Extend4 誰だよ俺のことドタバタ冒険活劇野郎とか言い出した奴
今回はフレン視点です。
俺の名前が、まだフレンじゃなかった頃。
つまり前世で、俺は愛犬のドリィを散歩させている時に、歩道に突っ込んできたトラックに轢かれて死んだ。
俺とドリィは、真っ白な空間で、女神様と名乗る女の人(かなり残念系美人)から告げられた。
――『尊い関係性を築くあなた達の命が失われてしまったのは私の落ち度です……本当に、ごめんなさい……』
いわく。
俺達は、手違いで本来死なない筈の運命から転げ落ちてしまったという。
ひどい事しやがる……こちとら享年16歳。
もちろん親父とおふくろに孫の顔すら見せていないんだぞ。
で、そのお詫びとして、俺はMP無限チートを。
ドリィには物理攻撃無効化耐性を。
そして、俺達二人に共通しているのは取得経験値倍化と、全ステータスを相場の数百倍で……。
――『私にできるのは、此処までです。少なくとも、あなた達を脅かす存在は退けられる筈。あなた達に、希望に満ちた冒険譚がありますように』
確かに順風満帆だったように思う。
赤子の頃は、孤児として俺とドリィが一緒に、家の前にかごに入れて置かれていた。
そこそこの中流階級の家庭。
孤児院でもなく、貴族の家でもない。
やりたいことを好きなようにやるには、まぁ悪くない絶妙な塩梅だ。
……まぁ、やることなんて特に決まっちゃいないんだけどさ。
だから、ゆっくりと好きなことを決めればいい。
この世界に来た運命の、その本当の姿、正体を俺は掴んでみたい。
街外れにいた幼馴染の魔法使い――ベルが冒険者として旅立ったのをきっかけに、俺も冒険者になった。
――『どこかで、また会おうね』
――『ああ、約束だ』
ベルなら、きっと上手くやれるだろう。
そんなことを思いながら、俺とドリィは西へ。
その頃には銃やその大量生産の研究とかをやってみたが、一時中断していた。
代わりに。
目に見える脅威とか、手の届く範囲で困っている人とか。
片っ端から首を突っ込んでいった。
男として、見過ごせなかったからな。
下流の河川を真っ赤に染め上げた“鮮血滝の人喰い大貝”の捕獲。
クナーフザーダ山脈を占拠する“ネオ・ダムダム盗賊団”の一斉検挙。
カイエナンの街に現れた“腐れ狼”の一掃。
アンデッドが大量に湧き出る“城郭墓地”では僧侶や巡礼者にMP共有で人間サブタンクを請け負い徹底浄化。
その過程で、黄色い服の誘拐犯との追いかけっ子をしたり。
ハーフドワーフのギーラに剣の贈り物をされ、告白されたり。
当面の目標は……多すぎる魔物を少しでも減らすこと、かな。
そう思えるくらいには、なんとなくこの人生での目的が定まったような気がする。
……と、此処までは順調だったように思う。
実際、その頃はまだ夢の中で女神様とミーティングもできてた。
近頃はめっきり会えてないけど、女神様も忙しいのだろう。
俺の元の世界から旅客機が転移してきたのだから。
旅客機は墜落した。
その原因は “憑蝕竜レヴィリス”の攻撃。
他の勇者に倒されたと聞いたんだけどな……何らかの原因で復活したのか?
