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Task3 マキトを狙撃から守れ!


 まったく、度し難いねえ。

 どうせ大した目的も無いくせに!


「さっさとブチのめしてご退場願おうじゃないか」


「確かに。クレフは比類なきクソでしたけど、ツトムも大概でしたよね」


「ああ。奴の正義は検証するまでもない」


 ところがね。

 こんな俺の、全力を尽くしつつもリラックスした段取りであっても、どうにもならない事だってある。

 俺の身を護るくらい、テーブルの上のパンくずを払い除けるようなものだ。


 だが他人、とりわけVIP待遇のお客さんを護るとなると、そうは行かない。




 ―― ―― ――




「この近くだった筈だが」


「便利ですよね、そのサーマルセンサー付きサングラス」


「今頃、改良型がそこかしこに出回っている頃だろうさ……おっと」


 マキトのやつが襲われてやがる。


「様子がおかしいですね。何事?」


「何やら匿っているようだが」


 ツトムの奴は、それがお目当てなのか。

 それとも、マキトが匿っている何者かを攻撃する事で、マキトをおびき出そうとしてやがるのか。

 多分、後者だ。



 しまいにゃ煙幕だと。

 サーマルセンサーサングラスのおかげで、丸見えだがね。


 だがマキトくん御一行様は、随分とやりにくそうだ。



 騒ぎに乗じて荒らして回るとしようじゃないか。

 煙の槍を展開!

 だが。


「――あ?」


 煙の槍が消えた。


 ……そのカラクリにゃあ見覚えがあるぜ。

 スペル・クラッシュだったかね。

 森教の司祭の爺さんが使ってやがった筈だ。


 ふむ、変身して殴り込もうにも、これもまたナノマシンがうんともすんとも言わんと来た。

 アレも魔術的な理屈で動いてやがるのか、それともこの世界の魔術はクラークよろしく科学と区別をつける気がないのか。

 どっちでも構わないさ。


 とにかく、邪魔者の居所だけでも掴んでおこうじゃないか。



「……」


 ようやく見つけたぜ、ツトムくん。

 バカでかい狙撃銃なんざ構えて、遠くからマキトに狙いを定める、お前さんの姿を。


 スペル・クラッシュを使えるとは、なかなか素敵なサプライズじゃないか。

 おかげでマキトが大苦戦だ。


 他の連中はどうしたのかといえば!

 ツトムの太鼓持ち――フィリエナが、たった一人で抑え込んでやがると来たもんだ。


 なるほど、上手く誘導してマキトを孤立させたって事か。

 よくもまあこんな短時間で、ここまで引っ掻き回してくれやがったもんだ。


 お代を頂戴しなきゃいかん。

 骨の髄まで、たっぷりと。



 だが、まずはマキトを護るのが最優先だろう。

 あれがくたばるのは、あまりにも宜しくない。


 だから……――


 まずはメニューを呼び出す。

 そう、高級レストランみたいなメニュー表を、懐中時計から取り出す。

 これはどうやら、魔法だの何だののシステムの外側にあるらしい。

 助かる


 購入一覧を開く。

 アイテム……あったぜ。

 バイクを購入だ。

 生前に乗り回していたものよりもずっとゴツい大型バイク。

 最高だ。


 かつて俺は、バイクに乗ってくたばった。

 だが別に構わん。

 恐怖なんてもんは知ったこっちゃない。


 エンジンを動かして、アクセルを限界まで飛ばす!


「ロナ! フィリエナは任せる!」


「スーさん!?」


 悪いねロナ。

 ちょいとばかりマキトの坊やがマズい事になってやがる。

 足を撃たれて動けなくなったとは、奴もよくよくツイてない。



 俺はバイクで、斜面を滑るように降りる。


 降りる。


 周りの景色がブッ飛んでいくようだ。

 こんなところで横になっちまったらいくら俺でもヤバいだろう。

 だが、そんな事は別にいい。

 マキトをやらせはしない。

 他の奴はどうでもいい。

 だが、マキトだけは。


 途切れない煙幕をぶち破る。



 ――よし、間に合ったぜ。


 銃声が耳に響く。

 少しばかり遅れて、俺の背中から腹にかけて銃弾が貫いた。


 方角は既に掴んでいる。

 だから、俺はその方向にブッ放すだけでいい。


 ズドンズドン!


 ややあってから、あちら側からうめき声が聞こえてきた。

 ざまあみろ、ツトム。

 先輩に花を持たせるのが、ジジイどもの言うところの社会常識らしいぜ。


 そうして、煙幕が晴れた。

 同時に、俺の内臓から冷たい感触が伝わってくる。



「――ぶっ、かはっ……」


 まずい、まずいね、実に。

 血が止まらんと来た。

 痛覚が無くても、これくらいわかる。


 ツトムの野郎の銃は、思った以上にヤバい代物だったらしい。

 マキトが喰らっていたら……なんて想像したくもないね。


「ごき、げんよう――俺だ……」


 マキト。

 いいツラだ。


「お、お前……! なん、で……!?」


 俺のことは、さぞかし薄気味悪く見えるだろうさ。

 だが、驚けよ、マキト。

 そんな命の危機を救ってやったのは、他でもないこの俺様だ。


「ダーティ・スーううううう!! なんでよりにもよってお前が(・・・・・・・・・・)こいつを庇うんだよぉおお!!」


 どうしたツトム君。

 こんなに近くに来たら、狙撃の意味が無かろうよ。

 おかげで耳に響いちまっていかんね。

 ハラワタを引きずりながらやってくるガッツは大したものだ。

 だが、両腕を失えば、何もできまいよ。


「お前さんに、やらせは……しない。俺は、思ったのさ……こいつの救った世界なら、見てやってもいい、と……」


「ダーティ・スー! これ以上しゃべるな、いま手当てするから!」


「無駄だと、思うがね」


「そうとも限らない。格好つけて先に逝こうなんてキザな真似をしようとしたんだ。それを邪魔するのは、最高の嫌がらせだろ……?」


 笑うなら、ちゃんと笑いやがれ。

 なにを泣きそうなツラしてやがる。


 俺はビヨンドだ。

 この世界でくたばったところで、この世界への出入りが難しくなるってさ。

 別に、今生の別れじゃあない。


「仲間を、助けに行けよ……一人で、仕事するのは、気が、滅入る……――」


 くそ、まぶたが重い。

 眠るのか、俺は……。


 眠ったのは、何年ぶりになるだろうね。


 くたばって、ビヨンドになってからこの方、きっと俺は一度も眠っちゃいなかった。



 たまには……いいかもしれん。



「――! ――!! ――!!」


 あまり、揺するなよ。

 久しぶりに馬鹿げた量の血を流して、こっちは眠気が……



 ……――。




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