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Task1 ロナをちょっと構ってやれ

 そろそろ「アワードが死に設定になってんぞー」と言われかねないので……このへんで出しておかないとですね。


 ごきげんよう、俺だ。


 今回の依頼主は……こりゃあ随分な連中だね。

 未解明のダンジョンを発見したから、カネを確保する為に財宝を探せと。


 上陸地点(・・・・)で、ロナと紀絵はようやく地面に足を付けた(・・・・・・・・)事に少し安心したらしい。


 ……見渡す限りの樹海だが、通らにゃならんのが憂鬱だね。

 何せ、ダンジョンの入り口と予想されている地点は、飛行船の着陸ができないトゲトゲの峡谷地帯だ。


 あんな大砲だらけの飛行船じゃあ、そりゃあ盤石な足場が恋しいだろうよ。

(ちなみにイシュトグリフ級雷撃艦クゼルクヴァンダーなんて、仕様書の余白を埋める為だけに付けたような気障ったらしい名前だった)



「依頼書、ちょっと調べるんで、見せてもらってもいいです?」


 なんて、ロナが俺のコートの裾を掴む。

 片手にはスマートフォンだ。

 ここにも電波が届くとは、驚きだね。


「出発までに調べ物は済ませたと思ったがね」


「気になることがまた出てきました」


「はいよ」


 後ろ手に渡す。

 ……のをやっぱり取りやめて、一緒に見る。



 ■概要

 依頼名:黄金郷探索

 依頼主:グロンド・ブリスコッド

 前払報酬:0Ar

 成功報酬:28000Ar

 敵戦力:不明

 作戦目標:財宝の回収


 依頼文:

 私はギブドラステア公国のグロンド・ブリスコッド大佐だ。

 古の黄金郷の眠る、難攻不落と謳われた伝説のダンジョンを攻略して欲しい。


 情報局の手によって各地の文献を頼りに調査を進めた結果、それは絶海の孤島にあると判明したのだ。

 君には、先遣隊と合流して調査を進めてもらう。


 現地には何が眠っているか解らんが、保険は用意しておくに越したことはないだろう?

 我が祖国を復興するためならば、私は手段を選ぶつもりはない……。

 邪魔をする者が現れたら全て排除し給え。


 なお、現地で財宝を発見した際は、近くの将官に引き渡すこと。

 くれぐれも、くすねるなどといった姑息な真似は慎み給えよ。


 以上だ。

 良い返事を期待する。


 ■枠外追記

 世界管理番号:13884

 世界名称:多層大陸世界エクシトリア



 エクシトリアのギブドラステア公国だとよ!

 ジジイのクシャミと痰吐きみたいな名前しやがって!

 名付け親のツラを拝んでみたいもんだ。


「……ふぅん。いけ好かない文体はさておき、とりあえず管理番号ですね。13884って事は、登録されたのがあたしの世界よりも古いみたいです」


「それがどうかしたのかい」


「いいですか、スーさん。スーさんほどの狂気的なクソッタレスーパーヴィラン野郎は大抵の敵を澄まし顔で返り討ちにしてしまえますが、あたしとか紀絵さんはあくまで一般的な範疇の力しか使えないんですよ。

 で、ジェーンもといあの偏執狂のクソッタレ変態愉悦女に目を付けられているのが現状ですよね?

