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Task3 ダンジョンを探索せよ


 ――ネズミが四匹ほど紛れ込んでやがる。


 そのように現場の指揮官サマに伝えてやりゃあ、水面にクソを落としたように騒がしくなりやがった。

 特徴まで詳細に報告したところ、どうやらそのネズミ共は雇い主サマにとっての因縁の相手らしい。


 良かったじゃないか。

 ……雇ったのが俺でね。


 わざとネズミ共を飛行船の係留地点まで誘導してやった甲斐があるってもんだ。


 そしてその中に竜に変身できるガキがいるって話は、敢えて黙っておいた。

 些細なこと(・・・・・)だ。

 どうせ知っている。

 知らなかったら、てめえの情報不足を恨むがいいさ。



 そんなわけで、強行軍だ。

 予定より一週間も短縮して、報告したその日にダンジョンに潜った。

 先遣隊の活躍いかんで、天下の雷撃艦とやらの砲撃によるショートカット開通の成否に関わってくると来りゃあ、俺達も責任重大ってワケだ。

 ふう、首元が熱くなって来やがるぜ!


 それもこれも、ネズミ共サマサマってこった。



 おかげさまで誰よりも早く、この廃坑みたいな景色を拝むハメになった。

 穴蔵の中は真っ暗で、ランタンの薄明かりだけが頼りと来た。


 道中でメダル型の小型照明魔道具を設置しながらだから、足取りはそれなりに重たい。

 ありがたいね、まったく!


「……それにしたって、日程を早めすぎじゃないです?」


 ロナの奴、口を尖らせてやがるな。


「是非もなく足止めして差し上げようぜ。

 あいにくと命までは奪ってやれないが、足音が遠のけば夜伽の膝枕も少しは柔らかくなるってもんさ」


「だって、またしても強行軍の護衛ですよ……正直、気が滅入りますよ」


「前回と違うのは、ケツが濡れていようが火花が迫っていようが、特に気にする必要がないって事だ」


「いや、ネズミ共より先に探せって話だったじゃないですか」


「突き飛ばして奪い取れば済む話だろうよ。何せ、ダンジョン大先生が難攻不落を自称しておいで(・・・・・・・)だ」


「……まさか、依頼主の言っていた古文書が、このダンジョンからバラ撒かれたものだと?」


「ハエトリソウだってラフレシアだって、間抜けな羽虫共は特に何も考えず集まるだろう。それと同じだよ」


「その理屈で行くと、あたしら全員、虫と同列って事じゃないですか」


「食虫植物の消化液すら燃やし尽くす、火達磨のハエだがね」


「おぇッ、想像したくない」


 これでロナのご機嫌取りは問題ない。

 紀絵は相変わらず大人しい。



「……あのお婆さん、魔力の書式が見れるって言ってましたね」


「ええ、そうですわね。わたくしにもそんな能力があれば良かったのですけれども。

 曲がりなりにも魔法少女もどきをやっております身の上ですし」


「装備でそれっぽくした人造魔法少女っていうところがミソですね」


「ですわね。それで……あの子、シグネさんと言いましたわね。あの子は何処の世界から流れてきたのでしょうか?」


「案外、あたし達の知ってる世界かもしれませんよ。この手の話は……多分、クラサス案件なんでしょうけど」


「クラサスさんは、元気にしておいででしょうか? あちらも確か、他の世界からのゲートが開いたとか伺っておりますけれども」


「ありましたね、そんな話……まぁ、るきなと紗綾さんの補佐でもしてるんじゃないですか?」


「いえ、元気かな、と」


 世界の境界線に綻びが見えた……クラサスの野郎は、確かそう言っていた。

 白髪の小娘がどのタイミングで他所から流れ着いたのかにもよるが、他のビヨンドがここにいないって事は、大きく分けて二つの予測ができる。


 コソコソよろしくやってやがるか。

 それとも、何かしらがケツに詰まっていて、身動きが取れていないか。


 ジェーン・“イゾーラ”・ブルースの奴が悪さをしているに違いない。

 何せ、紀絵にちょっかいをかけて、生前の世界に放り込んだのもあの女の差し金だ。

(紀絵が怪物になった時に、あの女の声を聞いたらしい)


 目的はどうあれ、穴を開けているのはあの女か、いるとしたらその類縁の連中さ。


 だが、個人的な憂さ晴らしの他にはあの女に用事がないんだ、俺は。

 ……世界を救うのは俺の役割ガラじゃない。



 雑談しながらも、どんどん進む。

 そろそろ敵さんがお出迎えしてくれてもいい頃合いだと思うが、一向に現れる気配がない。


 サングラスをかけてサーマルセンサーを起動してみても、うんともすんとも言わない。

 ダンジョンの魔力で遮断されているだけなら、それでもいいが。


 背後についてきている兵士共も、代わり映えしない景色にいい加減飽き飽きしてきているらしい。

 どいつもこいつも、湿気たツラをしてやがる。

 景気付けは、できればてめえらでやってほしいもんだがね。


「早速、おでましだ」


 この世界のダンジョンについては、一通り説明を受けている。

 コアと呼ばれる大きな魔石から、通路やらモンスターやらが生み出されるそうだ。

(老朽化したダンジョンは空間ごとの結界が機能していないから、壁を壊してショートカットを作れるらしいが……果たしてそう上手く行くかね)


 小さな円筒状の広場に、歩き回る人骨が何匹か。

 おおかた、このダンジョンを攻略している最中にくたばった奴らの成れの果てだろう。


 ダンジョン側からすりゃあ、嬉しい“成果物”ってこった。

 だが、弱かった。



 ズドン!

