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Extend9 変生の足音

 今回は、需要あるのかは不明ですがフィリエナの視点です。


 私、フィリエナ・ネディスは機嫌が悪い。

 それもこれも、うちのリーダーをみんなして馬鹿にするからだ。

 しまいには、戦力外通告まで食らって。


 ムカついたからアカンベーしてさっさと下山してやった。

 仮にリーダーが戦える状態だったとしても、私はあんな連中に手を貸すのには反対してたけどネ!


 くそー!

 途中で雨に降られるし。

 宿屋はボロいし。

 食堂は無駄に人が多いし。

 酒は高いから断念せざるを得ないし。

 愛しのリーダーは部屋に篭りっきりで出て来てくれないし。

 せっかくのアツアツの料理も、嫌な気分で食べたら美味しさ半減だわ!


 も~~~う、最~悪っ!

 それもこれも全部あいつらのせいよ!


「どうしたのです、フィリエナ。そんなムスッとしてたら、可愛いお顔が台無しなのです。胸以外の取り柄がなくなってしまうのです」


 思わずテーブルをバンッと叩いて立ち上がってしまう。


「あいつら、絶~ッ対に許さないんだから!

 何よ何よ!? 女が二股以上したらアウトなのは、冒険者の間では常識でしょ!? おばあちゃんだって、そう言ってたもんっ!

 あいつ、事故だったとでも言いたげに……女が一人で動くとどうなるかぐらい解らないのかしら!?

 どうせ誘惑したに違いないわよ! でなきゃ普通、相談するもん!」


 だからソリグナを懲らしめてやろうとしたんだもん!

(殺すつもりは無かったけどネ。そこは反省だ)


「ほんっと、誰とヤッたのかしら、あのビッチ!

 ダーティ・スーと? だとしたらあんなに信頼しているっぽいのも頷けるわ!

 あいつ、これ絶対あとで私達をハメるつもりよね!? 惚れたオトコの為に!

 周りも肩を持ったりして、連中どんだけカネ積まれたんだっての!」


 これで冒険者資格剥奪されて魔族領に行かざるを得なくなったら、絶対に許さないんだから!


「どうどうどう。フィリエナの言う通りなのです。けど、とりあえず落ち着くのです」


 お尻を叩かれて、ふとキャトリーを見る。

 キャトリーは周りを手で指し示した。


「……こほんっ」


 私は座った。


「私からすれば、マキトの取り巻き達こそ過ちを糺されるべきだわ。

 男に暴力振るう……あろうことかうちのリーダーを殴ったクソサムライ女とか。

 自分の主人を“フィアンセ”呼ばわりしたメスゴリラ騎士とか!」


 フィアンセっていうのは、男が自分の婚約者の女を指して使う言葉よ!

(そりゃマキトさんは私から見ても女々しい雰囲気出しちゃってるケド……)


 ――とにかく!


「あいつらは解ってないのよ。女が調子こけば碌な結果にならないって事を……」


 武力や政治で女に主導権を握らせたら碌なことにならないのは、これまでの歴史がさんざっぱら証明してきた。

 例えば帝国なら、現皇帝の姪にあたる皇女が色々とやらかしたせいで、皇帝と宰相が争うことになった。

 土地は痩せ細り。

 木々は枯れ果て。

 そうして、奪うしか無い状況へと帝国は追い込まれた。


 遠い大陸の“北壁”とかいう所もそうやって滅亡したって、誰かが言っていた。


「そういえば、この前いっしょに組んだ修道女のエウリアさんも、ボクたちを嫌な目で見ていたのです」


「やらしい目? あの人レズだったの?」


「……それギャグで言ってるです?」


「私マジメだもんっ!」


 ぶー!


「いや、どっちかというと、憐れみの目で見ていたのです。ちょうどボクがフィリエナを見ている今みたいな」


 ふんふん。

 う~ん……!?


「そんなまじまじと見られても。レズなのです?」


「ぶー! 一緒にしないでよ!」


「ボクの目線は、おミソに行くはずだった栄養が全部お胸に行っちゃって可哀想っていう目線なのです。

 お馬鹿さんみたいにほっぺた膨らませてばかりなのです」


「ひっどーい! 私が馬鹿だって言いたいの!?」


「あまり騒ぐななのです」


「はぁ……。本来、女は養われる楽な側なのに、どうしてああいう欲張りで恩知らずなイキリ女冒険者が一定数湧いてくるのかしら」


「ホントなのです。そんなに男と肩を並べたいなら、いっそ男になっちゃえばいいのです」


「魔法で?」


「噂なのですが、冬将軍なる錬金術師が性転換の方法を開発したらしいのです。

 これでホモとレズも、どっちかが性転換すれば死刑を免れて解決なのです」


「うんうん! 世の中がどんどん便利になっていくわねっ! よきかなよきかな……」


「え……フィリエナ、その発言ちょっと加齢臭がするです」


「誰がババアじゃい! ピチピチの17歳JKだもんっ! リーダーが言ってた! ……ところでJKって何?」


「……ぷふっ、くくく」


「あは……はははは!」


 はぁー、やっぱり。

 女の子は笑顔が一番よね!



「――その冬将軍、エルフの女性だって噂みたいですよ」


 ウェイトレスさんがそう言いながら料理を置いている。

 ちょっと影のある、メガネの金髪お姉さんだ。


 事情通、なのかな?

 冬将軍と知り合いだったら滅多なことは言っちゃ駄目だろう。

 褒めとこ。


「すごーい! エルフも、女の人も、錬金術からは縁遠い筈なのに!

