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Task4 この無愛想な邪魔者を追い払え


「ぜぇ……はぁ……やっばい、気圧差で、鼓膜とか、色々、痛い……!」


 エレベーターらしい仕掛けが途中にあった。

 もちろん、そいつもオシャカになっていた。

 20階建てのビルくらいの高さを登らなきゃならんが、いかんせんこの人数だ。


 他の道は探索したし、瓦礫で埋まって進めない箇所ばかりだった。

 残されていたのは此処くらいと来りゃあ、俺がどうにかするしかない。


 つまりダーティ・エレベーターの出番という訳さ。

 煙の壁を足場に、四隅に煙の槍で推進剤として使う。

 どいつもこいつも泣き叫びながら「死にたくない」だの「神よ!」だのと喚いてやがった。


 そりゃあ横に突き抜けた大木やら、隙間のないくらいにびっしりと群生したキノコやらで、酷い目に遭ったのは間違いないがね。

(余談だが、燃やしても差し支えないなら全部燃やすと隊長が言っていた)


 文句なら、人間でも使えるメンテナンス通路を用意しやがらなかったダンジョンマスターに言ってくれ。

 ……まだ居るならの話だがね。



 どうやら円筒状の塔から色々と通路が伸びているらしい。

 この辺りは蔦と根っこと苔だらけだ。

 

 近くの虫が大型化していないのは、人によっちゃあラッキーだったかもしれん。


「でっかい虫とかいませんよね……?」


 ロナとかね。



 古い城塞を使い回した居抜き物件ダンジョンなのか、それともダンジョンとして生み出されたものがそのまま遺跡化したのか。

 どっちにしたって、探索する側からすりゃあ七面倒臭いことこの上ない。


 俺のようにある程度の空中移動手段があるならまだしも、ワイヤーやら梯子やらで進むとなれば、さぞかし苦労するに違いない。



 アーチ状の天井と、緩やかなカーブを描いた通路に出た。

 闘技場の廊下なんかは、こんな形をしているのかね。


「……おっと。次は、本命らしい」


 バスタード・マグナムを片手に、ハンドサインで後続に立ち止まらせる。



 カラカララ――ひたひた――ザラララ――



 嫌な音が、俺達の進行方向から少しずつ近付いてくる。

 カーブを描いた通路のせいで、姿までは確認できない。


 骨ばかりで退屈していたところだ。

 少しくらい楽しませてくれよ。


 メダル型の照明魔道具を兵士から一枚ひったくり、通路の先に放り投げる。


「――」


 パキリ。


 真っ黒な塊が地面から湧き出て、それを握り潰した。


 オー!

 そういうのを待っていたんだ、お前さん!


「ひっ……」


(どうやら歓迎しかねている奴もいるようだが)



 しかも曲がり角からやってきたのは!?


「またしても、おばけ……!!」


 ……ボロボロで黄ばんだワンピース姿の、死体みたいに生っ白い女だ。

 黒い髪は足まで伸びていて、黒く塗りつぶした瞳はさながら死んだ魚だ。

(顔はこっちに向いているのに、横目で壁を見やがって。とんだシャイガールだぜ)


 極めつけは、右手に物騒な錆だらけの棒を引き摺ってやがる。

 このナリで薄笑いまで浮かべてやがるのだから、何とも愛くるしいね。


 問題は、一切の殺気を感じない事だ。

 まるで掃除か夜回りでもしているかのように、平然としてやがる。


 ――おや。


 俺が婆さんにくれてやって、そのあとさっきのネズミ共の手に渡った筈のストロベリー味ポップコーンを、こいつが持っている。

 という事は、つまり!

 ネズミ共に先を越されちまったかな!?


「……」


 片手が塞がっているから、ジュースを飲むようにしてポップコーンを喰っている。

 お!

