあるものは庶民だって気になる。徐々に記事は話題を呼び、いつしか読んでないと遅れてるとまで見られるようになった。それは困ると誰もが記事が出る日には並んで買い、字の読めないものは必死に覚えようとした。
それから20年。今ではすっかり生活に浸透している。
新聞を扱う商人も増え、地方紙と呼ばれる少部数発行の新聞までできるほど。それぞれがお気に入りの新聞を持っていたりして、どの新聞が一番かという議論は酒場で一番多くて熱く盛り上がるネタだ。
だが最近人気の話題は少し違う。とある地方紙が人々の話題をさらっているのだ。正確にはその記事に不定期で載せられる一つのコラムが王都の人々の目と心を惹きつけている。そのコラムが載せられた号はあっという間に売り切れ毎回増刷されるほど。そしてしばらくはその話題で男も女ももちきりになる。
そんな王都中が楽しみにしている記事を、この部屋の主である男もまた密かな楽しみとしていた。毎朝ほぼすべての新聞に目を通すのが男の日課だ。そして大好きなそのコラムが載せられていると、とりあえず他の新聞を読み終えてゆっくりと時間をかけて読む。
「さて・・・今日は載っているかの?・・・しかしコラムが載る日が決まっていればのう。いや、不定期だからこその楽しみともいえるか。」
独り言をぶつぶつとこぼしながら記事をめくっていく。するとあるところで手が止まった。
「おおおっ!今日は載っておるっ!くくくっ、今日はいい日じゃな・・・。さて、そうと分かればささっと他の記事を読んで楽しむとするか。」
男は本当に読んだのか?と思えるスピードで他の新聞をめくった(読んだではなくめくったが正しいだろう)。そして逸る心を抑えながら、深々と柔らかな椅子に腰かけなおししっくりくる場所が見つかったらコラムに集中しだした。
『
あなたにも自分だけの特別な一杯があるだろうか。
聞いておきながらなんだが私にはまだない。あると自信を持てるほどの一杯には出会っていない気がするのだ。
酒などどれも同じだ、酔えればそれでいいのだ、そういう意見もあるだろう。だが、誰にでもきっとその一杯は存在する。
私は最近強くそう思わされる出会いがあった。今回はその話をあなたにお届けしようと思う。きっと読み終わった後、あなたも私と同じように自分の特別な一杯について考えさせられるに違いない。
私は30才を越えてオジサンと呼ばれることに違和感を感じなくなってきた頃になって、やっとウィスケの良さを少しづつだが理解できるようになった。
人によっては遅いと馬鹿にされるかもしれないが、ここで私が言うウィスケとは特にライラ島のあのクセの強いものだと言えばご理解いただけるに違いない。飲んだことがある人は分かるだろうが、ここで作られるウィスケは他の地域とは一線を画する。
私が初めてここの酒を飲んだのは、酒が飲めるようになって少しした頃だった。その頃の私は酒が飲めることをまるで大人の仲間入りをしたかのように感じられ、味よりも格好いいからというような理由で酒を飲んでいた。(あなたにもそんな時期が少しはあったのではないだろうか。)
そして友人に見栄を張り、まるで知識もなく強い酒だというだけでライラ(ライラ島のウィスケを総称してこう略する)をストレートであおった。
勢いよく口に入れたはいいがそこからは大変だった。とりあえず吐き出すようなことはしなかったが、自分は何を飲んだのかと目を白黒させることになった。なにがそんなにと思われるかもしれない。その答えは香りだ。独特のまるで薬のような強い香りがライラ島のウィスケの一番の特徴なのだ。
この香りは好きかどうかを選ぶように思う。事実、その時の私には辛かったがライラには熱狂的なファンが多い。
