Extend 何年ぶりかの登校日
今回はロナ視点です。
「登校日だね、ロナちゃん! 具体的に言うとねぇ、およそ10年ぶりだ……ふふふふふふ……」
あたしは困惑した。
「うへぇ……久しぶりに素の口調を曝け出して来ましたね紀絵さん」
紀絵さん、いつもの“ですわ”口調じゃないから逆に違和感なんだよなぁ。
でも性格はそのままだから、脳みその処理が済めばまぁ、問題ないと思う。
スーさんはスーさんで遠出してしばらく帰らないとか言ってたし……。
かと思えば調べ物を山ほど頼んできやがるし。
いやまぁ、あたしの調査能力にかかれば?
あんなの朝飯前でしたけど?
―― ―― ――
「今日は転入生を紹介します。なんと、三人も来てくれました。“あの事件”から残念ながら転校して去っていく生徒さんも相次ぐ中、これはまさしく吉報と言うほかありません」
いや先公いきなり世知辛ぇな!?
そういう裏事情は普通、あたしら転入生のいない所でやるだろ。
はぁ……のっけから辛気臭い。
「では、一番前の人からいってみましょうか」
名簿順じゃないのかい。
「臥龍寺紀絵といいます。至らぬ点は多々ございますが、どうぞよろしくお願いします」
「しっとり系だ」「お嬢様っぽい!」
「文化系かな?」
うるせぇよ。
で、先公は次に進める。
「はい、ありがとうございましたー! 次は、ロナさん、でいいのかな。お願いします」
「はい」
イギリスからやってきたって設定だから、それっぽく言ってみるか。
いや、めんどくせぇ。
日本語堪能ってことで喋ってやろう。
「ロナ・ロルク。イギリスから来ました」
「「「おー!」」」
「外人だ」「めっちゃ美人じゃね!?」「でも何でもセクハラ認定してきそう」「それな」
「ハロー! ナイストゥーミートユー! ユーアーセクシー!」
うるせぇよ。
発音ガバガバかよ笑かすな。
「日本語は普通に喋れます。小さい頃から日本には何度も来てるので」
「すげー!!」
いや、すごくねぇよ別に。
片腹痛いわ。
「はい、ありがとうございました。じゃあ最後は藍羽さん」
ブレザーじゃなくてセーラー服。
黒髪ポニーテールで、ニーソックスねぇ。
だいぶ浮いてんな。
まるで二次元だ。
「私は藍羽瑠子です。このクラスの前任、二ノ前八恵先生の親戚よ。好きな食べ物はナッツとベリー。嫌いな食べ物はニンニクとタマネギだわ。よろしくね」
コッテコテの女言葉!
いや、待て……ツッコむべきはそこじゃない。
名前だ。
「じゃあ、席は3分の1くらい空いてるから、適当にどうぞ。ホームルーム始めますね~、田中さん号令お願いします」
「はい~、きりーつ、きょーつけー――」
―― ―― ――
くそ、迂闊だった。
三人目の転入生と聞いて何事かと思ったら、とんでもない所からの刺客じゃないか。
挨拶回りでもしてやるとしよう。
幸い、次は体育だ。
着替えの時間が短いから、みんな決まったグループで更衣室に急いでいる。
藍羽瑠子も、他の女子と「じゃ、あとでね!」とか呑気に手を振っていた。
あたしと紀絵さんで、後ろから近付く。
「イヴァーコルさん――」
「――ギャアアアッ!?」
うおぉすげぇ声だなオイ!
めっちゃ飛び上がってるし。
反動でめっちゃぱんつ見えたし……白に青の縞々ね。
「だだだだだ誰の名前かしら!?」
露骨すぎでしょ。
答え合わせをしてやろう。
「アナグラムですよ、アナグラム。イヴァーコル、いばあこる、あいばるこ。簡単すぎでしょ」
「な、なんで、わかるのよ……!?」
わからいでか。
逆になんでそんなガバガバな偽装で誤魔化せると思ったのか。
クラサスの奴も、仮にも親友呼ばわりするなら偽名もうちょっと凝ったやつにしろって話だよね。
むしろ、敢えて気付かせることで牽制を掛けるつもりだったとか……?
駄目だぁ、解らん。
あのバカタレ長講釈クソエルフの考えていることがさっぱり解らん。
「ちょっと、いきなり黙り込まないでよ!?」
「いや、黙るでしょ。何しに来たんですか」
「言うと思う?」
ですよねー。
「ふたりともー授業始まっちゃうよー!」
紀絵さんいつの間に着替えたのかよ。
藍羽の奴は、なんかボンヤリしてる。
「ほら、何してるんですか。行きますよ」
……急ごう。
更衣室、エントリー!
着替えオーケー!