 喰い終わったらしい。

 空の容器を捨てて、黒い塊がそれを飲み込んだ。

 見かけによらず律儀な女だね。


「……」


「ごきげんよう、俺だ。ポップコーンはお気に召してくれたかな」


「……」


 言葉は、通じていないらしいな。

 こっちが挨拶しても、ゆっくりと近付いてくる。

 その足取りはゾンビじみたものにも見えるが……よく見るとそうでもない。


「う、動くな!」


 制服さんがクロスボウを向けても、動じる気配が無い。

 かなりの手練れだ。

 命を奪うことと呼吸をすることを天秤に置いてもピクリとも傾かない、この女はそういう手合いだ。



 ああ、こりゃあヤバい奴を相手取っちまったらしい。

 さっさと片付けよう。


 じゃなきゃ……



「ぎゃああああッ!? 足が、喰われ……」


「ジジジ……」


 こういうことになっちまう。

 鉄棒女のすれ違った制服さんの足元から、真っ黒な人型の塊が現れた。

 そして、あろうことか塊が制服さんのふくらはぎを囓りやがった。

 鉄分補給とはね。

 ほうれん草にしとけよ。


 挙げ句、電波局の合わないラジオみたいなノイズを出してやがる。

 いかにも恐ろしげで、怖がらせる為に生まれてきたような奴だ。


 ……この鉄棒女、やってくれるぜ。

 こいつから片付ける必要があるのは明白だ。


『ロナ、紀絵。それなりに接待しながら、この鉄棒女の動きを観察しようぜ』


『うえぇええ……どう見ても苦手な相手なんですけど……』


『お前さんの嫌がるツラを拝みたくてね』


『マジでーちょーウケるーあははテメェ゛後で覚えとけよこの野郎ォ゛』


 ヒュー、おっかないねえ!

 楽しそうで何よりだ。



「そらよ」


 銀の弾を在庫処分セールにしてやろう!

 ズドン! ズドン! ズドン!

 リロード。


「……」


 鉄棒女が高く飛ぶ。

 壁を足場に走り、銃弾を避けていく。

 意表を突いて当てづらくするのは、賢い判断だ。


 だが、戦うのは俺だけじゃあない事くらい、お前さんも理解している筈だぜ。


稲光を纏うゲフローレンメルクール……水銀の氷柱(ウント・ブリッツ)!」


 紀絵が、氷柱をレールガンみたいにして飛ばす。

 制服さん共は、影の塊を追い払うのに手一杯だ。


「くそ、離れろ、こいつから離れろ!!」

「痛ぇよぉ、歩けねぇよぉおお!!」


 魔法も物理も効いちゃいない。

 まったく、手間の掛かる野郎だ。


「ロナ、あいつらを頼んだ」


「はいはい」


 ロナの背中から伸びる翼手で、影の塊を握り潰す。


「――キ゜ッ」


 ガラスを引っ掻いたような、嫌な音が耳に刺さる。

 なるほど、それがファントムちゃんの断末魔ってワケだ。


「まだ隠し玉があるだろう。出してみろよ」


 鉄棒女が、得物を片手に駆け寄ってくる。

 姿勢を低くして、弾を避けようって魂胆ハラだな。

 させるかよ。


「甘えたい年頃かい。いいぜ、ハグしてやるよ」


 どうせさっきの影の塊――ファントムちゃんでも出してくるに違いない。

 こっちは無警戒だ。

 さあ、お前さんはどう読んでくるのかね。


「……!」


 右に跳んだか。

 だったら、こうだ!


『紀絵!』


『ええ!』


 炎に似ている冷気の塊が、床から立ち昇る。

 そら、凍れ。


「……」


 また跳んだか。

 見かけによらず、すばしっこいね。


「……!」


 嫌な音を立てて、鉄パイプが壁を抉る。

 あんなもんマトモに食らったら、電子レンジで温めたスイカみたくなっちまう。

 流石にこのタイミングで退場するのは御免こうむるぜ。


 で、俺の近くに来たって事は、そろそろ足元を気にしたほうがいいのかもしれん。


「ジジジ……ジジジ」


 ほらね!


 ズドン!


「――キ゜ッ」


 ああ、待て待て。

 そんなにいっぱい出されても困るぜ。

 見ただけでも、1……2……3……?


 オー!

 11匹も出しやがって!

 どうやって始末をつけてやろうか……。



 4時方向、それと8時方向から手!

 捻って、もろとも投げ飛ばす!


