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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
FINAL MISSION: 彼こそが、ダーティ・スー
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Task4 皇帝陛下に謁見してやれ

 前回からまた間が空いてしまって申し訳ないです。

 きれいに終わらせたいので、何かと迷ってしまいがちです。


 ある一つの予感というやつが俺の中にはあった。


 それは、魔王軍の幹部を馬鹿正直に倒していったら、その死体を平和的に再利用(・・・・・・・)しようとするクソ野郎が必ず出てくるだろうって事だ。



 おおよそ見当はついていた。

 そして、結果としてそれは大当たりだった。


 我らが皇帝陛下サマは、ね。

 魔王軍の幹部の力を手に入れようって魂胆ハラだったのさ。


 驚くべき事は何一つない。

 強いて言うなら、あまりにもありきたりな展開だった事、くらいかね。



 そんな見飽きた新聞の一面みたいな筋書きよりも、紀絵が巨大なサソリの怪獣に変身した事のほうが重要だ。

 久しぶりの変身じゃないか。

 日頃から溜め込みがちだから、たまにはそうやって発散するといい。


「グオォォォォォォォオオオォオオ!!!!」

「グルルルルッルルァァァァアアア!!!!」


 怪獣ファイトだ!

 じゃあ、しばらく二人で楽しんでいてくれ。

 大人の女同士、話し合う事もあるだろう。


『スーさん。愚痴っていいですか?』


『好きにしな』


『あたしの分の戦闘機がないから、出番がなくなっちゃいました』


『なに、サボりを怒鳴る親方はここにゃあいないんだ。気楽にやりゃあいいさ』




 それじゃあ、大怪獣エウリアの背中から、偉大なる帝都の大地に足を下ろそうじゃないか。

 久々に踏みしめた石畳の硬い感触は歴史の重み(やつらのマヌケさ)を教えてくれるようだ。

 胸が躍る。



 荒れ果てた街並みに、馬鹿みたいに大量のビラが散らばっている。

“勇者連合快進撃! 魔王軍何するものぞ!”

“物資を集めて勇者を支援しよう!”

“反逆者一匹につき金貨を贈呈! 詳細は冒険者ギルドまで!”


 信じさせたいものだけしか、信じさせようとしない。

 だから、こんなもんしか作れない世の中になっちまったのさ。

 どうやら、どの世界でも似たような事をする奴は湧いて出るらしい。



 チラシを手でバラバラにちぎって捨ててから、俺は煙の槍に乗って空中に飛び上がった。

 帝国の城は、遥か彼方に見えている。




「ダーティ、スライドイン!!」


 煙の槍でまっすぐ移動。

 見えているぜ、愛しのターゲットちゃん。


 真上に到着!

 そしてソフトに着地だ。



 ……さて。

 素敵な出会いを求めて扉をオープンだ。

 まだるっこしいノックなんざ無用さ。

 蹴破って、派手にエントリーしよう。



「皇帝陛下に来客だぜ。この俺様がゲストだ」


 冷たい空気。

 夜明け前に山奥で深呼吸したような、いい空気だ。

 思わずちょっと元気になっちまいそうだね。


「……貴様は“落日の悪夢”!? 総員、構えろ!! 皇帝陛下をお守りするのだ!!」

「ちくしょう、こんな時に!!」

「俺たちは忙しいんだ!」


 近衛騎士団が一斉に槍を向ける。


「いい加減、そのあだ名も聞き飽きてきたぜ」



 さて。

 俺の動きを止めるには、ほんの少しも足りちゃいなかった。

 ひどく薄味な連中だ。

 コーラ味のグミひと粒分にも満たない。


 煙の槍を何本か顔面にぶつけてやっただけで、静かになった。

 いやいや、坊さんの懐にカネを入れるような事にはなっていないぜ。


「弱くはない筈なんだがね。それじゃあ、今から始末書の中身でも考えておくこった」


 ズドン!

 へいお待ち、膝に一発!


「痛ぇ!! くそァ!!」


 オー!

 かわいそうに!

 しかし俺が来てやったというのに、頭数が随分と少ないじゃないか。

 すでにお取り込み中だったりするのかね。

 仕方ない。

 窓枠や屋根を伝って、快適な旅路を楽しもうじゃないか。




 *  *  *




 玉座の間、その真上に到着した。

 下からにぎやかな声が響いてくる。


「ククククク……クハハハハッ!! 甘いわ下郎共! 匹夫が束になった所で何するものか!」


 ガラスのない窓だから、丸聞こえだ。

 ……ほらね。

 こりゃあ誰がどう見繕ってもお取り込み中だ。


 こんなことだったら先に予約アポをとっておくべきだったぜ!

 さて、先客は誰だ。

 覗き見をしてみよう。


「くっ……ご主人、一旦退却しよう! 武器も魔術も効かない!」


「ダメだ、ドリィ! 今ここで倒さなきゃ、こいつが魔王軍の力を手に入れる!!」


「ご主人に死なれるのが一番イヤだ! ギーラを残して死ぬつもりか!? 待っているんだぞ!」


 ……ああ、お前さん達かい。

 飼い主思いなのは結構だが、敵さん前にしてご歓談とは余裕たっぷりじゃないか。

 そういうのは俺の特権だぜ。


 よく見りゃ他にもお仲間がいやがる。

 エンリコ、シグネ(もといジークリンデ)、バズとフェニカ。

 古代遺跡のあった世界でやりあった連中だったが、そうか……こんなところに辿り着いたのか。

 感慨深いが、果たしてここでジークリンデの探しものは見つかるのかね。


 で、皇帝陛下と思しき爺さんは、筋肉もりもりマッチョマンだった。


「余を誰と心得ておる? ルーセンタール帝国の皇帝であるぞ!

