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Task1 依頼について作戦会議をしろ


 ごきげんよう、俺だ。

 今回呼び出された場所は、岩礁のようだ。

 青い空に青い海、遠くには砂浜も見える。


 そして、目の前には邪教徒も。

 頬の辺りにウロコが見えるのは気のせいかね。


「貴様! その出で立ち、その禍々しき瘴気……あああ、もしや!

 ハスターの化身、黄衣の王だな!? そうに違いない! いやしかしクトゥルフ様とハスターは敵対する存在、ならばここで旧き神々の力を借りて滅するしかそうするしかそれ以外に……」


 なんかどこかでこういう奴を見たな。

 それもつい最近だ。


「うーわ、また変なの来たよ」


 遅れて呼び出されたロナが、怪訝そうに眉をひそめる。

 服装は前回と違って、いつものマジシャン風レオタードだ。


 ちなみに前回の依頼が終わった後、ロナにプレゼントを買ったんだが……いわゆるパンツァーファウストっていうRPG-7のご先祖様みたいな奴だ。

 棒の先っちょにロケット弾頭が付いていて、戦車に食らわせる奴さ。

 弾無限のオプションがえらい安かったって理由でロナが選んだが、今回の依頼じゃ出番は無さそうだ。


「なんですか、こいつ」


 ロナは早速、プレゼントのパンツァーファウストを指輪から取り出して、邪教徒の顎をつつく。


「……邪教徒さ」


「科学とオカルトで正反対なのに、ステイン教授みたいな奴ですね」


 思い出したぜ。

 ステイン教授と同じだ。

 壮大な独り言を、司祭が経典を暗唱するような具合にすらすらと述べ連ねていく手合いだぜ。


「すていん? なんだそれは……」


「こっちの話です。気にしないでください」


「ところで貴様はもしや、ハスターの妻シュブ=ニグラスでは? だとすれば、今は人間体に変身しているという事か……」


 顔周りだけ見れば、顎に手を当てて思案顔という絵になるツラだ。

 魚じみているがね。

 だが身体を見れば、足は震えているし襟首掴まれているしで、三枚目そのものだぜ。

 もっと威厳が欲しいもんだ。


「スーさん、こいつのケツにウツボを突っ込んで砂浜に埋めたいんですが、いいですかね」


「他にもっといいのはあるかい」


「チンコをカサゴに食わせて砂浜に埋める」


「素晴らしいね。名状し難き辱めを」


 俺が相槌を打っていると、フード野郎はようやく俺から離れる。


「ええい面妖な! 何を勝手にアレでナニな話を進めているのか!」


「お、皆様お揃いですな?」


 出たな、ナターリヤ。

 この暑い中で相変わらずタキシードとは、恐れ入るぜ。


「性懲りも無く俺をご指名かい」


「勝手知ったる取引先は、安心できますからな」


 俺が馬車を壊した件については触れないらしい。

 恥を思い出すのが嫌なのか、気にしちゃいないのか。

 それか、そんなの忘れちまったのか。


「何より、サイアンが禁断症状でしてな? もう、しきりにご主人様ご主人様と……」


「うへぇ……あたしの次はスーさんか」


 ロナもげんなり気味だ。


「そういうワケですからな。こうやってベルを鳴らすと」


 ナターリヤは懐から銀色のベルを取り出し、カランカランと二回ほど鳴らす。

 しばらくして、そいつはやってきた。


 サイアンは身体こそ小さくなっていて付属品(・・・)も無いが、髪は薄紅色のままだ。

 上下は紫色のビキニ、パレオ付きか。

 ただの背伸びしたガキにしか見えないぜ。


「ご主人様ぁ~~~!」


 サイアンは駆け寄って側転、バック宙返り、トリプルアクセルを交えて八艘飛び、そのまま俺の胸に飛び込んでくる。


「おおう」


 弱くない勢いで突進されて、俺は危うく海に落ちそうになった。

 サイアンの奴ときたら、そんな事はお構いなしに胸元から顔を上げて、両目を潤ませてまくし立てた。


「ご主人様、お待ちしておりました……ボク、来る日も来る日もご主人様を待ち侘びて、一人で弄っても満たされない夜を過ごしていたのです、お願いです、ご主人様! ボクと――」


「――あー、わかった。わかったよ」


 頭を撫でてやると、奴は顔を嬉しそうにうずめる。


「相変わらず単純だねえ、お前さんは良くも悪くも」


「うん! えへへ……」


 この忠犬ぶりは……一体どういう風の吹き回しなんだ?