レヴィリスの猛攻を凌いで逃げ切ったチアリーダーの人達は、疲れ果てていた。
俺はレヴィリスの眷属達を退けて彼女らを保護。
その後、サンタ・バルシアのビーチでレクリエーションを企画した。
怪物はいるけれど、そればかりじゃないんだってことを教えてあげたかった。
それが終わったら、元の世界に帰らせる算段を練ろう。
なんて思っていた。
けど、サンタ・バルシアのビーチは地獄と化した。
いつかに出会った黄色い服の誘拐犯(ドリィが呼ぶには“バナナ野郎”)が現れた。
巨大なサメも、砂浜を這い回るタコも。
俺の魔法の火力でも手に余る、圧倒的な物量と耐久力に嫌な触手。
チアリーダーの女の子達にとって、最悪なトラウマになったかもしれない。
――『ぷはっ! ああ……勇者様、私と隣合わせなのね。私の胸、どう?』
えっと、まぁ……。
中には状況を楽しんでた子もいたけど。
バナナ野郎もといダーティ・スーは、苦戦する俺を嘲笑うかのように、サメもタコも気楽に片付けた。
その結果、この世界に来る前から派閥争いをしていたチアリーダー達は、この件をきっかけとして完全に分裂した。
ケイト・アーノルディ・スミス率いる派閥は、俺達の側に残った。
もう一方……サリー・ブレンテン率いる派閥は、ダーティ・スーに付いてしまった。
正確に言えば、ダーティ・スーに協力している勢力か。
確かその勢力の懐刀が、サイアン・ロッテンリリィとかっていう淫魔らしいとドリィが言っていたな。
あいつらの気まぐれな人助けに、サリー達は騙されている。
俺に、もっと力があれば。
こんな事は無かったのに。
けれど修行だけに時間を費やす暇なんて、無いだろう。
魔物との戦いの激化……世界に暗雲が立ち込めようとしている。
このままじゃあ転移してきた人達を元の世界に帰らせることも、ままならない。
なら、移動しながら鍛錬し続け、ぶっつけ本番で強敵を打ち破るしかない。
残りのチアリーダー達を連れて、ひとまず彼女達が安心できる場所を探した。
でも、条件に見合う拠点になりそうなところが一つも見つからなかった。
いっそ俺が守りながら、俺の手の届く範囲に連れて回ったほうがずっと安全だった。
あとは作戦だって、もっと慎重に練る事にした。
今までは、俺とドリィが無茶するの前提だったもんな……。
あの時だって、浜辺のタコ軍団に殺意が無かったから良かったものの、これが他の獰猛なモンスターだったら現場は惨憺たるものだったろう。
宛てのない放浪。
屍者の塔、竜巻島、凍てつく遺跡。
それから、俺達の界隈では割と激戦区で有名だった“祈りの森”。
足を踏み入れた全ての場所で、活発化した魔物達と戦い。
出会った魔物は全部倒し。
当然、経験値もそれに伴ってたくさん入った。
レベルがかなり上がったことで、スキルだってすごく強いものを手に入れた。
――経験値分配。
アクティブにしておくと、俺の取得した経験値が、パーティメンバーに分配される。
チアリーダー達をパーティメンバーに入れておくことで、彼女達のレベルも加速度的に上がる。
(残念ながら彼女達自身は自分のステータスを確認することができないが)
道すがら委託をしてきた小銃とその生産工場の研究も実を結び、先行量産型を回してもらった。
するとどうだろう?
チアリーダー達の中には、銃の免許を持っている子もいる。
命中率はともかく、それまでクロスボウだけだった彼女達の心細い火力が、一気に底上げされた。
積極的に戦闘に参加させるつもりはもちろん無いが、自衛はできたほうがいい。
なにせ生存確率を高めて、確実に全員で元の世界に帰れたならそれに越したことはないのだから。
そうこうしている間に、別の冒険者パーティと知り合った。
真実の愛を探しているという、元巡礼者のエウリア。
エウリアを“お嬢”と呼び、強者との戦いを希う剣客のウィルマ。
二人に拾われたらしい、大柄な戦士マット、射手のカズマと斥候のタケヒデ。
カズマとタケヒデは、あの墜落した飛行機に乗っていた学生達だ。
けれど……訳あって追い出されてしまい、今は根無し草としてエウリア達に付き従っているという。
彼らもまた、ダーティ・スーを知っていた。
話を聞くに、あくまでも奴の気まぐれに利用されただけだろう。
……今回、招待された闘技大会なんかはいかにも奴がしゃしゃり出てきそうな雰囲気があった。
頼むから邪魔しないでくれよ。
――『フレンが招待されて、おれには何も無したぁ、連中どこに目ぇ付けてやがるんだ。キンタマか?』
――『多分、ウィルマが来たら血みどろになってショーどころじゃなくなっちゃうからじゃないかな』
――『知ったことかよぅ。あー! やりたいやりたい! 暴れたい!!』
ダーティ・スーより先に、ウィルマに邪魔されそうだったという懸念は杞憂に終わった。
だが、代わりにダーティ・スーは案の定やってきた。
想定よりだいぶ恐ろしいものを連れてきて。
……っていうか魔王軍!?
