Task9 ジルゼガットに勝利しろ
半年近く間が空いてしまい申し訳ございませんでした。
完結に向けてある程度の目処がついたので、投稿再開します。
ジルゼガットのゲロを元手に肉体を再構成した、復活の俺!!
もちろん等身大に戻ったから、ジルゼガットとは対等なサイズだ。
……もっとも、奴さんはツノも羽も生やして、肌も青い。
明かりの消えた電球から飛び立つ蛾のように、ジルゼガットは飛んできた。
ログハウスの家具は、もちろんいくつかガタガタ揺れていた。
「私には誰もいなかった! 道を外れても、それでいいんだと思わせてくれる助っ人なんて、どこにもいなかったのに!」
ボンセムみたいにオカルトなり悪魔なりを頼りたかったが、それもできなかった――とでも言いたいんだろう。
同情はするぜ。
「お門違いってもんだ。1万年前に俺は生まれちゃいなかったぜ」
まずは第一の思い出アタック!
タル爆弾だ!
ドカーン!
俺達の戦場だったログハウスは、木端微塵に吹き飛んだ。
ついでに爆発で飛び散った地面は、妙に鉄臭くて湿った感触だ。
外の景色はさながら、古いSF映画の火星の撮影セット!
真っ赤だ!
すぐ近くには、脳ミソでできた木が生えている。
「私だって釈明の機会が欲しかったのに、何度やっても口を塞がれた!
ロナが羨ましいわ。貴方が代わりに世界を荒らしてくれたんだから!」
ジルゼガットは釈明どころか、故郷の世界そのものが廃棄になった。
「だからといって心臓をくれてやってもいいかは別の話だがね。
二度とパラレルワールドもどきのクローンを作らないでくれよ!」
あまり見ていて気持ちのいいもんじゃあない。
次は第二の思い出アタック!
石版で召喚!
見た目からして暴力的なお友達が、わんさか登場だ!
もちろん時間稼ぎと嫌がらせが目的だ。
こんなもんじゃ倒れない。
暴力的なお友達どもの“ふれあいの輪”の中心が盛り上がり、ジルゼガットが真上に飛び出す。
「私だって■■■■に愛されていたし、■■■■を愛していたのに!」
上空から、焼けた鉄の雨が降り注ぐ。
投げるならトマトにしてくれよ、まったく。
少なくとも、ハーフドワーフが初恋の人相手に一生懸命作った、きれいなロングソードはここにはない。
続いて第三の思い出アタック!
脳の大樹を駆け上りながら、ジルゼガットの首を掴んで吊るす。
お前さんには翼があるから、叩き落としたところで飛んじまうだけだろうがね。
何でもできるって事は、つまり何をしてもつまらないのと同じだ。
お、いいね!
やっと俺達にも共通点ができたらしい!
ジルゼガットの翼が変形して俺の腕に噛みついてくる。
なるほど、俺もろとも落下を狙うという魂胆だ。
地面に赤いシミを作るまでの僅かな時間に恨み言を聞かせたいらしい。
「帰る場所を一方的に奪われた私の苦しみなんて、わからないでしょうね!」
「女神どもの元締めがとんでもない無能だって事くらいは理解しているつもりさ」
第四の思い出アタック!
目に杭を突き刺す。
「ぐぅ、ううぅぅぅう!? 痛い!! 痛いのに!! この程度じゃ死ねない!!」
「そうだろうね。気が付いたら本物の怪物になっちまっていた、覚悟が決まる前にこうなっちまった、なんて状況じゃあ、痛みは消えやしない」
廃人ジョジアーヌの身体に宿ったサイアンだってそうだった。
いきなり覚悟は、本当の意味じゃあできちゃいなかったろう。
第五の思い出アタック!
