Intro 勇士達の集う園
ご無沙汰でした……これよりMISSION15です。
この日、帝都は天候に恵まれていた。
数千人規模を収容可能な巨大闘技場は、豊穣祭もかくやといった賑わいを見せている。
「お集まりいただいた皆さん! 今日は本当にありがとうございます! 世界各地より勇者たちの集まる――“勇者闘技大会”! 満を持しての開催です!」
正方形の戦闘領域の中心で、艶やかな服装の女性がマイクを片手にアナウンスを始める。
青々とした晴天に、花火がドンッ、ドンッと低い破裂音を響かせた。
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
楕円形に配置された観客席。
そこに座る観客達は花火に呼応するように、立ち上がって歓声を上げる。
「勝つのはあなたの推しか!? それとも! 反対側にお掛けの、あなたの推しか!?」
指さしながら煽っていくことで、会場の熱気は否応なくヒートアップしていく。
「試合中、ここぞというタイミングになったら、惜しみなく声援を送ってあげましょうね!!」
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
沸き立つ観客達を見て、ナレーターは静かにうなずいた。
田舎町の冒険者ギルドの受付嬢をしていた彼女だが、とある決闘のラウンドガールを務めたことをきっかけにスカウトを受け、ここにいる。
あの“風の解放者”なる少年に巻き込まれたことを自覚した時は少なからぬ怒りを感じた。
が、こうして結果的には承認欲求が満たされていることを思えば……感謝してやらなくもないぞ、と彼女は胸中でほくそ笑む。
「間もなくAブロック第一試合です!」「赤コーナーからは、この男が登場だ!」
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
「生まれたときからの相棒である獣人の少女と、道中でハートをガッチリ掴んだハーフドワーフの少女を仲間に加え、義理と人情突き進むこと数ヶ月! 今では異世界から迷い込んできたチアリーダーまで従えた大所帯!
しかし!! 仲間に手を出す輩には、情け容赦は一切無用! 一気呵成に攻め立てて勝利をこの手に掴み取るッ!! さすらいの人情派冒険者――フレン!!」
スモークが晴れ……フレンが、獣人のドリィとハーフドワーフのギーラに見送られながら登場する。
「続いて青コーナーからは――」
――だが。
熱狂に沸き立つ観客席の中で、フードを目深に被った男……参加者達と同じく転生者である津川巻人は黙したまま、眉間にシワを寄せていた。
右手には、双眼鏡。
それは、ダーティ・スーを……今や宿敵と言えるかも判らぬあの男を探すため。
さる情報が数日前に、巻人のもとにもたらされたのだ。
――『ダーティ・スーは必ず、この会場に現れるでしょう。邪魔をするつもりなのか、それとも純粋に参加するのかまではわからないけれど……』
もとより闘技大会には参加するつもりの無かった巻人にとっては、ダーティ・スーの出現地点の予測がしやすくなるのは助かる。
問題は……
「どこだよ。いないじゃないか……」
ダーティ・スーの姿がまったく見当たらないということだ。
選手控室にも、それらしい目撃情報が無かった。
参加者は全員洗ったが、その中に含まれてはいない。
「マキト。調子はどうだ?」
女騎士イスティ・ノイルが、巻人の隣に座る。
巻人はイスティの問い掛けに、首を振った。
「全然ダメだ……」
もちろん――頭を抱える巻人の苦悩など、ダーティ・スーにとっては知ったことではない。
ダーティ・スーとその一行は警備の甘さをついて、この闘技場の外壁付近にあらかじめ潜入していた。
すでに、誰にも止められない段階だ。
ここにいる者たちの多くは、血湧き肉躍る試合が始まることを微塵も疑っていない。
だが、そうはならない。
崩壊の火蓋は今まさしく、切って落とされようとしていた。
 