さて、そんな出会いをした私とライラだが年をとり味の好みも広がるようになると、少しづつライラの良さが分かるようになってきたのだ。回数を重ねるごとにその奥深さにどんどんと深みにはまっていき、しばらくしたらすっかり虜になってしまった。
そうなると読者のあなたはきっとご存じだろう。いつもの私の悪い癖が発症してしまい、現地に行ってみたくて仕方なくなってしまったのだ。
そして気づけば私はライラ島行きの馬車に乗っていた。
ライラ島は王国の北西の端にある小さな島だ。この地域一帯は昔からウィスケ作りが盛んで世界的に有名な酒が多くここから生まれている。その中でもやはりライラ島は個性という点で突出しているだろう。
長く馬車に揺られ、船に乗り換え、高い波と押し寄せる気持ち悪さと戦い、ようやく私はライラ島に降り立つことができた。
港から見渡しても特別大きな建物は見当たらず、なんとものどかな島だった。
ゆっくり散策しながら私は目的の場所へと向かう。取材をしたいと先に打診しておいた方のご自宅兼仕事場だ。今回はライラ島の中でも1、2の歴史を誇る「ラガーベッグ」を造っている方にお会いしてお話を聞こうと思っている。
道行く人に道を聞きながらたどり着いたその場所は私の想像以上にこじんまりとしていた。だがここであのラガーベッグが作られているのかと思うと、なぜだか胸が熱くなった。
そうやって外で立ち尽くしていると、中から人が出てきた。おそらくここの親方だろう。厳つい顔と兵士にも勝てるのではと思う立派な体躯をした男が私に気づき声をかけてくる。
「おいあんた、あんたヘイグさんかい?」
私がその問いに肯定の答えを返すと男はニカッと実に人懐っこそうに笑い、
「おう、やっぱりそうかい。俺はここの主の、ラディ、ラディ・ハーブンだ。こんな遠いところまでよく来てくれたな。」
そう言ってガッシリと握手をされた。力強い手だ。この手があの酒を作り出しているのだ。しかし・・・ラディ・ハーブン・・・どこかで聞いたことのある名前だ。
「まあ、こんなとこで立ち話もなんだ。せっかく来てくれたんだ、ゆっくり中を見てってくんな。」
お言葉に甘えて私はお邪魔することにした。そして休む間もなくその足で酒造りの工場をのぞかせてもらう。私は彼に案内されて初めて酒造りの現場へと足を踏み入れる。
彼はこちらが驚くほどあけすけにすべての作業場と工程を詳しく教えてくれた。そんなに話して真似される心配はないのかと不安になり尋ねると、彼は声を出して笑い全く問題ないと答えた。
「たとえウチの真似をしたって同じものは作れねえよ。ウィスケ造りはそんな単純じゃねえ。本当に重要な部分は口では伝えられねえしな。それにウチの酒はこの島のこの場所だから生まれるんだ。」
どういう意味だろう。ただラディの腕や経験だけではないということだろうか。
不思議に思い辺りを見回すと、そういえばここには魔法石がない。いや、あるにはあるのだが灯りとして使われる光の魔石以外の魔石がないのだ。通常、どの家庭でも使われている火の魔石や水の魔石がここでは見当たらない。
酒造りには火も水も欠かせないはずなのに、と首をひねると私の疑問に気が付いたのかラディが教えてくれた。
「おう、気が付いたか。そうだ、うちには光以外の魔石はねえ。ウチのウィスケを造るにゃあ、魔石ではダメだ。火には石炭とこの島でとれる泥炭を使わなきゃならねえ。何より水が大事だ。昔っからウチの酒はウチの裏を流れる川の水をろ過して使ってる。だから作り方だけウチの真似しても絶対に同じ味にはならねえのよ。」
なるほど、納得した。しかし、正直言ってそれはかなり不便ではないだろうか。魔石のある生活が普通の私にはそう感じられてしまった。
