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『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル  作者: ヒラガナ
四章 深愛なるあなたへ、正念場の黒一点アイドル
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晩餐会

「皆様、数日に及ぶご視察お疲れ様でした。ささやかではありますが、歓談の席を設けさせて頂きました」


檀上から広いパーティー会場を見渡す。

海外からやってきた世界文化大祭の実行委員の方々が正装してテーブルの横に立っている。彼女らは不知火群島国に来て以来、コンサート会場やホール、博物館を渡り歩いて、隅々をチェックしてきた人たちだ。その労いとゴマすりのために、この晩餐会は開かれている。


「本日は疲れを癒し、ごるりとお楽しみください。それでは長話も何ですから、飲み物をご用意を――」


まだ、誰もアルコールに口を付けていないのに、顔の赤い人はチラホラと。どれも実行委員として海外からいらっしゃった方々だ。


「外国人にとっては、三池さんとの初接触。第一段階として赤面するのは正しい手順ですね」

「これだから素人は困る」


晩餐会前のダンゴたちの呟きを思い出しつつ、俺はグラスを掲げた。


「乾杯!」


「「「乾杯!」」」


本来、乾杯の音頭は祈里さんの役目だったのだが。当の本人は未だ病院のベッドの上で、他人様にお見せ出来ない顔で眠っているらしい。


そんなわけで、祈里さんの代役を買って出た俺である。晩餐会の切り札だった人を再起不能にしておいて、自分は知らぬ存ぜぬでは良心の呵責かしゃくに耐えられないからな。


「お、あれは――」


乾杯の壇上から降りて南無瀬組と合流しようとしていると、不知火群島国きっての男役・兵庫ジュンヌさんを見つけた。彼女も晩餐会の賑やかしとして、呼ばれたクチである。

スレンダーな肢体をタキシードに包み、男装している。日本の女性なら黄色い悲鳴の一つは上げる似合いっぷりだ。


「こんばんは、ジュンヌさん」


「げっ」


げっ?

一瞬、ジュンヌさんがヅカらしからぬ崩れた表情でこちらを見た。


「いよいよ始まりましたね。お互い、ゲストの皆さんが満足するよう頑張りましょう!」


「あ、ああ、そうですね。じゃ、自分はあっちで用事がありますから」

一刻も早く会話を切り上げたい。ジュンヌさんの意思がありありと伝わってくる。


気づかないうちに俺、彼女に悪いことをしたかな?


タクマ初出演ドラマの撮影直前まで俺たちは良いライバル関係を築きかけていた。

このまま切磋琢磨して、実力を高め合うのを期待していたのに――あれ以来、ジュンヌさんは俺を避けまくっている。


晩餐会前の顔合わせでも、こちらの半径二メートル以内には決して立ち入らず、最低限の挨拶だけして離れて行ったし。


どういうことだ? 男役として、本物の男である俺と馴れ合うつもりはない! という決意表明だろうか?


「なんでタクマ君がいるのさ。こんな事ならオファーを断ったのに……ブツブツ……」


「えっ? なにか言いました? 小声で聞こえないんですが」


俺は一歩、彼女に近付いた。


「ひっ!? こ、来ないでくれ。お、女になりゅ!」


「はっ?」


ジュンヌさんは背中を晒してバタバタと逃げるように去って行った。あんだけ凜々しかった彼女が、一体どうしちまったんだ?


「兵庫ジュンヌ、色を知る年齢としか」

「ああいうチキンな輩ばかりなら、あたしたちも安心出来るんですけどね」


俺を警護するダンゴたちが、全てお見通しの様子でヤレヤレと首を振っている。


「まあ、それはともかく。そろそろお客はんたちが強襲してくるで。各自陣形を組んで拓馬はんを守るんや」


真矢さんが指揮を執り出した。

おっと、ジュンヌさんのことは置いておいて、今は晩餐会に集中しよう。招致チームの足を引っ張った手前、これ以上お荷物になるわけにはいかない。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