 壁際のひとかたまりが、これで粉々だ。


 ズドン!

 立ち向かってきた奴らを一網打尽にしてやった。


 ズドン!

 生意気にも足を掴んできた奴には、俺様直々に敬意を払ってやるとしよう。


 勝負は一分もせず片付いた。

 先遣隊の大元の連中がどんな素性であっても、無闇に消耗させるのは俺の本意じゃあない。

 俺をレンタルしたという事がどういう意味なのかを、その目にじっくり焼き付けてくれ。



「骨なのに、骨のない連中でしたね」


「ぷっ、くくく……ロナさん、面白い事をおっしゃいますのね……!」


「は!? ダジャレじゃないんですけど!?」


「わたくしの後ろに隠れて震えておいででしたのに」


「だって長いこと放置されてたっぽい骨ですよ。どう考えても汚いじゃないですか」


 掴みは上々だ。

 制服さん共の士気も上がっている。


「なんて恐ろしい……」

「こいつらだけに任せておけばいいのでは?」

「馬鹿者! 雇われの監視も我々の任務だぞ!」


 せいぜい、そこら辺の椅子でも見繕って、ゆっくり休んでくれよ。

 お前さん達が仕事をするのは、本命と出くわした時だ。


 なんて漫才をしながらも、働き者な制服さん共だ。

 曲がり角なんかに当たるたび、後ろを振り返ってはランタンを明滅させてモールス信号を送っていた。

 流石に通信機なんて上等なもんは存在しないのか、あってもダンジョンじゃ使えないのか。


 さて、第1階層とやらは踏破した。

 防衛システムは痩せっぽちで、安上がりで、つまるところ華がない。

 まだまだ入り口だろうから、そんなもんだろうと俺も思っていた。



 ……階層を18も進めるまでは。



「おかしい……敵が弱すぎるぞ。資料には、もっと複数のモンスターが点在しているとあったが」

「想像以上に楽な仕事でしたね、隊長」

「いや、これこそが罠なのだ。きっと、そうだ」


 ダンジョンそのものが老いさらばえるという事も、どうやらあるらしい。


「確かに図鑑には、ミノタウロスとか、ラミアとかいましたけど……」


「皆さま揃ってスケルトン化しておいででしたわね、ことごとく……あれでは寧ろ憐憫の情すら抱いてしまいましてよ」


 あとは殆ど朽ち果てた錆だらけのリビングアーマーくらいだ。

 あいつら、あろうことか煙の壁でペシャンコになりやがった。


 ……よほど魔力が足りなかったらしい。

 手入れも餌も無いなら、そりゃあこうなる。

 最後まで責任を持つのが主の役割スジってもんだろうに。


「……なんか、かわいいからって理由だけで小型犬を飼って、そのあと長期旅行に出かけて放置して死なせたみたいなダンジョンですよね、ここ」


「しかもそのワンちゃんが存命の頃はたくさんSNSで写真とかアップしていたのに“いいね”が付きづらくなってきた途端に愛想を尽かしたような、そういう雰囲気を感じますわ!」


 言いたい放題だ。

 ほら、ダンジョンマスターさんよ。

 何か反論はあるかい。

 無けりゃさっさと次のメニューを出してくれ。


 流石の俺様も、少しばかり堪える。




「次は……謎掛けですね」


 石造りのゲートが、硬く閉ざされていて、すぐ隣に石像がある。

 いかにも、それらしい。


「わたくしにお任せ下さいまし。この手の仕掛けは得意中の得意でしてよ」


「まずは壁面の説明文を読んでみますか。なになに……?

 “三眼の竜に赤き焔を灯せ”? 宝石っぽい穴は開いていますが、他の階層でそれっぽいものって拾いましたっけ?」


「それならここに。ふむ……資料と位置関係と構造も一致している。これで動く筈だ。

 古い共通語で書かれているのは、来訪者に解るようにしたのか……?」


 制服さんの一人が、懐から小石を取り出して嵌め込む。

 一応、ルビーみたいな色だし、形もピッタリ合う。

 だがゲートは動かなかった。


「魔法を使うのではありませんこと?」


「じゃ、試しにやってみましょうよ。どうぞ」


 眼の部分のくぼみに、紀絵が炎の魔法を使う。

 が、反応がない。


「えっと……さっきのお婆ちゃんが言ってたみたいに、この世界の魔力と書式が違うとか?」


 まるで自国のネクタイ以外はドレスコードとして認めないレイシスト御用達レストランだ。

 そんなだから廃れちまうのさ。


「制服さん共、出番だぜ」


「あ、ああ……」


 だが他の奴らがやっても、ゲートは拳ひとつ分まで動いて止まっちまった。

 これは、もしかすると……動かす為の動力ケーブルみたいなもんが劣化しちまっているのかもしれん。

 流石にロナもキレた。


「あぁ、もうッ!! 進行不能バグとか勘弁しろっつーのッ!!」


 ロナは背中から青白い翼手を出して、そいつでこじ開ける。

 いいねえ、いい調子だ。

 そのまま人が通れるくらいまで……――


「――あっ」


 ゲートは途中でヒビ割れて、ゴトンッという音とともに奥のほうに崩れた。


「はァああああッ!? なんで!?」


「あー! こーわーしーたー!」


「紀絵さんうるっせぇ、ほっぺたつつくな」


 とんだボロ屋敷だぜ。

 こりゃあ、この後も楽しませてくれそうだ。



 崩落もまた、廃墟ならではの情緒ですよね。

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