「まあ、俺たちだって普段の生活では使ってるさ。だから魔石が便利だってことも十分わかってる。実際安上がりで量もたくさんできるから魔石を使うようになった、て話をよそのウィスケ作ってるやつから聞いたよ。まあ利益も大事なんだろう。そういう時代ってやつも関係してる。だけどな、そうやって魔石に頼るようになったやつの酒を飲むとな、やっぱり味が違えんだ。それでもいいってやつを責めたりはしない。だけど俺はダメだ。」
頑固なオヤジ。褒め言葉として彼にこの言葉を使いたい。真摯にウィスケと向き合い続ける男の顔がそこにはあった。そうか、だからラガーベッグはうまいのだ。私は深く納得した。
「ウチの宝物を見せてやるよ。」そう言って彼は私を工場の隣にある建物に連れていく。
湿度が高く、だがひんやりとした部屋の中にはずらっと樽が並べられており私は圧倒された。
「ここがウチの貯蔵庫だ。ここでこの島の空気を吸いながら少しづつウチのウィスケになっていく。あんた、この島に来るときずいぶん波に苦しめられただろ?風があの海の湿った空気と潮の香りを運んできてくれるんだよ。その空気の中何十年と眠り続けるんだ。」
火、水、風、どれも今の時代は魔石に頼っているが、それではあの味は生まれないのだ。この島がこの島でなければできない。そしてそれは同時に何十年も形を変えない、近代化とは無縁のこの島の人々の誇りにも感じられた。
ブルリと震えたのは寒さではなく、きっと感動が身体を突き抜けたからだろう。
言葉少なにいる私を彼は心配してくれたのか、自宅へと招待してくれた。簡素だがキレイに保たれている居間へと入ると、奥さんが出迎えてくれた。年を感じさせない美しさと芯の強さを感じさせる女性だ。
椅子に座り私は気になっていたこと、なぜ彼はウィスケ造りをするようになったのか尋ねてみた。
「がはは。まあ、一番の理由はここが俺の生まれ育った家だからだよ。実家の仕事を継いだってやつだな。ウチは爺さんの頃からウィスケを造りはじめてな。俺で3代目だ。」
なるほど、そうだったのか。ある意味幼い時から修行していた、ということか。
「ああ、まあ、確かに仕事を手伝わされてはいたな。だがガキの頃はそれが嫌でなぁ・・・。遊びてえのに手伝わされて、そんでもって造った酒は親父たちは飲んでるのに俺は飲めねぇしよ。しかも匂いを嗅いだら薬くせぇときたもんだ。なんでこんなもん造ってんのか全くわからなかったよ。極めつけは儲からねえ。何度か廃業しようかって親父たちが話してたよ。だからよ、俺は15の時に家を飛び出したんだ。」
なんと!そうだったのか。てっきりずっとここで働いてるかと。だが確かにこの仕事はなかなか子供には理解しがたいかもしれない。
「まあ、反抗心みたいなのもあったんだろう。俺はこんな田舎にいたくねえ!なんて馬鹿なこと言ってたしな。そうやって飛び出したはいいが当てもない俺はまあ、いろんな国を転々としながら仲間と旅みたいなことをしてたんだよ。
そんな旅にも終わりが見え始めたころに、俺は酒場に行った。つっても、街に着くたびに酒場には行ってたんだがな。そん時によ、たまたま隣に座ったおっさんがウチの酒を注文したんだ。そんでそのウィスケを大事そうに味わうように飲むんだよ・・・。おっさんにその酒好きなのかと聞くとな、いい笑顔で好きな理由を語りだすんだよ。自分の親父と爺さんが造った酒を、こんな遠い国の人間が好きでいてくれている。俺はガツンと頭を殴られた気がしたね。
それで俺は初めてウチの酒を飲んでみたのさ。するとな、あんなに嫌いだった薬の匂いが嫌じゃなくなっててよ。その匂いの奥にある香りにも気づけたんだ。それは、俺の生まれた島の匂いだった。その一杯に俺の故郷が詰まっていやがった。いや、俺の知らない島の良さも封じ込められていた。
