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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION16: ワールドワイド・バッドガイズ
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Task01 秘密結社のアジトで準備せよ


「いや、ろくろ回しすぎでしょ。お茶碗いくつ作るつもりですか」


 ――ごきげんよう、俺だ。


 俺の連れ二人組の片割れ、ロナが開口一番に毒づいたのは……チョッパーヘッドとかいうふざけた科学者気取りのクソ野郎が、説明に横文字を混ぜながら両手でろくろを回す仕草を繰り返していたからだ。


「やり口が生々しくてえげつないのも困りものですわね」


 連れのもう片方、紀絵は顎に手を当てて考え込む。

 実際、このパックス・ディアボリカは所帯じみた悪行を繰り返してやがった。

 それをチョッパーヘッドの口から自慢げに聞かされていたのが、ついさっきまでの俺たちって訳さ。



 あるときは医療機関に構成員を忍び込ませてワクチンにナノマシンを混入させ、怪人を増やす……

 反ワクチン団体まで裏から操って、怪しげな民間療法『どこそこの川の水を飲むと防げる』で、ナノマシン混入済みの生水を飲ませて構成員を増やす……。

 名付けて、人間やめ療法作戦。


 またあるときは、会社の重役とコネクションを持ち、特別研修と銘打って改造。

 表向きは会社に従順で能力の高い社員を沢山こしらえちゃあいたが、気がついたときにはナノマシンの感染で会社を丸ごと乗っ取られちまったという寸法だ。

 作戦名が、パパのお嫁さん作戦……いいセンスしてやがる、ヘドが出るほどに。


 はたまたあるときは、電車に性欲暴走ウィルスを充満させて乱交パーティにしちまう、なんてことも。

 ……少子化対策なんて抜かしやがったが、百歩譲ってそんなもんで生まれたガキが役に立つとでも思うのかね。

 またぞろナノマシンやらで改造して無理くり詰め込むなりすりゃあ、できなくもないだろうが。



 ……どれもこれも、まさしく人間の業だ。

 “悪魔の所業”なんて分断は、ナンセンスだぜ。

 人間の悪意に果ては無い……誰かが悪い想像をすりゃあ、それを実行に移しちまう馬鹿の実在を信じるべきなのさ。



 ましてや、こいつらが何故そんな真似をしたのかというと。

 ――“繰り返し危機に晒すことで、強い日本を取り戻す”

 ――“国民全員を怪人化することで、国際社会において最強の競争力を手にする”

 ……なんて、片腹痛いお題目を唱えてやがった。


 そうすりゃこの国にいるやつ全員が組織の構成員になるから、生活保護もニートも介護問題も全部まるっと解決なんだとさ。



 ……この国が好きなのはよく解ったよ。

 だが愛国心とやらは、お前さん達よりずっとまともな連中に語らせるべきだ。


 なにせ瓶の底にヒビを入れたところで水は多くは入らない。

 漏れ出るせいで、水を前より長く入れ続けなくちゃならない。


 お前さん達の理屈は、ヒビ割れた瓶を指して「いっぱい水を入れる必要があるから、つまり瓶は大きくなっている」なんて吹いて回るようなもんさ!

 まったく人間臭さの塊じゃないか。


 だいいちカタギを地獄に送るのは、俺からしたら悪手もいいところだ。

 狙うなら、取り返しのつく相手だけを狙うか、取り返しのつくやり口だけに絞るべきだったのさ。



「我々の理念ポリシー規約コンプライアンスをご理解いただけましたかな?」


「だいたいね」


 口に合わないのは間違いなさそうだ。


「わかったから! その! 手を! 止めろ!!」

「ロナさん落ち着いて!」

「離せッ、あたしは何としてでもあれを止めなくちゃならないんだ! だって見てて不安になるし!! なりません!?」

「わたくしはそうでもなくてよ!」

「あたしが神経質みたいじゃないですかッ!?」

「え? 違いまして?」

「違いませんでしたー!! クソが! 紀絵さん最近あたしに当たりキツくないですか!?」

「いえそんなことは! よーしよしよしよし」

「ごろにゃ~ん♪ ――って! 馬鹿っちがっ」


 賑やかで何よりだぜ。

 酒が美味い。


「それで。やり方については、こっちで好きにやって構わんのだろう」


「別途で備品を発注オーダーする場合、費用はそちら持ちですので悪しからず」


 ふはは!

 まったく、世知辛いね!


