Task03 協力者と共にバクフーマーを炙り出せ
「わかった、認めよう! 君は間違いなく本物だ!」
ざまあみろ。
ご自慢の銀ピカ鎧も、俺様の手にかかれば鉄屑に早変わりさ。
「本調子でもないのに無理をするもんじゃなかったね」
おっと、誰かが立ち上がったらしい。
クルクルと回すバスタード・マグナムの銃身に、ちらりと影が映る。
パチンッ!
追い打ちだ。
煙の槍をその方角に飛ばす。
「ぐあぁ!?」
根性を見せるのは結構だが、相手が悪すぎた。
何故なら、俺だ。
パチンッ!
パチン、パチン、パチン
「あっ! ぐあッ! やめ、ぎゃあ!」
何度も頭をコンクリートに打ち付ける気分はどうだい。
それでいて、俺はそっちを直接見てもいない。
いつものことさ。
「本物を相手に不意打ちが上手く行くとでも」
「くっ……!」
なあ、シェルシフター。
見下した相手に足蹴にされる気分はどうだい。
「元ビッグスターなヒーローが、カビ臭い偏見を余計な贅肉と一緒にボリュームアップとはね。とんだ笑い話じゃないか」
「何の、話だ……!?」
「お前さんのプロファイリングデータは調べさせてもらったよ。メテオクローム」
耳打ちだ!
他の奴には聞こえないように配慮してやるよ!
「なッ……」
「優秀な探偵が俺のコレクションにいてね!」
「自分の仲間をコレクション呼ばわりとは、正気か!?」
「そうザンス! ミーだって、せめて手駒までザンスよ!」
ドクターフラウロスまで言い出したぜ!
大変結構だ!
「いっぱしに善人ヅラしやがる。もうお忘れかい、てめえが小悪党だって事を」
「「うっ……」」
「こちらのお嬢ちゃんを見習ってほしいね」
楊を手で指し示す。
微動だにしないわけでもないが、この感じは内心呆れてやがるかもしれん。
ロナに、少し似ているな。
愛想のない所と、この死んだ魚のように濁った目がそう思わせるのかね。
「それじゃあ、商談の時間だ。やるか、とっととロシアに飛ぼうとしてサメの餌になるか」
「バックアップを約束しよう」
「それでいい。お前さんの賢明な判断を評価するぜ」
裏に何を仕込んでやがるのかは知らんが、せいぜい利用させてもらう。
―― ―― ――
さて。
定時報告のお時間だ。
通信機を使ってみよう。
『ごきげんよう、俺だ』
『ダーティ・スーか。こちら本部のダガーマンだ。土産話は聞かせてもらえるんだろうな?』
ノイズが酷い。
場所が悪いのか、機器が悪いのか。
だがそんなのは些細な問題だ。
『“議長どの”とやらにお伝え願おうか。外部からの協力が得られそうだぜ。どうやらバクフーマーは海外じゃないらしい』
解りきっていた事だがね。
なに、デコイを用意するにはそれなりの大義名分が必要だった。
そして、酒に毒を仕込んだところでアル中クソ親父は気にも留めない事を俺は知っている。
俺はね、お前さん達には共倒れになって欲しいのさ。
俺が全てを片付けたタイミングで丁度良く手遅れになる事を、俺は何よりも望んでいる。
『ダーティ・スーも大したことないなぁ。ロナと紀絵のほうがよっぽど優秀だ』
『お褒めに預かり光栄だよ。あいつらはなにか掴んでくれたって事かい。俺も合流する』
『オメェは何もしなくていい。引き続き暴れて、バクフーマーを誘き出せ』
『それは“議長どの”からの指図かい』
『そう思ってくれて構わねぇよ』
それはお前さんの独断だよ。
断言するね。
『そういう所だぜ、お前さん達』
『黙れ。俺達パックス・ディアボリカは優秀な奴だけを残す。少数精鋭、粉骨砕身が俺達の組織のモットーでな? オメェみたいな無能の頑張り屋はさっさと捨て駒にでもしちまったほうが、コストを抑えられる』
『ふはははは!』
『あぁ!? 何がおかしいってンだ!?』
『議長どのも、愛社精神豊かな社員に恵まれてて羨ましいね!』
『チッ……』
『それじゃあせいぜい、鉄砲玉の美学って奴を体現してくるとしよう。お前さんは椅子の上でビスケットでも齧って待っていりゃいい』
そら、ブツンッとね。
進んでハードモードを選ぶのは結構だが、その結果が人手不足で、俺達ビヨンドを召喚するハメになったんだ。
少しはその事実って奴を噛み締めてくれりゃあ良かったんだが。
まあ、どこの世の中でもそこに頼らざるを得ないくらいに弱っちまう連中っていうのは、どうにもその辺りの事情を飲み込むのが苦手らしい。
数日間かけて、囲い込みを済ませた。
怪人騒ぎは毎日のようにニュースにのぼる。
……毎週じゃなくて、毎日だ!!
