Task5 世界中のグリッチャーを始末しろ
かつての英雄ジャンヌの宣戦布告に、政府――もとい大統領サマの返答はシンプルだ。
――『今は共に手を取り、旧時代の亡霊が蘇らせたグリッチャーを征伐する事に心血を注ぐべきだ』
これが結論さ。
他にも色々と御大層なお題目を並べ立てちゃいたが、突き詰めちまえばなんて事はない。
要は“つべこべ言わず英雄ごっこに徹しろ”って事さ。
当然、ジャンヌが納得できる内容じゃない。
停戦協定なんて、はなから視野に入れなかった。
――『生殺与奪権は、こちらが握っています。敢えてグリッチャー討伐をボイコットすれば、どうなるかは明白。嘆きなさい、守り手の不在を』
そして、こうも付け足した。
――『なお、脅威となりうる敵は排除します』
つまり、グリッチャーにやられる一般市民を遠巻きに眺めつつ、センチネルにはちょっかいを出すと!
あのマッチョな精鋭揃いの海兵隊御一行サマが、主役どころか噛ませ犬やら囮役にすらなれないこの世界で!
FBIだって怪奇現象を相手に為す術もない!
そんな世の中で、言うに事欠いてこれだぜ!
こりゃあ傑作だ!
まったく反吐が出る以外のなんと言ってやりゃあいいのやら!
挙げ句、陰謀論がそりゃあもうあちこちから飛び交って来やがる。
東西南北どこ見ても、金に発情したお盛んな連中が揃いも揃ってイチモツをギンギンにおっ勃ててやがる!
大統領暗殺計画やら、今や絶滅危惧種になっちまった陸海空軍のクーデターやら、まことしやかに囁かれているぜ!
テレビニュースでもだ!
(つまり言論の自由が、テレビでだけは保証されている!)
笑わせやがるぜ。
やれやれ、まったく。
……さて、それじゃあ仕事を始めようじゃないか。
思うに、戦いは全てシンプルにすべきなのさ。
余計な横槍、しゃらくさい策謀、陰謀論やトンチキスピリチュアリズムに踊らされる間抜け共!
そんなもんは俺が来る前に、腹を下すほどやり尽くしたじゃないか。
その結果がこれだ。
決着のつかない混沌を、全員に強制だなんて、そりゃあ嫌気が差すってもんだぜ。
いい加減、飽きるだろう?
だから全部、取っ払う。
のろまなヒーロー共よ。
お前さん達の成し遂げたかったありとあらゆる事を、お前さん達の目の前で成し遂げてやる。
見せつけてやる。
俺様がその気になりゃあ、運命は全てこの手の中だ。
もしも神サマとやらが見張ってやがるならば、ほぼ確実に「やりすぎだ」と抜かすだろう。
だが、言わせておこうじゃないか。
どこまでが許されるかは俺が決める。
モーテルにコルクボードを立て掛けて出張だ。
ロナと紀絵は、ナターリヤと留守番してもらう。
世界地図を見ると、陸の形がまるきり違うって事が見て取れる。
位置関係はそのままだが、元の形とは似ても似つかない。
海に沈んだり、宙に浮いたり、隕石で削られたりしたからだろう。
まずはボロボロのアメリカ大陸!
グリッチャーの大群にセンチネルの嬢ちゃん達が、今まさに負けそうになったその時に運良く出くわした!
じゃあやる事は限られているよな。
「――ごきげんよう、俺だ」
とスーパーヒーロー着地を決めながら挨拶をしてやる。
大抵どいつもこいつも「誰!?」と訊いてくれるもんだから、これがまた気分爽快だぜ。
もちろん、グリッチャーは片っ端から叩き潰してやった。
煙の槍を土砂降りのように叩き込んでやったもんだから、あっという間に辺りがきれいになっちまった。
「窮地になってから現れる奴がいるだろう。まるで窮地になるのを待っているみたいだぜ」
「よくも言い掛かりを! 一体何を根拠に!?」
「路地裏の小汚いジジイの気分になってみた。それが根拠さ。ところでお前さん達は、どっち側なのかね?」
「――ッ」
オー!
怖い顔をしてくれるなよ、子猫ちゃん達!
ここは両手を上げて無害である事をアピールしておかなきゃな。
「ちなみに俺はどっちでもない」
うち一人が武器を構える。
こりゃまた随分と健気ですこと。
「どちらでもないなら、どちらの敵にもなりうるわけね? あなたは、ここで倒すわ」
間抜けが。
パチンッ
煙の槍を背中からブチ当てて、土下座させてやった。
「熟睡しな」
リロード。
一発ずつ、慈しむように。
「この“仕掛け弾”についての説明をしてやろう。こいつが当たっても、お前さん達の遺影が国葬で並ぶ事は無い。どうなるかは、そうだな……」
ズドン!
