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Result 14 捨て置かれた世界


 カラカララ――ひたひた――ザラララ――


 崩れ行くダンジョンに、乾いた音が響き渡る。



「……」


 天井が崩壊する中で、黒髪の少女は前をゆく老婆の手を、そっと握った。

 この感情が何だったのかを彼女は定義しかねていた。


「そうかい。今までよく頑張ったね……」


 少女の、黒く長い髪を、老婆は優しく撫でた。


「……」


 少女の、死者の如く濁った黒い瞳は、彼女自身に認識するすべなど無かったが、確かに涙で潤んでいた。


「アンタには、最後まで迷惑をかけちまったね……」


 少女の、物言わぬ口元は、初めて真一文字に固く結ばれていた。


「……」


 少女のワンピースの赤黒い染みよりも、老婆の腹から滲み出る赤は鮮やかな色をしていた。


「まさかアタシの妹の、遠い子孫がねェ……黄金郷なんて曖昧なものを探しに、世代を越えてこの地に戻ってくるなんて。そして、アンタに殺させる……アタシゃ、一族郎党まとめて地獄行きだね……ノヴァ・ディー、アンタは大丈夫だよ。アンタはずっと、耐えてきたじゃないか……」


 老婆の言葉は少しずつ小さくなっていき、最後には何も言わなくなった。

 倒れ込む老婆を、黒髪の少女は――ノヴァ・ディーは片手で支えた。


 老婆に致命傷を与えたグロンド・ブリスコッドは、老婆の妹が遥か昔に故郷で育てた子供の、その末裔だった。

 少女はそれを断片的にしか理解できなかった。


 それよりも、かつての上司(・・・・・・)を喪った事のほうが彼女の心を抉った。


「……」



 カラカララ――ザラララ――パキンッ――カララランッ


 錆びた鉄の棒は、折れた。

 そのまま、少女は老婆の隣に倒れ込む。


 魔力は既に、僅か程も残っていない。

 全て、全てが、終わった。



「……――?」


 新たなる主は、無事に新世界に辿り着いただろうか?


「……」


 この小さな、見放された旧い世界からでは、きっとそれも観測しえないのだ。


「……――……!」


 見たい……――もっと近くで、彼女らを見たい!



 虚ろな人形だと定義していた筈の己は、いつの間にか指示に無い事を考えるようになっていた。

 そして、おぼろげな情報の残骸が、彼女にひとつの概念を教えた。


「――……」


 ――自我。


 消滅を間近に控えて、ようやく彼女はその概念を知るに至った。



 壁が崩れて、青々とした空が見えた。

 更にその青空も、ひび割れて崩れる。


 海も、眼下に広がる暗闇の中へと呑まれていった。


 この世界そのものが終わろうとしているのだろうか?

 消えゆく我が身では、それ以上の感慨を抱く事もできない。


 ノヴァ・ディーが次に目を閉じた時には、その目が再び開かれる事はなかった。

 彼女が先に死んだのか。

 世界が先に消えたのか。


 それすらも、誰にも観測しえないまま。




 ―― 次回予告 ――




「ごきげんよう、俺だ。


 お次の仕事は、武闘大会で勇者共がお留守の間に、近くで街をぶち壊す、なんてチャチな内容だ。


 魔王軍とやらの大規模なデモンストレーションだとよ。

 あいにく俺は、大虐殺は性に合わないのさ。


 命を奪う仕事をせにゃあならんというのが、何より気に食わん。

 俺に仕事を選り好みさせないつもりなら、せめて仕事のやり方くらいは俺が選ぶ。


 好き勝手やらせてもらうぜ。

 どうせお前さんだって、絶対の忠誠なんざこれっぽっちも期待しちゃいないだろう。


 なら、お互い様(・・・・)だ。


 俺ならもっと、面白くできる。

 武闘大会なんて呑気な真似をしやがるあいつらのケツに、花束をブッ刺してやるのさ。


 次回――

 MISSION15: 狂乱の主よ、空より来たれ


 さて、お次も眠れない夜になりそうだぜ」




 これにて、MISSION14は終了です。

 ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。


 引き続き、感想、ツッコミなどありましたら、感想欄に是非お越しくださいませ。

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