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『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル  作者: ヒラガナ
三章 黒一点偶像と少年少女のお見合い性愛闘争
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真実の依頼

「……今、なんて言いました? 俺はあなた達を励ますように言われて来ました。それがどうして……」


「すみません、そう言わないと南無瀬さんがタクマさんに仲介してくれないと思ったんです。ボクらがタクマさんにお願いしたいのは、励ますとか曖昧なものじゃありません」


ここに陽南子さんはいない。俺と男子たちを引き合わせた後「あとは男だけで話したいので」と、やんわりトム君から退去するよう言われたからだ。

周りに女性がいなくなってトム君が明かした真実の依頼に、俺は混乱した。


「俺に、倒せ、って言うんですか?」


「はい、是非に! ボクたちの未来が掛かっているんです。どうか、どうか――」


彼は振り絞るように告げた。


「――天道紅華を倒してください」

「ちょ! ちょっと待ってください! 順を追って教えてくださいよ。どうして天道紅華さんが出てくるんですか?」

「ご、ごめんなさい! 気が急いでしまって。そうですね、せ、説明を」


トム君は陽南子さんが評したように小太りな子だった。

それが顔を赤くしているのだから、どこぞのキラキラネームをしたジャイアン支部長の最期を思い出してしまう。

うん、あんな末路にならないよう気を抑えよう、トム君。


「ははは。悪いっすねぇ、こいつったらタクマさんの大ファンでね、いっつもテレビやパソコンでタクマさんを観ているんですよ。だから興奮しちまって」

前髪がやたら尖がった男子がコップに水を汲んで持ってきた。

「ほら、これを飲んで落ち着けよ、リーダー」

「あ、ありがとう、スネ川君」


スネ川という男子からコップを受け取り、ごくごくと一気飲みするトム君。

一つ一つの仕草に愛嬌が溢れている。また、真ん丸なのは頬だけでなく目や鼻もで、愛らしさを放っていた。

一部の女性から『こぶたちゃん』と称賛され、襲われてしまうのではと心配になるほどだ。


だが、気になる。

陽南子さんはトム君をおっさんに似ていると言った。

おっさんはどちらかと言えば、ひょろっとしたタイプだ、トム君とは正反対である。

どこが似ているんだ?



「コンテストがあるんですよ」

口調を正して、トム君は言った。


「コンテスト? 何のですか?」

「交流する少女を選ぶためのコンテストです」

「交流?」

「はい、この施設の名称をタクマさんはご存知ですか?」

「たしか『東山院市少年少女交流センター』でしたっけ」

「その通りです。ですが、今ここにはボクら少年しかいません。少女と交流していません」


そこまで言われれば、コンテストの意味が見えてくる。


「つまり、コンテストの目的は、ここであなたたちと共同生活する少女を選定するため……と」

「そういうことっすよ。仲人なこうど組織はロクなことを思いつかねぇ、あいつらの言葉で言うならここを『少年少女の愛の巣』にするってところです、オレらが卒業するまで」


これほど『愛の巣』という言葉が恐ろしく聞こえる日が来ると思わなかった。

若い男女が一つ屋根の下、だとっ……日本なら少年たちが胸を踊らせるToLoveる展開待ったなしだが、ここは女性の性欲が物凄く強い不知火群島国だ。

少年誌の枠で収まらないノクターンな事件が続発するぞ、いいのか!


「きっと結婚しないボクらに業を煮やして打ってきた手なんですよ……た、タクマさん! このままじゃボクら食べられちゃいます。それを既成事実に結婚までもっていかれます!」