こんなすげえものを親父たちは造ってたのか、俺は何にもわかってなかったって思うと悔しいことにスルスルと涙が出てきやがってよ・・・。俺もこんなすげえウィスケを造りてえって思っちまってな。そんで旅が一段落したとこで、一緒に旅してた嫁さんを誘ってこの島に戻ってきたってことだ。」
少し昔を恥じらうかのように彼は話してくれた。奥さんは横で優しく微笑んでいる。
そう、彼は出会ったのだ。自分の人生を変える一杯に。奇しくもそれは自分が捨てたはずの実家の酒だった。
「かー、こっ恥ずかしいな!ダメだ、こんな話、素面でするもんじゃねえな!おい、一杯やるぞっ!」
どうやら彼は照れ屋なようだ。だがウィスケを出してくれるというなら私も断る理由などない。
コップと共に彼が持ってきたのはもちろんラガーベッグの詰まった無色魔法石。だが私の見たことのあるラガーベッグのラベルの貼られた縦型の魔法石ではなく、何もラベルの貼られていないものだった。
「こいつはな、ウチの中でも一番ぐらいに古いウィスケだ。まあ、なんつーか俺が生まれた年に親父が仕込んでくれたやつでな。40年になる。一般には売りに出してないんだよ。恥ずかしいがまあ、親父の想いみたいなもんだしな。」
私はビックリした。そんな貴重なものをいただいていいのだろうか。40年物などいくらの値が付くかわからない。おそらくこれからの人生でもう口にすることなどできないだろう。
「今回は特別だぜ?あんたは本当にウチの酒好きみたいだからな。」
ニヤリと笑って魔石からコップへと注いでくれた。
そのウィスケはキレイな琥珀色をしている。だがその琥珀色が光に当たるとなぜだか淡いグリーンを帯びる瞬間があってとても美しい。
コップに鼻を近づけるとやはりラガーベッグらしい香りが鼻を刺激する。しかし長い間貯蔵されていたからか、少し埃っぽいようなくすんだ香りもした。
一説にはウィスケを美味しいまま貯蔵できるのは40年が限界だという。大丈夫だと思うが・・・もし劣化して美味しくなかったりしたら私は何と言えばいいのか。
多少の心配を抱きながら、ストレートのまま口をつける。そして私は自分の心配が全くの杞憂であることを悟った。年数を経て、原酒なのにキツイさが無く驚くほど滑らかな口当りでスルリと入ってくる。そして口の中で香りが花開いた。薬のような癖になる香りと煙のようなスモーキィーさが円く調和している。そのあと塩気を伴ってこのライラ島の風が私を包み込む。その風に柑橘類や可憐な草花が揺れて甘さを加えている。
柔らかな味わいはうっとりするほどで、どっしりとした重さを持ちながらも年数のお蔭か、それがいやらしくなく舌の上で軽やかに転がっていく。香ばしい苦みとバニラのような甘さがあり微かな塩気がそれらを引きしめている。
と思ってみたものの、正直言ってダメだ、私にはこの酒を表現するだけの力がない。物書きなのになんて情けないことだ。
美味い・・・そう、感動的に美味いのだ。どれほど言葉を尽くしても円熟の極みに達した奇跡のようなこのウィスケを表現など、私の貧困な語彙ではできそうもない。
「どうだ?美味いだろ?」
自慢気に聞いてくる彼に私は当然はいと返事をした。
そうだ、私が知ったかぶりをしてこのウィスケを語るなどおこがましいことなのだ。この酒は彼と彼の家族の歴史と、このライラ島の歴史が詰まっている。それを一言で表現などできるはずもない。
私はとても素晴らしい時間を飲んでいる。なんて幸福なことだろう。
勿体無いのでちびりちびりと飲み進めながら、ふと家を出ている間の旅とは何か目的でもあったのかと聞いてみた。
彼はすでに少し気持ちよくなっているようで、顔が赤くなっている。
「ああん?ああー、目的?そりゃ、あれだ。そん時のリーダーが勇者やってたから、魔王の討伐だよ。」
なんでもないことのようにそんなことを告げた。
はて?聞き間違いだっただろうか?
