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Task01 少しだけ振り返りを済ませろ

 前回投稿から間が空いてしまった事をお詫び申し上げます。


 ごきげんよう、俺だ。

 今回は共和国側のお偉方が、俺をご指名と来た。

 なんでも、帝国に一杯食わせたことが大層お気に召したそうだ。


 ■概要

 依頼名: 戦力徴用阻止

 依頼主:議会騎士団長ベラール

 前払報酬:0Ar

 成功報酬:30000Ar

 作戦領域:レヴィリスの空中迷宮

 敵戦力:帝国軍、冒険者、他不明

 作戦目標:敵対勢力の撤退または殲滅


 依頼文:

 君は、我がグランロイス共和国の希望だ。

 ルーセンタール帝国の連中は魔王の脅威が何だのと

 喚き散らしているようだが、いい気味だ。

 是非とも、あのまま滅亡への道を邁進していただこうじゃないか。

 ところが彼奴ら凡愚どもは、往生際の悪いことに起死回生の一手を狙って、

 レヴィリスの空中迷宮に住まう怪物達を戦力に組み込もうとしているという。

 まったく度し難い、愚かな事だ。

 君には、それを阻止してほしい。

 ただし標的はあくまでも帝国軍だ。

 怪物達は我々が回収し、適正に管理する。

 くれぐれも殺すなよ。



「……だそうだ」


「胡散臭いですねぇ」


 敵の敵は何とやら、というが。

 共和国もタヌキだらけって事らしい。

 議会騎士なんていう胡散臭い肩書もさることながら、目的が帝国の妨害だ。


 いっそ清々しいくらいの開き直りじゃないか。

 まあ俺は嫌いじゃないぜ、そういうの!

 人間には期待するなって事を思い出させてくれるからね。



「その依頼にするんですか? スーさん」


 ロナが金髪のおさげを揺らしながら、小走りで駆け寄ってくる。

 前回のはそんなに堪えちゃいないようだが、或いは内心じゃあズタボロなのかね。


「ああ、これにしよう。さて、紀絵は……」


「……」



 紀絵は、ベッドに寝転がってやがる。

 目は遠くを見てやがるし、口は半開きだ。

 重傷だねえ、こっちは!


「そっとしておいてやるとしよう」


「ですね」


「すみません……わたくし、どうにも先日のショックが抜けきらなくて……」


 無理もないさ。

 かつてお前さんは、悪評おっ被せられて、誰にも頼れず、悪党をサンドバッグにしたくてたまらない殴りたがり共に詰め寄られたことがある。

 同じ痛みを、あいつらから見出したんだろうさ。


 そうして反動にやられちまったと。

 毒の盃を飲み干すようなもんさ。


 互いに殴り合うべき相手にも、同じ痛みを見出す。

 ……だが、そうだね。

 きっと、それは今よりもっと沢山のヒーロー気取りが持っていなきゃならん資質だ。


 そうあるべき筈だったが、未だにどうにもなりゃしない。

 相変わらず、連中にとって敵は敵で――同情の余地は無く、対話は不要で、問答無用に討伐すべきで、報復するためにはどんな事をしても構わない相手で、良心を痛める必要のない――断絶の向こう側なんだろう。