足を撃ち抜く。
「こんな攻撃で殺せると思っているの!? わざといたぶって楽しんで、貴方っていつもそうよね?」
「だが、そうでもしないとハラワタが沸騰しちまうだろう。お前さんだって、その役得を味わっていないとは言わせないぜ。ほら、手を叩いて幸せになろうぜ」
「ああ、そう……なら、遠慮なくやらせてもらうわね!」
俺は地面に叩きつけられる。
見上げた真っ赤な空から、俺と同じ姿をしたやつがたっぷり降ってきた。
よくもまあ、こんなもんを後生大事に取っておいたもんだ。
「これだけの数を用意したわ。倒しきれないでしょうね」
それなら話も早かろうさ。
第六の思い出アタック!
煙の壁を空中に展開、辺り一帯を煙だらけにしてやった。
下ごしらえが済んだら、煙を通じてコントロールを切断だ。
見よう見まねの一撃を、どうぞ心ゆくまでじっくり味わってくれ。
「スペル・クラッシュ」
これが第七の思い出アタック!
そら見ろ、糸の切れたマリオネットのできあがりだ!
「いつの間に!」
「練習した」
なんてね、嘘だよ!
一体誰の細胞を取り込んだと思ってやがる。
ぜひ手前の胸に手を当てて考えてみやがれ。
続いて第八の思い出アタック!
行くぜ愛銃バスタード・マグナム!
プラズマ・カートリッジの早撃ちで両腕を吹き飛ばした!
「うあぁああああッ!!」
ロケーションは違うが、シチュエーションはほとんど同じだ。
だが今度は服毒自殺もできまい。
煙の槍でフィールドを埋め尽くす。
お前さんの意思で動ける瞬間をコンマ一秒たりとも与えない。
首根っこをつかむ。
続いて、煙の槍をいくつかかき集めて木の幹みたいに高く伸ばす。
ジルゼガット専用絞首台の出来上がりだ。
「ダーティファイアワークス・サタデーナイトエディション!」
第九の思い出アタックは、ジョン・トラボルタのあのポーズで真上にブチ抜くフィーバータイム。
テクニシャン気取りの家父長制信奉者に指圧マッサージで毛細血管を潰されたような屈辱と苦痛を味わってくれ。
「さすがにちょいとばかり堪えたと思うが、どうする。扇風機に顔を突っ込むのは正直あまり気が進まないぜ」
「なめるな――ッ!!」
「オー、こりゃあ残念! 第十の思い出アタックは、これでキャンセルだ」
ジルゼガットの両目から放たれたビームで、扇風機が溶けちまった。
「私の端末がそろそろ新しい増援を連れてきた頃合いよ」
「そりゃあ傑作だ。まさか俺の親父でも連れてくるのかい」
「……」
「おい、何か言えよ」
「せっかく、貴方でも楽しめるサプライズを用意してあげたのに、これじゃあ準備のしがいが全くないわ」
「穴を開けた箱に詰められたセミの死骸のほうがまだ楽しめたかもしれん。親父じゃ投げ返して遊ぶにも不自由する」
「まあいいわ。さぁ、いらっしゃい」
何もない空間にドアが現れた。
そのドアを開けて、親父は現れた。
「葛冶、お前なのか」
「だろうな。見た目が違いすぎるから、無理もない。今から本人にしか解らん思い出を包み隠さず全部話すよ」
というわけで、耳打ちした。
* * *
ついでに色々と語らった結果、どうやらこの“俺の親父”は俺の元いた世界の生まれで間違いないらしい。
「やっぱり、お前だったのか……」
親父は拳を握りしめている。
このクソ野郎の心に、呪いのように絡みついた道徳規範は、確かに“眼の前の男を殴ってでも止めろ”と囁いているんだろう。
だが、現実ってもんは、こんなザマだ。
「お前さんの世界で、毒島葛冶っていう男はもうくたばっちまったあとだ。こんな悪い夢みたいな場所に、のこのこツラを出すもんじゃないぜ」
「それでも、俺はお前を止めなきゃいけない。それが、父親ってもんだ」
「肝心な時は、いつだって見て見ぬ振りをしてきた臆病者が、今更になって父親ヅラをしやがる。やめときな」
親父の平手打ちが飛んでくる。
手が俺の頬に触れる前に、俺は親父の腹を蹴飛ばした。
そのまま真正面から受け止める気が起きなかった。
で、そうして俺は煙の壁を薄く展開して、親父がかつておふくろに突っ込んだ“アレ”を切り飛ばした。
「ぎゃああああああああああ!!」
言わんこっちゃない。
はい、第十壱の思い出アタック。
「それじゃあ、改めて答えを聞かせてくれるかい、父さん」
「許して……許――」
第十二の思い出アタック!
