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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION16: ワールドワイド・バッドガイズ
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Burnt3 曙光を待ち侘びて

 今回はバクフーマー視点です。


 確かに。

 俺はもう、死体なのかもしれない。



 駆けつけてきた藍羽瑠子あいば るこにも説明して、実際に画面を見せてもらった。

 全てが、俺の想像を超えていた。


 ただ敵を倒すだけじゃ、平和なんて守れやしなかった。

 俺が見てきた光景の、その裏の、更に底の方では、俺が想像する以上におぞましいものが蠢いていた。


 皮肉なものだよなあ。

 ダーティ・スーが介入してこなくても、遅かれ早かれ侵入されていたどころか、下手を打てば八恵さんが殺されていたかもしれないのだから。


 あいつは、むしろ止めてくれた、というわけだ。

 実際、調べてみれば、確かに言うとおりだった。



 世界のあらゆるものが俺を嘲笑っている事を、俺は見ないふりをしていた。

 繋ぎ止める為にどれだけの努力を重ねても結局は無意味だった。


 最初は困惑した。

 俺は誰を恨めば良かったのか、何を憾めば良かったのかと。




 答えは、こうだ。

 何も怨む必要がない。




 ちょうど良かったのかもしれない。

 俺は既に……正しく在ろうとしている事に疲れていた。


 だから受け入れた。



 ――『戸籍上だけでも死人って事にしちまえよ。死体のこさえ方は、手配できる』



 俺は自分の手足を切り落として、それを丸焼きにした。

 失った手足はナノマシンが自動的に修復してくれた。


 驚くほどの速度で、形だけは元通りだ。

 身体は人間じゃなくなっていた。

 きっと、心はとっくのとうに人間をやめていた。


 瑠子が俯いて涙を流す。



 ――『ごめんなさい。私には、救えなかった……あなた達を愛していたのに……私、帰るわ。元の世界に。主人に、失敗を伝えなきゃいけないもの……もしも、やり直す手段が見つかったら、その時は……』


 ――『いらないよ。俺のことで気負う必要なんて無い。だから、他の人を探したらいい』


 ……。


 ――『そう伝えるわ』


 ……これで、良かったんだ。

 この世界にヒーローなんていらない。

 他の世界であれば必要なんだろう。

 さあ、行っちまえよ。


 泣きながら消えていく瑠子の頭をそっと撫でて、俺は別れの言葉を飲み込んだ。

 大丈夫……もう恨んでなんか、いないからさ。




 あれから俺と八恵さんは、アメリカに来ていた。

 偽装した戸籍と、国籍を手に。

 悪の組織はこっちが本場みたいで、そこかしこに戦闘スーツ姿のヒーローが闊歩していた。



 亡命と言うと聞こえは悪い。

 でも違う。

 これは再起だ。


「八恵さん。これからも、ずっと一緒だよ」


「はい、マスター」


 表情を崩さないまま、答える。

 呼称を改めてはくれないようだった。

 いわく彼女の(というより、素体の)記憶は精神的ダメージでかなり損傷していて、殆ど真っ白になっていたという。


 それでもいいよ。

 八恵さんの身体は生きていて、八恵さんの顔も声もあって、たとえ僅かでも記憶は無いわけじゃない。

 あの時、廃人同然になってから、今に至るまでの記録(・・)は、少なくともその修復された頭脳の中に残っているんだろ?


 上々じゃないか。

 俺が関わった記憶を基に、俺をマスターと認識してくれた。


 後はまあ、奇跡でも起こってくれる事を待って、楽しい毎日を過ごしていこう。

 君が喪った思い出は、俺が全て背負っていくよ。


 たとえ無に帰して、何もかもが滅茶苦茶になってしまっても構わない。

 最後に、君の隣で眠れるなら。



 だって俺は今、幸せを手に入れているのだから!!


 ふうま ひのとは、バクフーマーという抜け殻を脱ぎ去って“何者でもない誰か”に成り果てちまった!!


 これからは、俺が、俺の倒したい誰かを、俺の心の赴くままに殺そう!!

 目一杯、残忍な方法で!!

 たくさん痛めつけて、悲鳴を世界中に配信して、思い知らせてやるぞ。



「おいで、八恵さん」


「はい」


「あの銀行強盗、俺達で何とかしてしまおうか」


「オーダー、了解。状況を開始します」


 ましてや、ちょっと探せば獲物は幾らでも湧いて出る!



「「――変身」」


 変身して!


「な、何だてめぇら!? うわぁあ!?」


 連れ去って!


「それじゃあ本日は、こちらの強盗犯を紹介します」


 晒し者にして!


「逆さ吊りで足を切り刻むゲームだ。さあ、おもらし我慢できるかな! おい、やれ」


「はい、マスター」


 切り刻んで!


「漏らしたな。ゲームオーバーだ」


「そ、そんな、やめ――」


 最後には、全身を見るに堪えないくらいに痛めつけてやる。

 手足をちぎって、表面をこんがり焼いて、内臓を内側から爆破してやる。

 売ればそれなりの値段がついただろうそれらを、木っ端微塵に破壊する。


「っはははは……アハハハハ……」


 肉片は燃え上がりながら、足元に転がっていく。


 俺の人生と同じだ。

 何もかもが同じだ。

 大義名分のもとに、無意味に痛めつけられ、ゴミみたいに捨てられていく!!!


 俺だ!!!

 お前は、俺だ……。



「……八恵さん」


「はい、マスター」


 軽い口づけをひとつ。


「俺、頑張ったよ。褒めてくれるよね?」


「はい。マスターはよく頑張りました」


 膝立ちになる俺の頭を、八恵さんは優しく撫でてくれた。


「今夜はどこで夜を明かそうか。たくさん、しようね」


「マスターの仰せの通りに」


「ああ、それでいい。余計な感情なんて再現(・・)してくれなくていい」


 少なくとも、今は。

 君が、いつか正気に戻って俺の頬を打ってくれるかもしれない、そんな僅かな期待をしてもいいよね?


 それまでは、クソ野郎を片付けよう。

 世の中にはびこるクソは俺達にとってフリー素材のようなものだ。


 毎日、誰かが痛めつけられている。

 だからその嫌なヤツを、俺がそれよりもずっと酷い方法で痛めつけてやるんだ。




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