「はぁー……どうします? スーさん」


「どうもこうも無いさ。いつも通りだろう」


「その通りですね。まぁ今更、別にいいですけど」


 そうだろう、そうだろう。

 俺がお前さんからしたら唐突に見えるだろう買い物は、単なる仕事の方針だ。

 依頼主サマから目的を借りて、俺があらゆる手段を私物化する。

 相手方の勇者とか正義の味方とか、そういう雰囲気の連中にインタビューをする為にね。




 ―― ―― ――




 バクフーマー、もとい風間丁ふうま ひのとって奴がターゲットか。

 プロファイリングデータによりゃあ、元教師で26歳の男。

 現在はどこで何をしているのか判らんと来た。


 パックス・ディアボリカの連中、俺達ビヨンドを呼ぶカネはあっても、SNSで追跡するためのスマホを買うカネは無かったらしい。

 まあ確かに、公安だの何だのに目をつけられちまえば、そう簡単には買わせちゃ貰えんだろうがね。


 そこがお前さん達の限界だよ、間抜け。

 力の入れどころを間違えやがって。



 とりあえず、そいつがもともと勤めていた学校にロナと紀絵を編入させるとしようじゃないか。

 なにか手がかりが掴めるかもしれん。


「試験いってきますね」


「お留守番はよろしくおねがいしますわね」


「ああ、行っておいで」


 やれやれ。

 偽の戸籍は用意してくれて助かるよ。

 さすがは悪の秘密結社。

 その辺りのサービスは盤石ってワケだ。


 もっとも、その秘密基地が山奥の廃病院というのは頂けないがね。

 移動は社用車のワンボックスカー。

 しかも窓はスモークで車体は黒塗り。

 怪しめと言わんばかりだ。




 さて。

 俺は基地に戻って、メニューを開いて教職免許のスキルを確認だ。


 別に買う予定は無いが、高いな。

 俺は別ルートから洗ってみようかね。



 スマートフォンなら手元にある。

 メニューからこの世界での接続権を購入して、インターネットに接続だ。

 そこかしこでフリーWi-Fiでもあってくれたなら助かったんだが。


 まあいいさ。

 風間の坊やは何処にお住まいかな、っと。


 善意を履き違えたクソ野郎っていうのは、何処にでもいるもんさ。

 例えば、素性を割り出して直に殴り込みをしにいったり、何かしらをチラつかせて呼び出したりなんていうのはザラだ。


 人間の快楽で一番原始的なものの一つが、加害欲求の発散だ。

 そこに大義名分で背中を押してもらえたら、我慢はどめの利かない連中は喜び勇んで飛び込んでいく。


 いやはや、まったく惨めな生き物じゃないか!

 きっと人間は、石器時代から何一つ変わっちゃいない!


 そうら、見つけたぜ。

 やっぱりこの手のどうしようもない野次馬ってのは、世の中からは消えない。

 おかげさまで俺は手を汚さずに済む。

 少なくとも、その分野ではね。



 だが、敢えて報告はしないでおこう。

 俺が悪目立ちした結果、この秘密基地にガサ入れなんて来ちまったら、たまったもんじゃないだろう。



 チョッパーヘッド達の控えている司令室の扉を蹴り開ける。


「バクフーマーは海外に高飛びしたかもしれん」


「何ですって!?」


「追ってみるかい」


「出張費はそちらで負担して頂きますが?」


 笑っちまうね。

 俺が直接あっちに行くとでも。

 前時代的アナログすぎる。

 もう2000年代も5分の1は来たところなんだぜ。


「そんな必要は無い」


「では、どうするつもりで?」


「海外の悪い探偵とのコネでも探してみるさ。俺は新顔だ。夜の街なら、お前さん達との繋がりまでは見抜けないだろうよ」


 手を振って、司令室を後にする。

 独自の周波数を使った通信機で、いつでも連絡ができる。

 これで出張も思いのままだ。



 社用車はさっきの一台だけだ。

 だから俺はメニューを呼び出し、バイクを買った。

 指輪の魔術的収納空間インベントリも拡張できるだけのビヨンド専用通貨――アーカムはあるからね。



 それにしてもバイク、か。

 かつての俺の愛車に比べると随分とワイルドな見た目だが、慣れりゃあ乗りこなせる。


 幸い、慣らし運転なら幾らでもやりようがある。

 もう事故でくたばるなんて末路は御免だ。

 前世とは違う。

 たとえ雨の日に風で飛ばされてきたビラがヘルメットに引っ付いても、俺は――



「――行くぜ!! イヤッホウ!!」


 決め込もうじゃないか!

 朝日に照らされながらのツーリングを!




 トラウマを克服した、わけではないけれど暴露療法で無理やり慣れようとするダーティ・スーなのでした。

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