表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/270

Extend2 竜の御子のゆるゆるダンジョン生活

 今回はシグネ視点です。


「え? わたしが?」


 立て続けに起きた突然のことの数々に、わたし――シグネは飲み込めなかった。


 ダンジョンの床が急に光ったかと思ったら、ワープさせられちゃうし……。

 しかも、わたしひとりしかワープできなかったし!

 寂しがってたら、黒い塊に連れ去られるし!

 これはもう死ぬ、とか思ってたら、なんか朽ち果てた石造りの玉座に座らされるし!!


 天井のシャンデリアっぽいところにある、青白く光っている球体が……ダンジョンのコアだよね?

 1/4くらいに欠けちゃってるけど……。



 それで。


 目の前の、すごく大きな身体で兜を被ったおじさんは、なおも続けた。

 わたしを縦に4人並べても届くかどうかといった巨体が、膝をついてかしずいている。


「あなた様の御帰還を心よりお待ちしておりました。我らがあるじの末裔……そして、新たなる我らが主……月下竜レヴィリスを継ぐ、竜の御子みこよ」


「ええええええええええぇぇええええッ!!?」


 つ、つまり、お姫様だった!?

 聖女にしてお姫様ってこと!?

 言われてみれば、辻褄が合うかも。


 わたし記憶喪失だし!

 魔力はこの世界と馴染んでいないってお婆ちゃんが言ってたし!

 それに……このペンダントにしている指輪だって、お婆ちゃんがしていたものと同じ形をしてた!


 ……はて?

 でもおかしいな?

 この指輪はエンリコさんから「先祖の形見だが、お前にやるよ。お守りにしてくれ」って貰ったものなのに。

 わたしが元々持っていたわけじゃない。

(どうしてそんな大切なものをくれたのかを訊いてみたら、わたしについて責任を持つため、とか。もーう、めんどくさい人だな! 嬉しいけどっ!)


 うーん、やっぱりこの指輪は関係ないよね!


 まさかね……?


 ふと、壁に掛かっている布を見た。

 指輪に刻まれた紋章と同じだ。


 その“まさか”だった。


 全部繋がってたのかな?

 何もかも、ここに辿り着く運命だったのかな?



 なんて考え事にふけっていると。


「――あなた様を守護する騎士を紹介いたしましょう。

 守り人“ノヴァ・ディー”よ、玉座の前へ。この御方こそが、我らの新たなる主であらせられるぞ」


「……」


 黒くて長い髪の、ワンピース姿の女の子――ノヴァ・ディーが裸足でやってくる。

 血色悪いけど……ちゃんと栄養とってるのかな?


 肉付きは、うん。

 ちょっと痩せ気味だね。


 そんな子が、長い棒を床に置いて、巨人のおじさんと同じようにかしずいた。


「ノヴァ、ちゃん? 顔を上げてみて」


 呼んでみる。


「……」


 顔は向けるけど……目は一瞬だけこっちを見てくれたりもしてくれたけど……。


「……」


 すぐに横目で他のところを見ちゃった。


「あの~、目を合わせて……」


 途方に暮れるわたしに、巨人のおじさんが再び一礼する。


「これはとんだ失礼を致しました。なにぶん、この者は恥ずかしがり屋でして。これ、ノヴァ。主は目を見ろと仰せだぞ」


「……」


 うっ。


 なんだろう。

 深い井戸の底みたいな目をしてる……。

 眼球は白いけど、中心にある黒目の部分は塗りつぶしたみたいに黒い。


 あ。

 また目を背けちゃった。


 今度は巨人のおじさんを見てる。


「何ぃ? 儂が悪いと?」


「……」


 うなずいた!

 良かった、言葉は通じるみたいだね!


「怖がったりしてごめんね。お近づきの印に、これ!」


 いちご味の、名前も知らないお菓子!

 お婆ちゃんからの貰い物だけどー……ひとりじゃ食べきれないからあげちゃってもいいよね?


「……」


 おお、すっごく大切そうに受け取った!


「……」


 心なしか嬉しそう!

 ありがとう、礼拝堂にいたお婆ちゃん!

 これでわたしも、古の伝説に語られるワラシベ=リッチマンになれるかな!?


「ふふ。食べていいよ」


「……!」


 お!

 口が動いた!

 声は出てないけど――“いただきます”かな?