 美容整形とかアンチエイジングの研究してたら、私も喜んでお手伝いしちゃうかも!」


「もーう、あくまでも噂ですって! うふふ」


 ウェイトレスさんたら、口に手を当てて可愛らしく笑った。

 あざとい担当は私なのに!

 ……あざとい担当は私なのに!


「ところでお客さま?」


「どったの? 店員さん」


「金ならちゃんとあるのです」


「違うわよ。ナボ・エスタリクの件、バレなくて良かったわね?」


 ――え?


 ちょっと、待って……このウェイトレスさん……!

 あれ?

 周りが暗くなって……?


「――!?」


 あなたは、まさか……!


「私を忘れてしまったの? 薄情な子ね。フフ……」


 いつの間にか、ウェイトレスはメガネを外して、代わりに目の周りを覆う真っ黒な仮面を付けていた。

 その仮面を私は見たことがあった。

 出会った場所からはかなり距離があった筈……!

 ずっと監視していたとでもいうの!?


「っ、キャトリー! この女――」


「――無駄よ」


 キャトリーは動かない。

 周りもだ。

 まるで、時が止まったかのよう。

 仮面の女は、口元で人差し指を立てる。


「私とあなただけの取引だったでしょ? だから、内緒話」


「あ……」


「せっかく、いい手駒を紹介してあげたというのに、有効活用してくれなかったのね。

 このゲーム、あなたの負けみたいよ?」


「あんなのが出てくるなんて……殺すつもりまでは無かったんです」


「いいじゃない。死ななかったんだから、結局。お互い、いい薬にはなったでしょ? ほら、反省した?」


「あ、あうう……ご、ごめんなさい……許してください、お願いです……」


 仮面の女は歪な笑みを浮かべた。

 周囲の気温が一気に下がって、両腕に鳥肌が立つ。

 一体、何をしようというの……?


「別に処分するつもりはこれっぽっちも無いわよ? ちょっとからかいに来てみただけ。

 もしあなたが望むなら、再戦の機会をあげてもいいわ。どうかしら? 次はもっと強いビヨンドを手配してあげるわ」


 ――再戦。

 確かに、不道徳な輩は成敗すべきだ。

 仮面の女と最初に出会った時、私は使命感に燃えてその手を取った。


 けれど、実際にはダーティ・スーに手酷くやり込められた。

 あんなの勝てる筈がない。

 私達だったら苦戦していたであろう野伏せりトカゲをああも残酷な殺し方で……。

 オークの軍勢を相手にしていた時だって、余裕の表情を少しも崩さなかった。


 ビヨンドとは、召喚獣の人間バージョンみたいなものだ。

 そう何度も気軽に召喚できるものじゃないとは思う。

 けれど……ソリグナの奴にダーティ・スーが召喚できたとは思えない。

 周りの誰かが協力してた筈。


 きっと……再戦してもまたダーティ・スーがやってきたら負ける。

 ソリグナは、悪運だけは強いから。


「再戦、する?」


「……そっ……それを決めるのは、私じゃないです」


「どうして? 元はと言えばあなたが言い出した事じゃなかった?」


「……」


「うふふ。私に頼ったのが運の尽きだったわね。じゃ、代わりのお願い(・・・・・・・)は追ってまた伝えるわ」


 一体、何を頼むつもりなのだろう。

 この悪魔のような女が考えることだ。

 きっと碌でもない内容に違いないのだ。


「それと、ダーティ・スーにはあなたの名前を出しておいたから。彼らの機嫌次第では……面白いことになりそうね?」


「ひっ……!? な、なんてことをしてくれたんですか!」


 報復で何をされるかわかったもんじゃない。

 終わった……私、内臓とか引きずり出されて売られちゃう……。


「冒険者は自己責任。それは常識じゃなかったかしら?」


 こ、このヒトっ、顔をっ、鷲掴みに……!


「言ってたわよね? あなたも」


「ふ、ふぁ()い……わひゃひ(わたし)も、言いま()た……」


「仕える男を間違えちゃ駄目よ。律しやすい馬鹿は、手綱を離せば途端に収拾がつかなくなってしまうのだから」


 そう言って、彼女はパッと手を離し。


「これはプレゼント。四の五の言わずに、どうぞ受け取って」


 片手に、赤黒いオーラを放ちながら蠢く球体を出現させた。

 どう見ても、あれはヤバい代物だ!


 逃げなきゃ――でも!


 身体が、動かない……!

 嫌よ、嫌よ、駄目……!


「んぐ……う、うぅう!?」


 球体が口の中で大きく広がり、喉へと侵入してくる。

 ごくん、ごくん……。


「うっ、ぐっ、んんっ……んッ……」


 身体が火照って、ヘンな気分になってくる……。


 あ

  た

   ま

 が、



 ぐる

  ぐる

   して

    きた


「大丈夫よ。表層はそのまま(・・・・)だから。ちょっと弄くり回す(・・・・・)だけ」



 ……――。


「フィリエナ。よく聞きなさい。人間として生きるという事は、ハリネズミと抱き合うことと同じよ。毎秒毎秒、覚悟しながら痛みを無視しなくちゃいけないのよ。自衛ができなきゃ更なる痛みが待っているだけ」


 そうだったのか。


 予期しない、意味不明な出来事に襲われたら、気をつけようがない。


 ああ……気付くのが私。

 遅すぎた。




紀絵(確かにビッチ枠に裏切られて故郷を追われる展開あるけど、それは君達ではないと思うなあ……)


ロナ「あ。これは、なんかメタ視点で物を考えている顔だ」

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