極太のビームを浴びせる。
煙が辺りに立ち込め、それが晴れると、そこには猫の群れがいた。
「……“猫の群衆”って名前なんだが、今まさにそんな状態だな」
「「「ウミャー!!」」」
「ニャア! ニャア!」
「フシャアアアア!」
おお、かわいいねえ!
そんな一生懸命に引っ掻いても俺は痛くないぜ!
「落ち着けよ。人の姿に戻った後ちゃんと服も付いてくるし、人間の言葉がわからないなんて事にはならん。お仲間同士で会話もできる。じゃあな、お嬢ちゃん! 良い休暇を!」
実は、お出かけの前に試しておいたのさ。
事故は起きなかった。
安全性は証明済みだ。
(いくら認証マークが付いているとはいえ、それを過信するほど俺は能天気じゃあない)
さて。
他のセンチネル共についても、まず目の前でグリッチャーを片付けてから、同じように猫へと変えてやった。
「血みどろの抗争はギャングムービーにでも任せておけばいいのさ。
そもそも世の中がオシャカになりかけているのに争うなんて、人間っていうのは所詮、獣だね」
もちろん、呪いを解く方法はある。
俺が解除装置のラッパを吹けばいい。
または俺がこの世界から退去するか。
それまで頑張れよ!
南アメリカ大陸はバラバラの島になって空中に浮かんでやがった。
次は、ここを攻略だ。
グリッチャーの数は、そう多くはなかった。
もう一度湧いて出たらしいが。
既に一度は一掃したからなのかね。
治安ははっきり言って最悪だ。
だから総大将にはロビンフッドごっこに興じてもらうよう頼み込んでやった。
そりゃあそうだよな!
大麻畑を一瞬で半分以上、御破算にしちまったんだ!
「クソッタレ……わかったよ」
残り半分を潰されたくなけりゃ、従うしかなかろうさ。
人間ってのは、棺桶に片足突っ込むと、とにかく手短に済ませられるものを求める。
この世界はヒーロー不在で、どいつもこいつもてめえの事で手一杯だ。
棺桶から引っ張り上げる奴が見当たらない。
だが俺の役目じゃあないから、ヒーローの邪魔する奴を
グリッチャーを見つけ次第、全部、ズドン!!!
アメリカ大陸横断編が完結だ!
ちなみにジャンヌはここにはいなかった。
そうだろうさ。
お次はオーストラリア大陸。
これがまた随分と様変わりしていて、氷の柱がわんさか地面から突き出てやがった。
寒いところにゃあ、あまりグリッチャーは湧いて出ないらしい。
静かなもんだ。
だが、まるきりいないわけじゃない。
じゃあ俺のタスクは至ってシンプルだ。
「あなたは、誰……一体、何が目的なの!?」
グリッチャーを片付けて、出くわしたセンチネルに停戦協定を呼び掛けるだけだ。
一瞥もせず、シリンダーに弾を込める。
「俺は、善悪の横っ腹に立つ者さ」
「何を言って――」
ズドン!
お前さんは猫になった!
たどり着いたはアフリカ大陸。
砂漠には巨大ミミズのグリッチャーが山ほどいるし、どこもかしこも砂漠だったり溶岩地帯が広がっていたりと、ろくなもんじゃない。
この分じゃあナイル川なんて潰れちまっているだろう。
センチネルは、ごく少数しか残っちゃいなかった。
派閥争いには興味を持てるほど、余裕もなさそうだ。
「待っていろよ。今、楽にしてやるからな」
「誰よアンタ!? こっちはグリッチャー退治で忙しいのに! まさかジャンヌの――」
――ズドン!
「へっ!?」
グリッチャーを“ケア”してやりゃあ、ちょいとばかり楽になるだろう?
そら、今すぐ楽にしてやるよ!
ズドン、ズドン、ズドン!
プラズマ弾頭が、敵を容赦なく焼き尽くす!
ズドン、ズドン!
遠くまで、ばっちりだ!
「う、ウソ……私達があんなに苦戦した、グリッチャーの群れが……」
「休業届なら出しておいたぜ。それじゃあ、良いバカンスを」
リロード!
ズドン!
「にゃあ……」
束の間の休息だ。
楽しんでくれ。
ふう!
まだまだ先は長いぜ。




