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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
FINAL MISSION: 彼こそが、ダーティ・スー
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Extend 02 もしかしたら一番狂っているのは

 魔法少女令嬢、臥龍寺紀絵視点です。


「おお、本当に掴んだ! このトラクタービーム、本当に便利ですわね!」


 艦橋の防弾ガラス窓から、


「ファハハハハハハ! どうでしょう!? そうでしょう! 近日中に真価をお披露目しましょう! ミセス臥龍寺!」


 なるほど、この大柄なおじさんが、フランキー・ステイン教授なのか。

 噂はかねがね、ロナちゃんとスー先生からは聞いていたけど、たしかにうるっっっさいな!?


「えっと、それで……この船は、何処へ?」



「ウウウウウム……魔王軍の拠点が一つ“妖精の墓場”なる場所へ向かうという指示でした。しかァし、それは通信が来るまでの話!!! 寄り道しなくてはなりません! 今、ワタシの発明品であるトラクタービームで見事に掴み取った、この積み荷を届けるために!!!」


 うう~~~!

 駄目だ~~~圧されて精神が真っ白になる!!


「それは大変ですわね!」


「そうでしょう、そうでしょう!? 何処へ寄り道せねばならないと思いますか!?」


「わかりませんわね!」


「そう! 帝都なのです!! 目的地とは正反対の方角! この船を、見せつけねばならないというのですか……人々に、この船の――駆逐艦コシチェイの美しさを――……!!!」


「ええ、ええ、本当に大変ですわね!」


 ていうか、この手の変人さん達、会話の名を借りた一方的な演説だから、テキトーに相槌うって聞き流していいよね!?

 でもなぁ~~~!!

 ここで大半の構ってちゃんは“今の話どこまで聞いてた?”的な内容の質問してくるからなぁ~~~!!



「磁力調整ダイヤルとその固定具に至るまで特別に調整し、配置までこだわり抜いた」


 だァ~めだこりゃ。

 想像以上にヤバいや。

 半分くらい寝ててもいいっすか?

 いいよね?


 スリー!

 ツー!

 わん!!

 …………スヤァ……


「起きてくれませんかねェ~~~!!!」


「わぁああああ!! おはようございますぅうううう!!!」


 トラクタービームで高い高いされた!!

 ひいいなにこれ、目が回る!


「降ろしていただけませんこと!?」


「話の途中で寝ないと約束していただけるなら!」


「嫌じゃ!! 酔っ払いのカラオケ録音したやつ垂れ流してたほうが何杯もマシですわよ!」


「よく言われます……」


 ――ポイッ、ゴツーン!!


「ぎゃあ! ……あいたたた」


 突然凹むんじゃないよ!

 開幕早々めんどくさいヤツだなぁ、キミは!

 スー先生達、よく平気だったな。

 いや、きっと雑にスルーしてたんだろうな。

 クラサスさん相手にもそんなテンションだったし。


「情緒不安定すぎか……」



 いかん……!

 私は普段、ボケ側のほうが多いのに、この手の濃厚な人達を前にするとツッコミに回らざるを得ない……!


 というか、ちょうどいい聞き手なら、先程キャッチしたばかりじゃないか。

 私なんぞより、よっぽどシリアスな状況にメンタルやられまくっているだろうし。


 と、いうわけで……

 艦内のモニターの番号を呼び出して、ポチポチっとな。

 はい!


「マキトさん御一行、いらっしゃ~い!」


『……何が望みかな。命に係る内容じゃなければ甘んじて受け入れるよ』


 微笑みながら答えるマキトくん、すごく達観している。

 穏やかな諦観を全面に出しながら、虎視眈々と狙っている感じ。


『オイ、あいつトーエじゃないか? 声がそっくりだぞ』


 わあ、リコナちゃん、するどい!


