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『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル  作者: ヒラガナ
二章 南の島の黒一点アイドル
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孤高少女愚連隊、再び

孤高少女愚連隊。

俺が不知火群島国に迷い込んだ夜に襲いかかってきた少女たちだ。


あの騒動の後、警察に捕まったらしいが、以降どうなったかは聞いていなかった。


「人の旦那に手を出そうとしたからな、あたいの方で説教してから未成年更正プログラムを受けさせることにしたのさ」


知ればタマヒュンな『説教』には触れないようにしつつ「未成年更正プログラム?」とそっち側だけ妙子さんに尋ねる。


「うちの領では重大犯罪を除く未成年犯罪者に対して、更正プログラムをやっている。簡単に説明すれば更正カリキュラムに沿って、昼は市内で奉仕活動、夜は施設で倫理・道徳教育をするのさ。定められた期限までは帰宅は許されず、施設で集団生活をして根性を叩き直す。途中、逃げ出した奴はあたいら南無瀬組がとっ捕まえて……まあ、アレやコレやするわけだよ」


「アレやコレや……」


「そのプログラムにワタクシたち南無瀬漁業組合は奉仕活動先として参加しているんです。愚連隊のみなさんには、船の掃除や荷の運搬を手伝ってもらって大変助けられています。やはり若い力は頼もしいですね」


ムキムキのサザ子さんが言うと、若い力 (笑)に聞こえてしまうが、どうやら孤高愚連隊の少女たちは真面目にやっているようだ。


「悪名高い孤高少女愚連隊の奉仕活動先を決めるのには難航してな。サザ子が協力してくれなかったらあたいの仕事に支障をきたすところだったぜ」


「ふふふ、悪名高いだなんて……ワタクシも始めは警戒しましたが、こちらの言うことは素直に聞きますし、みんな良い子ですよ」


「フグ野はんからしたら可愛い子どもかもしれへんけど。もしCM撮影をするにしても、その子たちと拓馬はんは絶対に接触させへんからな」


「真矢の言うとおりだ。三池君にとっては自分を襲った相手……今でも恐怖の対象じゃないのか?」


心配そうに俺を見る南無瀬の名字を持つ二人。


恐怖の対象ねぇ……

あの夜の俺からすれば、あなたたち南無瀬組の方がずっと怖かったですよ、という本音を心の奥にしまう。


不知火群島国のことを何も知らない俺にとっては、アマチュアな孤高少女愚連隊よりプロマフィアな南無瀬組の方が「やべぇよ、やべぇよ」だった。

黒塗りの車に乗せられて南無瀬邸にドナドナされた時なんか胃が破裂するかと思ったぞ。


「俺は大丈夫ですよ。孤高少女愚連隊へのトラウマはありません。むしろ、彼女たちのような男に飢えた人を癒すことこそ俺の活動の本分ですからね。仮に会ったとしてもアイドルらしく笑顔で応対してみせます」


こちとら毎日魔王城で寝泊まりしているような身だ。今更町のチンピラにビビるものか。


「た、拓馬はん。天使なのも大概にせんとパックンチョやで」

と、注意を口にしながら感激したのか目頭を抑える真矢さん。


「タクマさんは本当に寛大な方ですね」


「まったく大した男だよ」


みんなから賞賛を浴びて背中がかゆくなる。

こういう空気は嫌いじゃないが、南無瀬組と比較した結果恐怖を感じませんでした、という真相があって少し気まずい。ので――


「この仕事、俺は受けようと思います。いいですか、真矢さん?」


さっさとお仕事の話に戻ろう。


「うちらの活動は拓馬はんの意志が最重要決定材料や。拓馬はんがやると言うたら、とことんサポートするで」


「ありがとうございます! 俺、頑張ります!」


「タクマさん、それに南無瀬組の方々にはいくら感謝しても足りません」

サザ子さんは何度も頭を下げてから「では、一度ワタクシ共の組合事務所と、撮影場所に予定している漁港へお越しいただきたく思います。日取りはそちらのご都合にあわせます」