シェルシフターによる潤沢な資金提供のもと、アメリカ産の高性能なサイボーグホムンクルス兵がそこかしこで投入される。
当然、大衆って奴は手近なものでストレスを解消したがる。
そこにインターネットや口コミで、観葉植物とか、ストレス解消ハーブメニューとかが広がる。
ドクターフラウロスのバラ撒いたそれにやられた奴が怪人になって、世間がますます滅茶苦茶になる。
なに。
命までは取られないように、脅威度は低めに設定してもらったよ。
楊は、正義の味方の数を着々と減らしていった。
骨折とか神経切断とか、そういった手法で“選手生命”を絶ってもらった。
相手がカタギだろうがそうでなかろうが、あの世を満員にしちまうのは俺の本意じゃないのでね。
ああ、ただし。
悪党相手なら殺人も辞さないという勇敢な奴に関しては俺が直接、手を下した。
俺の使う煙の槍なら、電車の真正面に放り込む事くらい大した手間でもない。
変装と認識阻害のスキルも購入した。
俺は、俺が望んだ最高のタイミングで、観客共の前に姿を現せる。
もちろんその間にも、パックス・ディアボリカの乗っ取り工作は順調に進めた。
あいつらがてめえで気付く頃には、もう手遅れになっているだろうさ。
フロント会社は既に、海外にある悪の秘密結社共が仲良くパイを切り分けた形になる。
おおもとの秘密結社ちゃんが株式会社じゃないから、これが裏目に出たね。
後は、買収を仕掛けたあいつら同士で仲良く領土争いだ。
敵の敵は味方と言うじゃないか。
愛しの祖国も、てめえの領内で悪党と悪党が潰し合ってくれりゃあ、堂々と世界中の同情を集められる。
これは俺なりの愛国心を添えた慈善事業だよ……感謝して欲しいね!
ふはははは!!
それにしても、炙り出すのは実に骨が折れるね。
ロナと紀絵からも連絡は来ているが、進捗は芳しくないらしい。
どうにも、あちらさんの家に居候しているイヴァーコルが思いのほか用心深い。
ロナと紀絵は尾行して調べようとしたが、曲がり角を利用してカラスに化けられちまうから追いかけようがない。
さて。
その間にもSNSをチェックする限りじゃあ、鼻息荒い義勇軍御一行様はバクフーマーの住所特定を急いでいるらしい。
(なんと、俺が頼むまでもなく!)
写真とプロファイリングデータしか知らない相手だ。
この手の人探しも、随分と楽になったもんだね。
もっとも今回の件に限って言えば、バクフーマーが取材に応じない事に逆恨みしたマスコミさん共も一枚噛んでやがるようだが。
ああ。
とはいえ……。
……そこまでしていいとは言わなかったぜ、義勇軍御一行様。
悪党のほうがお行儀いいのは、一体どういう事なのかね。




