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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
FINAL MISSION: 彼こそが、ダーティ・スー
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Task5 皇帝陛下を"外”に連れて行ってやれ

 期間が空いてしまって申し訳ございません。

 なるべくきれいに終わらせたくて、終盤を苦心しつつ練り練りしております。


 ダーティ・スペシャル・デリバリー!!

 収納指輪の機能限定版レプリカを買っておいた。

 そいつを加工した“仕込み弾(ギミック・バレット)”をスナイパーライフルから発射して、この玉座の間に届けさせたのさ。


 中に何を入れたかっていうと、だ。


「見ていけよ」


 地面に突き刺さった弾から、煙と一緒にライフルが次々と飛び出る。



 ライフル102号――高度35メートル、X軸30度Y軸22度Z軸45度――顎髭のナイスガイの左手薬指を吹っ飛ばす!

 ライフル135号――高度200メートル、X軸98度Y軸37度Z軸12度――エルフの兵士の右耳を欠けさせる!

 ライフル177号――高度11メートル、以下省略――ぼんやりしてやがった新兵ちゃんの靴の爪先に風穴を開ける!

 ライフル213号――高度80メートル――荷物持ちの手首を削る!

 ライフル254号――高度303メートル――端のほうの松明を粉々に!

 ライフル388号――高度51メートル――とびきり臆病な大臣らしき老公の頬をブチ貫く!

 ライフル616号――高度66メートル――とびきり勇敢な小僧の鼻先を掠める!

 ライフル741号――高度27メートル――白髪のビキニアーマーお嬢サマのティアラを落っことした!

 ライフル999号――高度47メートル――火薬壷を爆発させた!


 ――ざっと、ここまでで1秒。

 こんな具合の事を60秒くらい続けた。


 仮に坊さん共の懐にカネを入れるだけだったら、デカい爆弾をブチ落とすだけで良かったんだがね。

 ここに必要なのは――生きた観客だ。



 恐怖、畏怖、敵意、憎悪、それらは俺へと向かうべきだ。

 第一に、そのほうが気分爽快じゃないか!

 生きながらえるのも、ここでくたばるのも、すべて俺の加減次第と来たもんだ!


「これほどの力を、一体どこで……」


「原初の神を欺き手に入れた力だからなのかね、チートと呼ばれているのは。俺からすれば、そんなのは使い方次第さ。

 だからこそ俺は、俺が使いたいように、俺のために、俺だけのために使う」



 ……他でもない、この俺が後悔しないように。

 この世界を任せてもいい本物のヒーローが現れるまでは、俺がこの世界を預かるのさ。


「こいつらを含めてこの世界の人間どもは俺が怖がらせて飼い慣らし、俺に奉仕させる!そら、どうだね。れっきとした等価交換だぜ!」


「歪んでる……!」


「だがそれこそが人間ってやつだ。釣り針のように、合理的に歪んでいるのさ。そういう世の中だぜ、どこもかしこも!」


 だって、そうとでも言わなきゃあ、誰も俺を憎んじゃくれないだろう。

 英雄ごっこはするが、英雄そのものになるのは御免だ。


 悪いね、ジルゼガット!

 お前さんを倒せるのは俺だけらしいが、お前さんが前に出てくれなきゃどうしようもない!


 もっとも、目の前にいるこいつらからしたら知ったことじゃあないだろうね。

 そら、フレンくんがすごい剣幕でお怒りだ。


「ふざけるな、ふざけるなよ! 大人なら、理不尽を糺さなきゃだろ!

 どうして大人が理不尽の上にあぐらをかいて、世の中がそういうものだとしたり顔で言う!?

