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遺言

あなたへ。


この遺言を見ている頃、

私はこの世にはいません。

なんて書き方に憧れていたので、

夢が叶いました。


あなたはこんな冗談、

嫌いでしょうか?


遺言書となると、

固くなりやすいので、

あなたに手紙を書きました。


でも、

いざ書き出すと、

恥ずかしいので、

安心院さんのお姉さんに渡しました。

私がいつ死ぬか解らないから、

確実にあなたに渡したかったの。

ごめんなさい。



そして、

あなたに渡してもらう本ですが、

おそらく私が最後に読むであろう小説です。

若い作者さんで、

デビュー作なのに、

本当に素晴らしい本なの。


まだ読み途中だから、

読み終わったら安心院さんに渡すつもりです。



最近の子が書いた小説と聞くと、

あなたは

「最近の若いものは」

と言うかもしれないけど、


「最近の若いもの」も、

捨てたものじゃないのよ?


そうそう、

家の近くに石橋があるでしょ?

そこでね、一人の男の子と出会ったの。


とても、絵の上手い子でね。

東京で画家さんを目指してたんですって。

でも、

地元の家族が事故で亡くなっちゃって・・・


それで、

石橋から飛び込もうとしてたの。


そしたら、

私、

「そんな高さで死ねるわけないでしょ!」

ってツッコミを入れちゃって。


そこからね、

仲良くなったの。

名前は裕司くん。

裕太と同じ字が入ってたのよ!



絵も見せてくれたわ。

とても綺麗な絵でね。

一目で気にいっちゃった。


きっとあなたも気に入ると思うわ。

あなたが絵を描くのが好きって言ったら、

ぜひ話してみたいって。

きっと気が合うわよ?あなたたち。


それにね、

裕太が生きてたら、

これくらいの子供がいたかもしれないでしょ?

なんだか孫みたいに思えちゃって。

だからね、

あなたにも会ってみてほしいの。


話がそれましたね。

でも、

あなたには色んな人と心を通わせて欲しいの。


私の唯一の心残りは、

私が死んだら、

あなたがきっと、

一人ぼっちになっちゃう事。


だから、

一生に一度のお願い。


色んな人と心を通わせて?

私を忘れちゃうくらいに。



そうそう、

覚えてる?

こっちに引っ越してきて、

初めていった唐揚げ屋さん。


何回か通ったわよね。

店主の人と、

奥さんのやり取りが

痴話喧嘩みたいで面白くて、

笑ってしまったわよね。


そこの息子さんがね、

店をだしたのよ?


しかも一番の有名店になっててね。

私も時々通ってたの。

買い物の帰りに100gだけ買ってね。


あなたはお惣菜とか買ってきたものが好きじゃないから、

話さなかったけれど。


ううん。


ほんとは知ってたのよ?

あなたが

私の料理食べたいから嘘をついてたこと。

本当は唐揚げ屋さんにも興味あったのにね。


でも、

「私の料理食べたい」

なんて、

妻冥利につきるじゃない。


だから、

言えなかったの。

頑固な貴方が嘘を突き通してるのに、

私だけ唐揚げ屋さんに行ってるなんてね。


でも、

これからは色々食べ歩きもしてみてね。

そこは、

気軽に100gから買えるから、

行ってみてほしいの。


そして、

彼のお父さんのお話もしてあげて?


彼も1年前にお父さんを亡くして、

つらい思いをしたから。

死んだ人にとって、

自分の話をしてくれるのは、

とても嬉しいはずだから。



そうそう、

食事にも気をつけてほしいの。

私が死んだら、

あなた、

納豆と卵しか食べない気でしょう?


「門前病院の結衣せんせいに、

食事のことも、

運動のことも相談してみるといい」

って、

安心院さんが言ってたわ。

安心院さんもよく健康教室に通ってたの。



そういえば、

結衣せんせいって、

裕太が六年生のとき、

一年生だったのよ?


後で気づいたんだけど、

通学するとき、

同じ班だったの。


裕太が

「結衣ちゃんが歩くの遅いから困る!」

って

よく言ってたわよね。


結衣せんせいには伝え損なっちゃった。


たけど、

裕太が関わった人がいるだけで、

こんなに素敵な気分になるのね。

あなたにもこんな気分を味わってほしいな。


あ、

そうそう、

裕司くんの絵をそこに飾ってもらうようになったの!

私が結衣せんせいにお願いしたんだけどね。


祐司くんは嫌がってたけど、

みんなに彼の絵を見て欲しいの。

もちろん、

あなたにも。


だから、

健康教室にも通ってみてね。

運動しなきゃだめよ?


絵の題名は、

「月の雨」って言うの。

結衣せんせいに伝えておいてね?

ほら、これで通わなきゃいけないでしょ?



最後に安心院さんという

最高のお友だちが出来てうれしかった。


安心院さんも子供さんがいらっしゃらないから、

みょうに心が通って。


そうそう、

安心院さんのお姉さん、

将棋うてるのよ?


あなたも、

一人で難しい顔して打たないで、

相手をしてもらったらいいわ。


そしたら、

私のことなんて忘れるでしょう?


私、

今の人生に

本当に後悔はないの。


太く、短く。

ぴんぴんコロリと死にたかったら

ちょうどいいの。



でもね、

本当は、

忘れてほしくない気持ちもあるの。

あなたが悲しんでくれるなら、

私は愛されてる

って感じちゃうの。


卑怯でしょう?私って。


でも、

もし、

私に会いたくなったら、

あの公園に来て欲しいの。


あなたと私と裕太と、

良く一緒にいった公園。


そこにいけば、

私がいるから。


お盆も関係なく、

私がいるわ。


だって、

あの公園は私が名付け親なのよ?


恥ずかしくて、

言えなかったけど、

市の事業か何かで

名付け親になれる権利が当たってね。


だから、あの公園、


「月見公園」は、


私の公園。



月見公園はね、

私の中で、

一番月が綺麗に見える場所なの。


覚えてる?


「月が綺麗ですね。」

って「アイラブユー」なんだよ。


ってあなたが

私に教えてくれた夜のこと。


初めてのデートで立ち寄った公園で教えてくれたのよね。

月見公園より、よっぽど小さいけれど。


でも、

月見公園はあなたと裕太との思い出が、

いっぱい詰まってるの。


3人で散歩したり、

お弁当を食べたり、

芝生に寝っ転がったり。

春にはお花見も

秋にはお月見もしたわよね。


だから、

あんなに

「アイラブユー」が似合う公園、

他にないと思うの。


あの場所で、

あなたに、

「月が綺麗だ」

と言ってほしいの。


だから、

私に会いたくなったら、

そこに来て。



私はきっと、

そこにいるから。


私の身体はなくても、

私の心が、

私の思いが、

きっと、その場所にあるから。


そして、

一緒に

また月を見ましょう。


出会った頃と同じ、

綺麗な月を、

同じ月を見ましょう。

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