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ダーティ・スー ~物語(せかい)を股にかける敵役~  作者: 冬塚おんぜ
MISSION15: 狂乱の主よ、空より来たれ
199/270

Intro 勇士達の集う園

 ご無沙汰でした……これよりMISSION15です。


 この日、帝都は天候に恵まれていた。

 数千人規模を収容可能な巨大闘技場は、豊穣祭もかくやといった賑わいを見せている。


「お集まりいただいた皆さん! 今日は本当にありがとうございます! 世界各地より勇者たちの集まる――“勇者闘技大会”! 満を持しての開催です!」


 正方形の戦闘領域リングの中心で、艶やかな服装の女性がマイクを片手にアナウンスを始める。

 青々とした晴天に、花火がドンッ、ドンッと低い破裂音を響かせた。


「「「「「おおおおおお!!!」」」」」


 楕円形に配置された観客席。

 そこに座る観客達は花火に呼応するように、立ち上がって歓声を上げる。


「勝つのはあなたの推しか!? それとも! 反対側にお掛けの、あなたの推しか!?」


 指さしながら煽っていくことで、会場の熱気は否応なくヒートアップしていく。


「試合中、ここぞというタイミングになったら、惜しみなく声援を送ってあげましょうね!!」


「「「「「おおおおおお!!!」」」」」



 沸き立つ観客達を見て、ナレーターは静かにうなずいた。


 田舎町の冒険者ギルドの受付嬢をしていた彼女だが、とある決闘のラウンドガールを務めたことをきっかけにスカウトを受け、ここにいる。


 あの“風の解放者”なる少年(・・)に巻き込まれたことを自覚した(・・・・)時は少なからぬ怒りを感じた。

 が、こうして結果的には承認欲求が満たされていることを思えば……感謝してやらなくもないぞ、と彼女は胸中でほくそ笑む。



「間もなくAブロック第一試合です!」「赤コーナーからは、この男が登場だ!」


「「「「「おおおおおお!!!」」」」」


「生まれたときからの相棒である獣人の少女と、道中でハートをガッチリ掴んだハーフドワーフの少女を仲間に加え、義理と人情突き進むこと数ヶ月! 今では異世界から迷い込んできたチアリーダーまで従えた大所帯!

 しかし!! 仲間に手を出す輩には、情け容赦は一切無用! 一気呵成に攻め立てて勝利をこの手に掴み取るッ!! さすらいの人情派冒険者――フレン!!」


 スモークが晴れ……フレンが、獣人のドリィとハーフドワーフのギーラに見送られながら登場する。


「続いて青コーナーからは――」




 ――だが。

 熱狂に沸き立つ観客席の中で、フードを目深に被った男……参加者達と同じく転生者である津川巻人は黙したまま、眉間にシワを寄せていた。


 右手には、双眼鏡。

 それは、ダーティ・スーを……今や宿敵と言えるかも判らぬあの男を探すため。



 さる情報が数日前に、巻人のもとにもたらされたのだ。


 ――『ダーティ・スーは必ず、この会場に現れるでしょう。邪魔をするつもりなのか、それとも純粋に参加するのかまではわからないけれど……』


 もとより闘技大会には参加するつもりの無かった巻人にとっては、ダーティ・スーの出現地点の予測がしやすくなるのは助かる。


 問題は……



「どこだよ。いないじゃないか……」



 ダーティ・スーの姿がまったく見当たらないということだ。

 選手控室にも、それらしい目撃情報が無かった。

 参加者は全員洗ったが、その中に含まれてはいない。



「マキト。調子はどうだ?」


 女騎士イスティ・ノイルが、巻人の隣に座る。

 巻人はイスティの問い掛けに、首を振った。


「全然ダメだ……」




 もちろん――頭を抱える巻人の苦悩など、ダーティ・スーにとっては知ったことではない。

 ダーティ・スーとその一行は警備の甘さをついて、この闘技場の外壁付近にあらかじめ潜入していた。


 すでに、誰にも止められない段階だ。


 ここにいる者たちの多くは、血湧き肉躍る試合が始まることを微塵も疑っていない。

 だが、そうはならない。


 崩壊の火蓋は今まさしく、切って落とされようとしていた。




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