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Task02 相手を分析しつつ、イタズラしてやれ


 ひと仕事する前に、勢力図を確認してみようじゃないか。


 まず、俺達は共和国側にいる。

 議会騎士ベラールと、錬金術研究委員会とやらが一緒についてきている。

 特にこの研究委員会、どう考えてもキナ臭いだろう。


 しかもだ!

 空母みたいな船に、戦闘機みたいにバカでかい大鷲が所狭しとひしめいてやがると来た!

 空飛ぶトカゲじゃなくて、トリとはね!


「どうせ、またぞろナターリヤの奴が関わっているに違いない」


「毎回毎回よくもまぁ飽きずに裏からコツコツ根回しを……いや、あたし達も大して変わらないでしょうけど」


「極めて不本意な事にね」



 で、相手方だ。

 仕事前にロナが調べてくれたところによれば、マキト達が勇者の連合を組んだかどうとかで、帝国はそこに付き従っているらしい。

 森での戦いじゃあハメられてエライ目に遭ったっていうのにね。

 今じゃあマキトに頭が上がらないって事だろうさ。


 力がある。

 それでいて、的確な判断もできる。

 しかも過去にてめえが受けた仕打ちを、世間様に八つ当たりするような幼稚さは持ち合わせちゃいない。

 いざとなりゃあ他人を頼れるし、その声に応えるだけの仲間を集められる人徳って奴があるんだろう。


 今まで別にそこまで目立つタイプじゃなかったお前さんが、今こうして先陣きって仕切ってやがるのは――成長と呼んでやってもいいのかね、果たして。


 ……“やり方を変えた結果、本来の力を出しやすくなった”と。

 そう、言い表したほうが丁度いい気がしなくもない。


 相手は飛行船だから、具体的にどういうふうにやっているのかまでは、こっちからじゃあ見えないが。



 まあいいさ。

 あちらさんの勇者共が島に上陸し始めたから、こっちも便乗でお邪魔するとしよう。


 パチンッ。

 煙の槍をサーフボード代わりに。


「ロナ、しっかり掴まっていてくれよ」


「当然。そりゃあ落っこちるのは御免ですしぃいいいいい速い速い速い風速ちょっと空気抵抗ぅうぁああああああ!! あたし今、女がしちゃいけない顔してるぅううううう!!」