 ぽりぽり。

 しゃくしゃく。


「うんうん、いい食べっぷり!」


「ノヴァ・ディーめも、いつになく喜んでおるようです。この者に感情の芽生えは、かつての主でも見られなかった……む!?」


 ビー、ビー、ビー。

 欠けたダンジョン・コアから警告音が出る。

 大昔のものなのに、そんな時代から警報なんてあったんだ……。


「賊共が現れたようですな……」


 立体映像が映し出される。

 そこには、わたしが夢のお告げで見た黄色い外套の男の人と、わたしと同じくらいの背丈の女の子が二人。

 それからギブドラステア公国の軍人さんが何人か。



「……良かったぁ~旦那さんじゃなくて……あ、旦那さんっていうのは、エンリコさんっていう、わたしが来た時に一緒にいた人でね?」


「存じ上げております。其の者らは攻撃対象から外せとの仰せであれば、そのように致しましょう。継承の儀は、親しい者を招くべきですからな」


 ケイショーの、ギ?

 まぁ、なんのことかわからないけど、旦那さん達が助かるならそれでいいや!


「ノヴァよ。儂ではあの通路は狭すぎる。行けるな?」


「……」


 コクリ。

 ノヴァちゃんは頷いて、玉座の間の隅にあるワープの魔法陣に乗っかった。


「い、いってらっしゃ~い」


 とりあえず、そう言っておくのがいいよね?

 多分?



「おお、そう言えば、竜の御子様!」


「は、はい!?」


「お名前を伺っておりませんでした」


「シグネといいます。あなたは?」


「儂は“武器刈りの古老”と申しまする」


「ぶき、がり、のこ、ろう?」


「気軽に“爺や”とでもお呼びくだされ」


「うん、わかりまし――」


 ――ぐぅ~。


「あはは……ごめんなさい、おなかすいちゃいました」


「ふぅむ……儂では何も作れませぬ。かといって女給の者達は行方不明……はてどうしたものか」


「材料だけくれれば、自分で作りますよー。案内できますか?」


「お安い御用! どうぞ、肩にお乗り下さい」




 ―― ―― ――




 で。


「あの、流石に、化石は食べられないです……」


 食料品倉庫と書かれている(・・・・・・)部屋は、砂とか骨とかばかりだった。

 そういうのを食べる種族もいたのかもしれないけど……わたしは残念ながら、人間だよ。


「誠に申し訳ない……魔力の供給が長らく途絶えていたらしく、すっかり風化してしまった模様……」


 ぐぅ~。


「うわぁああん、おーなーかーすーいーたー……」


「ううむ、如何にせん……」


 ピカッ!


 魔法陣が光って、ノヴァちゃんが帰ってきた。

 でも、満身創痍だ。


「ど、ど、どうしたの!? 誰にやられたの!? あの黄色いコートのひと!?」


「……」


 ぐぅ~。

 わたしのおなか、空気を読んで……!


「……」


「え? くれるの?」


 逆さにした円錐形の上に、とぐろを巻いたクリームみたいなものを差し出された。

 これは、戦利品?

 食べたことないよ、こんなの。

 白っぽくて、べとべとするものって、なんか苦手なんだよね……。

 理由はわからないんだけど、なんか怖い。


「……」


 あ、ノヴァちゃんひとくち食べた。


「ありがとう!」


 ええい、勇気を出すのだシグネよ!

 忠実なナイトさまがくれたんだぞ!


 あむっ。


 ん!


「おいしい! ひんやりしてて、ふんわりしてて、いちごの味がパァ~って広がるね!」


「……?」


 あちゃー、首かしげちゃったよ。

 わたしの食レポ、ボキャブラリーが壊滅的って言われちゃったからね……。


「残りは食べていいよ。ありがとう、ノヴァちゃん♪」


「……」


 うんうん、たくさん食べて大きくなるんだぞ!



「ノヴァがやられたという事は……あやつめ、かなりの手練れのようだな」


「突破、されちゃうんでしょうか?」


「ご安心めされよ! 此処は難攻不落のダンジョンなれば! 回廊の先にあります溶岩蜂の巣にて、たちどころに黒焦げにしてくれましょうぞ!」


「……」


 なんだろう。

 ノヴァちゃんがすごく物申したい顔をしているような……?


 ……まあいいや!

 それより、おなかすいたから食べ物を探しに行こう!


「お魚が取れるところってありますか? 魚釣りがしたいです!」


「なるほど、キャンプ料理というやつですな! そこなら儂が案内しましょう」


「はーい!」


「それと、お連れの方々は、この玉座の間ではなく、中庭で出迎えましょうぞ。そちらのほうが食事もしやすいでしょうからな」


「はーい!」


 おーさかーな、おーさかーな!

 楽しみだなー♪




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