「「――キ゜ッ」」


 ズドン!


 ついでに、制服さんに襲いかかった奴を掻き消す。


「ジジジ……ジジジ」


「……」


 真後ろからファントムが羽交い締めにしてきた。

 その間に鉄棒女が真上から跳んでくる。


 頭上に煙の壁を展開だ。

 カァンと音がするが、頭が凹んだ感触は無い。

 オーケー、額が湿ってもいないから無事だな。


 煙の槍でファントムちゃんのケツから頭を貫く。

 そのまま鉄棒女にブチ当てる。


「おおっと、他のメンバーに手を出すなよ。俺だけじゃ不満なのかい」


 見てられん。

 こっちから近付いて同席を願っちまうぜ。


 リロード。

 プラズマ弾頭で壁を削ってやるよ。



 ズドン!


 お。

 このファントム……さては影を触媒に召喚してやがるな。


『紀絵、強く光る魔法はあるかい』


『できましてよ、先生!』


 よし、でかした。

 俺はサングラスを装着!

 そして久しぶりに、周囲で戦う味方共に“アイデア”を共有する。

 目を瞑らせる為さ。


「――極光纏い(グランツ)輝ける吹雪(シュネーシュトゥルム)!!」


 紀絵の魔法で、光の粒で出来た吹雪が舞い散る。

 暗闇に慣れた目じゃあさぞかし眩しいだろう!

 ファントム共がことごとく薄れる。

 鉄棒女め、無防備だぜ!


「ダーティ……パンチ!!」


「……!?」


「拳に煙の槍を纏わせただけじゃないですか!!」


 湿った音を立てて、鉄棒女が勢いよく吹き飛ぶ。

 ファントムがその間に動きを止めた。

 どうやら、自律しているわけじゃあないらしい。


「ダーティ……キック!!」


 倒れ込む鉄棒女に、煙の槍で威力を水増しした蹴りをお見舞いしてやる。


「ダーティキック! ダーティキック!」


 何度もだ!

 ファントムが次々と薄れて消えていく。

 どうやら、維持する為の魔力が無いらしい。


「これはひどい……弱い者いじめにしか見えない! 決してそんな筈はないのに!」


「売られた喧嘩を買っただけさ。正当防衛だぜ」


「これじゃ過剰防衛ですって。ていうか、それ以前に、あたしら不法侵入なんじゃ……?」


「だがここはダンジョンだ。ほらプレイ料金だ、受け取れよ」


 ストロベリー味のソフトクリーム(何とコーンを固定するスタンド付きだ)を注文!

 奴の顔の前に置いてやる。


 物欲しげに手を伸ばすから、俺は奴の頭の上に足を――


「……!」


 おー!

 なんて速さだ!

 ゴキブリよろしく、凄まじい速さで身を引いて、壁に跳躍しやがった。

 しかも引き際に鉄パイプを俺の肋骨にブチ当てて来やがるとは。

 楽しませてくれるぜ。


 ……何匹かのファントムに担がれて、ヌルヌルと通路の奥へと消えていく。

 ちゃっかりソフトクリームも回収して、喰ってやがった。


 気に入ってくれるといいんだが。


「あの、スーさん。さっきの鉄棒女が持っていたポップコーン……」


「ああ。オチは大きく分けて4つだろう。

 ダンジョンの外で餌付けされたか。ネズミ共がこの先にいるか。

 俺達の知らない隠し通路で先回りされたか。ダンジョンの入口が他にもあるか」


「複合的な要因である可能性もありますわね」


「ですね。でも、スーさんをして苦戦した相手という事は、そいつらの実力がスーさんより上でない限り、足止めを喰っている確率が高いです」


「それじゃあ、さっさと背中に引っ付いて、追い打ちを喰らわせてやるとしようかね」


 勝利の女神とやらが連中に味方しようとする前に。

 婆さんの静止を振り切ってまで記憶を取り戻しに行くというのなら、相応の覚悟があるのかを問おうじゃないか。


 それに、いい情報を持ち帰ればクラサスの野郎に恩を売りつけてやることもできる。




 無言キャラって、独特な魅力を持っている気がしませんか。

 私は好きです。

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