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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION18: スワンプマンを待ち侘びて
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Final Task 大統領と対話しろ


 ナターリヤの飛空艇はワープ機能が付いているお陰で、どこにでもひとっ飛びできる。


 こんな便利な代物があるのに「連れて行け」と抜かすのは、とどのつまり俺の姿が必要だという事だろう。

 まあ、何処ぞのお姫サマに使われるよりは、お前さんに使われるほうが何かと納得がいくってもんさ。


 仕掛け弾“覗き見の妖精”で映像も集めた。

 アプリで録画してある!

 ちょっとアングルに無理があるのは、忍者みたいなドローンでも飛ばしたって事にしておきゃいい。


 そして映像の編集については紀絵が詳しいから、丸投げしておいた。

 ロナも持ち前の飲み込みの速さで、あっという間に名アシスタントになったらしい。


 渡された動画は、誰がどう見てもニュースのトップを飾るにふさわしいスクープ映像だ。



 もちろん動画制作の最中に俺だって何もしていなかったわけじゃない。

 世界中の猫をかき集めた。

 俺の言葉が通じて「とっとと人間に戻りたいなら、俺の言うことを聞けよ。今ならアメリカ大統領との握手仲介サービスまで付いてくるぜ」と言ったら付いてきてくれる、魔法の猫だ。


 ブリッジの中央には、いつぞやの間抜けなスパイのお嬢ちゃんが檻に入れられている。

 今じゃすっかり馴染んで、ロナや紀絵を茶化すなり、くつろぎながら嗜好品を求めたりする有様だ。

(確か、エマという名前だった気がするが、俺が関わる事でもないから敢えて覚える必要もあるまい)



 それじゃあ、カバーストーリーも作ったし、殴り込みと洒落込もうじゃないか。


「変身」


 ハッチオープン!

 パラシュートも無しに降下!

 そんな俺が手に握っているのは、ジャンヌの死体だ。


 変身中は、この程度の高さなら屁でもない。


 雲の上からジャンヌをお姫様抱っこしつつダイブして、スーパーヒーロー着地だ。

 左足の裏と、右の膝が地面を抉る。


「――ごきげんよう、俺だ!!」


 ホワイトハウスの目の前で、俺は声を上げる。


 すると、またしても迎え撃ちに出てくるのは女どもだ。

 まるでこれからラインダンスでも踊るんじゃないかって格好をしてやがる。


 武器は緑色に光る槍で、先端に機関銃が付いていた。

 あれじゃあ取り回しが悪すぎる。

 くるくる回すバトンじゃないんだぜ。


「ショーガールをシークレットサービス代わりとは世も末だぜ、大統領閣下!」


「気が合うじゃないか。私も同感だよ、ミスター・インベーダー」


 ショーガールが次々と道を開ける。

 声の主が奥からやってきた。


 大統領だ。

 写真より老けて見えるが、間違いない。


「じゃあ、技術屋連中の趣味かね」


「そんなところだろう。だが人類の存続には致し方ない」


「そりゃあすごい大義名分だ。街で見かけたテレビ人間といい、どれだけ痛くないふりをするつもりなのかね」


「それは人類全員の奮闘次第だ。私一人が足掻いても変わらん。

 逆に言えば、今こうして我々が置かれている状況は、一部の怠慢が招いた事だ。努力が足りなかった。

 それよりも本題に入ろう。君の連れてきてくれたレディは、我々にとって特別な存在だ。取引のカードにでも使うつもりか?」


御名答ビンゴ! 裏切ったとはいえ救国の英雄だ。お前さんだって、目の前でハンバーグを作られるのは気分が悪かろうよ!」


「野蛮だな。仮にもグリッチャー殲滅を成し遂げた男が、死体の尊厳を損なうと脅迫するとは。東側諸国のやり口を学んだのか?」


「まるで1960年代以前からタイムワープしてやってきた老いぼれみたいな事を抜かしやがる。今が何年なのか、もう一度カレンダーを見てこいよ」


「2020年だ。1999年にセンチネルとなった者達は本来であれば引退していなければならない」


「そりゃあお前さんもだろう。2004年からどれだけ続けるつもりかね。フランクリン・ルーズベルトじゃあるまいし」


「だが私でなければ、企業も、人も、それらを包括する国家も存続できなかった。前任者は理想ばかりの甘ちゃんでね」


「いっちょ前に吹かしやがるぜ。企業の靴を舐めるしか能がないくせに」



 足を一歩すすめる。

 シークレットサービスショーガール共が銃を構える。

 隊長クラスの奴が、大統領の隣でメガホン片手に警告してくる。


「止まれ! これ以上の接近は許可しない!」


 人と人がブチ当たる場面くらい、大人にやらせようぜ。


「繰り返す! これ以上の接近は許可しない!」


 知ったことじゃない。

 俺は、近付く。


「最後通告だ! 止まれ!」


「構わんさ。やってみな」


「撃てェ!」


 可哀想に。

 声が裏返ってやがるぜ!


