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Extend8 お姉さん呆れて物申す

 今回はサムライの遠江さん――もとい、その中の人である紀絵の視点です。


 さて、侍キャラを作って味方のふりをするのもそろそろ終わりかな?

 此処に辿り着くまでに、色々あったからね。



「っぐ、うう……」


 相変わらずツトム君は、ぐずってらっしゃる。

 さっき、治療が終わって目が覚めた途端に大泣きしていたから、多少は落ち着いたのかな?


「大丈夫? おっぱい揉む?」


 なんてフィリエナさんが言い出した。

 すごい!

 まるで“隣りに住んでいる甘えさせてくれるお姉さんキャラ”みたいな事を言いだしたぞ!?

 でも、どうせ演技なんでしょ~知ってる知ってる~。

(ここまでの道中のキャンプで何度か、幽体離脱して二人が見張りしている時の声を盗み聞きしたもんね)


「フィリエナ。下品なのです」


「だって! こんなに凹んでる所、見たこと無いもん! それに男の子って、こういうの好きだよね!?」


 人によると思うなー……。


「当てつけですか」


 キャトリーちゃんは、自身の平坦な胸とフィリエナさんの豊満な胸を見比べた。

 ええい、おのれら!

 ルックス以外に勝負する所は無いんかい!


「……揉む」


 お?


「おー、よしよし。ゆっくり休むんだぞ~☆」


 ツトム君、フィリエナさんのおっぱいを揉んで、そして顔を埋める。

 フィリエナさん、ツトム君の頭を撫でる。

 リコナさんやリッツさんに同じく、私も唖然としてしまった。

 ほんとに揉ませちゃうのか!


 あ、これ知ってる。

 おねショタって奴だ。

(推定3歳差くらいだろうけど)


「よしよし、なのです」


 あら、キャトリーちゃんまで。

 背伸びして撫でてる……。


 でも、ちょっと、アレだな……私、そういうの無理かな……。

 いや、だって……格好つける時ばかり“男”だの何だのって言うけど、結局それ?

 年上からならまだしも、推定年下っぽい子にまで慰められるって、どーなのよ。

 って、お姉さん思うんです。


 いやー別にいいんだけどね!?

 パーティの在り方なんてものは人それぞれだから、否定はしないけどね!?

 ……お互いが納得済みならね!


 それともそれが当然の道徳とか教養として存在していて、それに従わない奴はみんな悪い子って事?



 はぁ~良かった~……うちのリーダーがスー先生で。

 あの人は、割と一人で何でもやっちゃうから手が掛からないと主にロナちゃん方面から評判だし……。

(物理的にも環境的にも振り回されることはあるらしいけど、幸いにして私はその被害に遭っていない……と思う。多分)


 何より、束縛してこないしね、先生は。



「トーエさんも撫でてあげて?」


 ……え゛っ。

 いや、フィリエナさん、無茶ぶりですよ。


「そ、それがしは、ほら……あまり接点が無かったもので、そこに立ち入るべきでは……」


「撫でるのです。リーダーのメンタルケアは、パーティメンバーの義務なのです」


 そんなの初耳なのです。

 メンタルケアは教会とか冒険者ギルドとか、そういうのが担っているのかとばかり。

 ごめんね、前世じゃ向精神薬の代わりに深酒ばかりだったもんで。


 ……わかりましたって。

 そんなに睨まないで下さいって。


「おお、よしよし。ツトム殿はよく頑張った」


「棒読みなのです」


「あー……可哀想なリーダー……! 誠意のないクソ女を二回も引き当てるなんて!

 またお金だけ取られてしまうのだわ! 守ってあげるからね、リーダー……」


「うん……」


 カッチーンと来た!!