お、おう……他人事ながら壮絶過ぎて何と言えばいいやら。


「ですからお願いします! コンテストに出て優勝してください!」

必死なトム君に、


「助けてください!」

「まだ逝きたくない!」

「お前のことが好きだったんだよ! って襲ってくるんです、危ないんです!」

「暴れんなよ、って組み敷かれたらおしまいです!」

「オォン!アォン!」


周りの男子たちも追従する。みんな形相が大変なことになっている。生きるか死ぬかを賭けているようだ。


「ま、待ってください。とりあえず、コンテストの詳細について教えてください」

と、興奮する少年たちから聞き出したコンテストの情報はこんな感じになる。



・コンテストの日は三日後。

・コンテストの題材は、歌、踊り、演劇など舞台上で行うものとする。

・各チームの持ち時間は十五分。延びると減点となる。

・チームのメンバーは、未婚男子の数を考慮して三十人~四十人とする。また、三年の未婚女性で構成すること。

・メンバーは同じ学校から選ぶ必要はない、組み合わせは自由。

・助っ人を呼んでもいいが、一人までとする。


「助っ人は一人まで……変なルールですね」

俺の疑問にトム君が答える。

「コンテストに出る女子たちには、たくさんの能力が求められます。助っ人を呼ぶというのは人脈がモノをいい、それがあるということは優秀な女性の証明になるんですよ」


なるほど、単純な努力を競うものよりずっとシビアなコンテストみたいだな。


「でも、不味くないですか? これ、明らかに男子が出場したらダメなコンテストじゃあ?」

「そんなことはないっすよ。コンテストの参加資格なんですけど、『お見合い指定校に限る』ってパンフレットに書いてあったんです」

「お見合いする高校、それってボクらも当てはまりますよね」


えぇ……屁理屈じゃん、それ。


「優勝チームが男子と同棲……なら、オレらが優勝してしまえば、女子と一緒に住まなくて良いってことっすよ」


「事前に参加登録しようとすれば、仲人組織に弾かれてしまうでしょう。ですからタクマさん! 飛び入りで参加して、審査員の心をガッチリ掴んでください!」


トム君ったら大人しそうに見えてかなり無茶振りしてくるぞ。

ただの子豚じゃねえ、レンガの家を作る厄介な子豚だ。



「……あ~、ということは天道紅華さんを倒せというのは……」

「トムが入手した情報によれば、あるチームが助っ人として天道紅華を連れてきたらしいんっすよ。あの人気アイドルに太刀打ちできるのはタクマさんしかいねぇ」


そういうことか……今日、抱いたいつくかの謎が解けていく気がする。


「ちなみにコンテストの会場って?」

お見合い会場(コロシアム)っすよ! 乗り込みましょうぜ、タクマさん!」


天道紅華さんがなぜコロシアムにいたのか……あれはコンテストのための下見だったわけだ。


「タクマさん、一生のお願いです、どうかボクらを救ってください!」

トム君が頭を下げると、


「お願いします!」

「何でもしますから!」

「男を見せてください!」

「あなたこそ僕たちにとっての光だ!」

「タクマのアニキ! 略してタニキ!」


波のように男子たちが頭を垂れていく。


ぐぬぅ、ここまで懇願されると断りづらい。


だが、本当に良いのか?

お見合い指定校ならコンテストに出場出来る、だから男子が参加しても問題ない……もし、こんな屁理屈が認められたとしてもだ……コンテストで男子が優勝なんて可能なのか?

俺が天道紅華さんを倒せるかどうとかそういう次元のことじゃない……果たして、男子の優勝を周囲が許すかどうかの話だ。



男子が勝ってしまうと、優勝チームが交流センターで男子と同棲――からの既成事実作成――からの強制結婚というウルトラコンボが決められなくなる。

コンテストを主催した意味がない。そんな事態を仲人組織が黙っているとは思えないぞ。


「タクマさん、並びに男子のみなさん、優勝おめでとうございます! それはそれとして、みなさんには二位の女子チームと同棲してもらうのでよろしくお願いしますね」


なんて言われるのがオチだ。


ちょっと考えただけでも、男子たちの計画の無謀さが露わになる。


しかし、「無理」の一言で突っぱねると、男子たちの貞操に明日はない。それはあまりに可哀想だ。


……どうする、どうするよ俺。


男子のこと、コンテストのこと、仲人組織のこと、お見合い指定校の女子のこと、そして天道紅華さんのこと。


多くの事柄がこんがらがり、俺は協力か拒否かの返答をすぐには出来なかった。

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