 そうやって育てられた子供が、次の不幸を生み出す! そういうふうに学んでしまう!」


「立派なご高説だ。ただその台詞は、俺より、俺を使う奴に言うべきじゃないかい」


「誰だ……お前はお前の理屈で動いていて、お前を使って何かを成そうとしている奴なんて、本当は存在しないんじゃないのか!?」


「そいつはてめえで考えるのさ」


 少なくとも俺は俺のためにしか動かん。

 だが、俺がそうすることで得をしている奴はそこかしこにいるぜ。

 俺がそれを見ていないだけだ。


「くッ、うおおおおおお!!」


 エンリコ、捨て鉢は止せよ。

 どうにか間合いまで忍び込んだつもりだろうが、お前さんの槍じゃあ軽すぎて駄目だ。


 見ろよ。

 俺様の部分的に変身したクールな手を。

 槍の切っ先はめり込んですらいない。

 指で掴まれているだけだ。


「言うことを聞かせたきゃ、俺の目の前でジェイソン・ステイサムの髪の毛を引っこ抜いて寄越せ。

 それかマイク・タイソンの尻の毛だ! やってみな!」


 パチン!


「まあ、お前さん達じゃあ一生かかっても無理だろうがね。俺程度も倒せない奴に、そんな芸当ができる筈もない」


 皇帝陛下のケツに、煙の槍をブチ込む。


「ごォ、おッ、おぉぉ……」


 皇帝陛下を煙の壁でコーティングだ!

 その首根っこを引っ掴む。


「人間の脳みそってのは便利にできてやがる。道具を使うにあたって約束を破って、それで不利益があれば悪魔のせい――ってな具合にね」


 天井を削って砂埃を俺以外の全員にかぶせる。

 そら、少しは頭を冷やせたかよ。


「お前さん達のような正義の味方気取りは、どいつもこいつも悪党を決して交わらない平行線上のものだと思ってやがる。

 お前さん達が敵視している奴らは、お前さん達と似たようなもんを別の角度から見ただけかもしれないというのに」



 水晶玉を収納指輪から取り出して、床に転がす。


「せいぜい指でもくわえて見てやがれよ。最高のショーってやつをね」


 皇帝陛下をお姫様抱っこして、窓から飛び降りる。

 冷え冷えとした風が気持ちいいぜ!


 ふはは!

 ふははははははははははは!!



「見ろよ、皇帝陛下! 愛しの国民ちゃん達が固唾を呑んで見守ってくれているぜ!」


「余を、どうするつもりだ?」


「行こうぜ皇帝陛下。一緒に魔王を倒しに行こう。それで、この世界に光をもたらして、一生ずっと旨い酒を呑もうぜ」


「……本音は? ――否、貴様が“本音”とい銘打って口にできる内容は?」


「そりゃあ決まっているだろう。お前さんの醜態を愛しの国民ちゃん共の両目にじっくりと焼き付けて、お前さんが帝国の象徴として何一つ役に立たなかったという事実をしっかりと認識してもらうのさ!」


「余を物理的に振り回す事とどう関係する? あの水晶玉といい、余の醜態を世界中に晒す腹積もりなのだろうが」


「魔王を倒す聖なる武器にでもなってくれりゃあ、お前さんの尊厳とやらも少しは保たれるじゃないか。感動に咽び泣けよ」


「く、ははは……はははははは!! 愚物なり、ダーティ・スーよ! 余を下し、魔王を討ち、いずれ世界を手中に収めたとて、貴様は外界より来たりし異物に過ぎぬ!! そんな輩の栄華は一夜にして崩れ去るのが定めというものよ!」


「ああ。そうであってほしいね。ぜひとも」


 ズシーン、ズシーンと地面が揺れる。

 紀絵とエウリアは、まだ怪獣姿で殴り合っているらしい。


「所詮は些事と捨て置いたが、存外あの怪物共も長引いておる」


「ああ。女同士、話が盛り上がっているようで何よりだぜ。会いに行くかい。挨拶がまだだったろう」


「如何様にでもするが良い。余は文字通り手も足も出ないのだ」


「じゃあやめとこう。お前さんにとっての俺達がそうであるように、俺達にとってのお前さんもまた“名前だけは知っていたが中身の全てには興味がない”ただの他人だ」


 それまで少しも顧みられないまま、今日という日を迎えちまったのさ。

 だから「知ったこっちゃない」はお互い様ってもんだ。


 ただ、それを差し引いたとしても皇帝陛下の野郎と来たら、ふわふわのサクサクを極めやがった。

 俺のような横入りのパワー馬鹿ならいざしらず、仮にも一国の主だぜ。

 もう少しばかり、他所様が安心できる言葉の使い方を聞きたかった。


 



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