……。
「いや、なぜブルマ!?」
「えっ、体操着ってブルマじゃなかったの!? いや、さっきからなんか私だけ浮いてるかなって思ったけど!」
「現代はハーパンだよ! カレンダーに2019年ってあっただろ!」
「だって、誰も教えてくれなかったもん!」
「……はぁー」
「だいたいあなただって、いつもブルマみたいなの穿いてるじゃない!」
「タイツの上からな! あと私服兼戦闘服かつ多少突飛な格好でも許される場所限定だからアレ!」
「世間じゃそういうの屁理屈って言うのよ!」
駄目だ、駄目だ、こんな下らん齟齬で足止め食ってる場合じゃない。
背中を軽く叩いて藍羽を促す。
準備運動を済ませて、ランニング。
案の定、男子も女子も藍羽のブルマに釘付けだ。
紀絵さんすら「ほえぇ、まさかこっちの世界でもブルマをお目にかかるとはねぇ~」なんて感慨深そうに言ってた。
まぁそうだよね。
紀絵さんが転生していた魔法少女世界でも、体操着がブルマだったし、元となったゲームの開発者の趣味が原因だったらしいし……。
一人だけブルマっていう光景には、ちょっと思うところがあるだろうね。
転入生に興味のある生徒達については、紀絵さんが掻き集めて話し相手をしてくれる運びとなった。
紀絵さんも陰キャなのに……ごめんな……あたしじゃ腹芸は苦手だから、そういう役回りは演技の上手い紀絵さんじゃないと無理だ……。
ごめんな……。
気を取り直して、藍羽へのインタビューだ。
「潜入にあたって参考にした資料は?」
「えっと、映像資料は90年代までのドラマとアニメ、文献はライトノベルと漫画よ。その中から参照件数の多いものをピックアップしたわ」
「全部フィクションじゃねぇか!!」
「だって、資料がそれしか無かったんだもの、しょうがないじゃない!」
「もっと無難な肩書にすりゃ良かったのに」
「日本の男って女子高生が好きなんでしょ。よその世界の女神もそうやって潜伏したって聞いたわ」
あたしのほうが金髪碧眼で日本人離れした見た目なのに、ザ・大和撫子な藍羽がそういうこと言うとくっそシュールだな。
「な、何よ……!?」
「別に。クラサスの奴、いったい何を考えてるんです?」
「教えてあげないわ。鳥の行き先は、風が決めるものよ」
振り向きざまに答えた藍羽は、なんとも悪戯っぽい微笑を浮かべていた。
背中で組んだ両手は互いに指を絡ませて、いかにも思わせぶりな仕草だ。
「スカしやがって」
「強者の余裕ってやつよ。ダーティ・スーを見つけたら、今度こそ覚悟しておいて」
「あたしらを止められると思うなよ」
「さすが、レヴナント兵団を一方的に殲滅した人達は肝が据わってるわね」
「そんなん、いつ相手にしましたっけ?」
「断罪少女軍団の残滓を、簡易的に異世界転生させたものよ。本当に覚えてないの?」
いまいち要領を得ないな。
「いや、だから。どれがソレなんですかねぇ」
「ビームを放つ四足のゴーレム! ついこの前、戦ったでしょ!」
「………………あー! あれかぁ」
お。
ちょっとムッとした。
……まぁ、そりゃ取るに足らないザコって思われるのは癪だよね。
「ちょっと、何よ!? その“そういえばいたような”的な反応! まるで朝に観た番組のCMみたいな言い方じゃない!?」
と、ここで。
「なんだなんだ? 転校生同士で喧嘩?」「キレたよこっわ」
「みっちーちょっと仲裁しよ」「え。ダルくね」「それな」
クソ猿どもが好き勝手にざわめく。
あたしらが風間丁を探り当てるより、こいつが勝手にボロを出しそうだ。
ただでさえ学校の外周をブルマ姿でランニングなんて、近所に噂されるぞ。
結局、先公に呼び出し喰らって事情を説明するハメになった。
あたしが表現の妙を理解できなくて、みたいな形で話がまとまるの控えめに言って地獄じゃん?
ここ、それなりに偏差値ある学校だったよね?
……馬鹿は何処にでも湧くから関係ないか。
『紀絵さん。とりあえず、奴とメル友になって注意深く監視しておきましょう。あっちのほうから自爆してターゲットの居場所を吐いてくれる気がします』
『オッケー! 掌握は任せてよ』
『とか言ってあたしを生贄にしないですよね?』
『仮にそうなったとしても埋め合わせはするよ。独断専行は苦手じゃないでしょ?』
『はぁ!? 勘弁しろよ……』
『うはは! 冗談ですわよ! ここはひとつ意趣返しということで』
『完全に根に持ってやがりますね、あたしが勝手にいなくなった事……』
ま、いいんだけどねぇ。
さて、スーさんの居場所を突き止められるか、あたし達がバクフーマーを見つけるか。
どっちが先になるかな。
 




