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Final Task ロイド・ゴースと決着をつけろ!


 爆発の範囲は思ったより大きく、あちこちに仕掛けられていたらしい爆弾に誘爆していた。

 お陰で、辺りは炎で赤く染まっている。


「人の命を弄べる奴は、頭にネジじゃなくて一輪の花が刺さっているものだぜ。近寄る虫を尽く殺していく、猛毒の花がね」


 ズドン!

 ロイドの野郎、まるで猫みたいに跳びやがる。

 反撃で投げられたのは、手すりの残骸だ。

 俺はそれを蹴飛ばす。


「それはお互い様だ!」


「ああ、そうとも! だからお前さんはイゾーラを失っただろ!」


 押し返す。

 蹴り倒して、ダガーを引き抜く。

 狙いは奴の喉元だ。


 奴は咄嗟にそれを転がって避ける。

 そこにロナの散弾が飛ぶ。

 ロイドは瓦礫を掴んでそれを防ぎ、そのままロナ目掛けて投げる。


「うおわっ!?」


 ああ、ロナ……お前さん、瓦礫に銃をぶっ放すのは悪手だぜ。

 ロイドはその隙を見てロナの無力化を図ろうとするが、そいつは防がせてもらうぜ。


 ズドン!

 床が熔ける。


「久しぶりにそいつをお目にかかったぜ」


 腕時計の秘密兵器、ワイヤーフック。

 そいつでロイドは天井にぶら下がっていた。


 ズドン!

 ズドン!


 俺とロイドが同時に放った銃弾は、交差しなかった。

 落下地点を予測して撃った俺のプラズマ弾頭は空を切る。

 奴の銃弾は蒸気の噴き出るパイプを破裂させる。

 その勢いで、奴はまたしても跳んだ。

 今の爆発で、ロナが瓦礫の下敷きだ。


 プラズマ弾頭は反動がデカいから、連射が利かなくて困るね。

 残り、二発。


 互いの銃口が再び向き合う。


「ボスの野郎の喉元に喰らいついた所で、次の悪党がお前さんを狙うだけさ」


「構わない。君が自分に課しているタスク(・・・)と同じだ。私も奴らの正義を検証している」


 後半は骸骨野郎に言った台詞の引用だからともかく、前半はこの世界に来てから一度も口にしていない。

 こりゃ随分と詳しく調べてくれやがりましたこと!

 スパイ組織の面目躍如って所かね。


「素晴らしい。どこで俺を識った(・・・)?」


「企業秘密さ」


 情報提供者がいるのは間違いない。

 替え玉でアジトにやってきた骸骨野郎の雇い主は誰だ?

 組織を裏切ったイゾーラか?

 それとも、CIAか?


