表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル  作者: ヒラガナ
3.5章 せいなる夜の黒一点アイドル
155/343

創生合体のツケ

説明パートは難産になりがち。遅くなってすみません!

思えば、最近の南無瀬邸はピリピリした雰囲気だった。


組長の妙子さんを筆頭に、組員さんたちの表情は堅く、まるで迫り来る大問題を前に気分を引き締めている――そんな感じだった。


人々の口から漏れる『せいなる夜』に原因があるのか……

南無瀬テレビのニュース番組では「『せいなる夜』まで後数日。視聴者の皆さん、どうか冷静に当夜を迎えてください」とだけキャスターが言っており、その意味は分からなかった。


ここは地球じゃないのだから聖なる日、クリスマスがあるとは思えない。

なら『せいなる夜』とはなんだ……好奇心に突き動かされた俺は、『これはスルー案件ですわ』と警告を発する第六感をまあまあと抑え、廊下で思い詰めた表情をする真矢さんに話しかけた。


場所を真矢さんの部屋に移し、

「『せいなる夜』ちゅうのは――」伝説が語られ始める。




不知火群島国が誕生した頃の話だ。

建国の母であり、初代中御門領主の由乃ゆの様と。

夫であり、まだマサオ教を創設する前のマサオ様は連れだって島巡りをしていた。


新婚旅行を兼ねて、自治を開始したばかりの各島の様子を見るのが目的だったらしい。


今でこそ中御門なかみかど南無瀬みななせ東山院とうざんいん西日野にしびの北大路きたおおじの島々は対等な関係を築いているが、建国当初は中御門一強であった。


理由は明白。

東西南北の領主たちは、由乃様の部下であり、命令で各島を治めることになったからである。主君には頭が上がらない。


平等となった現代においても、南無瀬領主の妙子さんが中御門領主の由良ゆら様を敬愛しているのは、伝統に則っているためだろう――と真矢さんは言い、本題へと舵を切り出した。


マサオ様と由乃様による南無瀬領の訪問。

時の南無瀬領主は、それはそれは手厚く歓迎したらしい。当時から南無瀬領は漁業が活発に行われ、歓待には大いに活用された。


「もてなしで出された料理に問題があったんや」


南無瀬の海では、ある特殊な貝が穫られる。

亜鉛が豊富に含まれるソレを食べると……とてもムラムラするらしい。

日本でも牡蠣カキが精力増強に効く、と言われているが、真矢さんの話を聞くに特殊貝の効能は牡蠣の遙か上を行っているようだ。


「今ではな、媚薬的効果の高さからその貝は無闇に購入出来へんよう規制されとる。五人の妻と一人の夫がいる家庭が貝を喰おうもんなら、どうなるかお察しやろ」


貴重な男性がベッドから旅立ってしまう光景を想像し、俺の股間はヒュンと縮こまった。


「せやけど、当時はまだ貝の危険性が詳しく知られておらんで、マサオ様と由乃様は貝を食してしもうた」


「二人はどうなっちゃったんですか?」


「由乃様は不知火群島国を建てるくらいの精力的なお方やった。貝が身体に合ったんやろな、もの凄く発情されたそうや。少し火照った顔のマサオ様の襟首を掴んで、用意された部屋にこもると、大音量でまぐわい出した――って当時の記録に残っとる」


発情してナニしていたのを克明に記され、数百年経った今でも語り継がれているのか……俺がマサオ様たちの子孫だったらグレるか引きこもるわ。


「深夜過ぎても変わらん由乃様の歓喜の声と、か細くなったマサオ様の声を聞いて、時の南無瀬領主は無礼承知で現場に踏み込んだ。そして、干からびていたマサオ様を救出し、由乃様を押さえつけたわけや。この死刑上等の英雄的行動がなければ、不知火群島国の歴史は開始早々で暗黒時代に突入したやろな」


中御門なかみかど由乃ゆの様か。由良ゆら様のご先祖とは思えない性豪っぷりだな。

良かった、現代の中御門領主が清楚で安全な由良様で。


「建国の母の生々しいエピソードは分かりましたけど、それが『せいなる夜』にどう繋がるんですか?」


「南無瀬領訪問から十ヶ月後、由乃様は第一子を出産なさったんや。日数からして、仕込んだのはあの盛り上がった夜に違いない――ちゅうことでな。年に一度、同じ日の夜に南無瀬領で男女がまぐわえば元気な子が出来る。そない言い伝えが生まれたってわけ」


