Task8 フォレスト・レイダーを軽くあしらってやれ
オークにガトリングガンを携帯させるの、アリだと思うんですよ。
もっとガトリングオーク流行って。
突然やってきた銃弾のシャワーは、煙の壁で防ごうじゃないか。
まったく。
この剣と魔法のファンタジーの世界で鉛弾の弾幕とは、生意気な野郎だ。
誰だか知らんが、俺よりいい武器使いやがって。
張っ倒して引っ剥がし、たっぷり高値で売っ払ってやろう。
ズドン!
弾幕の出処を目掛けて、プラズマカートリッジを使う。
青白い光弾が、その道筋の木々に火を付けながら真っ直ぐ飛んでいった。
弾幕は止まった。
……いや。
次は別の場所から弾幕が飛んできた。
俺は砲兵でも狙撃手でもないから角度と距離の計算に関して俺は門外漢だが、撃ってきた奴はざっと50メートルくらい動いたんじゃないかね。
「オイ! どうなってるんだ! 仕留めたんじゃねェのか! 畜生ッ!!」
ボンセムが喚き散らす。
さっきまでの格好いいお前さんは何処に行っちまったんだ?
興奮冷めやまないボンセムの左肩に手を置く。
「アレに近付いてくれ」
「正気かテメェッ!!?」
振り向いたボンセムのツラと来たら、すっかり真っ青だ。
どうした、ボンセム!
お前さんだって、まともじゃない奴の相手をするのは一度や二度じゃきかない筈だぜ。
「ソリグナ。お前さんの武勇伝を再現するわけじゃあないが、参考にさせてもらうぜ」
煙の壁を並行して展開しながら、馬車を突っ込ませる。
こういう時に荷台を切り離して突っ込む事こそ、無謀だ。
そっちを狙われたら相手の思うツボってヤツさ。
「そうら、飛ばせよ」
馬車を真っ直ぐに走らせながら、敵の姿を探す。
探しては、バスタード・マグナムを構えてぶっ放す。
ズドン!
「牽制、続けるぜ」
ズドン!
距離を詰めればその分、相手は狙うために必要なストロークが大きくなる。
こっちは腕を動かすだけでいいが、相手はそうでもなかろうよ。
全盛期のアーノルド・シュワルツェネッガーだったら話は別だが。
「マ゛ァーァグ!」
野太い怒鳴り声と共にやってきたのは……こりゃまた驚いた。
2メートル近い図体の、緑色のマッチョ共だ。
豚みたいな鼻と、イノシシみたいな牙……なるほど、オークだとでも言うのかい。
ようやくゴブリンと双璧をなす定番モンスター共のお出ましだ。
なんて考えている間に、ボンセムの野郎が放心したツラでつぶやく。
「なんてこった、オークの集団じゃねェか……しかも“一つ目のビフ”……!」
「誰です?」
ロナの疑問はごもっともだ。
大方、想像はつくがね。
「あいつらは“フォレスト・レイダー”……帝国が返り討ちにして殲滅してた筈だった魔物共だ!」
「で、その残党に出資したクソ野郎のせいで、アレがあるんですね?」
ロナが指差した先には、リーダー格らしい“一つ目のビフ”(洒落た黒い眼帯がよく似合ってやがる)とやらが両手で抱えたガトリングガンだ。
「丁寧な解説をどうも。じゃあ片付け――」
人がせっかくおっ始めようって時に、なんと目の前に隕石が落ちてきやがった。
オークがそれで何匹か黒焦げになったが、俺のコートも裾が焦げた。
すぐさま、馬車の周りを煙の壁で覆ったから、ボンセム達は無事だ。
煙の壁を伝って転げ落ちた隕石が、一つの事実を俺に教えてくれる。
もろとも焼き払うつもりだった、と。
見回しゃ辺り一面火の海だ。
「いい度胸だ」
足音の方角へ銃を向けりゃあ、紫髪の知らないガキだ。
その両手に持ったバカでかくて仰々しい杖を見りゃあ、こいつがどうやって戦っているのかは一目瞭然だぜ。
「効果範囲内に馬車持ってくるなんてゲスいのです……」
なんて、白々しく抜かしやがる。
「だが、撃ったのはお前さんだ――」
――ここでガトリングガンの弾幕が会話に割って入る。
まったく、楽しませてくれるぜ。
ズドン!
止まった。
「もろとも焼こうとして、しかも討ち漏らす。三流のやる事だ。俺なら一人ずつ仕上げる」
「仕留めるの間違いじゃないのか」
お!
