Result17 幼年期の終わり
長らくお待たせして申し訳ございません。
ようやっと、スランプを脱しはじめたかなといったところです。
少しずつですが、投稿を再開していけたらと思います。
「だから言っただろう。あいつは信じられんと。悪党などすべからく皆殺しにしてしまえば良いのだ」
イスティ・ノイルは忌々しげに言い放つ。
それでもマキトを治療する時の表情は、どこか慈しむかのようだ。
「最初にあいつと会った時のこと、覚えてる?」
「ああ。死ぬほど屈辱だったよ」
「僕もだ」
二人は追憶する。
まったく刃が立たなかった、あの恐るべき闖入者――ダーティ・スーとのファーストコンタクトを。
当時としては最善を尽くした筈なのに、実力も人数も不足はなかった筈なのに、あらゆる攻撃を無力化され、あちらの攻撃は防ぎきれなかった。
それでもダーティ・スーは、マキト達を嬲り殺しにはしてこなかった。
物事を横合いから覗き見て、善悪の区別をさえ嘲笑う。
マキト達一行はしかし、今ならあれらの一連の行動には一貫性がある事を確信していた。
すなわち“自らの正義を疑わぬ者達への歯止め”という、それである。
イスティは、だからこそ信用に値しないと断じたのだ。
得てして、己の信念にのみ忠実であろうとする手合いは、最終的には誰とも通じ合わない。
友人や仲間を持とうとせず、思想の近似した“同志”をこそ尊ぶ。
そして、恩義に報いるということを知らない。
……そのように、イスティは考えている。
背後で、身じろぎする影があった。
全員がそれを見る。
「同期できぬので何事かと思えば、これは一体……」
正気を失っていた筈のグレイ・ランサーが、きょろきょろと辺りを見回していた。
「どうやら存分に味わったようだね」
マキトは既に、事情を理解していた。
首輪をエンリコが付けた事で、レヴィリスの権能がエンリコへ移譲され、レヴィリスは依代を全て奪われた。
レヴィリスの管理していない依代候補が、グレイ・ランサーだけになった。
今まで持っていた操作可能なキャラクターを失ったゲームプレイヤー……そのようにも例えられる。
この世界は決してゲームではなく、現実だが。
「うう、なぜだ……なぜ、我が寵愛を拒む! 共に歴史の表舞台に立てる好機なのだぞ! まさか、これもダーティ・スーがやったのか!?」
「その、まさかだよ」
マキトは断言した。
実際に現場を目撃していたし、物事が大きく動く時はたいてい、奴が動かしていた。
それに、憑蝕竜とやらはまともな相手ではない。
こちらとてまともに相手にしてやる義理は無いのだ。
「一体どうやって……我が依代を一気に奪うなど、あり得ん……!」
「あいつは、一味違うんだ。僕達と違う世界を何度も見てきた。飛び越え、この世界になかったものを持ち出し、持ち込む。そして、奪っていく。その身体もお前のものじゃない。いつか返してもらうぞ」
「くッ……!」
魔王軍の戦力は、これで大きく削られた。
残された幹部は……――
海から魔物を呼び出せる、異端者オーギュスト。
武を尊び高い戦闘力を誇る、魔の戦士ゼッデルフォン。
ルーセンタール帝国を離反した、不死の騎士オルトハイム。
そして、マキト達をこの島に導いた……謎多き錬金術師ジルゼガット。
だがオーギュストとゼッデルフォンは、ここから程なくして倒される。
帝国騎士団宰相派により、彼らの凶刃に刺し貫かれたのだ。
――『帝国に勇者は不要』
帝国騎士団宰相派の首領マクシミリアン・デュセヴェルの宣言はまたたく間に波紋を呼び、世相を大きく変じさせた。
魔王をめぐる大戦は、急激な変動を見せた。
“人対魔”の戦いは……“人対人”の戦いへと戻りつつあった。
或いは、初めからそうだったのかもしれない。
―― 次回予告 ――
「ごきげんよう、俺だ。
ナターリヤが今までずっと錬金術にのめり込んできた理由が、俺の予想よりずっとブッ飛んでやがった。
倒したい奴を再現するため、そしてそれを倒すてめえの肉体を作って召喚するため……
なるほど、そのためだけに、その瞬間のためだけに、ずっと支払ってきたってワケだ。
気が狂うほどの覚悟が無けりゃ、そんな真似はできやしない。
いや。
毎秒、気が狂うほどの覚悟をしなきゃ生きていられない世の中なら……そうもなるだろうさ。
炎の中に埋もれた真実は、煙になって空に消え、煤になって土に溶ける。
そうなっちまったら、記憶を頼りに作り直すしかない。
思い出に、拳でキスしてお別れさ。
さあ、準備を済ませよう。
次回――
MISSION18: スワンプマンを待ち侘びて
さて、お次も眠れない夜になりそうだぜ」
 