「それが『せいなる夜』……」


「まっ、そのまんまやったら性的過ぎるんで、近年では『せいなる夜』に男女が愛しあえばその仲は一層深まる、とマイルドに変換されとる」


ふぅむ、起源はこの世界らしいロクでもない出来事だったみたいだけど、そう悪いイベントでもない、と思うのだが。


「で、拓馬はん……ほんま申し訳ないことなんやけどな」

真矢さんが膝の上で握り拳を作り、肩をすくめた。

そして、非常に言いづらそうに。


「『せいなる夜』に、南無瀬領を離れて東山院に避難してほしいねん」


「…………はい?」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




ゴンゴンとで打撃音のようなノックがして、続けて「真矢、あたいだ。今日は忘れずノックしたぞ」と妙子さんの声が届く。


「ええタイミング」


真矢さんがドアを開けて、妙子さんを招き入れた。


「よぉ、三池君」

俺の存在に気付き、片手を上げて快活に挨拶してくる妙子さん。が、どことなく疲れが見え隠れしている。


「ちゃんと説明しているようだねぇ。どこまで話した?」

「『せいなる夜』の起こりが由乃様とマサオ様の創生合体ってこと、ほんで避難のお願いをしたところや」

「そうか……じゃ、後はあたいが」

「ちょい待ちぃ。これはうちの仕事、責任をもって喋るで」

「だったな、すまないね」


小声を交わす妙子さんと真矢さんの真剣さが、事態の重さを示している。

東山院に避難しろ、というのはお願いではなく要求に近そうだ。


妙子さんが座布団にドカッと座る。

俺が使っている高級椅子を明け渡そうとしたが。


「それは三池君専用だろ。あたいの匂いを付けたら真矢に怒られる」

「ちょ、妙子姉さんっ!」

「そうそう、押し殺した顔じゃあ三池君が不安になる。そのくらい表情を豊かにするんだねぇ」

「……っもう!」


聞き流す分には微笑ましい従妹間の会話が繰り広げられてから――


「『せいなる夜』の意味を知って、拓馬はんはなんて思うたん?」真矢さんが尋ねてきた。


「男女が愛しあって仲を深める夜、ですよね? ロマンチック……だと思います」


「ロマンチック? はは、せやなぁぁ。素敵な夜やろなぁぁ、男をゲットした『既婚者』やったらなぁぁ」


ヒエッ!? 『既婚者』ではない真矢さんの笑みが怖い。


「あの、『せいなる夜』は『未婚者』にとって」


「己の不出来と不遇を突きつけられる地獄の夜やで」


「うぐっ。もしかして、ヤケになった人たちが強漢事件とか起こしたり?」


「するで」


「OH……」


『せいなる夜』の元の意味は、男女がまぐわって子どもを作る夜。男女が夫婦でなければいけない、という決まりはなかった。

伝説にあやかりワンチャン狙いで男を襲う肉食女性が発生しても不思議じゃない。


「脅かしてすまへんな。確かに拓馬はんの言う通り強漢件数は増える」


うん? 引っかかる言い方だな。 


「南無瀬邸に乗り込んで拓馬はんを襲うアホはおらんと思うけど、タクマファンは常軌を逸しとるさかい。当日は『せいなる夜』が存在しない東山院に避難するのが得策やで」


「でも、南無瀬百貨店襲撃事件のショックでタクマは活動を休止したってことになっているじゃないですか。あれでファンの人たちは随分反省したと思います。これ以上、タクマを傷つけようとする人はいないんじゃ……」


「ファンを信頼する拓馬はんの気持ちは尊敬に値するで。せやけど、襲われる可能性がゼロやない限り、南無瀬邸の守りを厚くする必要がある。陽之介兄さんだけなら数人残していればええやろうけど、拓馬はん込みなら五倍増しや。それだけの人員をここに割かなけきゃあかんとなると、他の守りが薄くなる」


「っ!」

つまり俺が南無瀬領にいる限り、他の男性が襲われる危険性が上がるわけか。

つい先日、共に料理教室に参加した男性たちの顔が浮かぶ。俺のせいで彼らが被害を受けるのは絶対に避けたい。


けど、これじゃあタクマとしてデビューした意味がない。世間の不満を解消するために俺はアイドル活動を始めた。

襲う未婚女性や襲われる男性を見捨てて、安全な場所に避難するだなんて、これまでの頑張りを全否定するようなものだ。完全敗北を認めるようじゃないか!


「こうは出来ませんか!? タクマの映像を南無瀬テレビでずっと流すんですよ。今までの活動を編集したものを……いや、何なら新年を待たずに活動を再開して、新しく撮影した映像を放送しましょう、『せいなる夜』が終わるまで一晩中!」


そうすれば、未婚の人たちはテレビに釘付けになって、男性を襲いに外へ繰り出すことはないだろう。

咄嗟とっさに考えたにしてはナイスアイディアだ――そう思ったのに。


「さすがの行動力だねぇ。そこまでやってくれるなら例年より被害は減るだろうさ」

褒めているが、顔に陰りが残る妙子さんと。


「効果はあるやろうけど、やっぱ拓馬はんは避難した方がええ」

重苦しい顔の真矢さん。


なぜだ、どうしてそんな顔をするんだ。

俺のアイディアは及第点にも行ってないのか?


「お二人とも、ハッキリ教えてください! タクマの映像を流す。これじゃあ問題は解決しないんですか!」


「拓馬はん……」

余裕のない俺をなだめるように真矢さんは告げた。


「一定の効果はあるのは間違いない……けど、拓馬はんの考えやと『せいなる夜』が起こす最大の被害(・・・・・)を防ぎきれんのや」


「なっ? 男性が襲われる、それが最大の被害じゃ?」


「ちゃう。それも大変な問題やけど――」


「南無瀬組が出来て約百年。創設以来あたいらを悩ませ続ける『せいなる夜』の本質は別にあるんだよ。難儀極まりない本質がねぇ……」


――本質、だとっ。



建国の母と父がヤッた創生合体のツケは俺の想像を超えていた。

これを払うためにすべき手――それは、心身を極限まで追い込むアイドル活動であった。

活動報告で、書籍版のカラーイラストをちょこっと公開していますので、ぜひご覧ください。


次回は早めに投稿して、説明パートを抜け、バトルフェイズへと移行します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