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Final Task 浜辺のタコ共を一網打尽にしてやれ!

 サイアン君は入念にマッサージされたようです。


 ああ、そうとも!

 そんなにご褒美が欲しけりゃ、それこそ汗水垂らして頑張って貰わないといけないよな!?

 ほら喜べ、この万年発情期!


「うう……あ、頭から掛けるなんて、それに、こんなにたっぷり掛けられたら、ぼ、ボク……どうにかなっちゃいそう……」


 片っ端から瓶を開けて、サンオイルと日焼け止めをまんべんなく振りかける。

 酔客が怒りに身を任せてグラスの中身をぶちまけるのと同じように。


「どうにかして(・・)貰おうか。発案者として、責任を取って」


 曰く、一連の流れはこいつの発案らしい。

 まず安全が確保できそうな海辺を開拓。

 季節を利用して、観光地として誘致。


 一部の魔物を呼び寄せやすい成分を配合した商品を、協力者に第三者を装って販売させる。

 自分の身体で実証しながら作った奴で、汗と化合する事で特殊なフェロモンが空気中にウンタラカンタラ……。


 ……しかも、売り手は中堅どころの商人達ばかりを集めて、実際にそいつらにも町中でモニター役をさせていた。

 顔見知りもいるから、一週間近く炎天下の中で物を売っても日焼けしないそいつらを見れば、効果は折り紙付きと来たもんだ。


 だが、それだけじゃない。

 副作用としてモンスターに襲われても、それはタコ型の奴がメインだ。

 すると、そのタコにマッサージ(・・・・・)された商人共は次の商売を思い付く。

 ドラム缶風呂みたいな縦長の壺の中にタコとオイルを入れて、会員制のマッサージ屋を開く。

 既に土地は確保済み。


 衝撃の二段構えを挟んだ盛大な茶番の末に、大量の顧客をゲットという寸法だという。

 ……そう上手くいくもんかね。

 サイアンにしちゃあよく考えたとは思うが。



 まあ、地球からの遭難者は想定外だったらしいがね。



「そら、お出ましだぜ」


「わ、わあ、あんなにいっぱい……!? もみくちゃにされ、あっ……――」


 ドッと殺到するタコに覆われて、サイアンはあっという間に見えなくなった。

 なるほど、量が多いほど沢山集まってくるのか。

 話が早くて助かるね。


「むぐ、んっ~~! んむむ! ~~~……ッ!!」


 片耳をそばだてるが、何を言っているのかサッパリだ。

 手も足も出ない上に口も塞がれて、ザマぁ無いぜ。


「せいぜい、窒息しないように気をつけるこった」


 トントンと叩くが、もちろん返事は無い。


「多分、聞こえてないんじゃないですかね……これ」


「知るかよ。阿漕な商売を考えたなら、報いは早めに受けておけばいいのさ」


「よっ。この鬼畜、外道、ひっとでっなし~」


「最高の褒め言葉をどうも」


 タコ・ハーレムのサイアンは放っておくとして、俺とロナは囚われのお姫様達のところへ向かう。

 そろそろ水平線と真っ赤なお日様がベッドインの時間だ。

 夕暮れ時の浜辺(サンセットビーチ)での乱闘とは、風情があっていいね。


 今度は丁寧に、タコの足にナイフを突き立てるなどして救出していった。

 俺に近寄って来るタコは、乱暴に扱ってもいいだろう。


 ズドン!


 動き回る奴は銃殺だ。

 他にも煙の壁をいつもより薄く展開すれば、即席の断頭台もどきにもなる。

 煙の槍をつま先に纏って蹴っ飛ばしてやれば、骨のない連中はすぐにサヨナラさ。


 ロナも自衛能力は充分だ。

 ある程度戦況が落ち着いているのもあってか、冷静にタコを片付けている。

 ゴキゲンな魔法の杖から、ロケット弾頭をぶっ放して。



 タコの恐怖で半狂乱なお嬢さんには、俺がしっかり目を合わせた。

 魅了なんて大それたものは持っちゃいないが、性別なんざ無関係に、こうすりゃ落ち着くだろうっていう確信があった。


「そら、もう少しだぜ」


「は、はい……ありがとうございます。何とお礼すれば……」


「別にいいさ。退屈しないバカンスだった」


 何せこの惨状の片棒担いでいる奴が、俺の雇い主だ。

 ただのマッチポンプでしかない。


 うち何人かは布が取れてご無体な姿だった。

 俺はメニューから物品購入一覧を開く。


 安物のタオルだが、多少はマシだろう。

 それを幾つも買ったら煙の槍に引っ掛けて、個別にターゲットを設定。

 威力は、多分丸めて放り投げたティッシュくらいだ。


 ――パチン。


「出血大サービスだ。最高の眺めは大事な相手に取っときな」


 俺はもちろん、見ない。

 粛々とタコを掃除する。


 何故なら。

 金さえ払えば、裸なんざ幾らでも拝めるのさ。

 ましてや不慮の事故で顕になった肌を眺めても、嫌がる女のツラを見りゃすぐに萎える。

 もし俺が理性を忘れた外道だったら破いてでも拝もうと思うに違いない。

 だがそんな下品な奴が相手の正義を検証できるか。

 俺なら恥ずかしくて、もう一度くたばっちまいそうだ。


「あ、ありがとうございます!」

「ありがと~、黄色い人!」

「素敵~!」


 黄色いのはお前さん達の声援だと思うがね。

 やれやれ、ろくに調べもしないでビーチのバカンスを決め込む奴も大概だが……そんな奴に付いて行くお嬢さん達も先が思いやられるってもんだぜ。

 奴らに悪意が無かったとしても、有能とは限らない。

 お嬢さん達のうち、どれだけの割合が異議を唱えた?

