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Task10 蛇柄女への攻撃のチャンスを伺え


「イイイィィィィハァァアァァアアアアアッ!!」


 緑色に金の蛇柄という派手な着物、その上にモスグリーンのフライトジャケットを羽織った女。

 そいつが身の丈ほどもある刀を振り回しながら、馬鹿笑いしてやがる。


 両目はゴーグルを付けていて、目の色までは解らなかった。

 が、左右に裂けそうなくらい釣り上がった口と、綺麗な歯並びはよく解る。

(そして、この女が楽しめそうな(まともじゃない)奴だって事も! ふはは!)


「ぐお、貴様ッ!? な、ぼォッ――」


 帝国の騎士が、バッサリと斬り捨てられる。

 今更こいつらがくたばった所で俺様の胸は少しも痛まない。


 だが問題は、俺の護衛対象に手を付けられることだ。

 あいつが騎士団の連中に気を取られている間に、逃げる算段を整えよう。


「なんだ、あのバーチャルYouTuberの出来損ないみたいなキチガイ女は……」


 ……ツトムとやらは元気そうだ。

 放っておこう。

 問題は、他のメンバーだ。



「ソリグナ。とんがり帽子共に連れてって貰え。奴が目からビームを出す場合に備えて、俺が引き付ける」


「そうさせて貰うわ……じゃ、盃のお姉さん。お願いしていいかしら?」


「心得た」


 とんがり帽子が箒を地面スレスレまで降ろすと、ソリグナは横向きに座る。

(確かにズボンじゃなきゃ跨って座るのは難しかろうよ)

 右手をとんがり帽子女の胴体に回してホールドする辺り、手慣れた感じがするね。


「ボンセム。引き返すか、新しい馬車の事を考えながら先に進むかを選べ」


「はァ……クソッタレ、ちくしょう。オーナーに何と言い訳すりゃいいんだ……」


 頭を掻きながらも馬車から馬を外す辺り、ボンセムの野郎も腹を括っているな。

 トンズラぶっこくなら身軽になるのが一番だ。


「お前さんも、とんがり帽子に守ってもらえよ」


「ああ。一応、最初にソリグナに頼まれたのは俺だ。あいつらと一緒に行くよ。地上から伏兵を探すくらいは、俺にもできる」


 よろしい。

 じゃ、次だ。


「ロナ」


「はい」


「この辺りで、かくれんぼだ。俺のサングラスのサーマルセンサーに反応は無いが、周りには気を付けてくれ。

 そろそろ、紀絵も追い付いてくる頃合いだろうから、来たら念話で井戸端会議だ」


「はぁーい」



 身内はこれで良し。

 間抜けなツトム君は放ったらかしにしても、どうせとんがり帽子共が片付けてくれるだろう。

 マキトも、この後からやってくるだろう仲間の連中も、俺が指示をする必要はない。

 勝手に付いてきたんだ。

 てめえらで勝手にケリを付けてくれ。



 さて。

 蛇柄女と、仕合(デート)と洒落込むか。

 煙の槍に乗って、サクッと接近だ。


 ……あの蛇柄女も、よく飽きないな。

 まだ騎士団とお楽しみ中だ。


「イヒ、ヒヒヒヒッ!」


「何がおかし――ぐえぇ……」


 ふむ、あの妙な刀で斬られると傷口が腐っていくのかね。

 鎧の割れ目から、嫌な臭いが漂ってきやがった。


 受け取れ、横から一発だ!

 ズドン!


「ヒィヒヒ!」


 なかなかやるね。

 銃弾をスウェーバックで避けるとは。


「ヒィーヒヒヒッ! 私の獲物ちゃんはどこかな!? ここかな!?」


 岩を持ち上げても、別にいないぜ。


「あれだな!?」


 墓を掘り返しても、いないぜ。

(さておき、一瞬で穴を開けるとは恐ろしいね)


「いいや、この中だ!」


 残念だが、その枯れかけの大木を切り倒しても、俺はその中にゃいない。


「……惜しい! 小型化はしなかったようだ! ッヒヒヒハハハハハハ!!」


 何がおかしいのか、馬鹿笑いを止めようともしない。


「クンクン……スンスンスン……アオアオアオォー!! っへははははハハハハハハハ!! いつまで隠れてんだよぉー! 早く出てこいよぉー!」


 しまいにゃ、犬みたいに匂いを嗅ぎ始める。


「さては除け者にして、自分たちだけ楽しもうって魂胆だな!? 許さねー! 絶対に許さないからなぁーヒィーヒヒヒッ!! ほら! 早く! 出てこいよ!」


 刀を振り回しながら、あらぬ方向に叫ぶ。

 10メートルもない距離だってのに、どうした。

 さては演技かい。

 本当は気づいていて、相手を怯えさせる為にわざとやって……――


「――半殺しのところを今なら! 半額! 四分の一殺しで済ませちゃう! 今だけだぞ!! ヒヒヒヒッ……ヒッヒヒヒヒヒヒヒ」


 まったく、こりゃあマジでイカれてやがるな。

 正面から相手にするのは、気が進まない。


『う~わ、また強烈なのが出てきましたね……何がそんなにおかしいのか知りませんが、笑いすぎだろ……一番おかしいのはあいつの頭だとか。ギャグかっつーの……寒いわ』


『今までの方々に比べると御しやすいとは思いますけども、正気でないことに違いはありませんわね』


『ねー』


 いつの間にか、紀絵が追い付いていたようだ。

 念話が通じているという事は、圏内に入ってきたって事さ。

 だが気にするべきは、そっちじゃない。


「――ばぁ」


 ゴーグルを付けたアホ面が、ロナの目の前に。

 ワオ!