 その点で言えば、お前さんは心配無用だろうさ。


「心ゆくまで遊んでおけよ。どうせ、あらゆる仕事は最終的に俺一人でも充分上手く回るようにしてある。俺がそう調整する」


「ではお言葉に甘えさせていただきますわね……」


「ああ、付け足しておくと、俺のやり口が気に食わなけりゃ、誰かと示し合わせて後ろから刺してくれても構わん」


 それくらいの責任は取ってみせるさ。

 誰かと戦って、必ず負けなきゃならないのが敵役の役目だ。

 お前さんの正義を検証するとして、それは避け得ないことだろう。


「ふふ。意地悪なことをおっしゃりますのね……そこについては心配ご無用でしてよ」


「ならいいがね」


 てめえの心を騙すのだけはおすすめできないぜ。

 いつかキレてどうにかなるかも判らん。


 ……勇者どもの大会でフォルメーテを、クソ野郎どもの生贄にした俺。

 バクフーマーの不始末に私刑を加えるついでに、そいつの連れにまで手を出したインターネット義勇軍ども。


 フォルメーテはてめえの意思でとんでもない事の片棒を担いでやがったとはいえ、外側から見りゃあ全部一緒だ。

 たとえ俺がその行為にある程度の自覚を持っていたとしても、関係ない。


 だからロナや紀絵にはなるべく見せないでおきたかった。

 リンチというのがどういうものかをこいつらは既に知っているだろうからね。



「そういやスーさん、またアワード手に入れたみたいですね」


「そのようだ」


「いや“そのようだ”って他人事じゃなくてですね! だいたいランクがAに上がった話をさっきしても他人事だったじゃないですか!」


 手に入れたアワードを確認してみようか。

 たいして役に立つとも思えんから無視していたが、言われてみれば確かに増えた。

 前々回で手に入れたのは


◆勇者封じ ―― “ヒーロー”属性を持つ敵対者を、1回の任務で5名以上敗北させる

◆不殺の大破壊 ―― 建造物の被害に対して死傷者を極端に抑える

◆最凶の闖入者 ―― 闘技場イベントに乱入し、出場者を5名以上敗北させる


 穏やかじゃないね。


◆帝都を滅す者 ―― “帝都”の名を冠する都市を壊滅状態にする


 極めつけは、これだ。

 俺は陰陽師の生まれじゃないんだぜ。


 前回では何を手に入れたかな、どれどれ……


◆異界の怪人 ―― スーツヒーロー世界にて怪人化する

◆変革を与えし者 ―― 閉塞した状況に、軽度の運命変転レベルを与える

◆堕天を唆す蛇 ―― “ヒーロー”属性を持つ敵対者を、アライメント“混沌”“悪”へ誘導する


「思ったんですけど、こういうのって誰が考えてるんですかね?」


「放任主義を謳いながらちょっかい掛けたくて仕方ない邪神のたぐいじゃあないかね」


 万一見つけちまったら挨拶代わりに蹴飛ばしてやるのも、やぶさかじゃあない。

 が、無理してこっちから出向いてやる義理も無かろうさ。



「Aランクに上がったのは、報酬が上がったということで歓迎してもいいのかもしれん」


「あたしもそう思うんですけど。っていうか! もっと、こう! ひどい事件を覚えておきつつ、これからもサンドバッグ探しに余念のないクソ野郎を、サンドバッグにされた人達の代わりに返り討ちにしてやりましょうね~っていう決意を新たにお祝いのディナーとかをですねぇ!?」


「いや、やっぱり駄目だ。暇な奴がちょっかいを出しに来るのは歓迎しかねる。しかも奴ら、決まってクソ野郎ばかりじゃないか」


「あ~……グリッド・ライナーとかいう顔面チェック柄とか? あ、でもイヴァーコルさんは割と善良でしたよね」


「代わりに途方もない間抜けだ」


「確かに」


 そのせいでどういうことが起きたかっていうと、義勇軍御一行様がターゲットの連れにまで手を出して、挙げ句にレイプなんて禁じ手に出やがった。

 そこについて責任が取れないなら、イヴァーコルだって、そこらのクソ野郎と大して変わりゃしないさ。



「さて。じゃあ行くかい」


「ですね。紀絵さんは、ゆっくり休んでて下さい」


「あとで合流できたら合流しますわね……」


「気が向いたら、そうしてくれ。おや……俺の酒が無い」


 懐を漁ったが、いつもの瓶が無いことに気づく。

 まさかと思って紀絵を見ると、がぶ飲みしてやがった。

 酔えないらしいが、美味いのかね。


「紀絵さんがアル中に!?」


「酔えなくても気休めにはなりましてよ。それにこれは滝に打たれて座禅を組むようなもの! いずれ悟りに到るための苦行なのですわ!」


「いやそんな格好つけて言われましても!?」


「そっとしておくのが一番だろうさ」


 俺はロナの背中を軽く押して、目的地への直行ゲートに向かう。




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