 余の首は貴様ら如きの刃で獲れる程、安くはないと心得よ!」


 床に転がった剣を握りつぶし、ぐんにゃり曲がったそれを窓から放り捨てた。

 それから玉座でふんぞり返って、盃に口をつける。


 周りに侍らせている女どもは、下着みたいな鎧だが……ありゃあコンパニオンみたいなもんかね。

 女どもは揃いも揃って髪が白い。

 こりゃあまさか(・・・)だぜ、皇帝陛下よう。


「女に守らせている奴が、偉ぶった口を!!」


「ただの女ではないぞ。レヴィリスの祝福を受けておる」


「祝福だと!?」


「女とは花だ。が、月日を重ねれば枯れもしよう。しかし砂糖漬けにして凍らせておけば、その美しさは永久とこしえのものとなろうぞ」


「レヴィリスの祝福とは、つまり……その在り方を歪めて、人ならざるものへと変えているだけじゃないか!」


「いかにも。冴えておるのう!」


「あんなものに頼った所で、対価に何を取られるか!」


「いつものように力で捻じ伏せ、対価を奪われる前に口を塞いでしまえば良い。帝国騎士団とは、その為のつるぎよ!」


 やれやれ、大概こういうことになるのが相場ってもんかね!

 皇帝陛下のほうがよっぽど魔王じみてやがるぜ。



 ほんの少し観察してみたところ、どうやらフレンくん一行は皇帝陛下の取り巻き共に苦戦中らしい。

 じゃあ、皇帝陛下の真後ろの天井から穴を開けてエントリーと洒落込むかね。


 下準備!

 メニュー画面から買った狙撃銃に、望遠カメラを取り付けて、スマートフォンに映像をリンクさせて、遠くに投げておく。

 下準備終了!


 ダーティ・チョップ!!

 丁度いい大穴が開いた。

 じゃあ顔を見せてご挨拶と行こうじゃないか。



「ごきげんよう、俺だ」



 いい景色だ。

 みんな間抜け面で見上げてきやがる。


 時間差で天井ごと着地だ!

 俺の決めポーズを見てくれよな!

 はい、見てくれてありがとよ!


「アポなし訪問はマナー違反だが、急ぎの用向きなんでね。許さなきゃ泣いちまうぜ」


「オイ、一体なんのつもりだ! お前、人間を滅ぼすとか抜かしていなかったか!?」


 犬女のドリィが吠える。

 確かお前さんは、物覚えが良い割に少し


「手始めにこの爺さんからご退場願うのさ! ご容赦願えるかい、皇帝陛下」


「ダーティ・スー。貴様の力も、余が貰い受ける! 人の世を統べるためには、さらなる力が必要なのだ!」



 ……。

 最悪の気分だ。

 肩をすくめた絵文字を壁になぐり書きしたい。


「お前さん、そのセリフは誰よりもチープだぜ。本格派オーガニックスープ専門店と聞いて行ってみたら、玉ねぎを煮込んだだけの薄味なお湯を高級料理並の値段で出されたくらいの落胆だ」


「塩分の取りすぎよりは良かろう」



 召喚の魔法陣が空中に出てくる。

 面倒臭がる気持ちはわからんでもないが。


「ちょいとは面白みのある連中を呼び出して――」


 ――出てきやがった。

 騎士団の鎧をつけちゃいるが、武器は長物の銃。


「へえ。銃ね」


 槍でもなく、クロスボウでもなく、銃。

 ついにこいつらも、銃を!


 今更ようやくこの段に来て、などとは抜かすまいよ。

 俺らに隠していたのかもしれん。

 なにせ内緒にしておいたほうが、驚いてもらえるってもんだ。


 見たところ、アメリカの兵隊さん達によく使われているようなライフルだ。

 この細長い弾は、当たると痛いじゃ済まされそうにない。

 悪いが、黙って喰らってやるのは御免だぜ。



「陛下、ご命令を! 全隊、準備完了しております!」


「侵入者を鏖殺せしめよ」


「御意に!」


 これから弾幕でも張るつもりかい。

 ナンセンスだぜ。


 パチンッ!


 煙の壁でしっかり弾いてやった。

 よしよし、いい表情ツラだぜ、皇帝陛下!


「ほぉう? やりよるわ!」


 せいぜいその余裕ぶった表情ツラが長続きすることを祈るよ。

 老いぼれ共は息切れが早いからね。


「撃ち続けろ! いずれ弾幕が障壁を貫通する!」


 そりゃあないぜ。

 いくら油断させるための策と言ったって、間抜けのフリをするならそれとなく(・・・・・)やるもんだ。


 スマートフォンを取り出す。

 遠くに浮かせていたスナイパーライフルのカメラから、だいたいの位置を割り出して……と。

 煙の槍を仕込んであるから、あとはトリガーを動かすだけだ。



「なぜだ、まだ突き破れないのか!?」


「そもそも俺が棒立ちして何もしていない時点で、何かがおかしいと思えないもんかね」



 ズドン!

 遥か彼方からやってきた弾丸は、皇帝陛下の右肩を抉り抜いた。



「陛下!?」


 存外、音を上げるのが早かったじゃないか。

 そのままお迎えが来てくれるとありがたいんだがね。


「くははは! この程度は掠り傷よ! 見事であるぞ、ダーティ・スー!」


 などと抜かしちゃいるが、取り巻きの女どもに目配せしている。

 何を仕出かそうというのかね!


「余計なことはするな。おとなしくしてやがれ」


 パチン!


 煙の槍で、取り巻きの女どもを天井に貼り付ける。


「よし、いい子だ」


 さて、次の“仕込み弾(ギミック・バレット)”をスナイパーライフルから発射だ。

 ちょいとばかり、派手なショーになると思うぜ。




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