 この先も雌恫叉めどうさみたいなドぎつい強敵ビヨンドを差し向けられたら、あたしと紀絵さんが無事でいられる保証がないので」


「別に逃げたっていいんだぜ。俺が一人で片付けるか、他のゲストにでもなすりつけりゃあ済む話さ。この前のは、たまたま興が乗ったというだけだ」


 本当だぜ。

 おい、なんてツラしやがる。

 そんなに顎にシワを寄せられても、本音は本音なんだ。

 ひっくり返るとは思わん事さ。


「いいかい、ロナ。俺はヒーローでもなけりゃあヴィランでもない。あくまで善悪の狭間から問いかけるのが本業だ」


「ケッ。どう見てもヴィランじゃないですか。あんたに訊いたのが間違いだったよ、クソが! 後で尻の穴ホジホジしてやるからな!」


「そうかい。楽しみにしているよ」


「ふっふーんだ! 可愛げのないクソ野郎! これでも喰らえ!」


 背中に飛び付いたかと思えば、耳の裏から息をかけてきやがった。

 ヘソから下腹までを指でなぞる……なんてオマケまでセットだ。


「ふはははは! 俺がもっと弱かったら、この世界にひざまずいて、許しを請うていたかもしれん」


「嘘だろ……紀絵さんに貸してもらった逆レ合同誌じゃ、これでクラッとなったのに!

 これじゃ、あたしがガセネタに引っかかるウブな女みたいじゃないですか! 馬鹿! 死ね!」


 しまいにゃ背中を殴り始めたが……俺に痛覚は無い。

 せいぜい、その刺激はマッサージでしかない。


「……わたくしの蔵書をバラすとは、いい度胸でしてよ、ロナさん?」


 紀絵の奴、なんて声してやがる。

 バラされたのが余程堪えたらしい。


「あ、ちょ、ごめんなさい」


「こちょこちょこちょこちょ!」


「やめ、はははは! ひぃ! 死ぬ!」




「お? 痴話喧嘩か?」

「仲良しですねぇ」

「おい誰かやめさせろよ、仕事に差し支えるだろうが」


 騒ぎを聞きつけてやってきた兵士は、金属製のクロスボウで武装してやがる。

 なるほど、なるほど。

 ここまでやってきた大砲たっぷりの飛行船といい、どうやら今回の世界の文明レベルはちぐはぐらしい。


 ……失われた文明なんかが、その黄金郷とやらにあるなら「ロマンティックだ!」と拍手のひとつでもくれてやろう。

 まあ高望みはすべきじゃないと思うぜ、制服さん共よ。



 それにしても、黄金郷ね。



 ――『■■■くんの作品“黄金郷”に落描きをした犯人? うーん……先生は、こっちのバージョンのほうがいいと思うよ。大丈夫、作品としてはそのままでも充分、通用するよ! だから犯人探しは、諦めよう?』