 或いはアマゾネスが二人くらいいたら、弓矢でタコ掃除も出来たかもしれないぜ。


 物思いに耽りつつ、タコを一匹、また一匹と片付ける。

 ズドン、ズドン!

 銃声と波打つ音とのセッションは、今まさに終わりを告げようとしていた。


「安心しな。残さず平らげてやるぜ」


 ズドン!


 最後の一匹が墨を撒き散らしてくたばった。

 これで俺の仕事はひとまず終わりかね。


「これに懲りたら、次からインストラクターの見極めはしっかりやる事だぜ」


「しばらくは泳げないんじゃないですかね、トラウマで」


「大人を頼らない馬鹿なインストラクターが悪いのさ。こいつみたいに」


 俺は浜辺で伸びているフレンの襟首を掴む。

 駄犬のほうは、既にお嬢さんたちが確保していた。


「うぐ、うう……」


 いよう!

 赤っ恥をかいた気分はどうだい、お二方!

 いや……拳を握って歩いてくるギーラも合わせりゃ、お三方か。


「フレンさんを……私の旦那さんを返して下さい」


 やっぱり俺が盗んだあの剣は、旦那さんへのプレゼントも兼ねていたって事かい。

 ロマンチックだねえ。


「ほらよ。手ぇ出しな」


 おずおずと差し出されたギーラの両手に、お姫様抱っこさせるようにフレンを渡す。

 ハーフでもドワーフ。

 腕力は侮っちゃいけない。

 それに“世間様に忠実な男”っていうのは、この手の屈辱にはしばらく身悶えさせられるだろう。

 俺は、同じ目に遭っても気にしない。


「お前さん達は別にターゲットじゃない。あくまで、さっきのタコやサメみたいな奴らを掃除するのが、今回の契約だったのさ。つまりは……――あ?」


「「「キャー! 黄色いナイト様~っ!」」」


 さっき助けて避難していた連中が戻ってきたらしい。

 どこから見ていたか知らんが、おとなしくしてくれよ。

 俺の腕に巻いた懐中時計が光っているって事は、任務完了だぜ。

 残念だったな、お嬢さんたち。


「ここらでお別れだ。あばよ!」


 果たして聞こえていたかね?




 ―― ―― ――




「――って事があってですね」


 拠点の、うらぶれたバー。

 俺達はそこに戻ってきた。

 あらゆる世界から隔絶されたこの場所では、真夏の喧騒とはもちろん無縁だ。


「ほーん。また随分とゆる~い仕事を請けたな。お前達らしくもない」


 スナージは料理を作りながら、興味なさげに返す。

 オリーブオイルの容器は奴いわく特別製で、セットになっている魔法陣の上に置くと満杯まで補充されるそうだ。


「前二つの依頼が頭の痛くなる内容でね。たまには羽根を伸ばしたいのさ」


「とか言って、どうせまたいたいけな少年をボコボコにしていじめたんじゃないのか」


 ハハハ!

 じっとりとした半眼で睨んでくれるなよ。

 照れちまうぜ。


「スナージ。俺が何に加担したのか、お前さんはよくご存知の筈だがね」


「俺は、ビヨンド達が請ける依頼についてはなるべく(・・・・)口出ししねぇ主義なのさ……へい、お待ち。巨大タコのマリネだよ」


 出来上がったマリネを二皿受け取って、俺はロナに渡す。


「なるべく、だとよ」


「あたしに振らないで下さいよ。ところで、タコに混じってるコレ、なんです?」


「サメの肉だよ。インベントリに入れてあったから、鮮度はそのままの筈だぜ」


「ふうん……あんまり味がしないんですね。あたし、そこまで魚は好きじゃないんですけど、これなら行けるかも」


 ここで、スナージが神妙なツラで頷く。


「新鮮なうちに食べないと大変な事になるからオススメはしないがな。

 前世は傭兵をやっていたんだが、浜辺に打ち上げられたサメを捌いて喰った時は、死ぬほど不味かった……

 まさか、こんなにうまく出来るとは。よく食おうと思ったな」


「どうせ他の連中も考え付く」


「いやあ“魔法世界”に行った元“科学世界”の奴は、たいていドラゴンとか魔物の肉に行き着くぞ」


「タコは」


 しばらく考えた後、スナージは首を振った。

 心なしか、眉間の皺が深い。


「あれは換金の交渉に手間取った……科学世界からやってくる連中の中でも、いわゆる和物か地中海出身の奴らにしか受けないからな。

 聞いてくれよ、取引先の奴ら“ウチは間に合ってますんで”とか言いやがるのよ」


「ところでスナージさん、深きものどもからの抗議はありますか?」


「いや、どっちもどっちだよ。人の内臓とかも取引されてるからな。まるごと(・・・・)よりも、なお悪い」


 スナージはそう言って、肩を竦める。

 奴の視線の先では、げんなりしたツラのロナが、俺の皿にマリネの残りを移していた。




スナージ「俺達ビヨンドの命はな。紙切れより軽いんだ」

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