 緑色の銃弾が次々と俺に命中するが、全て弾いた。

 こんな豆鉄砲じゃあ駄目だ。


 もっと、俺を“くたばるしかない状況”に追い詰めてみせろよ。

 少なくとも俺のいた世界じゃあ、軍隊はそれくらいやってのけただろう。

 やってみせろよ。


 まあ、無理だろうがね。


「どうした。俺はゲバラでもラスプーチンでもないぜ」


 それより、大事な大事なジャンヌ(死骸)が、このままじゃあボロ雑巾になっちまう。

 俺はジャンヌをその場に置いて、瞬間移動で距離を詰めた。


 大統領の目の前に。



「てめえの真上で核弾頭を爆発させるわけにも行かないだろう。握手しようじゃないか」


「左手でか?」


「どうせ血みどろの両手なんだ。左手だろうと変わらんだろうさ」


 さて、念話で合図だな。


『ロナ、ナターリヤに伝えてくれ』


『ほ~い了解』


 轟音が鳴り響く。

 こいつらからしたら、空中に突然スクリーンが現れたように見えるだろう。

 正確に言うと、ナターリヤの飛空艇がワープしてきた。

(当初の打ち合わせ通りだ。その調子で頼むぜ)


「混じりっけ無しの純度100%ノンフィクションだ。もちろんリアリティ・ショーでもない」


 スクリーンに映し出されたのは、ジャンヌとウィルマの戦いだ。

 それが終わると、ウィルマのプロファイルと、ナターリヤの生前――つまりモニカとして生きていた頃の研究内容についても解説したVTRが流れた。


 電波をジャックして、世界中で流している。

 ジャンヌがそうしたようにね。



 映像に夢中になっている間に、飛空艇から猫達を下ろす。

 世界中から集めてきた、センチネル共だ。

 仕掛け弾で猫にしてあったのを、ここで元に戻しておく。

(この世の何処かには取りこぼしがもうちょいとばかりいたかもしれんが、どのみち俺がこの世界から退去オサラバすりゃあ元に戻る)



「で? これを観せて我々は何をしろと言うのだね? まさか拍手喝采を浴びせろという要求でもあるまい。C級未満の粗末な映画にもならない。作ったやつはカフェイン中毒者か? 例えば、君のような」


「映画じゃなくてノンフィクションだと最初に言った筈だが。話を聞くのが苦手とは大統領にあるまじき欠点じゃないかね」


「私が注意力散漫であることを期待していたのならば、残念ながら諦めてもらうしかない」


見えていた(・・・・・)さ。俺は映像に集中してほしかったんだがね」


 猫から元に戻したセンチネル共が、ショーガールのセンチネル共と睨み合っている。

 


「サプライズを企図した、君の落ち度だ」


「そういう事にしておこう。さて、モニカが告発された理由についてだが、果たして本当に反社会的な研究が理由だったのかね。米軍の兵士にエーテルをブチ込んだ結果、今までひた隠しにしていた事がバレちまうのがおっかなかっただけじゃないかね」


「何を根拠にそう言える? 陰謀論はリベラル気取りの悪い癖だ」


「リベラル気取り共と同じくらい救いようのない連中は右側にもいるだろう。根拠ならスクリーンに映してやるよ」



 見ておけよ。

 引退したとされるセンチネルが、どいつもこいつもエーテルを取り出されて“再利用”されるサマを。


 ショッキングだろう。

 引退してのどかな田舎町で隠居できるかと思ったら、もうあと十数年も生きられないって思い知らされるんだぜ。


「不都合な事実って奴を目の当たりにしたお前さん達の取るべきは、世界のために何もかもを捧げる事かね。それとも、今ここで大統領閣下を人質に、企業から生存方法を教えてもらうなり作ってもらうなりする事かね」


「無駄だぞ。ダーティ・スー。君の蛮行が為されれば、世界は混沌から立ち上がれない。

 アメリカは、世界は、君の気まぐれには靡かない」


「こんなご時世だ。俺には靡かなくても、あの女にはどうかな」


 俺の隣に光の柱が差し込む。

 ナターリヤが船から、その光の柱を通って降りてきた。


「君は、誰だ」


「ナターリヤ・ミザロヴァ。異世界からやってきたエルフよ」


「……」


「ねえ、センチネルの貴女達。私は個人的な感傷から、貴女達に手を貸したいと思っているの。本当の意味で世界を救ってみない?」


 あとは、こいつに託す。

 カバーストーリーも組み立て済みだ。

 それに、俺ほどじゃあないが腕っぷしもある。

 充分にやっていけるさ。



 懐中時計が光っている。

 任務完了だ。

 もうじき俺とロナと紀絵は、この世界から出ていく。


「もう追加オーダーは、いいのかい」


「ええ、あとは私に任せて、貴方達は先に行って。ジルゼガットの事は頼むわね」


「いいぜ」


 せっかく向こうから誘ってくれたんだ。

 奴の正義が検証に値するかどうか、調べてみようじゃないか。

 こっちの世界は結果的にゃあ悪くはなかったが、ちょいとばかり消化不良気味だ。


 この世界は、こいつらの正義を検証するどころじゃないくらいガタガタだった。

 幾らかマシになったと信じたいね。




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