 サプライズ!

 瞬間移動とは生意気だぜ、蛇柄女!

 そこは俺の所に来やがれよ!


「見ぃつけたァハハハハァハハハハハ! いやーこれでもさー頑張って探したんだよ? これは頑張ったご褒美に蕎麦打ってくれよ蕎麦! なあ! いいだろ!? とろろたっぷり掛けてさ、わさびも、あの子の小指の先っちょくらい麺つゆに、アッ! なんだおまえ! 異人みてーな顔して! さては蕎麦知らねーな!? 食えよ! 蕎麦! ハハハハハハハ!!」


「いや、蕎麦くらい知ってるし。馬鹿か」


「え? え……? ……ッヒヒヒヒヒヒィヒヒヒヒヒヒヒ!!」


「今のどこに笑いどころがあったのか」


「いやァ、超絶大爆笑でしょ……――」


 そしてまた、ニッコリ。


「――だって今のキミ、食べ頃と言わんばかりだもんな! ハハハハハハハ!! でもダメなんだ……女のモツじゃ美味しくないんだよ……やっぱりモツから逆流した血を口移しで啜るならさ! 男じゃないとダメだよね! ひははは!」


 蛇柄女の背後で、騎士が逃げ出そうとする。

 だが蛇柄女はすぐに、騎士のほうへと振り向いた。


「……どこ行くんだよ、お兄ぃぃぃぃさん?」


「ひッ!?」


 目からビームを放ったかと思えば、騎士は動けなくなったらしい。

 しきりに身じろぎしているが、足は少しも進まない。


「あ、うっ、ああ……!」


「大事な戦いからは逃げちゃいけないってママから教わらなかったかな!? ハハハハハハハ!!」


「わぁあああああアアアッ!」


 真っ黒なヘビみたいなものがわんさか飛んでいって、騎士の野郎を食い潰しやがった。

 こりゃあ驚いた。

 まさか飛び道具までえげつないとは。


 仕方ない。

 不意打ちはやめておこう。


 飛び出そうとしたら、蛇柄女は俺とは逆方向に振り向いた。

 人影は……まあ、紀絵が追い付いてきたという事は、その他大勢も追い付いてきたと考えていいだろう。


「貴女は何者なのですか!」


 エルフのリッツが、弓矢を構える。

 大見得を切るのは別にいいが、それでやられても俺は責任を取れないぜ。


「あー、私? みぃんなご存知、ナボ・エスタリクだよ!」


 蛇柄女は両腕を広げて首を傾げながら、律儀にも答えた。

 だが、どうやら、蛇柄女はリッツの導火線に火をつけちまったらしい。

 リッツの奴が、憎々しげに口元を歪めた。

(いつぞやのナターリヤみたいに!)


「……違う」


「イッヒヒヒ」


「ナボ・エスタリクは……お前じゃない」


 なんてドスの利いた声だろう。

(怒った時のナターリヤそっくりだ。血は争えないって事かい?)


「へぇ~知ってるの! すごいじゃん、君! イヒッ、ヒヒヒ!」


 蛇柄女はナボ・エスタリクじゃない。

 さらっと出てきたが、こいつは重要な情報だ。

 聴衆共はメモして持って帰って、ママに報告するこった!

(もちろん、俺はどうせそんな事だろうと思っていたがね)


 よくやった、リッツ。

 もう帰っていいぜ。


 煙の槍を地面に100個ほど展開だ。

 これをまとめて……パチンッ。


「ギギィッ! ブヘッ!」


 よし、ブッ飛んだ。

 奴は錐揉み回転しながら、首から地面にぶつかった。


 俺のサプライズこそ最高で最低だろ?

 動画で配信したかったぜ。


「……ごきげんよう、俺だ」


「 “ごきげんよう、俺だ”! ッヒヒヒァアハハハッ!!」


 ここで俺は煙の槍を推進剤代わりに、急接近だ。

 距離を詰めたら蹴りを一発。


 ……味わったぜ、お前さんの腹筋を!

 まったく見事に受け止めてくれたもんで、奴は片手と腹筋だけで俺の左足首をガッチリ固定しやがる。


「俺が勝ったら名前を聞かせてもらうぜ。ついでに、二度と手出ししないよう、本物の(・・・)ナボ・エスタリクに伝えておけ」


「やァーだヨ! ッヒヒヒ!」


 いけない子だぜ。

 お仕置きが必要らしい。

 俺は体を捻って、奴の(文字通り)輝かしい顔面を引っ掴む。


「ア゛ッ! オッ! 素晴らしい……素晴らしい!」


 斬られそうになるから、煙の壁で忌々しい刀をガードだ。

 悪いが、お気に入りのコートを腐らせたくはないんでね。


「これはまとめて処分の予感! 本官、タギってまいりました、であります! アッヒッ!」


 蛇柄女の奴、ゴーグルを外したかと思ったら、両目と髪が薄緑色に光った!

 なるほど、本気を出してくれるって事かい。


 ……いいぜ。

 ちょっとだけ付き合ってやるよ。




 某ゲームのバーサーカー、女性サーヴァントにこういう子がいないのでちょっと不満です。

 いたら引くまでガチャ回すのに……。

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