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Final Task 黄金郷の秘密を暴け


 さあ、黄金郷探索の再開だ。


 おねんね中のシグネ――もといジークリンデを人質にしながら鉄棒女をせっついて、更に下へと進んでいく。

 後ろにはロナ、紀絵、グロンド・ブリスコッド大佐殿、その部下の制服さん達が続いている。


 “旦那さん”と魔術師の小娘とその彼氏さんと、あとヒゲのデカブツは柱に縛り付けておいた。




 道中の通路はあちこちに蔦が這って、往年の頃の豪奢な作りはナリを潜めている。

 元がどんな色だったかも判らないくらいに色褪せて、くすんで、剥げ落ちて、それはとどのつまり持ち主がまったく手入れをしていなかった事が伺えた。


 崩れ落ちた螺旋階段も、俺が煙の壁を横倒しに設置しなきゃ通れたもんじゃなかった。

 よくもまあこんな耐用年数もクソもない構造にしたもんだ。


 ところどころに魔法陣があったから、転送でもしながら移動したのかね。



「……」


 鉄棒女が「ついたぞ」と言わんばかりに、俺達に視線で訴える。

 ちょっとした広間で、天井のシャンデリアのようなオブジェには、元は球体だった事が辛うじて判る程度にはボロボロなクリスタルが飾られていた。


 量としては5分の1に届くかどうかといったところだ。

 ダンジョンのあの有様から考えるに、もう殆ど魔力は残っちゃいないだろう。


 鉄棒女がそのクリスタルに手をかざすと、周囲の壁が下にスライドしていく。

 あっという間に、ガラス張りの部屋に早変わりだ。



 ガラスの外を見やれば……近代的なビルディングが立ち並ぶ、水没都市があった。


「そんな馬鹿な……! これが黄金郷だと……!?」


 ブリスコッド大佐殿はサーベルを引き抜いて、鉄棒女の喉元に突きつける。

 鉄棒女はといえば、すっかり息が上がって何もできずにいた。


「貴様。私を愚弄するとはいい度胸だ。さっさと黄金郷に案内しろ!!」


 せっかちな野郎だ。


「まあ、待ちなよ。こいつを使ってみたらいい」


 お前さんがコケにした、このマジカル額縁で覗き込めば、水浸しの地下都市の在りし日の姿が見えるぜ。

 煌々と明かりの灯った高層ビル群は、なるほど知らん奴が見れば“黄金郷”に見えるだろう。


「……お、おお……なるほど! 金色の光がそこかしこに灯っているその姿をして黄金郷と呼ばれていたのか!  く、ククク……ハハハハハ!! ふざけるのも大概にしろッ!!」


 膝から崩れ落ちる大佐殿。

 周りの制服さん共は、武器を構えて今にも暴れそうだ。

 さんざっぱら苦労させられたのに見返りがこれじゃあ、あまりにも報われないよな。


「落ち着けよ、セニョール。この程度は想定内じゃないか。逆転の一手がある筈だぜ」


「落ち着いていられるか!! もはや策など尽きた!!

 世界各地に兵を派遣し、古文書をありったけ集めてまで探し当てた、その結果がこれだと!?

 何年かかったと思っている!! 6年だ!! 国が滅びてそれだけの年月は矢の如く過ぎ去り、岩の如く積み重なる!!

 それに見合うだけの何かが此処にはあると信じていたのに!! いつまで私を……オレを試すつもりだァ!?」


「はあ……」


「ため息なんぞついとる場合か!! くそ、畜生!」


「いや、今までの馬鹿げたミスの数々にはきっと意味があったんだろうと考え続けたが、皆目見当付かなくてね。てめえの頭の悪さを呪っていた所さ」


「く……馬鹿にしているな……!?」


「ほら、あまりお預け食らわせてくれるなよ……我慢汁がズボンに染みちまうだろう」


 反応がなくなったな。


「……もう限界らしいぜ。そら、制服さん達の出番だ。楽にさせてやりな」


 俺の合図から数秒遅れて(俺が仕切ったのが気に入らなかったんだろう)、制服さん達が大佐殿に寄ってたかって殴る蹴るの暴行を働いた。

 まったく、いい気味だぜ。


「うーわ、やば。顔ふみましたよあいつら」


「よほど腹に据えかねたのでしょう。ブラック企業体質は誰も救われませんわね……」


「紀絵さんが言うと重みが違いますね」


「でしょう?」



 だが、そんな見世物に、乱入者だ。


「……そんな事になるだろうと思っていたよ。どいつもこいつも、阿呆ばかりさね」


 礼拝堂にいた地縛霊の婆さんがやってきた。

 俺に抱きかかえられていたジークリンデはいつの間にか目を覚ましていたらしく、驚きを隠せないツラを見せる。


「お婆、ちゃん……? どうして、此処に……?」


「そりゃあアンタ……アタシだって生前はダンジョンの眷属だったのさ。此処に来ちゃ悪いかい?」


「いやぁ、何も悪くない、です……はい――って生前!? お婆ちゃん、死んでたの!?」


 おい、腕の中で暴れるなよ。


「じゃなきゃ何を喰って生きていきゃ良かったのさ? 眷属やっていくにしたって魔力が枯渇していたら喰っていけないよ。

 アタシゃさっさと抜けさせてもらった。骨ならだいぶん昔に、礼拝堂の裏手に葬ったよ。誰かさんが隠れんぼで踏み付けにしてくれたけどね」


 俺の事かい。


「いい踏み心地だった。椅子には申し分なかったぜ」


「抜かすんじゃないよ、小僧」


「それより、小娘のお友達連中を全員救出した上でこんなところにまで連れてくるとは、婆さん……何か策があるのかい」


 しかもご丁寧に全員の怪我まで治してやがる。

 勘弁しろよ、もう喧嘩のバーゲンセールは終わりだぜ。

 とっとと店じまいしてお家に帰ってくれないか。


 俺達を見ろ。

 ロナと紀絵が制服さん連中を牽制している、俺達のチームワークを見ろ。

(何せ、そこの小娘は、この制服さん連中の飛行船をブチ落としている。恨みを買っている以上、報復があるかもしれん)