 島へ近づいていく。

 切り立った崖に囲まれた険しい地形は、空中迷宮の異名に相応しい。




「んぶぅぉおおおえええええっぇぇ」


 切り立った岸壁の、遥か下の方にゲロが落ちていく。

 ざっと見た限りじゃあ、海に浮かべた船じゃあ出入りが難しい。

 それにここは、いわゆる絶海の孤島と呼ばれるにふさわしい場所だ。


 仮に船と船で正面からやりあえば、帰りのアテは無くなっちまうだろう。

 だが島の上で慎ましやかに殴り合う分には、お偉方も文句は言うまいよ。

 ……と、いうのが正道だ。



「スーさん、あいつらと戦います?」


「いいや、もっとスマートなやり方があるぜ。幸い、横から全てを掻っ攫う算段は整っている」


「……あー、もしかして、多層大陸世界エクシトリアで手に入れた首輪です?」


「ご明答。親玉が出てきたタイミングで使えば、他の奴らも纏めて取っ捕まえるって寸法さ」


「世の中、何が役に立つかわからないですねぇ実際」


 ああ、その通りだ。

 更に因縁ってもんは存外、馬鹿にならんかもしれん。

 今しがた、面白い光景を見つけちまった。


「見ろよ、ロナ。上陸メンバーの中に懐かしい顔ぶれがいるぜ。インストラクター気取りで仕切ってやがる」


「どれどれ……あー。シグネさん、いや、ジークリンデさんですか。エンリコとかその辺もちゃんといますね。事前情報にはありませんでしたけど……まさか現地集合?」


「結構な事じゃないか」


 別の世界でやり合った時に、あいつらは異世界に通じるゲートをくぐっていった。

 ジークリンデの生まれ故郷がこの世界(ファーロイス)だったのは、既に本人の口から聞いている。


 ――『シグネ。エンリコから聞いたよ。記憶を、取り戻したんだってね?』


 ――『はい。()は、元いた世界に戻って、復讐を果たさねばなりません。“偶像(シグネ)”ではなく“自分自身(ジークリンデ)”として』


「なんか随分とこの島に詳しそうな感じがありますね。ていうか、ここ……エクシトリアの遺跡と同一構造だったりしません?」


「そのようだ。そして連中は当然これを踏破しているだろうから、案内もスイスイって寸法かね」


「あたしらもおこぼれにあやかれたら助かるんですがねぇ……尾行、しちゃいます?」


「いや、やめておこう。嫌な予感がする」


「勘の鋭さも右に出るやついませんもんね」


 下手を打って警戒されるとか、奴らの邪魔をすることばかりに目を向けてヤバいもんを見逃しちまうとか、考えられるリスクはいっぱいある。

 それに、俺達が島に上陸したことは奴らもお見通しだろう。

 嫌がらせっていうのは、相手が何をしてきたかを観察してから後出しでやってこそ、腹立たしさを補強できるってもんさ。



 ざっと、戦力は確認できた。

 魔術師のマキト、騎士のイスティ、エルフの射手リッツ、獣人の斥候リコナ、ドワーフの戦士ブロイ。


 おやおや。

 結局いつものメンバーとはね。

 別働隊とは可愛げのない真似をしやがるぜ。

 この前みたいに、まとめて可愛がってやっても良かったのに。


 まあいいさ。

 それならそれで、効率的に遊んでやろうぜ。

 チェックポイントをたっぷり作ってやるのさ。



 こんな時のために今しがた、ダンジョンハッキングキットなんて便利なオモチャを買っちまった。

 ビデオカメラとドローンと万能遠隔操作アンテナも一緒に購入だ。

 俺のスマートフォンのアプリで受信して、奴らの無様な間抜け面をたっぷり拝んでやる。


 さあお客さん共、たっぷり楽しんでくれ。

 俺も楽しむ。


「どこから手を付けようか」


「よし、帝国! 帝国の軍勢に近いほうからヤッてやりましょうよ! コケにしてくれた意趣返しです」


「じゃあ早速だが、仕掛けに行くかね」




 ―― ―― ――




 ざっとひと仕事済ませ、空き地の高台でロナと隣り合って座る。

 スマートフォンがモニターだ。


 早速だが帝国いじめを始めよう。

 騎士団のサーコートは赤い……つまり宰相派の連中だ。

 宰相派の頭目さんは、勇者御一行様がよっぽど好きなのかね。


 だが、勇者あるところにダーティ・スーの影ありって奴だ。

 当然ながらトラブルはつきものなのさ。

 何故なら俺がトラブルを積極的に持ち込むからだ。



『わ、罠だ!』


『何だアレは!? ギャアアアアア!』


 スマートフォンのモニターから叫び声が響く。


 天井から降り注ぐトマトの雨っていうのは、中々に心が折れるだろうさ。

 盾を構えて一生懸命に防御してはいるが連中ときたらもう!

 真っ赤に染まってベトベトだ。


 チーズと塩コショウでもあれば、もっと美味そうになっただろうよ。

 残念ながらそこまでは用意できなかった。


 次は大玉になった虫の塊が転がり来る坂道だ!

 お前さん達の頑丈な鎧なら潰れはしないだろうが、見た目は圧巻!

 さながらインディ・ジョーンズのワンシーンだろう。


『くぼみを、くぼみを探せェエエエ!!』

『ンな無茶な!』

『見つけた!』

『くぼみ小せぇ!?』

『じゃ、お先に!』

『くそ卑怯だぞてめぇ!!』

『おい馬鹿なにやってんだ早く逃げるんだよ!』


 いい気味だぜ。

 じゃあここで、スイッチをガシャンと。


『『『わああああああああぁぁぁ!?』』』


 そら、落とし穴だ。

 真下に真っ逆さま。

 行き先は肥溜めだ。



「ふはははははは!!」

「あははははは!!」


 まったく、いい気味だぜ。




 ……だが!

 思わぬ珍客が新しくやってきているのは頂けないな。


「ロナ、見えるだろう」


「はい。これは……」


「ツトムだ。何しに来やがったかは解らんが、歓迎してやるべきかね」


「追っ払いましょう」


 忙しいね、まったく!

 これ以上は変な仕事を増やしてくれるなよ!




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