煙の壁を変形させて作った巨大ハンドで、親父の頭を握りつぶした。
ふはは!
笑わせるぜ。
こんなもんが、俺を縛り付けていたとでも言うのかね。
「一切の容赦がないわね。化けて出たらどうするつもりだったの?」
「実に魅力的な例え話じゃないか。サンドバッグは長持ちするほうが助かるってもんだ」
「まぁ、ここから出られないから、無意味な戯言だったわね!」
おやおや、性懲りもなく光の雨ミサイルか。
見た目ばかり派手だが、パターンが少ないと眠くなるぜ。
とはいえ、それもまた好都合だ。
何しろこの淑女さんと来たら、俺が何を背にして戦っているかを、すっかり忘れているらしい。
「おっと」
ここは、避ける!
そんで――ここは、受ける!
もともとステージの規模が桁違いにデカい。
それでいて攻撃の規模も、やっぱりデカい。
山を一つ削るほどだ。
そりゃあ使い道のひとつやふたつ、思いつかないほうがどうかしているってもんさ。
さて、出来上がりだ。
ジルゼガットに近づいて、ヤツの翼をひっつかむ。
「貴方、一体何を企んで……」
「お前さんの事だから目がたくさんあるかと思ったんだが、長生きすると使わなくなっちまうのかね。それとも、俺しか見えないくらい俺が邪魔くさかったかい」
パチンッ!
「ジャジャーン。一丁上がりだ」
「この形……なんで、墓標?」
「考えてごらん」
「名前が刻まれていないけど、これは、あなた自身の墓? それとも私をここに葬るつもりだった?」
「どっちでもない」
「……じゃあ、まさか」
「そうとも。お前さんが愛し続けた、名前の思い出せない誰かさんの墓さ」
おおっと、振り落とされちまった。
背中を強く打ち付けた俺の腹に、ジルゼガットの飛び蹴りが炸裂!
俺に痛覚が残っていたら、痛かったと思う。
ジルゼガットは俺の上に馬乗りになって、何度も殴ってきた。
そして、最後にゃ力なく拳を振り下ろした。
俺の胸の上に、ヤツの右拳が軽く当たる。
「ふざけないで!! あの子は、まだ死んでいない!! 死んだ事になんてさせない!!」
「それならそれでいいだろう。勝手にくたばった事にでもしておけば、いつかそれを聞きつけたお友達が、文句を言いに来るぜ」
「嘘、嘘よ……」
「全部、嘘って事にしちまってもいい。だが、俺はお前さんの話を信じる。その上で、お前さんが決して選ばなかった道を敢えて今ここで提案させてもらった。
誰に玉を取られたにしたって、葬式は挙げなきゃ区切りにならないぜ。ここなら坊さんの懐にカネも入らない」
「うぅ……」
そうら、もう綻んできたぜ。
お前さんの結界。
「それとも。教会とピアノと聖書と棺桶も用意したほうが良かったかい」
パチンッ!
煙の槍で壁をブチ破ったら、そこから元の世界が続いていた。
俺はジルゼガットを横に押しのけ、そして立ち上がった。
で、手を差し出す。
「ツテが無いとは言わせないぜ」
さあ、ジルゼガット。
フィナーレは肉眼でご覧に入れてやろうじゃないか。
 




