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Task5 マジカル額縁を発注し、制服さん達に売り込め

前回のあらすじ!

竜の御子「侵入者が来てしまいます!」

爺や「溶岩地帯があるから負けません!」


なお結果は……


 溶岩地帯の跡地は、そりゃあ酷いもんだった。

 何せ溶岩が端から端まで冷え固まって、罠としての体をなしていない。


 ところどころに干からびた蜂の死骸みたいなもんが転がっていた。

 それに、部屋の中央には朽ち果てて崩れた、巨大なスズメバチの巣みたいなのも見かけたが……。


 これじゃあ、さながらテーマパークの跡地だ。

 廃墟観光の趣味は無いぜ、俺は。


「一体何だったんですかね? あれ」


 ロナの疑問に答えたのは、制服さんの一人だ。

 眼鏡を掛けた、いかにもインテリらしい風体をしてやがる。


「文献によれば、溶岩蜂の巣だそうです。今や伝承にのみ残されている古代ドゥラギリヤ文明語だったので、解読に苦労しましたよ」


「へー……」


「まぁ、せっかく読み解いても肝心の設備がこのざまでは、ね。“かつてそう呼ばれていた”という事を知って、知的好奇心を満たすくらいのもんですよ」


 ……ああ。

 いいことを思い付いた。

 そういえばメニューから新しい商売道具ジョークグッズを探していた時に、面白そうなものを見つけた。


 こういう打ち捨てられたテーマパークには打って付けだ。

 まったく、俺としたことが忘れていたぜ。

(……といっても、そもそも勘定に入れずともどうにでもなるだろう)


 見つけた。

 購入!


「ほらよ」


「な、なんですか、これ? 額……縁……?」


「観たい景色の前で掲げて覗き込んでみるといい」


「――……! これは!!」


「ブッたまげただろう」


 何せ額縁ごしに見える景色は、今の廃墟じゃない。

 正真正銘、しっかり盛り上がっている頃のそれだ。


「わぁ!?」


 いきなりインテリ君が尻餅をついたもんだから、周りの連中が怪訝そうに見てきた。

 おおかた、目の前にハチかマグマでも出てきたんだろう。

 だが、あくまでも幻影だ。

 かつて誰かが見た記憶から映像を再構築しているだけにすぎない。


「へぇ?」


 ロナが拾い上げて、同じように覗き込む。


「……まぁーたこんなパーティグッズに無駄金使っちゃって……あ!」


 どうやら俺の真意に気付いたらしい。


「これ、もしかして……上手く使えば探索に役立てませんかね? 仕掛けとかが解りやすくなるかも」


「その通り。一通り構造を把握して、目星をつけたらこれを使おう」


 だが、まだその時じゃない。




 長い螺旋階段を登ると、光が射してきた。

 外は、すっかり白んできていた。


 苔むした石造りの遺跡に、大樹の枝が絡み合っている。

 ……他と大した違いはない景色だが、遠くの樹海の奥のほうに俺達のキャンプが見える。


「地上部に出たな……信号弾を使うぞ!」


「了解!」


 制服さん連中も、ちゃんと仕事をしているようで何よりだ。

 ロナも興味津々なのか、そっちにちょっかいを掛けに行っている。


「副長さん。構造の解析、進捗どうです?」


「ああ、バッチリだ。この分なら、さっきのエレベーター跡にリフトの設置もできるだろう。

 ダンジョンは老朽化している割に基盤がしっかりしているから、ショートカット開通も、つつがなく進行できる。

 これを見てくれ」


 ダンジョンマップか。


「入り口から、我々の通ってきたルートに沿って白い点が幾つも並んでいるだろう。これは発信機を付けた友軍だ」


「便利ですねぇ……魔法文明が成熟すると補助魔法が充実してくるものなんですかね?