 俺は自分自身の存在を否定するつもりはないが、ビヨンドってのはたいがいオカルトだ。

 金を生け贄に捧げて、悪魔かそれに近しい奴らを召喚する。

 スパイ映画は科学が幅を利かせてしかるべきさ。

 ビヨンドのシステムを作った奴もそれを理解しているから、この世界ではビヨンド以外の目があるとメニューを開けないようにしたんだろう。


 別に、ビヨンドは増えてもいい。

 ただし、この世界では素性の解らない助っ人としてという条件は付けるべきだろう。

 俺やロナ、そしてあの骸骨野郎のように。


 ズドン。


 俺の胸を、一発の銃弾が貫く。

 同時に奴の腹を、俺の放った光線が貫いた……ように見えた。


「……!」


 やれやれ。

 相打ちとはね。

 二人して力なくケツを降ろすサマときたら、我ながら少しは絵になる瞬間だった。



 再び、爆発。

 俺とロイドの間に、瓦礫が積み上がった。

 金網の足場が支えを失って崩れ、俺の目の前に落ちる。


 しばらく、そうしていた。

 不思議なもんだ。

 肺をやられている筈なのに、少しも苦しくない。


「……一つ、タネ明かしをしてあげるわ」


 くたばった筈のイゾーラが、悠々とした足取りで俺の前にやってくる。

 ロナをお姫様抱っこで運ぶその両腕は、さっき吹っ飛ばしたばかりだろうに完全回復と来た。

 さて、勿体ぶったレディには先手必勝だ。


「アレに依頼を出したのはお前さんだろう」


「――! 逆に驚かされる事になるなんて」


 こんな状況だってのに、イゾーラは面白く無さそうなツラだ。


「そりゃそうさ。どうせ、奴らのどっちか、或いは両方に依頼を出したのはお前さんだろ」


「ご名答」


 不正解だろうとなんだろうと、こいつは同じように答えるに違いない。

 何せ、実際はどうだか解らないのだから。


「補足すると、イルリヒトにあなた宛の依頼を出すよう仕向けたのも私よ。

 だから、ロイド・ゴースは殺さなくていい。ターゲットから外しておくわ」


「じゃあお前さんは、てめぇを俺に殺させるつもりだったと」


「とんでもないアバズレですね。一応経験者として言っておきますけど、自殺オナニーなんて気持ちよくないですよ」


 抱っこされているロナもご機嫌斜めだ。

 何やら、わけの解らない事を言ってやがる。


「死にたがりにご褒美をくれてやるのは気乗りしないが、お前さんの場合、特殊な事情があるんだろう」


「ええ、また会いましょう? 待ってるわ。ミスター・スー」


 ロナを降ろして、イゾーラは俺の拳銃に手を添えた。

 そのまま、心臓を吹っ飛ばさせる。

 くたばったイゾーラは、光の粒になって消えた。


 いやはや、こりゃ一本取られたね!

 まったく大した役者だよ、お前さんって奴は!