当初、壁の華として観賞用になる予定だった俺。

だが、パンツショックによって祈里さんという華を枯らした今、ただ立ちっぱなしでいるのは怠慢である。


会場の四分の一を使って、俺と会話する特設ブースが作られた。

ゲストたちが殺到しないよう整理券があらかじめ配られ、問題が起こらないよう南無瀬組の怖いお姉さんらが目を光らせている。


「お初にお目にかかります。タクマさんのご活躍は、海を越えて私の国まで届いていますよ」


「ありがとうございます、恐縮です」


「海外展開は考えておられないのですか? 来て頂けるのでしたら、全身全霊をもっての歓待を――」


「すみません。海外展開は白紙でして……まだ、若輩の身として国内で手一杯なのです」


喜び勇んでやってくる世界文化祭実行委員の方々を失礼のないよう相手をしていく。

いい歳した大人の女性がメスの顔して近付いてくるのだ、それを嫌な顔一つせずにさばくのは多大な精神力が必要だった。


しかし、へこたれるわけにはいかない。頑張るんだ、俺。祈里さんをマイパンツで葬ってしまったマイナス分を取り返すのだ。


視線を会場の反対側に移すと――


「わぁ、あの映画を観てくれたんですか~。えへへ、恥ずかしいなぁ。でも、一生懸命演じましたから、観てくれて感激ですぅ~。トゥットルゥ~」


ジュンヌさんが創作世界の男キャラになって、ゲストを歓迎している。

不思議な語尾や不快に思われない程度のボディタッチが、実行委員さんの頬を緩ませていく。

見た目がヅカなのに、挙動は萌えキャラで違和感が天元突破である。が、これがこの世界の需要だとするのなら、それを体現するジュンヌさんは偉大と言えるだろう。


さすがにアレを真似することは出来ないが、お客様を全力で喜ばせようとする心意気は見習わなければ。




笑顔を振りまきつつ、攻めてくる肉食実行委員たちを適切にかわしたところで小休止。だいたいゲストの半分とは会話したな、折り返し地点か。


「ふぅ、思ったより秩序があって助かります。さすがに重要なポストに就く方々、人間が出来ていますね」


「出来た人間ならば、三池氏を見て生唾を何度も飲み込んだりはしない。単に南無瀬組の目を警戒して強行に出られないと思われる」


そうなの? あっさり希望的観測を否定されて俺は凹んだ。

椿さんの言葉通り、殺気プンプンの893的お姉さんに囲まれた中で俺へセクハラを働くのはよっぽどの馬鹿だけだろう。南無瀬組は本気だ。たとえ相手が一国の主だろうと、俺に手を出そうものなら瞬時にヤキを入れるに違いない。


「それだけじゃないですよ。これまで喋った人々の出身国は比較的に男性人権が認められています。だから割りと淑女なんです」


何気ない音無さんの発言だが……それはつまり、実行委員のプロフィールを事前に入手し、警戒すべき相手がいないか調べたのだろう。

音無さんの努力に感謝しつつ、それを誇らない彼女のポリシーを尊重して、俺はそのまま会話を続ける。


「男性の人権がちゃんとしている国では、男性はどう扱われているんですか?」


真矢さんが答える。


「まず、ダンゴ制度がしっかりしとる。男性護衛官を実力でクラス分けして緊急性の高い男性の下へ順に配属するようにな。他にも男性保護区を設定して男性が気軽に外を歩けるようにしたり、って工夫しとんねん。そないな国と比べれば不知火群島国はまだまだ発展途上やね。うちらもさらに精進せんと」


へぇ、気軽に外を歩けるのはいいな。

俺も『はじめてのがいしゅつ』とかしたい、切実にしたい。

しかし、それが無謀な願いであることは明白だ。


一説には、不知火群島国の中心駅から半径二百メートルを男が一人で歩いた場合、強漢にあう確率は150%と言われている。一度襲われた後、また襲われる確率が50%という意味だ。まともじゃねぇ。


そんな不知火群島国が世界的に見ればまだマシと言う。これは笑うしかないね。



「拓馬はん、すまへんけどそろそろ休憩はしまいや。お客はんが今か今かと待っとる」


「了解です! 後半戦も気合を入れて行きますよ!」


元気に答える俺だが、一抹の不安を覚えていた。

先ほどまでの俺は、男性の人権が高い国の人たちを相手にしていた――らしい。あれで?

じゃあ、男性に厳しい国の人が、俺と相対したらどんなリアクションをするのだろうか?


穏便に済めばいいな~、と思わずにはいられない。


が、今まで穏便を願って穏便に終わった事のない事実が、俺の不安をグイグイと後押しするのであった。


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