 あんなに俺を目の敵にしていたサイアンが、こうなっちまうとは。

 ロナを見れば、やっぱりこいつも困惑を隠せないでいる。


「え、ええっと……? ナターリヤさん、これどういう事ですか……怪しげな薬でも使いました?」


「我輩は何も」


「ええ~? ホントに~?」


 ロナは後ろ手に肩をすぼめ、左右に揺れながらナターリヤを見る。

 ナターリヤはロナの奇態にされたのか、両手の平を前に出しながら首を振った。


然様ダー然様ダー。そんな洗脳だの何だのって、人間が奴隷のエルフを使役するのでもあるまいし。

 我輩、どちらかと言えば心をへし折って屈服させるほうが濡れるので」


「そうそう。ボクも屈服させられて濡れちゃうから、たっぷり遊んで! いや、遊んで下さい! ご主人様、ロナ様!」


「おえぇっ、様付けとか……いやあんたらの性癖は別にいいんですよ」


「本当にどうでも良いのですかな? 同志もロナ殿も、割とそういう性癖の持ち主であるように見受けられますがな?」


「そいつは心外だ。お前さんと一緒にしないでくれ」


「エェ~? ホントに~?」


「あたしの真似するなクソエルフ」


「オホホホホ!」


 まったく馬鹿げた茶番だぜ。

 俺としては自己紹介を早々に済ませて、浜辺でバカンスでも決め込みたいんだがね。


 何せ今回の依頼は、単なる保険だ。

 作戦中に目当てじゃない魔物が現れたら、俺達が他の冒険者共を出し抜いた上で(・・・・・・・)処理する。

 ついでに海の家を運営して、小遣いを稼ごうっていう魂胆らしい。

 俺とロナは、この世界じゃツラが割れてるから保険専門だな。


「あ、あの……ナターリヤの姐御、こいつらは?」


 邪教徒野郎が、ナターリヤに話しかける。


「ご紹介が遅れましたな! こちらの黄色いほうが同志ダーティ・スーですぞ。

 で、こちらの耳無しバニーちゃんが、ロナ殿ですな。ウウム、暑そう。水着に着替えればいいのに」


「水着は却下として……耳、あったほうがいいですか」


 ロナが頭の上で両手を立ててみる。

 すると、サイアンがおもむろに後頭部を掻いてニヤつきはじめた。


「いやいやそんなボクとお揃いなんて恐れ多い」


「……やっぱ今のナシで」


「ご主人様ぁ! ロナ様がいじめる! 追い打ち下さい! はぁ、はぁっ……んんっ」


 サイアンの奴は身悶えしながら、身体を少しずつ大人モードへと成長させていった。

 おまけにウサギみたいな耳になって、キツネの尻尾とヤギの角、コウモリの翼も生えてくる。

 ビキニが食い込んだせいでパレオからはケツが見えるし、有り体に言えばそそる(・・・)格好の筈だ。

 だが、本人の性格がこれ(・・)じゃなあ。


「あぁん! どうしよう、また恥ずかしい姿になっちゃったぁ! 責任、取ってくれますよね? ご主人様」



 ……なあ。

 これ、収拾付くのかい。


「俺が言うのも何だが、どいつもこいつもマトモじゃないぜ。

 サメが現れたら牙を折りに行って何本取れたか競い合うに違いない」


 もちろん取れた肉は解体してタコスの具にするのさ。

 海の家でね。


「ああ、なんてこった……まともなのは俺だけか……」


 邪教徒野郎は寝ぼけてやがるのかね。


「スーさん、やっぱこいつカサゴのエサにしよう」

「ボク達を馬鹿にした報いを受けさせよう」

「我輩、新しい錬金術の実験をしようかと」


「ええええ! なんでそうなるの!? ダゴン様、ハイドラ様! お助け下さい! いあ! いあ!」


 ズドン。


「いあ――嫌あああああ!」


 足元の岩を狙ってみれば、あわれ邪教徒は海にドボンって寸法さ。

 いい気味だぜ。

 少しは火照った頭も冷えるだろうよ。




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