「やられっぱなしでしたね」


「そうでもないぜ。新しいオモチャも手に入ったしね」


 そう言って、俺はプラズマ弾頭を見せた。

 これとサングラスは大きな収穫だ。


 後は、魔法に頼らない戦い方か。

 もう少し体術を鍛えるという課題も見つけた。

 他の世界で応用できそうだ。


「後はせめて、教授の脳ミソだけでも持ち帰りたいんだが、無理かね」


「黒焦げだったじゃないですか。あたしとしては願い下げです」


 懐中時計が光ったから、依頼は達成って事でいいのかね。

 あまり釈然としないが。

 謎を纏う奴は謎に溺れるぜ、イゾーラ。




 ―― ―― ――




「……で? お前はまた、なんちゅーもんを持って帰ってきたんだ」


 スナージは仁王立ちで、冷や汗を垂らしている。

 いつもの拠点に、俺とロナは戻ってきていた。

 今回も戦利品(・・・)と一緒だ。


「悪いかい」


 俺は片手で引き摺ってきたその戦利品を、親指でさし示す。


「倫理的におかしいのはもうこの際だから目をつぶるとして、なんで巨乳でボインでダイナマイツでパイオツカイデーなチャンネーじゃないんだ」


「意味が全部同じなんですけど」


「そっとしてやんな。よっぽど好きなんだろう」


「悪いか! 俺だってなあ! むさっ苦しい野郎ばっかり見ても気分が高揚しないわけ!」


 スナージの取り乱しようと言ったら、今までの比じゃない。

 顔を青くして、頭を抱えながら上半身をスイングしている。

 電動コケシごっこなら、よくできていると思うぜ。


「世の中のゲイに謝って下さい」


「その人達にとってのいい男が最高の宝物なら、俺にとってはGカップ以上の爆乳美人が最高の宝物なんだよ!」


 力説するスナージ。

 対するロナは、容赦という言葉をどこに置いてきたのやら。


「価値観の多様性を主張するのは結構ですが、スナージさんのそれは、なんかちょっと……同意しかねるというか。

 さっさと出会いを探して身を固めればいいじゃないですか。世間様という名の同調圧力は、そのように言ってますよ」


「ロナもすっかり染まっちまって、おじさん悲しいよ……」


「元から結構染まってた説はどうなったんでしたっけ?」


 その指摘に、スナージは再び視線を俺に向ける。


「……じっ」


「あのねえ、旦那。そんな目で俺を見ないでくれるかい」


「うるせー! 旦那とか馴れ馴れしい! サブイボ立つわ!」


 などと平和なやり取りをしていると、戦利品(・・・)は身じろぎした。

 少し間を置いて、ゆっくり起き上がる。


「む……ここは……」


 額に手をやり首を振る、戦利品ことフランキー・ステイン教授。

 そう、俺が連れてきたのは、このイカれた教授サマだ。

 スナージの野郎は咄嗟に、猛禽類のような営業スマイルを浮かべる。


「やっと、お目覚めか。愛しの亡霊ちゃんよ」


「あっ。すごい、一瞬で切り替えた……」


 だがそのキリッとした表情も、長くは続かなかった。


「ワタシは確か、ロイドに撃たれてエクストリーム大爆死した筈では……おお!? まさか! ここは!

 地獄だというのですねえ!? おお、神よ! ワタシはただ、人々に新たなる叡智の扉を開くそのお手伝いをほんの少しだけそう先っちょだけ罪にならない程度に尚且つ世の中の紳士淑女の皆様に遅漏と誹られぬ程度にという絶妙かつ巧妙なバランスにて進めていただけだというのにお認めにならぬどころかあまつさえ地獄に堕ちろとそう仰せられるのですか! むごい! あまりにも、むごい! 斯様な所業はもはや神の善性を疑わざるをえないそうする以外に在り得ない! 決めました! かくなる上は不省ふせいフランキー・ステイン、神殺しの力を地獄にて蓄えいずれは煉獄へと転進し天国へと侵攻し最終的に三千世界に青白き光の柱を打ち立てる所存ッ!!」


 スナージはこの馬鹿教授の大演説を耳に入れるにつれ、少しずつ化けの皮が剥がれていって、やがてはゲンナリしたツラを隠そうともしなくなった。

 ロナも同じようなツラで、耳を両手で塞いでいる。


「長い。早い。聞き取れない……えっと、スーさん。どうします? これ(・・)


「どうしようかね」


 俺達の会話に気付いた教授は、実際に飛び上がりながら指を差してきた。


「おあああああああ!? これは、ロナさんに、ダーティ・スーさんではありませんか!?

 ということはもしや、あなた方も地獄行きに!?」


「おい、スナージ。この小鳥ちゃんの喉にペレットをしこたま詰め込んでやってくれ。少しは落ち着くかもしれん」


「嫌だ」


「何故」


「いーやーだー。お前が持って帰ってきたんだろ! 責任持って世話しなさい! もしくはどこかに捨てて来なさい!」


「んな捨て猫みたいな言い方せんでもいいじゃないですか。まあ、あたしとしても邪魔くさいですけど」


「決めた。お前さん、俺に雇われろ」


 パチン。

 指を鳴らしながら、教授を指し示す。

 だが肝心要の教授はといえば、まごつくばかりで話にならねえ。


「えええええええっと! ちょっと状況の説明をもう少し丁寧にやって頂けると、ワタシすっごい助かるのですがねェ!」


 ここはプロに任せるか。


「スナージ――」


「――嫌だ」


「まだ何も言っていないぜ、俺は」


「その先の台詞くらい予想が付くだろうが。ほら、さくっと説明を済ませなさい」


 あまり賑やかすぎても、俺の出る幕が無くなるってもんだぜ。

 ナターリヤにでも押し付けるか?

 やれやれ、あのイゾーラの奴も素敵な出会いをくれやがって。



 さて。

 件のイゾーラは俺を上手く弄んだつもりらしいが、この時は気付いていなかったようだ。

 そう遠くないうちに、俺の渾身の意趣返しでコテンパンに伸される事にね。




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