それから俺たちは、南無瀬漁業組合訪問について具体的な話し合いをした。


この場で詰められる議題は限られているので、三十分ほどで会談は終了。

漁業組合代表として多忙なのであろうサザ子さんは、世間話をしながら茶菓子を摘むこともせず帰途につこうとする。


「では、ご来訪を組員一同楽しみにお待ちしています。あ……孤高少女愚連隊の件ですが、来訪の間、あの子たちには別の場所で仕事をしてもらいます。タクマさんは気にしていないかもしれませんが、やはり何か問題があると困りますから」


「三池君に近づくせっかくのチャンスを愚連隊の連中が見逃すかねぇ。いくらサザ子でも、あいつらを大人しくどこかへ押し込むなんて出来るのか?」


「問題ないよ、妙ちゃん。ヤンチャしたら『もう、メッ!』って叱るから。このくらいお魚くわえたドラ○を追いかけるより簡単だよ」


去り際に危険な例えをねじ込むのは止めろぉ!




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




数日後。

俺は真矢さんとダンゴ二人、それに黒服さんたちを連れて南無瀬漁業組合の事務所を訪ねた。


事務所は南無瀬領最大の漁港である『南無瀬漁港』の近くに建てられており、海が目と鼻の先だ。

思えば不知火群島国に来てから海を見るのは初めてだな。

異世界でも海は青く、水平線の彼方まで広い。


事務所は三階建ての箱型だった。

漁業が有名だけあってかちょっとした工場のように大きい。しかし、潮風に晒されているためか、壁面には黒ずんだ箇所がいくつも見受けられる。

この建物が出来てからの年月と、その間リフォームがなかったことに現在の南無瀬領の漁業事情を感じるものがあった。



「お待ちしておりました、タクマさんと南無瀬組の皆さん」


サザ子さんを始め、漁業組合の人々が入口まで出てきて歓迎してくれる。


「こんにちは、今日はよろしくお願いします!」


俺が挨拶すると。

「きゃあ! なまタクマ君のなま挨拶よ!」

サザ子さんの後ろにいる組合の人さんたちが騒がしくなった。

あんまり生生なまなま連呼しないで欲しいなぁ。


「立ち話もなんですから、どうぞ事務所へ」


先導するサザ子さんに従って、事務所へ入ろうとする。


「きゃあ! なまタクマ君がなまで中へ入っていくわ!」


だからなまを付けんなって! 変な意味に聞こえちまうだろ!




――と、その時。

建物の陰から複数の人物が現れ、俺の方へ向かってきた。


即座に反応した音無さんと椿さんが俺を守るように立つ。

続いて黒服さんたちも俺を囲うように位置につく。


「なんや、あんたら!」


真矢さんが怒鳴ると、人物たちの足は止まった。


「あ、怪しいものじゃねえ……です。あちきらはタクマさんとちょっと話をしたいだけで」


乱入者は数人の少女たちだった。


ん……先頭に立つ子の顔には見覚えがある。

前はボサボサのロングヘアーに長いスカートのスケバンみたいな格好をしていたが、今は髪をバッサリ切ってジャージに長靴という出で立ちだ。

大きく姿は変化しているが、整った顔の中で「舐めんじゃねえ!」と反骨心旺盛な瞳が印象的で記憶に残っている。


「あなたたち孤高少女愚連隊。また三池氏を襲いに来た?」


「性懲りもなくよくも! あたしにキャメられたい人から前に出なさい!」


「うげぇぁ!? サイレントマーダーにキャメルクラッチ女!? なんでここにぃ!」


椿さんと音無さんの威圧にガクブルになる少女たち。加えて――


「こらっ。あなたたちには仕事を振ったはずじゃない。ここに来ないようにも言ったのに、どうしてワタクシとの約束を破ったの?」


たくましいマッチョも少女たちへ矛を向けた。

ドシドシと少女たちの前まで行って。


「もう、ッ!」と叱る。


直接的な暴力はないものの、あんなに筋肉をピクピクしながら間近で仁王立ち。

これはたまらない、元スケバンは気丈に振るまっているが、残りの少女たちは顔をどんどん青くする。


やっぱりアマチュアよりプロだな。

南無瀬市でブイブイ言わせた孤高少女愚連隊が、肉食獣の群れ包囲された草食動物みたいに震える光景を目の当たりにして……俺は何がより恐ろしいのかを噛みしめるのだった。

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