 こう、少ない魔力で効率的に――」



 ――ズシンッと振動が走る。


「ふおぁ!?」


「な、何か来ましてよ!?」


 うろたえる紀絵に、制服さんが笑う。

 この制服さんは軍帽を目深に被っている。


「安心してくれ。これは友軍がショートカットの開通に指向性爆発魔法を使っただけだ」


「指向性爆発魔法」


 紀絵がオウム返しにそれを唱える。


「そうだ。通常、爆発というのは爆心地から放射状に爆風が広がるだろ? それを、指向性をもたせる事でエネルギーを無駄なく使うんだよ。

 今さっき、そちらのブロンドヘアのお嬢さんが言った通り、少ない魔力で効率的な運用を心がける。

 それが、先の大戦が長期化した折、我々ギブドラステア公国が編み出した答えなのだ」


 お前さん達の国が、ねえ。

 どこもかしこも似たようなもんだと思うぜ。



「我ら先遣隊は、此処で待機する」


「物資補給のため、合流をお待ちになりますのね?」


「それもそうだが、何より、グロンド・ブリスコッド大佐が貴様らにいたく興味を持っておいでだ。間もなくお見えになるから、失礼の無いように」


「ハァ!? 今更!? こんな奥まで進んでるのに、指揮官自ら来るとか頭おかし――ぶぇえ」


 後ろからロナに近寄って、頬を両側から引っ張る。


「身に余る光栄、恐れ入るね」


 そしていつもの営業スマイルだ。


『いやそれ絶対思ってないでしょ。心にもないでまかせぶっこいてるでしょ』


『距離を詰めて馬鹿げた真似をしよう。そのためには問題児だとバレて警戒されると面白くなくなっちまう』


『多分ね、もうバレてます。ねー、紀絵さん』


『ええ、おっしゃる通りでしてよ』



 例の仰々しい飛行船が俺達の真上にやってくる。

 それから、螺旋階段型のタラップがグルグルと回転しながら伸びてきた。

 何重かに重ねた螺旋階段をあれこれ変形させながら下ろして、軽く接地する……仰々しい飛行船に見合った、これまた大げさな仕掛けだ。

 いい趣味してやがるぜ。


「やあやあ、ひとまずご苦労だったな、諸君!」


 ご丁寧に一段ずつ螺旋階段を歩いて降りてきたのは、金髪のオールバック、顎と口のヒゲとモミアゲが一体になっている、少しむさ苦しい野郎だった。

 エメラルドグリーンの軍服には金ピカの勲章が所狭しとひしめいて、分厚い胸板に弾き飛ばされそうになっている。


 影武者でもなけりゃあ、この野郎が俺達の依頼主グロンド・ブリスコッド大佐殿というわけか。

 どれ、膝をついて一礼してやりゃあいいのかね。


「お目にかかり光栄だぜ、依頼主さんよ」


「こちらこそ、今や異界異聞に名高き大悪党を召喚できたのは、実に僥倖だ。

 何せ捨て駒にしてしまっても、こちらが痛めるのは頭でも胸でもなく、懐だけだからなァ~! ワッハハハハハ!!」


「仰る通り! うっかり寝首をかかれないように気をつけるこった! ふははははは!!」


 握手!

 ……周りが凍ってやがる。

 どうやら俺達のやり取りに、笑ってもいいのか迷っているらしい。


「ん~? 私の冗談はそんなに笑えんのか?」


 グロンドの奴、隊長格に絡みやがった。


「いえ、滅相もございません!! はは、ハハハ……」


「いかんなあ~? 笑える時には笑っておかねば、幸せが逃げてしまうぞ?」


 オー!

 可哀想に!

