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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION10: 善悪の彼岸より憎しみを込めて
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Intro 断罪の魔法少女

 これよりMISSION10です。

 よろしくお願い申し上げます。


『次のニュースです――』


 六畳一間に置かれた小さな液晶テレビを、その男は見ていた。

 時刻は午前0時を過ぎており、夜遅くまで働いた会社勤めの何割かがそうするように、彼も布団を敷いてそれをクッション代わりに座っている。


「最近多いなあ」


 他人事のように画面を眺めつつ、出来上がったカップラーメンをすすった。


『――また行方不明となった乗客は200人にものぼり、周辺の捜索は今夜にも進められるとの見解を発表して――』


 ――ブツン。


 テレビが突如として暗転する。

 このような事は今まで一度も無かった。

 全ての世帯が地上デジタル放送へと切り替えたこのご時世で、アンテナの調子が悪いなどという事は有り得ないだろう。


 リモコンのボタンは、押さなかった。

 何故なら慌ててリモコンを手に取った時には、既に画面が切り替わっていたからだ。


 砂嵐の画面に。



『みんな! お願いがあるの!』


 凛とした声音の、少女の声。

 男はそれに聞き覚えが無かった。


 だが、これに関連した奇妙な噂は耳にしている。

 近頃は某大手動画サイトに、刑事罰には問われなかったが道徳に反したとされる者らのプロフィールを乗せた動画が投稿されるという。


 最初の言葉も、噂と一致している。


「ま、まさか……」


 テレビの画面がまた、砂嵐から切り替わった。

 氏名はおろか住所や電話番号、はたまた容姿や家の外観までスライドショー方式で流され、少女の声でアナウンスされる。

 これも同じだ。


 テレビの前で青ざめる男の、その同僚は……噂の動画で罪状を明かされた。

 結果、全国の有志一同(・・・・)から集中砲火を受け、しまいには自殺してしまった。


 今までは動画サイトだけだったのに、とうとうテレビの電波を公然とジャックする暴挙に至るとは……。

 ちなみに媒体を問わずニュースにもなっていて、実家の父親からも「新聞に載っていた事件なんだが、お前は大丈夫か?」と訊かれたばかりだ。

 いや、まさか自分は襲われないだろう。


『続いては、この人。続ヶ丘之義(つづがおか ゆきよし)。東京都世田谷区――』


「え……?」


 男は、我が目と耳を疑った。

 そこには、自分の名前と詳細なプロフィールが流れていたのだ。

 自宅のアパートの画像も。


『家庭ごみを近所のコンビニに捨てて、中に入っていたゴミが原因で異臭騒ぎ。

 これが原因で、コンビニでは万引き犯を捕まえ損ねたの。一度だけでなく、何度も。

 万引き犯は許せないけど、それに加担するような事をするのも立派な罪だよ。

 罪の重さを解らせてあげなきゃ! みんな、寝る時に祈るだけでいい。力を、貸して欲しいの』


「違う、俺じゃない! やってない!」


 思わず、男は叫び出した。

 その瞬間、画面がまたしても変わる。


『違う、俺じゃない! やってない!』


「――ッ!」


 気が付けば、腰を上げていた。

 急いでパーカーを羽織り、フードを目深に被って夜の住宅街へと飛び出す。

 できるだけ遠くへ、誰の手も届かない場所へ行かねば。




「ひ、は、はぁ……!」


 続ヶ丘は、ひた走る。

 非通知の着信を告げたスマートフォンを放り投げ、流れ落ちる脂汗を拭いもせず。


「――ひっ、うわ!?」


 曲がり角で、何かにぶつかる。

 すっかり腰が抜けた続ヶ丘は、そのまま尻餅をついた。


「逃げても、無駄だよ」


 さっき聞いたばかりの声だ。

 街灯に照らされたその姿は……白地に青いアクセントの入った金髪の少女で、手には杖が握られていた。


 男は震えた。

 これでは、まるで……。


「な、なんなんだよ! 俺はやってない! この秘密警察気取りが!」


「秘密警察じゃないよ。魔法少女だよ」


「うるせえ! ちくしょう、嫌だ、嫌だぁああ!」


「パニッシュメント・ツール、みんなの祈りを、力に変えて!」


 杖が赤黒いスパークを発生させ、禍々しい光球を生み出す。


「あ、あああああアバババババ!!」


 光球が続ヶ丘の背中に命中した途端、高出力の電流が襲い掛かる。

 痺れて動けない。


 腹這いになりながらもなお、逃げようとした。

 だが――、


「ごめんなさいは?」


「ひゃ、ひ……」


「ねえ。ごめんなさいは?」


「俺は、やってない……」


「ああそう。じゃあ、お仕置きしなきゃね」


「ッ!!」


 次々と現れる、同じ姿の魔法少女達。

 続ヶ丘は身体を動かせず、目だけで彼女らの動きを追った。


「や、やめてくれ、やめてくれ……!」


「「「「やられる奴がいけないんだよ?」」」」


 異口同音に、同じ声、同じトーン、同じタイミングで放たれる無慈悲な宣告。

 続ヶ丘の反論を待たず、彼女らは魔法のステッキを振り上げる。


「あ! がっ! うぐ、げぅッ、ああ……あ、あ」


 無造作に振り下ろされたステッキは何度も彼を殴打した。

 痣ができ、骨が折れてもなお、彼女らは手を止めない。

 内臓破裂、眼球破裂、脳挫傷、全身複雑骨折、それでもなお。


 ――“思い出したから!”

 ――“俺が悪かったから!”


 息も絶え絶えの続ヶ丘に、それを口にするすべはもはや残されていなかった。

 やがて手足が膨れ上がり、強烈な臭気を発し始める。

 力がみなぎり、そして咆哮を上げる。


「オオオ、オオオオォォォッ!!」


 続ヶ丘の意識は、そこで途絶えた。

 代わりに、怪物としての意識が彼を支配したのだ。


 理性を失った彼に、己の最期など知る由もない。

 絶命するその瞬間まで彼は怪物だった。

 その死を悲しむ者達の声など、届く筈もなかった。




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