「だーかーらー、勇者と一緒に魔王倒しに行ってたんだってのっ!たまたま誘われてついて行ったら、僕は勇者で一緒に旅しよう、なんて言いやがるから最初は頭おかしいと思ったぜっ。ま、何だかんだと5年くらい旅してたな。今となっては楽しい思い出だな。」
・・・・どうやら聞き間違いではなかったようだ。
そうだ、ラディ・ハーブンという名に聞き覚えがあるはずだ。魔王を討伐した英雄の一人、剛腕烈火のラディ・ハーブン。子供の絵本にも出てくる英雄じゃないか。気づかないなんて私は馬鹿かっ!
思わず握手してください、なんて言ってしまった。しょうがない、勇者かラディか、男の子はどちらかに憧れるのだから。
ということは奥さんは・・・?
「ははは!まあこいつも有名なのかもなっ!こいつはレイン、俺と一緒になる前はレイン・テイラーって名前だったな。」
千言無限のレイン・テイラー。こちらもやはり英雄のお一人だった・・・。もう言葉もなく驚いていると、レインさんは先ほどと変わらずにっこりと微笑んでいた。
「ま、もう何十年も前の話だ。今の俺はウィスケ造りのラディ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ美味いウィスケを造る。そしてそれを次の世代に残す。それが全てだ。」
間違いなくこの言葉が今のラディさんの想いなんだろう。酔ってはいるが真っ直ぐな眼差しが私に伝えてくれた。
こうして驚きの事実を含んだ私の旅は終わった。実に素晴らしい経験をさせてもらった。
酒とは不思議なものだ。人に寄り添い、人を癒し、生き方すら変える。
あなたもそんな一杯について考えてみるのはいかがだろう?
もし思い当たらないのなら、美しいライラ島に行ってみるのもいいかもしれない。美しい自然と変わらず歴史を刻む町、そして豪快に笑う頑固オヤジに会えるだろう。しかし、英雄に会うつもりで行くのならお勧めしない。
なぜなら、彼はウィスケ職人だからだ。祖父と父の想いを継いだライラ島の男なのだ。その彼に会いに行くのなら歓迎してもらえるかもしれない。気分が乗れば昔話をしてくれるだろう。元・英雄の冒険譚を。
ヘイグ・ウィンチェスター 』
「ふむ・・・。」
じっくりと読み終えた男は丁寧に新聞を畳んだ後、おもむろに立ち上がり引き出しの奥に隠してある外套に手をかけた。それに腕を通すと、真っ直ぐドアへと向かう。
男がドアノブに手をかけようとしたところで、反対側からドアが引かれ開けられた。
「やっぱり・・・・。私の予想した通りだったわ・・・・!」
「な、なんで、ここにおるんじゃっ!今の時間は娘と過ごしておるはずじゃろうっ!?」
「はあ・・・・。あなたがまた新聞に影響されて、政務を放って遊びに行くだろうと思ったから急遽こうして来てさしあげたのです。」
「な、ななな、なんのことじゃ!?儂はちょ、ちょっと厠に行こうとしただけじゃ!」
「・・・・外套を着てですか?」
「うぐっ!?こ、これは・・・!」
「はいはい、言い訳はいいですから。あなたは王なんですから。今日も仕事がいっぱいですよ。」
そう言うが早いかガシッと王様の襟首をつかみ、王妃のどこにそんな力があるのかズルズルと引きずって仕事へと向かわせる。
「待ってっ、待ってくれっ。ライラ島がっ、英雄と、言葉にできぬほどの酒が儂を待っておるのじゃ!ゆかねばっ、儂はぁぁぁぁぁ!」
「あまりみっともない姿を見せないでください。ほら、ご自分で歩いてっ。」
「そ、それなら離してくれぇぇぇぇぇ!!」
これがコラムが載せられた日のいつもの光景。
・・・・ちなみに王都のほとんどの家でこれと同じことが起こって、男たちは悲しき魂の叫びをいたるところで響かせているのである。
気づいたら登場人物オジサンだらけ・・・・(笑)
読んでくださってありがとうございます。設定等甘いところは、どうかご勘弁を。皆さんの息抜きなどに役立てたなら何よりです。
最後までありがとうございました。