Result 16 まだ見ぬ燎原
半分以上が焼け落ちた洋館の前に、人だかりができていた。
その全員が、人々からヒーローとして認知されている。
アルゼンチン生まれの母親とカナダ生まれの父親を持つ、複雑な出自のシングルマザー。
事故が原因で化学物質と融合した事がきっかけとなり、ガラスを扱えるようになった。
家に二人の子を残している。
中世イギリス風の鎧型パワードスーツに身を包む、大学生。
クラウドファンディングで改良を重ねたスーツは低コストながら高いパフォーマンスを誇る。
その友人。
悪の秘密結社によって手術を受け、腹に大きなドーム状のケージを付けている。
ケージにはペットのイグアナが。
レンジャー部隊から大手企業のパワードスーツのテスターへと転身した黒人の男性。
本社が爆撃を受けた後は正体を隠してヒーロー活動をしている。
同じデザインのスーツを身に着けた集団は、彼に誘われ参加した義勇兵だ。
シェルシフターが潜伏しているとの情報を受けた彼らは、ここに集結した。
その様子をドローンの監視カメラ映像越しに、モニタールームで眺める男。
シェルシフターこと、ジャック・レンザー。
彼は別の映像を確認する。
翼竜を模したロボットが、地下工場で量産されていた。
工場の殆どは自動化されているが、一部は宇宙服のようなものに身を包んだ作業員が手作業で部品を取り付けている。
誰も極東の島国など気にもかけないだろうが、パックス・ディアボリカのホムンクルス兵が作業員として使われていた。
さしたるコストも支払うことなく労働力を確保できたのは、ジャックにとって僥倖だった。
おまけが三人ほど付いてきたが、ジャックは適当に使い潰すつもりでいる。
あのダーティ・スーなる男はいけ好かない伊達男気取りだったが、利益だけはしっかりと作ってくれた。
そういう意味では感謝せねばならないだろうか、と。
葉巻に火をつけながら、ジャックはほくそ笑んだ。
だが。
――ガシャン、パリィイイインッ!!!
地鳴りがするほどの揺れが発生した。
一体何事か。
幾つかモニターが砂嵐になっていた。
まだ稼働しているモニターを確認すると、禍々しいアーマーに身を包んだ人影が二つ。
私兵を次々と黒焦げ死体へと変えていく姿は、死神か、溶岩か。
「アレは何だ!?」
ジャックが問えば、構成員が答えた。
「日本からやってきた、自称“ボランティア”そうですよ」
ジャックは今まであの国に注意を払わなかった事を、何よりも悔やんだ。
経済成長期には他国の迷惑を顧みないがむしゃらぶりで困らされたが、今や息切れして因循姑息の矮小な国家へと成り果てた筈の日本。
中国よりも人件費は安いし、自分達白人には恭順の姿勢を見せるが、仕事の能率は最低だった。
(もっとも、女性の扱いについてはジャックも共感を覚えなくもない。今や窮屈すぎるのだ、このアメリカは)
……しかし。
そんな日本からの来訪者が、まさか自分達を脅かすとは、少しも考えたことがなかった。
計画を白紙に戻す必要がありそうだ。
「リニアモーターカーを起動しろ。脱出の準備を進めねば」
ジャックは知らない。
おそらくダーティ・スーの介入が無ければ、この自称ボランティアの二人は今でも枯れ果てた人生を送っていただろう事を。
こんな場所には来ていなかっただろう事を。
接収された旧パックス・ディアボリカ系構成員のダガーマンとチョッパーヘッドが拷問の末ミンチにされたのは、また別の話である。
―― 次回予告 ――
「ごきげんよう、俺だ。
空中迷宮なんて銘打っちゃいるが、単に崖が高いだけで陸が空を飛んでいるわけじゃあない。
まったく夢のない話だぜ。
とはいえ、登るのはちょいとばかり骨だ。
それにしても、帝国も相変わらずだね。
カネ稼ぎに躍起になるあまり、半竜人の奴隷を手に入れようと考えるとは。
対する共和国も共和国だぜ。
魔王軍の事なんざこれっぽっちも気にしない、まったくの他人事と来たもんだ。
逆鱗に触れて焼き尽くされるのと、侮蔑の末に餌にされるのとどっちがいいだろうね。
俺はどっちも御免こうむる。
もっとも。
それどころじゃあなくなっちまうかもしれんが。
次回――
MISSION17: 夢を喰う島
さて、お次も眠れない夜になりそうだぜ」
これにてMISSION16は終了です。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
次回も宜しくお願い申し上げます。




