Intro 模造品の青春
今回よりMISSION18です。
よろしくお願いします。
彼女らの生まれ落ちた世界では、1999年に幾つもの隕石が地球に降り注いだ。
12の隕石は地球を破壊し尽くした。
地形も、生態系も、そして人々の在り方も。
――そして程なくして。
怪物達が、隕石から生まれ出た。
奇妙な光を宿した、生命とも機械ともつかないそれらは、現れるなり人類に攻撃してきた。
初めこそかろうじて抑えきれていた怪物の侵略だが、戦況は次第に悪化していく。
銃弾の軌道が捻じ曲げられた。
ミサイルが砂に変わった。
戦闘機が空中で固定され、溶けた。
怪物達が、魔法としか思えないような攻撃を使い始めたのだ。
更には、世界の各地が従来の世界からは考えられない姿へと変貌を遂げた。
空中に浮かぶ巨大な大陸。
拡大表示したかのような、出鱈目な大きさの菌糸の樹海。
海上に聳え立ち、成層圏をサメの群れが泳ぐ、骨の塔。
人々はそれを“異界化”と呼んだ。
まるで、世界の理を捻じ曲げるような存在。
人類はこれらの怪物を、その特異な性質から“故障させる者”と名付けた。
――そして。
人類は反撃の一手を企てる。
まず、国境を超えて団結した。
グリッチャーの支配領域より奪い取った素材を基に、エーテルと呼ばれる新たなる物質を作り出した。
研究によって、エーテル適合者は10代から20代の女性というデータが得られた。
このエーテル適合者としてグリッチャーに対抗する力を持った女性達を、守る者――“センチネル”と名付けた。
センチネルとなった彼女達は、専用の調整が為された剣や槍などの近接武器を手に、そしてエーテルで構成された装甲を身に纏い、人外の膂力と、まるで魔法のような力を自在に操る。
また個人差こそあれど、短時間であれば飛行も可能とした。
何より、グリッチャーの事象破壊にも耐性を持つ。
グリッチャーは意思を持たず暴力を振るうだけの存在。
対抗する彼女らセンチネルは、それを倒し続けるだけで良かった。
奇妙な外敵を倒せば、兵士も、そうでない民間人も、愛する人も、死なずに済む。
そう教えられてきた、筈なのに。
「……どうして、こうなっちゃうのかな」
センチネルの一人……黒髪の少女が、荒野を眺めてつぶやく。
かつてここにはユーラシア大陸北東方面基地があった。
その基地は今、センチネル同士の戦いで壊滅している。
共通の敵がいなくなった途端にこれだ。
平和な世界を夢見ることなど、一瞬たりとも許されはしなかった。
グリッチャーの殲滅が確認された日を境に、国々は再び闘争を開始した。
国境を超えた団結とはいっても、国そのものが消えたわけではない。
この戦争の引き金となったそれは“13番目の隕石”を発見したという嘘の情報で敵を出し抜き、そして攻撃した。
殲滅を人々に信じられていたグリッチャーは、再び現れた。
「いやぁ或いはずっと前からそうだったのかもしれないねぇ。こりゃまたずいぶんと業の深いことで、ハハハ」
隣にいた緑髪のセンチネルは、おちゃらけた様子でそうつぶやく。
黒髪のセンチネルは、その軽薄な言動にため息を付いた。
「……笑えないよ」
「やだね。私は笑う。今に見てなよ。夢の中に未来の自分がやってきて、私らにこう言うんだ。生きてりゃいいことある、ってね」
「ポジティヴすぎるでしょ」
「いまのあんたと足して2で割りゃ丁度いい」
「あはは。言えてる」
ずっと前から、歪みは存在した。
女は子を産むか戦場で死ぬか……どちらかしか選べなかった。
それに、センチネルになった少女達は殆どが生殖能力を失い、そして加齢による外見の変化がなくなった。
もっと言えば、マスターと呼ばれる管理職の殆どが男性というのも、この黒髪の少女にとっては吐き気のする話だった。
マスターとセンチネルは一対一の関係となる。
(ごく稀に、マスター一人に対し複数のセンチネルを従えている関係性もあるらしいが)
戦闘の心得を効率的に伝えるというものらしいが、果たして本当にそうだったのだろうか、と彼女は思う。
何分、性的関係を迫られてマスターに反抗した結果、事故で殺害してしまった。
彼女らセンチネルは、軍法会議に通されない。
問答無用で殺処分が決定され、以来ずっと追われてきた。
それでも人知れずグリッチャーの討伐を続けていて、たとえば大国から見捨てられた集落などを巡っていた。
ようやくラジオで、世界で最後のグリッチャーが討伐された事を耳にした時、次に狙われるのは自分だと、彼女は覚悟した。
だが実際には、どうだろうか?
目の前に広がる光景がすべてを物語っている。
彼女は悟った。
もはや、自分を狙ってくる事はおそらく無いのだと。
EOF……“エンド・オブ・ファルス”
センチネルだけで構成され、センチネルによる自治独立を標榜する組織。
参列した今、かつてのような孤独はもう無い。
「ンじゃ、悪霊退治と決め込みましょうかね」
荒れ果てた世界に突如として現れた、おびただしい数の悪霊。
付近が異界化している事も関係しているかもしれない。
或いは……悪霊と誤認されている何かが、潜んでいるのだろうか?