 ――『凹んでも意味ねーから。作品の価値を決めるのは作者じゃなくて見る人だから』


 ――『そんなに弄くられるの嫌なら飾らなけりゃ良かったのに』


 ――『ていうか元々下手くそなんだから、どうなったってそれ以上クオリティ下がらないから』



 ――『触るな! お前が俺をハメたんだろ……こうなるように仕向けたんだろ!!』



 ……さっさと消え失せろ。

 こんなものは、俺にはもう、ただの無意味な記憶(ノイズ)でしかないのさ。


 それを描いた奴は負けた。

 あの閉ざされた世界に負けて、俺の前から消えちまった。

 だからもう、終わっちまった話だ。


「……スーさん? どうしたんです? 急に、そんな険しい顔で黙り込んじゃって」


 マズいね。

 酒が足りんらしい。


「ああ。ちょいとばかり不愉快な雑念が小窓からケツを出して、俺のニューロンに屁をこきやがってね。今は必死に換気をしている最中だ」


「おぇっ……訊くんじゃなかった」


「口直しに今ここで何かしてくれるのかい」


 なんて訊いてみりゃあ、


「やだ。お・あ・ず・け・でーす」


 ロナの奴はそっぽ向いて口を尖らせやがる。

 後ろに組んだ両手が、実に食欲をそそるね。


「ふはははは! 可愛らしい奴め!」


「なんであたし憎まれ口たたいたのにアタマ撫でられてるんですかね? 紀絵さん、わかります?」


「はてさて。わたくしにはさっぱりですわ」


「なんですか、そのニヤケ顔は」


「うふふ。ナイショですわよ」


 ロナが俺の手をどかして、振り向く。


「そういや、スーさん。アワードは確認しました?」


「アワードなんざ食玩に付いてくるラムネみたいなもんだろう」


「いや、いいから見て下さいよ。スゴイ事になってますから」


 同じビヨンドであれば、アワードは自由に閲覧できると来た。

 隠し事ができないのは一部の野郎にゃ辛い所だろうが、俺の心は少しも痛まない。



◆強敵 ―― 敵対者を5名以上敗北させる

◆異名“黄衣のガンマン” ―― 周囲に呼ばれる異名

◆虐殺者 ―― 自身よりステータスの低い者を50名以上殺害する

◆異名“落日の悪夢” ―― 周囲に呼ばれる異名

◆自殺者 ―― 派遣先の世界で自害する

◆はじめての奴隷 ―― 何らかの方法で奴隷を入手する

◆勇者泣かせ ―― 世界を問わず3回以上『勇者』属性の人物を敗北させる

◆心を折る者 ―― 10名以上の敵対者の戦意を奪う

◆束縛者 ―― 同じ相手を3回以上束縛する

◆異名“ダハンリサン” ―― 周囲に呼ばれる異名

◆駆け出しパイロット ―― はじめて航空機の操縦スキルを入手する

◆目指せ鳥人間! ―― 航空機に頼らないで空を飛ぶ

◆大漁 ―― 水生生物を大量に殺害する

◆街単位のカタストロフ ―― 都市機能を麻痺させる程度の破壊を行う

◆捨て猫ではないのだから ―― 3名以上、派遣先の世界から会話可能な人物を持ち帰る

◆夢にまで見たマイホーム ―― マイホームを購入する

◆その名は恐怖と共に語られる ―― 世界を問わず累計10,000名以上を恐怖させる

◆ギロ“チン” ―― 相手の局部を医療目的以外で切除する

◆聖女を陥れる悪魔 ―― 対象の世界にて『聖女』属性の人物を極刑に追いやる

◆筋金入りの悪党 ―― 5回以上、アライメント『秩序』の組織に敵対行為を行う

◆ジャイアントキラー ―― 格上のビヨンドに勝利する

◆天敵 ―― 野生の生物(魔物含む)を明らかに正当防衛以外の目的で攻撃し続ける

◆分隊支援火器殺し ―― 重火器を防ぎ切る

◆共同戦線、何するものぞ ―― 大規模パーティを3回以上撃退する

◆聖剣、反旗を翻す ―― 相手の固有マジックウェポンを奪い、それを使って持ち主に重傷を負わせる


「ほう、こいつは」


 しょうもないものから、洒落にならんものまでよりどりみどりだ。


「ヤバいでしょ? イカれてますよ。アメコミだったらどう見てもスーパーヴィランのたぐいじゃないですか」


 ……が、俺は特にこれといった感慨もない。

 他の連中は知らんがね。

(例えば今まで俺と戦ってきた奴らとか)


「もっと嬉しそうにしましょうよ」


「俺は、今その瞬間に相手の血液をスムージーにしてやった事については多少考えてやってもいいが……過去にブチのめしてきた奴の記憶なんざ、俺にとっての勲章には成り得ないのさ」


「つまり自慢にはしたくないと」


「……ああ。心の底から忌々しいね」


 つまり、そいつはその時点では“まだ”(或いは“もう”)世界を救う英雄になる権利を持っていないという事を俺の中で結論付けたって訳だ。

 そんな弱虫に救われる世界なんざ、見ていて吐き気がする(・・・・・・)



「――準備は整った! 貴様ら、行くぞ! 進軍開始ィ!!」


「はいよ、ご苦労さん」


 ……やれやれ。

 緑が多すぎて胸焼けしそうだ。

 森を焼き払って着陸地点にしなかったのは褒めてやらんでもないがね。

(理由は確か、根っこが地下のダンジョンと繋がっていると崩落のリスクが高まるなんて抜かしてやがった。素晴らしいね、お優しいエコロジストめ!)




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