 けど……ここは我慢だ。

 この程度の戯言など聞き流してやろうじゃないか。


「良き仲間と巡り会えたのだな」


 ほら、渾身の営業スマイルだ。

 お前の涙はちり紙で拭いてやったぞ!(後で捨てよっと! ポイッ)


「仲間が良くても……うぅ……どうせ、俺なんて、俺なんて……あいつに全部持ってかれちまうんだ、くそ、くそ……!」


「さぞかし、ダーティ・スーが憎いのでござりましょう……ゆめゆめお忘れになられるな。雪辱を果たす機会は必ずや訪れまする」


「いや、マキトだよ……なんであいつ、ダーティ・スーと戦って死にかけないんだよ、おかしいだろ……。

 ステータス、俺のほうが倍くらいあるのに意味わかんねーし……ソリグナの奴も、マキトに付いてくって言い出して、なんで、なんであいつばっかり……クソ……!

 今だって、ソリグナと一緒に寝てるんだろ……」


「あんな女、忘れよー? ね? ね?」


「……」


 ああぁー……。

 そっちだったかぁー……ッ!!



 ソリグナさんがマキト君に守られながら夜を明かしたのがよっぽど気に食わなかったのね。


「しっぽりヤッたのかな……」


 彼、俗に言う草食系男子だし、妊婦さんに手を出す人柄じゃないと思うんだけどなー……。


 君のほうがよっぽどだと思うし、ね!☆

 私の水浴びを覗き見した事、忘れねぇぞ。

(どうやらフィリエナが仕組んだらしいって事は、後からリコナちゃんが教えてくれたけど、事故とはいえ暫くガン見していたからねコイツ)


 ま、不問にしといてあげよう。

 この子、両足グサッとやられていたわけだし。


「心配は無用にございまする。あちらにも、双月の盃の者がおられます故。

 仮に、万が一、神のいたずらか或いは悪魔の策謀で、マキト殿がそういう事(・・・・・)をしようとした所で、罷り成りませぬ」


「うぅ……」


 と、その時。

 背後から足音が。


「聞き捨てならんな。私のフィアンセに、そのような陰口を叩くとは」


「そっ、それがしはあくまで例え話でござりまする故……!」


 あわわ。

 あわわわわ。


「貴様の事を言ったのではない」


 イスティさんは、ツトム君をズビシッと指差した。


「ツトムとやら。貴様だ」


 あ……。

 そっちだったかぁー……。


「ちょっと! 傷心中のうちのリーダーに喧嘩売るワケ!?」


「八つ当たりで他の男の後ろ指を指すような男だぞ。そこになおれ! 貴様らまとめて、その性根を叩き直してくれる!」


「……ボクも巻き添えなのです?」


 おお。

 キャトリーちゃん、一人称“ボク”なんだ。

 無口だから初めて聞いた。

 いや、人見知りする子だろうから、フィリエナと一緒にいるときはよく喋るのかもね、きっと。



 ……おー!?

 私、もしかして、ちょっと察しが良くなってきてる!?

 スー先生とロナちゃんの会話を聞き続けて、洞察力のレベルがアップしてるかも!?


 や~~ったぜ~~!!

 褒めて!

 誰か褒めて!!


 ほめてほめてー!!


 ……。

 …………。


 ……いない!!

 褒めてくれそうな人、どこにもいない!!

 うわあああああああ助けてえええええ!!



 ……はぁ~。

 一人で盛り上がるなよ、私。

 これじゃあ、ただの痛い女じゃないか。

 生前から何も変わっちゃいないじゃないか……。



 一人躁鬱劇場やってる場合じゃなかった。

 一触即発の事態とはまさにこの事。


 赤コーナー。

 イスティ・ノイル。


 青コーナー。

 ツトム・ニムロ、フィリエナ・マディス、キャトリー・ウィッツバーン。


 ……ファイッ!


 とかやってたら、マキト君が来ちゃった。


「みんな、聞いて欲しい! この近辺で帝国騎士団が部隊を、てん……かい……?」


 ……修羅場だよ。

 1修羅から10修羅くらいまであるとしたら、これはたぶん、6修羅くらいかな?