聞き覚えのある声じゃないか。
マキト……お前さんはこんなところまで来てやがったか。
ぐるりと見回す。
見覚えのある奴が四人。
見覚えのない奴が三人(リーダーは黒髪のガキだろう)と、スパイ中の紀絵。
俺は思わず、肩をすくめちまった。
「後輩の子守とは、お前さんらしい仕事だ」
「ちょっと黙っててくれ。不本意な事が幾つも重なって、今の僕はすご~く機嫌が悪い。その中にお前もいるんだよ、ダーティ・スー!」
「勝手に不本意がられても困る。要件を簡潔明瞭に教えてく――」
「――ヴォアァア!」
オークのうち一匹が棍棒を振り下ろす。
地面に大きな凹みが出来たが、俺の足には掠りもしていない。
舐められたもんだ。
「ヴォオッ!」
別のオークが後ろから殴りに来た。
俺はそいつの顎に手を引っ掛けて、放り投げてやった。
「オァァゥ!?」
棍棒を振り下ろしてきたほうのオークの、顔面にぶつけてやる。
そうら、仲良く夢の世界へご案内だ!
「ゴアァァ……ザムゼンジ、ヴカハシェ……」
一丁上がり。
「くっ……!」
マキトの奴は、オーク共に囲まれて大変そうだ。
横で戦うイスティも、面白くなさそうなツラをしてやがる。
このオーク共がまた、べらぼうにタフだ。
他の冒険者連中もなんとか連携して戦っちゃあいるが、魔法や弓矢を弾かれちまって思うように行かないようだ。
「マキト、このオークは……」
「ああ。明らかに強すぎる……!」
「けど、アンデッドでもないんだろ」
「まさか、魔法障壁に熟達しているのか……!?」
頑張れよ、マキト!
俺は馬車を守りながら戦うから、お前さんの手助けまではしたくない。
それでも俺には余裕がある。
豚面の鼻の穴に煙の槍をブチ込んで、宙に浮かせて後頭部を地面にゴッツンコだ。
これだけで、筋肉頼みのタフガイ共はおとなしくなってくれる。
「おっと」
マキトの奴、杖でオークの棍棒と鍔迫り合いとはね。
お付きの連中は……やれやれ、どいつもこいつも揃って手が離せないと来た。
仕方あるまい。
煙の槍で片っ端から押し退ける。
「……どういうつもりだ?」
「ほら、マキト。言ってみろ。要件を」
「いや、用があるのは僕じゃ――「ガォア!」ないんだ。そいつ――「ウヴォァ!?」そいつを手伝ってただけ!」
マキトは炎魔法でオーク共を焼き払いながら、心底うんざりしているらしいツラで、もう一人の黒髪のガキを顎でしゃくる。
そっちの後輩君ね。
で、噂の後輩君は、長剣を頭の上で二つ交差させ、魔力を纏って振り払うところだった。
「――奏空・迅竜閃!」
こりゃあ驚いた!
擦り切れたビデオテープを再生したような白いチリチリが、竜巻のように集まりながら遠くまで進んで行くと、その往く先々を引き裂いていくじゃあないか!
ふはは、大した宴会芸だ!
いつぞやに浜辺で別のガキを相手してやったのを思い出すね。
「「「「「グヴォアアアッ!」」」」」
お、片付いた片付いた!
……三分の一くらいだけだがね。
「こんなの屁でもない」
なんて、この野郎は抜かしやがる。
笑わせるね。
「どうした、坊や。ガトリング野郎がまだ残っているぜ」
「おい、バナナ野郎。ソリグナを何処に連れて行くつもりだ?」
坊やは右手の剣をこっちに向けて、左手の剣を肩に担ぐ。
首を少しかしげて、悪ぶってやがる。
敢えて俺は、そっちを一瞥するだけに留めた。
ズドン!
ズドン!
……リロード。
バスタード・マグナムで、目に付いたオーク共のスネに風穴を開けて、悶え苦しむ肉の壁を作ってやる。
冷えて固まった動かない連中よりも、生かしておいたほうが足止めに丁度いいってもんだ。
そら見ろ。
命乞いをするくたばり損ないを、別のオークが蹴散らすのに手こずってやがる。
「ふん、シカトかよ。あんまり舐めプかましてっと、足元すくわれるぜ?」
坊やがちょろちょろと走り回りながら、辺りのオーク共をコマ切れにしていく。
ついでのつもりか、俺の目の前に躍り出てきた。
「つーかマジで鼓膜やられてない? 大丈夫?」
喉を狙って水平に薙ぎ払われる。
俺は敢えて一歩も動かず、片手でそれを掴んで受け止めた。
腕っ節はそれなりにあるらしいが、人の姿を相手に躊躇なく刃物を振り回せる辺り、お前さんもかなり染まってやがる。
「自信は結構だが、大見得を切る前に仕事をしたらどうだい」
「なんだよ、ちゃんと聞こえてるじゃないか」
「お前さんに教えてやる義理が無い」
「だったら嫌でも答えさせてやるよ」
「乱戦のさなかに尋問ごっこかい。何とも穏やかじゃないね」
「言っとけ。お前――」
またしても弾幕が話を遮る。
お互い、距離を取る。
「ヴォアァア!」
……“無視するな”ってよ。
まったく、揃いも揃って手間の掛かる野郎共だ!
そんなに構って欲しいなら、相手は選ぼうぜ。
 