『まさか私のマキトを取りに来たのか!? 執念深い横恋慕だな!』


 いや、イスティさんそれはないです。


『……あいつが、あいつさえ殺せたなら……姉さんを狂わせた悪党……あいつだけは……』


 リッツさんは、事前情報にもあったように、ご機嫌斜めだ。

 というか、死んだ魚のような目で虚空を眺めながらぶつぶつと呟いていて、私だけじゃなくて他の人のことも眼中にないみたい。

 たぶん宿敵オルトハイムを取り逃がしたから……かな。


『お嬢さん。リッツの事は、そっとしておいてくれるかのう?』


 このドワーフ――オラモンドのブロイさんは、陰ながら何かと気を利かせる、気配り上手。



 ……この人達が、スー先生に何度も負かされているのかぁ。

 かつて私がスパイをしてた時に間近で見た感じとか、ロナちゃんがまとめてくれた資料を読み返す限りでは、実力も名声も第一級なんだけどな。

 プラチナというかSSSクラスというか、そんな感じの。


 相手が、悪すぎるんだろうね。

 うん。


「復讐相手を、この船で探し当ててみせますわよ」


『無用です。どうせわたくし達を騙すつもりでしょう?』


「いいえ。騙すのではありませんわ。利用していますのよ」


 はいはい、落ち着いてね、リッツさん。

 妙に血の気が多いのは、ナターリヤさんの妹だからなのか。

 いや関係ないな……人の歩みを決めるのは血ではなくて心だもの。

(うん、いいこと言ったぞ私!)


「わたくしはあなた方を利用する。あなた方も、また同じようになされば宜しいのではなくて? 悪いようにはいたしませんわよ。スー先生とは違ってね。ウフフフ」


『いずれにせよ、私達は鳥籠に放り込まれていて何もできん。当面は言うとおりにしてやらんでもないぞ。貴様のことは存外、嫌いではない』


「あら光栄ですわ、イスティさん」


 どうでもいいけどイスティさん呼びのほうが、ノイル卿と呼ぶよりしっくり来るな。

 生前はファーストネーム呼びとか完全に無縁だったんだけど、私も成長できたって事なのかな。



「前方に魔王軍の空挺部隊を確認!」


 ブリッジには何人か兵士が配備されている。

 ステイン教授の部下かな?


「故意に殺害はしない、という契約内容はご存知ですわよね?」


「もちろん、無論、言うまでもなく!」


「どのようにご対応なさるのか、お手並み拝見と参りましょう」


「ミュージック、スタート!」


「なに? え、なに?」


 床下からせり上がってくる、クソデカ蓄音機。

 もちろんレコードの大きさ自体は据え置きだ。


「やはり戦いの真っ最中は、ワーグナー! ニュルンベルクのマイスタージンガーは最高ですね! ンンン! 盛り上げて参りましょうッ!!!」


 何もそんな大音量で流さなくても良くない!?

 あ、なんか戦闘機がたくさん飛び立っていった。


「ごめんあそばせ。わたくし、兵器には疎くて。あちらは何と言いますの? あ、お名前だけで結構でしてよ。ググりますので」


 ステイン教授に訊かなきゃあとでめんどくさそうだけど、解説まで挟まれると聞き取れない。


「あれなるは、スホーイSu-35異世界カスタム! 多目的プラズマキャノンと反重力・マルチリアクターを搭載した、魔王軍も真っ青な秘密兵器! ナターリヤとの共同開発でござい!!!」


 あー、長くなるぞ。

 長くなるぞ、これは!


『クドゥラクリーダーから5、巡洋艦コシチェイ管制室へ! 接敵距離まで残り10秒!』


「各機、プラズマワイヤーネット投射ァ!!」


『了解! プラズマワイヤーネット投射!』


 騒がしいのは正直しんどいけど、さすがはインチキ超科学ビーム!

 インプやガーゴイル、レッサーデーモンにガルーダ、文字通り一網打尽ではたき落とされていく!


 モニター越しにマキトくん達の様子でも見てみよう。

 ……うん。

 呆然と眺めることしかできないようだ!


「皆さんお元気かしら~!? わたくしも同じ気持ちでしてよ~!」


 あ、リコナちゃんが手を振ってくれた。


『とりあえずなんだけど、アタイらをどこに運んでいるかだけ教えてくれないかな?』


「帝都だそうですわよ。委細は存じ上げませんけれども、お目当ての方々もそこにいらっしゃるのではなくて? ……たとえば、オルトハイムとか」


『くっだらねぇ。帝都にいる証拠は掴んでるのかよ? 当てずっぽうだったら――』


『リコナさん。わたくし、賭けてみます』


『マジか。けどよ、我らがリーダーさんはどうお考えなんだ? えぇ? マキト』


『このタイミングでは、無駄な足掻きはしないでおこう』


 じゃ、決まりだ!


「それでは、帝都まで快適な空の旅をお楽しみくださいませ」


 野ざらしの鳥籠に詰められながらじゃ快適とは程遠いかもだけど。

 私は、いわゆる淑女の一礼……カーテシーをしてみせる。

 出会い方が違っていれば、友達になれたかもしれない。

 けれど、こうなってしまったからね。


 みんな、ごめんね。

 もう少し、我慢しててね。




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