 まだまだ死人は出なくても、怪我人くらいは出るかもだ。


「何があったか知らないけど。仲間割れは、止してくれないかな?」


「――なんで、なんでだよ……俺とお前の何が違うっていうんだよ……!」


「君は……」


 マキト君、ツトム君の今の台詞を聞いて一瞬で事の顛末を察したみたいだ。

 何度も頷きながら、冷めた眼差しを向けている。


「一つ言える事は、君は持っている力に対して精神が未熟すぎるんだ」


「……外見年齢、ほぼ一緒じゃねーかよ」


「僕が16の時に前世で死んで、5歳からやり直して今に至る。

 いいかい、ツトム。この世界じゃ、転生者も転移者も、ある時を境に沢山やってきている。何も特別な事じゃないんだ。

 だからこそ――」


「――だからこそ努力が必要ってか!? クソ喰らえだ!」


「あ、こら、やめっ」


 あ、掴み合いになっちゃった。

 これには双方のパーティメンバーも、及び腰。

 ツトム君は更に吠える。


「なんなんだよ、このチートハーレムものの上辺しか知らない奴がアンチを書いたみたいな展開はよ!?」


「知らないよ! 自慢じゃないけど、前世の僕は読書家じゃなかった」


「だいたい、ソーゲツノサカズキなんてブスとババアのクソフェミ寄り合い所帯と、なに馴れ合っちゃってるワケ!? あんた女ならなんでもいいのかよ!」


「落ち着けよ、ツトム!」


 よーし決めた。

 介入しよう。

 コホンッ!

 間に入って、押し退ける!


「あー、失敬。それがしには、ツトム殿こそ、その“ちーとはーれむ”とやらの表層を撫ぜただけのように見受けられる」


「は……!? 遠江さんまで!?」


 一応、会社で配布された資料の中にそういうの(・・・・・)があったから読んだけどね。

 ちゃんと主人公にも、理屈とか苦悩とかがあって説得力を持たせたものもあったと思うよ。

 ただモテるだけじゃなくて、理由付けがしっかりとされていないとね。


「“花咲の翁(はなさかじいさん)”を思い起こすがよろしい。日の本の男子おのこよ」


 ツトム君の両肩をガシッと掴み、両目を見据える。


「あ……」



「つい老婆心ろうばしんが口を突いて出るが、どうかご容赦願いたい。御免ッ!!」


 ツトム君の頬にビンタをバチン!


「ひゃん!?」

「いつかなる ババアとジジイ ヒトならば」


 バチン!

 ツトム君、倒れる!


「あひんっ!?」

「ブスと呼ぶ その心こそ 醜かれ」


 キミがどんなコンプレックスを抱えているかは、多少は理解しているつもりだよ。

 私も学生時代は日陰者で、ノートを取り上げられては絵を馬鹿にされていた。


 私の母校において文化系というものは、岩の下のダンゴムシも同然だった。

 けれど、傷付けられたからといって、他の誰かを弾圧する言い訳にはならない。

 それこそが、私がキミ達を見て腹が立った部分だ。


「承認欲求、大いに結構。蛮勇もしかして同じく。されど、独占欲が先立つあまり異性を評定ひょうじょうするのは頂けませぬ。

 誠心せいしん無きまなこで物を見れば、相手が不実に映るのはもはや必定ひつじょうにございまする」


「そんなこと……言ったって……」


 よしよし、そう言うと思ってました!

 では、愛想つかして離脱したという体でトンズラ!

 残るフィリエナちゃんとキャトリーちゃんは……頼んだぞ、マキト君!


「貴公の不幸は、過ちを糾す者が誰一人としていない事。それがしはこれにていとまを頂戴いたす……では、さらば!」


 ふぅ……すっきりした。

 踵を返す私。


『そろそろ出発だそうですけど、そっちどうです?』


 なんて、ロナちゃんから念話が。

 応答しよっと。


『お説教をして差し上げましたわ』


『いえーい、グッジョブ』


『いえーい!』


 あー。

 ロナちゃんとスー先生と、ハイタッチしたい!




 紀絵(そういえば前世で働いていた会社の社長も奥さんに愛想尽かされて出ていかれたって、社内で話題になってたっけなあ……懐かしいなあ……ふふ……)

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