 胃薬と夜明かしする毎日が想像に難くないね。


「……なんてな! 冗談だ! ワハハハハハッ!!」


『何です? この面倒なオッサン、冗談キツいや……』


『そうこぼすなよ、ロナ。ブドウの一粒にカビが生えたからといって、全部を捨てなくてもいい』


『あたしそういうとき全部捨てる派』


『わたくしはそういうとき、さっさと分解して誰かに差し上げてしまう派ですわ』


 酷い真似しやがるぜ。

 だが、それもまた一つの生存戦略って奴だろう。



「それで、直々にツラを見せに来たんだ。俺と盃でも交わすつもりかい」


「いいや? 貴様のような奴は、宝をくすねると相場が決まっている。出してみろ」


「此処で拾ったものは何もないぜ。せいぜい、物寂しい観光名所くらいのもんさ」


「なんだと……? そんな筈はない」


 いいツラだ。

 その目の開き方は、夕方のセールの時間に目当てのものを買いに行ったら既に売り切れていた……そんな感情に似ている。

 俺が直接言ったところで信じちゃくれんだろうから、ここは制服さんの力をお借りするとしようじゃないか。


「おい、説明してやれよ」


「恐れ入りますが大佐、我々はつきっきりで監視しておりましたし、踏破可能なフロアはしらみつぶしに探しました。しかし、財宝らしきものは何一つ……」


「だ、そうだ。もっと先のほうに纏めてあるんじゃあないかね」


 大佐殿は存外、物分りがいいらしい。

 顔色は少し悪くなったが、頷いた。


「……そ、それも、そうだな。おお! あと貴様には、ダンジョンの最深部に鎮座するドラゴンの捕獲を命ずる!」


「追加の依頼って事でいいのかい。別料金だぜ」


「何を馬鹿な。ドラゴンも財宝の一つだ。最初の依頼に含まれている。ここまでで無傷なら、どうせろくな敵もいなかったのだろう?」


「いたぜ。面白い奴が、この先のフロアに逃げやがった。ドラゴンとは違うがね」


「それについての報告は、後で部下から聞くとしよう。

 それよりもドラゴンだ! 捕獲のための機材を用意してあるから、これを使い給え!」


 パチンッ。

 グロンド大佐殿が指を鳴らすと、飛行船からワイヤーで何か吊り下げられてきた。


 これは、首輪かね。

 手錠をドラゴンの首くらいのサイズに大型化させたような形をしている。

 仰々しい仕掛けが幾つも付いているから、それなりにカネをかけたに違いない。



「諸君! この者にドラゴンの捕獲を託す!! 古の伝説に語られしドラゴンを我らが手中に収めた暁には、必ずや祖国の栄光を確たるものとするだろう!」


「「「オー!!!」」」


 いいのかい、俺に託したりして。

 お前さん、俺のことを悪党だと言ったじゃないか。

 まあ、俺自身は構わんがね。


「ありがたく借り受けるとしよう。ところで俺のほうからもプレゼントがある」


「何だ?」


 先程買ったマジカル額縁を手渡す。


「そいつで辺りの景色を見回してみろよ。興味があるならこっちで発注、召喚して売ってやる」


「ふむ……」


 グロンド大佐殿が額縁を手にとって、部下に説明を受けながら覗き込んだ。

 何度か唸っていたが、どうやらこいつの御眼鏡に適う代物じゃあなかったらしい。


「銀貨3枚、といったところだな。それで良ければ買ってやらんでもないが」


「じゃあ額縁の話はナシだ。赤字は御免だぜ」


『なんです? このケチ。銀貨3枚とか舐めすぎでしょ。ビール瓶ひとつしか買えないじゃないですか』


 ロナが念話で愚痴をこぼす。


『断って正解でしたわ。あとはこの国の重鎮の皆さまが身内に甘すぎない事を祈るばかりですわね』


 紀絵がそこに応じる。


『確かに。“こんな便利な道具を実用化できなかったのは貴様のプレゼンテーションが下手すぎるからだ”なんて言われたら、あたし理性を保てないかも』


『理性をそこで捨てるのが、まず勿体無いね。今に見ていろよ』



 ――ズボッ!


 何処からか飛んできた巨大な槍が、螺旋階段をブチ割った。

 いや、あれは槍の形に鉄クズを括り付けただけかね?

 とにかく、コレ以上の時間稼ぎは必要ないらしい。


 ――ボッ!


 もう一発、別の方向から巨大な炎の弾が飛んできて、今度は飛行船がオシャカになった。

 煙を噴いて落ちていく。


 雲間に何か羽のついたトカゲみたいなシルエットが見えた。

 ……奴の正体が、鉄棒女に餌付けした間抜けな小娘だったりしたら、笑えるね。


『ほらね、呑気な真似をするからこうなるのさ』


「な……!? わ、私の、クゼルクヴァンダーが……!!」


「不時着させて修理でもすりゃいい。お前さんが欲しがっているドラゴンとやらの仕業だろうよ」


「くッ……!」


 いい気味だぜ!!

 ダンジョン探検隊へようこそ、グロンド・ブリスコッド大佐殿。

 指揮官自らお越し頂いたその誠意、たっぷり拝見してやるよ!




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