 婆さんは、静かに口を開く。


「突拍子もない話かもしれないが……その子を元の世界に戻す方法がある。だから、アタシゃ連れ戻しに来たのさ」


「そうかい。なら、返すぜ。もう用済みだ。この鉄棒女も連れていけよ」


 ジークリンデを下ろしてやり、そして鉄棒女の背中を押す。

 ロナは「そうするだろうと思ってましたよ」などと抜かしやがるが、まったくその通りだ。

 必要以上に痛めつける理由が無い。

 こいつらの正義は検証する必要がもう無い。


「やり合う理由が、俺にはもう残っちゃいない。ああ、仮にそっちが喧嘩を売りに来ても、片手間で決着ケリが付くからやめておけよ。どうせ勝負にならん」


「やらないやらない」


 無駄なリベンジマッチが無いだけマシだな。

 奇跡に頼ってやってきた無鉄砲で準備不足な間抜け共。

 記憶喪失のガキは見事に、(きっとあらかじめ用意された)奇跡のシステムの恩恵を受けて記憶を取り戻し、挙げ句に元の世界に戻る手段まで差し出されると来た。



「アタシゃね。何度か作り直された末に、神に見放されたこんな世界にいるより……この子達が生きている間は存続しているだろう世界に行ったほうがいいと思っている」


 婆さんが指輪に何かしらの呪文をブツブツと唱えると、クリスタルがスパークしながら光を放ち始めた。


「シグネ。エンリコから聞いたよ。記憶を、取り戻したんだってね?」


「はい。()は、元いた世界に戻って、復讐を果たさねばなりません。“偶像(シグネ)”ではなく“自分自身(ジークリンデ)”として」


「……ふふ。本来のアンタのほうが、ずっとお似合いさね」


 悪くない笑い方だ。

 どことなく愛情が感じられる。


 クリスタルから真下の地面に青紫色の光が放たれ、そこに真っ黒な穴が空いた。

 これがゲートらしい。


「ここをくぐれば、あっちの世界さね」


 婆さんは、保護者君もといエンリコ達のほうへ向き直る。


「アンタ達はどうするんだい? アンタ達と、この子が望むなら、付いてお行きよ」


 問われた槍使いと魔術師とその彼氏。

 うち槍使いのエンリコが口を開く。


「シグネ。俺達も――」


「――来ないで」


 ジークリンデが遮った。

 嫌悪感からじゃあなくて、悩み抜いた末の言葉らしい。

 声は震えているし、目尻には涙が浮かんでいる。


「旦那さん……いいえ、エンリコさん。私の旅についていけば、元の世界に戻れる保証はないんです。

 あなたには、あなたの世界がある……それに、私は、シグネじゃなくてジークリンデ」


「構わない。俺は、それでも。お前の旅路に付き合いたい。知らないことが新しく増えたしな」


 と、槍使い。


「そうね。昔の思い出話(・・・・・・)も聞かせてもらおうかしら」


 と、魔術師。


「それに、こっちからあっちに行けるなら、逆だってあるかもだ!」


 と、彼氏君。


「みんな……ありがとうございます……っ」


 頬を伝う大粒の涙、なるほど感動的なシーンだ。

 が、まるきり俺達を無視してやがるのは頂けないぜ。

 さっさと茶番を終わらせて、新世界に行っちまえ。


「じゃあ、行こうか。ジークリンデ」


「待って下さい。ノヴァ・ディーも連れて行きます」


 だが、鉄棒女はジークリンデの手を払いのける。


「……」


 首を振る鉄棒女は、少しずつ姿が薄れていた。


「さあ。あまり時間は無い。もう、お行きよ」



「……じゃあね、ノヴァ・ディー」


 ジークリンデは、鉄棒女の額に口づけをひとつ。

 そして、ゲートの向こうへ行った。

 エンリコ率いる残り三人も。



「……婆さん。あのエンリコとやらは、どういう関係だい。そろそろ教えてくれてもいいだろう」


「ああ、そうさね。切っても切れない関係さ。話すと長……――」


 ――全て聞けないまま、景色が遥か遠くに消えていく。


 俺は、ロナ、紀絵と共に世界から飛び立った。

 そうだったか……これでも一応、依頼を達成していた扱いになるのか。


 持ち主が世界から消えた以上、あの黄金郷は誰のものでもなくなる。

 大佐殿は無事に、黄金郷を手に入れたという事さ。




グロンド「え? ムスカ(ラピュタ)とかダルトン(クロノトリガー)みたいなポジションですらなかった!?」


ロナ「前者はともかく後者はアラサーにしか解らない予感」


紀絵「おやめになって……(震え声)」

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