一体どこまでスケールのでかい話なんだ……。
空を飛び交う小さな飛竜、それに混じったインプやガーゴイル。
地面はワーウルフやサイクロプスの軍勢が埋め尽くし。
炎に包まれた帝都は、さながら地獄だった。
その先遣隊としてやってきたダーティ・スーは魔王軍側の人間って事だ。
騒ぎに対していち早く行動を起こしたのは俺とウィルマと、それから見知らぬ冒険者。
一緒にいたメンバーがマキトと呼んでいた。
マキトは他の冒険者達にも声を掛けて臨時の連合部隊を結成という荒業をやってのけた。
俺も「いきなりなんなんだ」と釈然としないが、指示に従った。
ギーラとチアリーダー達は控室に待機させた。
そのほうが安全だろう。
地下からワラワラと四脚のゴーレムが大量に現れ、胴体に付いた円形のレンズからビームを射出して魔王軍に対抗し始めた。
一体、どこであんなの仕入れてきたんだ?
そんな疑問はさておき。
マキトの的確な指示と、四脚ゴーレムのおかげで、魔王軍の数は当初の10%くらいにまで減っていった。
パーティ単位でバラバラに戦っていたら、もっと時間がかかっていただろう。
――『ご主人。サイアンの匂いがする……私は、あの子達を連れ戻してくるぞ!』
――『あっ、ちょっ!?』
……大体いつもこんな感じだ。
俺はウィルマ達に頭を下げに行った。
ちょうど、付近の魔物を殲滅し終えていた頃合いだった。
――『悪いんだが、うちのドリィを助けてやってくれないか。俺はダーティ・スーの合流を阻止する』
ウィルマは刀についた血を振って落とし、鞘に収めながら獰猛な笑みを浮かべる。
――『いいぜ。だがダーティ・スーはおれの獲物だ。殺さないで頂戴よ』
そしてマキトにも報告した。
――『そろそろ会場が心配だ。合流してくる』
――『わかった。僕もあとで行くから、耐えきってほしい』
――『ああ! こっちは頼んだぞ、マキト司令官』
――『もしかして僕が仕切るの気にしてたりする……?』
会場に辿り着いた俺を待っていたのは。
参加者のグレイ・ランサーを蹂躙し、今にも殺そうとする、ダーティ・スーの姿。
会場の隅で震える、幼馴染――ベルの姿。
俺は銃に弾を装填し。
奴の肩を狙い撃つ。
時間稼ぎさえできればいい。
マキト達が会場に戻ってくるまでの間、俺だけで耐えきってみせる。
そう思っていた筈なのに、まるで手も足も出なかった。
こっちは手加減なんてしていなかったのに。
運良くマキトとイスティがちょうどいいタイミングで戻ってきてくれたから一命を取り留めたものの、あと少し遅かったら……俺は死んでいたかもしれない。
氷のように冷たい表情のマキト。
炎のような憤怒を湛えるイスティ。
正反対な二人の援軍に、俺は安堵しながら立ち上がる。
俺はこの時点で、幾つもの事実を見落としていた。
サイアンは魔王軍と何ら関係ないこと。
ドリィが、こっち側のチアリーダー達を連れて行ったこと。
ゴーレムの持ち主は、サイアンの主人だったということ。
ベルが、グレイ・ランサーもといクレフ・マージェイトによって汚されていたということ。
それに気付くのは、もう少し後の事だ。
 




